路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New47話

アルガナの拳撃をミクロは顔を逸らして最小限の動きで回避するもミクロに向けて拳と蹴りを放つ。

人々は巻き添えを食らうまいと悲鳴を上げて裸足で逃げ出していくなかでミクロはアルガナの動きに近親感があった。

アルガナが使用している体術がティオネに似ていたが一つだけ決定的な違いがある。

アルガナの攻撃は全ては必殺だ。

確実に相手を殺す技を繰り返すアルガナの体術は殺す事に洗礼され過ぎている。

「避けるばかりか?」

攻撃をせずに回避行動ばかりとるミクロにアルガナは落胆交じりの挑発を言いそれと同時に上段蹴りを放つ。

「戦う理由がない」

しかし、ミクロは動じることなく容易にアルガナの上段蹴りを回避する。

アルガナの怒涛の攻めに対してミクロは冷静沈着な回避する。

戦闘に入った二人にシャルロットは傍観する。

その隣ではバーチェが冷然とした眼差しを向けるがミクロ同様に動じない。

「手を出さないから安心なさい」

「…………」

見透かしているかのようなその言葉にバーチェは無言で答える。

この女は強い。

それは見ただけでバーチェは悟ったがアルガナとは違い戦いを行おうとはしない。

本来の目的はティオネとティオナだが、こうなったらアルガナは止まらない。

手を出さないのならこちらから攻撃する理由もないバーチェは姉であるアルガナと噂名高い【覇者】の実力を見定める。

「ちょっとどういうことよ!?」

「なにこれー!?」

騒ぎを聞いて駆け付けたティオネとその後ろにはティオナとアイズがアルガナと戦っているミクロを見て状況がわからない。

「手を出す必要はないわよ」

シャルロットはティオネ達の様子を見てそう促すがティオネは食って掛かってきた。

「どうしてあいつとミクロが戦ってんのよ!?」

「どうしてって言われても向こうから仕掛けてきたとしか答えられないかな?」

その物言いにティオネは頭に血が上る。

「あいつは関係ないでしょ!あんたが止めないならあたしが……!」

「無理よ。今のティオネちゃんじゃあの子には勝てない」

ミクロの代わりに戦おうと前へ出ようとするティオネにシャルロットが冷静に告げる。

「【ランクアップ】して激上した能力のズレは把握しているの?把握もしていない状態で行っても負けは必然よ」

「………ッ!」

その言葉に歯を食い縛るティオネと同様にティオナもシャルロットの言葉通りまだ激上した能力(ステイタス)の感覚、肉体と魂のズレの調整を終えていない。

僅かに過ぎないものでも第一級冒険者にとってはそれは致命的だった。

「ティオネちゃんとティオナちゃんは『テルスキュラ』……【カーリー・ファミリア】の元眷属だということは知っているわ。深い溝もあるのでしょう。でも、今はそれは関係ない。向こうからミクロに仕掛けてきたのだから」

今にも暴走しそうなティオネの心情を気遣いつつ理性を押さえつけ冷静に状況を口にするシャルロットの言葉に僅かな冷静さを維持するティオネ。

「あ……」

その時にミクロの背後に怯えて蹲るヒューマンの少女の存在に気付いた。

「ひ……!」

小さく悲鳴を上げる少女。

アルガナはそんなことを気にも止めずに凶笑と共に拳を振りかぶる。

女戦士(アマゾネス)の瞳はミクロしか映されておらず、ミクロの背後にいる少女に気を止めることも頓着することもない。

攻撃が掠っただけでも少女は間違いなく致命傷を負うことになるなかでアルガナは些かな躊躇いもなく拳砲を撃ち出した。

ぐしゃりと鈍い音が周囲に響く。

「ミクロ………ッ!」

声を上げるティオナ。

ミクロは回避行動を取らずアルガナの攻撃を正面から受けた。

後ろにいる少女を守る為にミクロが取ったのは正面からアルガナの攻撃を受け止める。

アルガナの拳はミクロの額に直撃し、鈍い音が響き渡るなかでアイズ達は最悪な想像をした。

「…………ッッ!!」

『テルスキュラ』で何度も聞いたことにある素手で骨を砕く音にティオネは怒りで理性が吹き飛ぶ寸前だった。

いや、むしろ吹き飛ばさなかったのが奇跡に近い。

一歩踏み出そうとしようとした瞬間に変化が訪れた。

「あ、ぐ………」

顔を歪ませて殴った拳を握るアルガナは小さな呻き声を出した。

「………流石に痛い」

骨が砕けたのはミクロの頭ではなくアルガナの拳だった。

しかし、第一級冒険者の拳をもろに直撃したミクロも流石に痛みがあった。

「バカ……な、どんな耐久力………だ」

ミクロの常識はずれな耐久力にアルガナだけでなくその場にいる全員が驚愕に包まれる。

今まで何人もその拳で同胞を殺してきたアルガナ達の拳は凶器そのもの。

自分達の武器をミクロは真正面から受けて破壊した。

呻くアルガナを無視してミクロは自分の後ろにいる少女に声を投げる。

「行け」

軽く頭をポンポンと叩き少女に告げると少女は頷いてその場から離れていく。

「ああああああああああああああああああああッッ!!」

自身に背後を見せるミクロにアルガナは残った片方の腕でミクロに襲いかかる。

絶対の隙を見せたその好機を逃さないかのように攻めるアルガナの攻撃をミクロは後ろを向いたまま回避するがそこでアルガナは嗤った。

「もらった………!」

打撃が効かないのなら技を使えばいい。

打撃以外にも殺す術はあるアルガナは技でミクロを殺しにかかる。

「悪いけど」

「っ!?」

しかし、ミクロはそれも読んでいた。

技を仕掛けようとするアルガナにミクロは技で返した。

アルガナの腕を取って背後に回る。

「人を壊す術は俺も知っている」

ゴキリとアルガナの腕の骨が折れた。

アルガナは強い。それはミクロも戦ってすぐに気付いた。

だけどアルガナ、いや、打撃を主に戦う者にとってミクロは相性は最悪と言っていい。

異常とも捉える常識はずれな耐久力。

リューから教わり、教わったリュー以上に磨きをかけた技と駆け引き。

壊す術を自身の身体を持って知り、エスレアから教わった破壊技。

【覇者】ミクロ・イヤロスの力の根源は魔道具(マジックアイテム)でも魔武具(マジックウェポン)でもない。

耐久力、技と駆け引き、破壊技のこの三つがミクロの力の根源とも言える。

小さな孤島で磨き続けたアルガナは外の世界にいる怪物(ミクロ)の存在を知らずに襲いかかって来たのが運の尽きだった。

「まだ戦う?」

声を投げるミクロはここで戦いを止めても構わなかった。

しかし、アルガナは違った。

長い舌で頬を舐め、瞳を血走らせる。

戦意と殺意は消えるどころか膨れ上がって自身の損傷(ダメージ)を無視してでも突貫してきた。

男に屈辱を味わらせて黙っていられない。

血に飢えた女戦士(アマゾネス)に対してミクロは冷静に拳を握る。

この場に戦えない者が全員逃げてくれたおかげでミクロは攻撃を避ける理由がなくなった。

戦う理由はないが、向こうから殺しにかかってこられている以上は攻撃をしない理由はない。

正当防衛と言い訳をするつもりはない。

ただ街中の真ん中で暴れたことを反省してもらうだけだ。

「っっ!?」

振り下されるアルガナの拳を受け止めて握りしめている拳はアルガナの頬に叩き込む。

「がっっ――――――――」

骨を砕く殴打音の中に絶叫はかき消え、アルガナは後方の海に激しい水飛沫と共に沈没する。

「やり過ぎた………」

加減するほど余裕はない。

全力全霊で殴りつけたが、予想以上に飛んでしまったアルガナに少し申し訳なく思い急いで海に飛び込む。

「…………」

目を見開き驚愕を隠せれないバーチェ。

バーチェはアルガナのことを姉とは思っていない。

化け物であり、捕食者である。

自身の姉に殺されたくないがために強くなろうとするバーチェの目の前でその化け物(アルガナ)は別の化け物(ミクロ)の手によって殴り飛ばされた。

救助されるアルガナは気を失っており、ミクロはアルガナを他のアマゾネス達に渡す。

「うむ、アルガナが負けたか」

そこに遅れながらロキとカーリー達が現れたが全ては既に終わっていた。

ミクロがアルガナを倒して。

「妾の愛する子を痛めつけてどう償ううもりじゃ?【覇者】よ」

「そっちから仕掛けてきたから償うつもりはない」

償えと言うカーリーに知るかと言わんばかりに言い返す。

「挑戦なら受けて立つ。だけど、他を巻き込むな」

ミクロは別に戦うことを嫌っているわけではない。

強い者に挑戦したいという気持ちをわからない訳でもないが他を巻き込んででも戦おうとするつもりはない。

時と場所を選べ。そう告げるミクロにカーリーは息を吐く。

「あいわかった。気をつけよう」

踵を返して去って行くカーリー達にアイズ達はミクロに駆け寄る。

「ミクロ!大丈夫なの!?頭割れてない!?」

「問題ない」

心配してきてくれるティオナに問題ないと告げる。

しかし、ティオネは一人でどこかに去って行くのをミクロは捉えた。

「ティオネ」

「…………なに?」

振り返ることなく冷たく声音で尋ねて来るティオネにミクロは言った。

「泣いているのか?」

そう尋ねるティオネの頬には涙は流れておらず、目尻に涙も溜まってもいない。

それなのにミクロは泣いているのか?と尋ねた。

「泣いてなんかいないわよ………ッ!」

苛立ちが露になる。

知られたくないことを見透かしているかのように告げるミクロにティオネの心情は怒りに満ち始めていた。

勝手に見るな。

知っているかのように言うな。

これ以上入ってくるな。

「わかった」

荒れるティオネに察してミクロはそれ以上は何も言わずティオネが去って行く後姿だけ見ていた。

ティオナが姉の後ろ姿を追いかけていくに大してミクロもその場から離れていく。

「母さん」

「どうしたの?」

「【カーリー・ファミリア】がどこにいるか知ってる?」

それを聞いて全てを悟ったシャルロットは呆れるように息を吐いた。

この子は本当にとぼやくシャルロットだが、すぐに笑みを浮かべる。

「本当に少しは自分の我儘を言えないのかしらね、この子は」

だけど、そこもまたミクロの美徳でもある。

「夜まで調べてあげておくから貴方は宿で休んでいなさい」

「わかった」

子供の我儘をきくのは親の役目。

シャルロットはミクロのお願いを聞き入れて【カーリー・ファミリア】が滞在している宿を見つけたその夜、二人はその宿に足を運んだ。

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