無事にシャルロットとの戦いが終えて、ミクロ達は遠征の疲れを取る為にしっかりと休息を取っていた。
取っているはずなのにミクロは中庭で一人、鍛錬をしている所をシャルロットに見つかった。
「ミクロ、しっかりと体を休ませなさい」
「もう問題ない」
スキルの効果も相まってミクロは常人よりも回復が速い。
一日しっかり休めばもう全快と呼べるほどに。
それを聞いたシャルロットは溜息を吐いた。
「まったく、他の皆が心配するわけね。ミクロ、こっちに来なさい」
その場で膝を折ってミクロに手招きするシャルロットにミクロはシャルロットの言葉に従うと膝枕される。
「こんな天気のいい昼間に鍛錬するなんて勿体ないわ。日向の下で休むのもいいものよ」
愛する息子の頭を撫でながら陽の光の下で日向ぼっこをする二人。
アグライアの許可を得てシャルロットはミクロ達の
「………落ち着かない」
慣れないことに落ち着かないミクロはぼやく。
「元気なのはいいけど休むことは大切よ。もう少しゆとりを持ちなさい」
ミクロの鼻をピンと弾く。
今までミクロはゆっくりする気概はなかった。
少しでも強くならないといけない状況に立たされて、他の団員達の面倒や弟子であるセシルの教育という
休む暇があったら鍛錬につぎ込んできたミクロは昼間からこうして落ち着くことなんてなかった。
暖かい陽の光に覆われて温かくなる身体。
日向の下はこんなにも暖かいものだと初めて知った。
路地裏の薄暗い日陰に透き通る冷たい風とは違う暖かく居心地のいい気持ちに包まれる。
重くなっていく瞼に抵抗するように開こうとするミクロの目をシャルロットは手で覆って隠す。
「ここにいてあげるから寝ていなさい」
「………うん」
穏やかに告げられるシャルロットにミクロは眠気に負けて眠りにつく。
日向の下で寝息を立てるミクロの頭をシャルロットは微笑ましく思う。
久しぶりに見たミクロの寝顔を思う存分に満喫する。
「顔つきは私似だけど、目つきはあの人似ね………」
出来れば目つきも私似だったら嬉しかったのに…と軽い愚痴を溢す。
「まぁ、顔つきが悪いあの人に似なくて良かったわ……」
ミクロが自分似でまだ可愛らしい顔をしていること安堵する。
下手をしてへレス似だったらこんな可愛らしい寝顔は見えなかった。
「シャルロットさん、こちらにおられましたか」
「あら、リューちゃん」
中庭に足を運んできたリューはミクロが寝ている事を見て少し微笑む。
「しー。静かにね?私に何か用事?」
「いえ、大した用ではありません」
二人の近くに腰を下ろすリューは寝ているミクロを見てしまう。
昼寝するミクロの姿なんて初めてだったためか少し新鮮だった。
「リューちゃん、ありがとね」
「え?」
「アグライア様から聞いたよ、ミクロに色々なことを教えてくれたのは。苦労したでしょう?」
「いえ、ミクロは物覚えは良い方でした」
無知だったミクロにリューは色々なことを教えてきた。
しかし、それは自分だけではない。
かつて所属していた【アストレア・ファミリア】の仲間達もミクロに色々なことを教えていた。
リューを含めて全員がミクロのことを弟のように大切に扱っていた。
「それに、私がこうしていられるのもミクロのおかげです」
アリーゼ達が卑劣な罠に嵌められて命をおとし、復讐という炎に身を堕としていたリューを救ってくれたのは他でもないミクロ。
心から感謝し、今ではミクロに愛を捧げている。
本人が微塵も気付いてくれないのは少し複雑だが。
「いい子に育ってくれて何よりだわ。流石は私達の子ね」
誇らしげに胸を張るシャルロットはミクロの頭を優しく撫でる。
我が子を慈しむように慈母のような優しさを持つシャルロットの膝の上でミクロは寝息を立てている。
「いざという時、ミクロの事をお願いね」
シャルロットはリューに告げる。
「この先ミクロは辛い選択が迫られる。その時に必要なのは強い武器でも身を守る盾でもない。もちろん魔法でもスキルでもない。隣に立っていてくれる人が必要になるの」
「………」
「私は辛い想いをした
シャルロットは自身の過ちをリューに話す。
シャルロットは辛い過去を持つ
仲にはエスレアのように自身の力のみを貫く者もいたがそれは自身の力しか信用できないと言外に告げている。
エスレアは戦場で産まれ戦場で育てられた。
戦うことでしか悦ぶことを知らず、強敵を倒せば充実感が満たされる。
戦うことでしか楽しむことを知らない。
「気付いた時にはもう手遅れ………そこで私は気付いたの。人を救うことが出来るのは人だけってことを。だから貴女にお願いしたいの。ミクロが辛い時は傍にいてあげて」
「………どうして私に?」
自分以外にもミクロの事を大切に想っている者達がいる。
それなのにどうしてシャルロットはリューを選んだのかと怪訝するリューにシャルロットは答える。
「貴女がミクロの事を愛しているから」
あっさりとそう告げた。
「そしてミクロも誰よりも貴女の事を信頼している。他の人達よりもね」
リューだけではなくミクロの心までも見抜いていたシャルロット。
その洞察力はいったいどこまで見通しているのだろうか。
言いたいこと、聞きたいことが沢山あるが今はそれはどうでもいい。
真意を持って懇願してくるシャルロットにリューも真意を持って返答する。
「もとより私はそのつもりです。ですが、シャルロットの気持ちは確かに受け取りました。この身を持ってミクロは私が守ります」
「ええ、お願いするわ」
シャルロットには時間がない。
身体が動けなくなるまで持って数週間。ミクロが何とかしてくれたとしても一ヶ月が限度といっていいだろう。
その間に自分で出来ることはしなければならない。
母親として愛する子供ミクロの為に。
「ミクロ、起きなさい」
「………うん」
起き上がるミクロは瞼を擦りながら二人に視線を向ける。
「ミクロ、私はこれからリューちゃんを鍛えたいから今日の鍛錬は止めてたまには街中を散歩してきなさい」
「わかった」
シャルロットの言葉に従って中庭から離れていくミクロを見てシャルロットはミクロから貰った『リトス』から二振りの
「リューちゃん。私は貴女にミクロをお願いしたけど今のリューちゃんに
笑いながら挑発じみた言葉を述べるシャルロットにリューは小太刀を抜刀する。
「そうですね。では、私の勝利の暁には私の事を認めてください」
ミクロは自分の力で振り向かせてみせるリューはその時に恋仲だということを親であるシャルロットに認めて貰えるように告げるとシャルロットは笑みを深くさせる。
「ふふ、いいよ。リューちゃんが私に勝てたら認めてあげるね。でもそう簡単に勝たせてあげる程私は優しくないよ?」
「心得てます。それに手加減されて勝てたとしても何の意味もない」
どうせなら完全勝利を得て認めてもらう。
その気迫にシャルロットは嬉しく思いながらもそれとこれとは別と思考を切り替えて得物を強く握りしめる。
二人は実戦に近い模擬戦を行い始め、その過激さは増していく。