路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New42話

「やだ」

戦って欲しいと懇願するシャルロットにミクロは即断する。

「フレイヤのところから離れてここで一緒に暮らしたい」

もう一度家族と一緒に暮らしたいミクロにとって戦うことなんてしたくない。

死んだと思っていた母親シャルロット。

自分の母親と戦う理由もないミクロはもう一度一緒に生活したい。

「……そうね、私も貴方とは戦いたくはない。でもね、私の身体はもう限界が近いの」

所詮は作り上げた身体。

使い続ければ限界が訪れるのは必須。

「元の身体……それと同等の身体能力を持っている今じゃないといけないの。今の貴方を強くするには戦えられる今じゃないと駄目」

「……強くなる為?」

「そう、今の貴方には大切な仲間がいるでしょう?でも、今の貴方のままじゃ誰も守ることは出来ない」

家族(ファミリア)を守ることは出来ない。

シャルロットはそう断言した。

破壊の使者(ブレイクカード)の五番手から先は本当の怪物。今のミクロは四番手の実力で限界。その先―――へレスを倒すにはミクロ、貴方は自分自身を乗り越えなきゃいけない」

「自分を乗り越える……?」

聞き返すミクロにシャルロットは頷く。

「貴方は私とあの人の子供。その事を忘れないで」

シャルロットはミクロの傍から離れて客室の扉に向かう。

「18階層の中央樹。その東、一本水晶のところで待っているわ。少しでも貴方と話が出来て本当によかった」

柔和に微笑んで出て行くシャルロット。

その微笑みは本当に嬉しそうに笑っていた。

だからこそミクロにはわからなかった。

どうして母親であるシャルロットと戦わなければならないのか。

恨み、憎み、敵対しているわけでもない。

本当に自分の事を大切に想っていてくれる母親に武器を向ける事なんてできない。

もう限界が近いというのなら残りの時間をと共に過ごすことは行けないことなのだろうか?

それ以上に戦いを優先する必要はあるのか?

ミクロにはどうすればいいのかわからないまま時間だけが経過していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

18階層中央樹の真東にある一本水晶。

そこには武装しているシャルロットが待っていた。

手には青白い輝きを放つ槍を持ち、腰には二振りの刀を携えている。

「来たわね」

そのシャルロットの前に姿を現すのはミクロと共に来たリュー達。

「……貴女がミクロのお母様ですか?」

「ええ、私はミクロの母、シャルロット・イヤロスよ。よろしくね、【疾風】ちゃん達」

尋ねて来るリューに笑顔で答える。

大体の事情は既にミクロとアイカから聞いているリュー達。

「ミクロも来てくれてありがとう」

「………」

無言で答えるミクロに小さく苦笑するシャルロットは真剣な表情で槍を構える。

それに応じるようにミクロも得物を手に持つ。

「これは親子の問題。貴女達は手を出すことは許さないわ」

それは忠告と警告。

万が一に手を出せば、と言わずともわかる言葉に表情を強張らせるリュー達。

「ミクロ、本気で来なさい。貴方に仲間を守る覚悟があるのなら」

「………どうしても戦わないと駄目?」

今すぐにでも戦いを止めたい。

その言葉を聞いたシャルロットは力なく笑った。

「優しい子に育ってくれてお母さんは嬉しいけど、今は敵と思いなさい」

表情が険しくなる。

「元【シヴァ・ファミリア】副団長、シャルロット・イヤロス」

「………【アグライア・ファミリア】団長、ミクロ・イヤロス」

互いに名乗りを上げる二人は次のシャルロットの言葉が開戦と合図となった。

「勝負!」

突貫するシャルロットの鋭い突きが放たれる。

だが、へレスとの戦いを糧にしたミクロにとってその槍の早さは十二分に防げる。

連撃を繰り出すシャルロットに回避、防御をするミクロ。

勝負は始まったばかりだが、ミクロは一つだけ疑問に思ったことがある。

シャルロットは魔術師(メイジ)もしくは魔導士のはずがどうして槍を使うのかわからない。

魔杖の代わりや今の身体に『恩恵(ファルナ)』がないなどという答えがある。

もしくは元々は前衛だったという可能性もある。

シャルロットの槍捌きはへレスには劣るものの十分な技術があることは間違いはない。

それともミクロが思いつかない何かがあるのか?

攻めるシャルロットは唐突にミクロと距離を取って槍柄を地面に置く。

「どうして反撃してこないの?」

「………俺は母さんを敵とは思えない」

今までミクロが戦ってきた相手は明確な敵意や殺意があった。

自分が何とかしなければならないこともあった。

だけど今回は違う。

シャルロットはミクロに敵意も殺意もない。

戦わなければならない理由もない。

無理して戦闘を行う必要は皆無だった。

その言葉を聞いたシャルロットは息を吐いた。

「貴方は仲間の命を背負うことは出来る?」

「仲間の……命?」

聞き返すミクロの言葉にシャルロットは頷いた。

「貴方は今まで自分を犠牲にすることで勝ってきた。だけど、これから先はそれだけでは終わらない」

視線をリュー達に向ける。

「貴方の心を壊す為なら破壊の使者(ブレイクカード)は貴方ではなく仲間を狙ってくる可能性もある。その時、貴方は仲間を守れるの?」

不可能だ。

ミクロが強くても仲間を狙って来られたら誰であろうと守ることは出来ない。

一人や二人ならともかく複数ならもういくら手を尽くしても限度がある。

「私達を甘くみないでください」

リューがシャルロットに向けて口を開く。

「私達はいつまでもミクロの足を引っ張らない」

「あたしらだって戦えるのさ」

「もう誰も失わない、失わせない」

それぞれの決意を告げるリュー達にシャルロットは嬉しそうに微笑む。

「甘いのは貴方達よ」

だが、一瞬で微笑みが消える。

破壊の使者(ブレイクカード)は貴女達の想像以上に強い。ミクロがやっと勝てる相手に貴女達が勝てるほど彼等は優しくはない」

リュー達では勝つことは出来ない。

そう告げるシャルロットは槍をもう一度構える。

「見せてあげる。本来の力より三割減しているけど、それでも貴女達が束になっても勝てないということを」

「っ!?」

危険を察したミクロは大きく後退してシャルロットと距離を取るとシャルロットが持つ槍から白い煙が発生していた。

「『ディオン・ヴァード』」

振り払われる槍から氷の飛礫が放出された。

飛礫を回避するミクロはシャルロットが使っている槍の正体に気付いた。

「氷の魔武具(マジックウェポン)……」

正体に気付いたミクロの回避先に氷の槍が地面から襲ってくるがミクロは体を捻らせて回避して投げナイフでシャルロットに投げるが容易に躱される。

「これは私の自慢の作品の一つ、『魔導』『神秘』『鍛冶』のアビリティを獲得した者だけが作製可能とする。それが魔武具(マジックウェポン)

自慢げに語るシャルロットは槍を見せびらかす。

「『鍛冶』のアビリティを持つと魔剣が打てる。『神秘』のアビリティを持つと魔道具(マジックアイテム)が作製できる。そこに『魔導』のアビリティを加えるとどうなるのかと思いついて作り上げたのが魔法と同等の効果を生み出す武器、魔武具(マジックウェポン)。魔剣のように砕けることはないのよ」

槍の穂先に氷の玉を創り出すシャルロット。

「この槍には大気の熱を吸熱させて温度下げて氷を発生し、その氷を操ることが出来るの。こんな風に」

氷の玉が大きなって竜の姿へと形を成していく。

「アイス・ヴィーヴルかな?」

ヴィーヴルの形をした氷の竜がミクロ目掛けて襲いかかってくる。

瞬時にミクロは魔道具(マジックアイテム)『ヴェロス』を展開させて『砲弾』を放つが氷の竜はすぐに元に戻る。

しかも、ミクロの周囲から氷の刃が一斉に襲いかかって来た。

氷の竜の影を利用して『スキアー』を使って回避行動を取るミクロの心情は驚き以外なかった。

ミクロは今まで多くの人達と戦ってきた。

だが、ここまで常識はずれな相手は初めてだった。

更に言えばシャルロットは槍をの腰にはまだ二振りの武器がある。

その二つも魔武具(マジックウェポン)なら状況は絶望的。

「ほら、ぼさっとしない!」

迫りくる氷の竜と凶器。

その中でミクロは超短文詠唱を唱える。

「【駆け翔べ】」

白緑色の風は迫りくる氷の竜と凶器を破壊する。

狙いを定められないように風を纏い、瞬間移動に近い変則移動を行うミクロは一瞬でシャルロットの背後に移動する。

槍の攻撃範囲外に侵入したミクロはシャルロットを気絶させる為に攻撃を行う。

「っ!?」

しかし、シャルロットとミクロの間に氷の壁が出現して攻撃を防がれる。

「本気を出しなさい!」

振り払われる槍に吹き飛ばされるミクロに氷の追撃が直撃するがミクロにそこまでの損傷(ダメージ)はない。

異常な耐久力を持つミクロにとって深手を負わせることは難しい上に氷には以前戦ったエスレアとの戦闘で氷にも適応している。

しかし、現状は変わらない。

まずはシャルロットが持つ槍をどうにかしなければ状況は改善しない。

再び風を纏い、加速するミクロ。

今度はすぐに接近はせずにシャルロットを取り囲むように動き回る。

すぐには攻めない。フェントを重ねて突貫する。

「甘い!」

それでも動きを先読みしているかのようにシャルロットはミクロが突貫してくる前方に氷の壁を出現させる。

「見えなくても場数を踏めば勘で相手の動きを読め――」

シャルロットの足元から風を纏った鎖分銅が姿を現した。

動きを先読みしていることは先ほどの動きで把握していた。

なら、それを読んだ上でミクロは動いた。

防御する際に氷の壁を出現させるのならそれを死角として地面に風を付与させた鎖分銅を地面に突き刺して地面からシャルロットの槍を奪いに行く。

槍に巻き付く鎖分銅を引っ張って何とかシャルロットの手から槍を奪うことに成功。

奪い返されないように槍を『リトス』に収納する。

「これで槍は使えない」

「……そうね、今のは予想外だったわ」

技と駆け引きはミクロの方が上を行っていることを素直に認めて称賛するシャルロットは腰に携えている二振りの刀に手に持つ。

「………まだ戦わないと駄目?」

槍を奪って戦いが終わるとは思っていなかったがそれでもここで戦い終わって欲しいとは思っている。

「駄目よ。ミクロ、貴方は何の為に戦うの?」

家族(ファミリア)を守る為」

即答する。

「………貴方は家族(ファミリア)を守る為にここまで強くなれたのね。大切なものを守る為の力。なら、この戦いでその想いを貫く力を見つけなさい。『ヴェント・フォス』『バルク・フォス』」

片方に風を片方に雷を纏う二振りの魔武具(マジックウェポン)

「次は私から攻めるね」

「ッ!?」

一瞬で距離を詰められると同時シャルロットの怒涛の攻めが繰り出される。

辛うじて防御、回避することは出来てはいるが攻撃に転じることができない激しい攻め。

アイズの(エアリエル)のように攻守優れ、ミクロの魔道具(マジックアイテム)『レイ』のように高速移動を繰り出す。

まるで本気の自分と戦っているように思わされる。

魔法ではない魔武具(マジックウェポン)で魔法と同等かそれ以上の効果を生み出すシャルロットの魔道具作製者(アイテムメーカー)の手腕。

風と雷にも適応はある上にミクロの魔法で風は相殺できるが雷の魔武具(マジックウェポン)の方は防御しても武器を通して電撃がミクロに襲いかかる。

適応していなかったら今頃ミクロは全身が痺れて動きが確実に鈍っていただろう。

「私はね、基本的は後衛を担当していたけど別に前衛も出来るのよ?」

貴方と一緒ね。と話すシャルロットだが、それは今も身を持って知っているミクロ。

へレスほどではなくともアイズに負け劣らずの剣技も兼ね備えた魔術師(メイジ)

しかも、これで本来の実力の三割減。

これが【シヴァ・ファミリア】副団長、シャルロット・イヤロスの実力。


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