路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New50話

「始まったか………」

建物の屋根の上でミクロはぼやいた。

【カーリー・ファミリア】達は【ロキ・ファミリア】を襲撃してその団員であるレフィーヤを人質に二人を戦いの場所へ誘き寄せていた。

ティオネは造船所にある大型船にティオナは海蝕洞に誘導されているのを目撃していた。

アルガナ達は二人を殺すことはしない。

なら、後は二人の勝利を信じるのみ。

『―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!』

船を下ろした大量の積荷を置いておく蔵置区画を爆発させて破鐘の咆哮を轟かせて姿を現す食人花は一般人の人命を優先する。

中立の立場を取らなければならないミクロはアイズ達の助力が出来ない。

今回は傍観を貫くしかない。

「ミクロ、この騒ぎに君も加担していたのか?」

「リヴェリア……」

ミクロの背後から姿を現したリヴェリアは複雑な表情を浮かべていた。

「答えてくれ、ミクロ」

リヴェリアはロキに言われてミクロを探していた。

ロキは少なからずミクロを警戒して疑惑の念を抱いていた。

殆どは勘に近いがリヴェリアはロキの言葉を信じたくはなかった。

リヴェリアはミクロに大きな恩がある。

恩人に等しいミクロのことを疑いたくはないのが心情だが、ミクロは首を縦に振った。

「昨日、【カーリー・ファミリア】の宿に行ってカーリーにティオネ達を戦わせることとこの騒ぎで中立を取ることを条件に二人を殺さないように取引した」

片目を瞑りながらその話に耳を傾けるリヴェリアは安堵する。

加担していないと言えば嘘になるが、ミクロはむしろティオネ達の為に行動していた。

「そうか……」

その答えだけを聞いてリヴェリアは屋根の上から飛び降りる。

ミクロは既にルバートを捕獲に向かっているシャルロットを置いて戦いを傍観する。

 

 

 

 

 

 

海の上にある大型船の上でティオネとアルガナは対峙していた。

「アハハハハハ!強くなったな!ティオネ!」

「あんたがとろくなったんでしょ!?」

笑うアルガナに対してティオネは怒りを募らせる。

つい先ほど妹であるティオナとランクアップした心身の調整を行って万全の状態でアルガナと対峙している。

鏡のように酷似した体術を使うティオネの体術は目の前にいるアルガナの手で、痛みとともに叩き込まれた。

しかも先にLv.6に昇格(ランクアップ)したアルガナの方が『力』に関しては一日の長がある。

『技と駆け引き』より勝利に飢えた者が勝つ。

「ティオネ!お前は変わった、変わったぞ!」

「うるっさい!」

笑うアルガナにティオネは上段蹴りを放つ。

「だが、私も変わった!!」

「っ!?」

上段蹴りを放つティオネの攻撃をアルガナは最小限の動きで回避してティオネの左頬に拳を叩きつける。

「ぐっ!」

甲板の壁に衝突するティオネは今の動きに見覚えがあった。

「今の……」

自分のよく知る体術に僅かながら別の動きが混ぜられていた。

以前59階層の遠征前で妹と共に組手をしたミクロの動きをアルガナが取り込んでいたことに僅かばかり驚かされる。

「あの男、ミクロに出会えて私も変わったぞ!」

歓喜に近い笑みを浮かべるアルガナの瞳を見てティオネはまさかと疑問を抱いた。

「あ、あんた……まさか……」

その事に感づいたティオネは募らせていた怒りが霧散されて指を震わせながらアルガナを指す。

何故ならその顔も眼もティオネはよく知っているからだ。

フィンを見る自分と同じ恋する乙女だった。

「私はミクロの子を孕む!」

「はぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

船の上で叫ぶティオネは予想が当たってそこでようやく気付いた。

昨日の戦いでアルガナはミクロという(おとこ)に惹かれたということに。

かつては自身を倒したフィンのように。

アルガナも自身を倒したミクロに心を奪われた。

「あんた何言ってんのよ!?」

叫ばずにいられないティオネにアルガナは熱を孕んだ息で語る。

「私を打ち倒したミクロに惚れた!これは運命だ!」

アルガナが何を言っているのかティオネは嫌という程理解出来る。

フィンと戦い、こてんぱんに負けた時の自分とまったく同じだからだ。

「私はお前達が羨ましい。ミクロに心配されているお前達がな」

「……どういうことよ?」

その言葉に怪訝するティオネにアルガナは昨夜の事を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ………」

「本当だ、あの男は昨夜、私達の元にやってきた」

バーチェと戦っているティオナもティオネ同様に昨夜のことを聞いて驚きが隠せれない。

「ミクロ……」

頬を染めるティオナは嬉しいくも恥ずかしい気持ちが胸に流れ込む。

自分達の為にそこまでしてくれるミクロにティオナは本当に嬉しかった。

「あやつはアルガナとバーチェを始めとした妾の愛する子達を倒して妾に取引を持ち掛けてきおった。あやつのおかげでお先が真っ暗じゃ……」

唇を尖らせてブツブツと死んだ魚の目で独り言を呟くカーリー。

昨夜が原因でミクロにやられた女戦士(アマゾネス)の殆どがアルガナと同じようになっていた。

たった一人の男―――ミクロのせいで闘国(テルスキュラ)は終わる可能性が高まってしまった。

「アルガナももう使い物にならん上に………」

カーリーは独り言を呟きながらバーチェを視線を向けると顔の下半分を隠している黒い紗幕から僅かに頬が染まっていることに気付くと大きなため息が出た。

バーチェもアルガナ同様に昨夜の戦いでミクロに惹かれてしまった。

強さももちろんのことバーチェはミクロの優しさの部分にも惹かれた。

バーチェにとってアルガナは化物で恐怖の対象でしかなかった。

その化物を倒したミクロも対峙した時は恐怖を感じたが、その戦いでミクロは自身の胸に隠していた恐怖に気付き、気遣って声をかけてきた。

それでも突貫した自分に一切の無駄もなく一撃で倒してくれたミクロのその強さと優しさにバーチェは心惹かれた。

「ティオナ、私とアルガナはあの国を出て冒険者になる」

「ええっ!?」

突然の告白に驚愕するティオナ。

化物と称していた姉と向かい合い、話し合って決めた。

惚れた男について行くことに決めた二人は『戦士』から『冒険者』になることを決意。

「これはケジメだ、ティオナ」

これから冒険者になる前に戦士として少なからず互いに想う気持ちを乗り越える。

その為にアルガナもバーチェも拳を握って構えるのだ。

「来い、ティオナ」

一切の油断なく構えを取る。

その姿は慢心も油断もない。

ただ勝利に飢えた獣。

「―――――っ!」

その姿に目を見開くティオナはすぐに笑みを浮かべて構える。

「あたしだって負けないんだからッ!!」

負けるなと言ってくれた。

負けないと約束した。

だから勝つのは自分だ言わんばかりにティオナは笑った。

「行くよ!バーチェ!!」

約束を守る為にティオナは突貫する。

 

 

 

 

 

 

「お前達を助けようとミクロはカーリーの元まで来た。殺すとまで宣言するほどにな」

ティオナと同じ昨夜の真実を聞いたティオネはぎゅっと拳を握りしめた。

「ふざけやがって………っ!」

昨日、アルガナに勝利したミクロに言われた。

―――泣いているのか?

自分の心の奥を見透かしているかのようなあの言葉に怒りさえ覚えた。

「私達の英雄のつもりかっ……!!」

いや、違う。

ミクロはそんな理由で動いたのではない。

友達を助ける為。ただそれだけの為に動いたのだ。

自分達だからではない。

ミクロは友達なら誰であろうとそうするだろう。

アイズや多分ベートだろうとミクロはきっと何とかしようとするだろう。

「私はお前に勝ってミクロに褒めて貰う」

想い人(ミクロ)に褒めて貰う為にアルガナはティオネと戦う。

恋に燃える乙女となったアルガナは以前とは違う凄みを感じるティオネはぎりっと歯を噛み締める。

アルガナは想い人(ミクロ)に褒めて貰う為により勝利に貪欲になった。

それは自分が良く知ってる。

フィンが勝ったら褒めてあげると言われればティオネは意地でも勝利を掴み取る。

今目の前にいるのは『戦士』としてのアルガナではない。

自分と同じ『恋する乙女』のアルガナだ。

それがどれほど厄介なのは自分が一番よく知っている。

「お前も私と同じ惚れた(おとこ)がいるのだろう?」

「………それが何よ?」

自分と同じ恋する乙女となっているアルガナはそんなティオネを鼻で笑った。

「大したことはないのだろう?ミクロと比べるまでもないほどにな」

自身の惚れた(おとこ)の方が強くて格好いいと言外に告げるアルガナ。

――――――その瞬間、ブチッッ、と。

ティオネは自分の中で切れる音を聞き、視界が真っ赤に燃え上がる。

「ざけんな!!団長の方があいつの数百倍強いに決まってんだろう!!」

惚れた(おとこ)を貶されたティオネは切れた。

「アルガナ――――――てめえをブチ倒す!!」

惚れた(おとこ)を貶されて怒りに燃え上がるティオネ同様にアルガナも惚れた(おとこ)の為に構える。

「いや、ミクロの方が強く格好いい」

恋する乙女達はどちらの惚れた(おとこ)が強く格好いいのか決める為に拳を握りしめて再びぶつかり合う。


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