路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New51話

「ただいま」

「お帰り。どうだった?」

ルバートの現場証拠を押さえる為に離れていたシャルロットがミクロの元に戻ってミクロの隣に腰を下ろしてその結果を伝える。

「取りあえず成功よ。柱に括り付けてフェルズに丸投げしてきたからもう問題ないわね」

仕事はこれで完了と告げるシャルロットは戦っているアイズやティオネ達に視線を向ける。

最初に思ったのは強いというアイズ達の力量だった。

流石は二大派閥の一角を担うだけあっての強さを誇るアイズ達にシャルロットは別方向にある道化師のエンブレムを見て頷く。

「やっぱりロキ様は抜け目がないのね」

こんなこともあろうかと言わんばかりに自身の派閥の団員をメレンに呼んでいたそのキレる頭脳と直感。

フレイヤとは違う恐ろしさを持つ一柱だけはある。

「ミクロ。お使いをお願いできない?」

「わかった」

頷くミクロにシャルロットは『リトス』から『ディオン・ヴァ―ド』を取り出す。

 

 

 

 

 

 

海蝕洞

天然の闘技場で佳境に差し掛かっている筈の闘いは、その勢いを全く衰えるどころか白熱の一途を辿っていた。

「とりゃっ!!」

骨ごと粉砕しようという水面蹴(あしばらい)から宙に逃れ、振り上げた右踵をティオナの頭頂部目掛けて振り下ろすが、猫の様な俊敏さで避ける。

バーチェは魔法を使っていない。

自身の魔法が必毒で必殺であるため、ティオナを殺してしまうのはミクロとの約束を破ってしまうと最初はそう考えて使わなかった。

だが、今は使った方が危なかったと思わざるをえない。

必毒で必殺のゆえに使用すれば心のどこかに油断と慢心が僅かに生まれてしまう。

今のティオナに使用すればきっとその隙を突かれて敗北していただろう。

「いや……」

違う。

そうではない。

使わなかったのではない、使いたくなかったのだ。

今まで『儀式』では(アルガナ)に殺されたくない死の恐怖と生の渇望を混ぜ合い、それを闘争心に昇華させて、強さをひたすら貪り喰らってきた。

だけど、今は違う。

「そりゃっ!」

笑いながら拳撃を繰り出すティオナを見てバーチェは黒い紗幕の下では小さく笑みを浮かべていた。

楽しいのだ。

生まれて初めて闘いが楽しい、もっと続けたいと思えるようになっていた。

これは『儀式』で行う殺し合いではない純粋な実力勝負。

どちらが勝っているかを決めるだけで殺す殺される必要も理由もない。

死の恐怖から開放されて余裕ができたバーチェはティオナとの戦いが純粋に楽しかった。

次はどうくる?

これはどう避ける?

ここならどうだ?

殺されない、何も奪われない為に磨いていた力や技術をバーチェは戦うことを楽しむ為に使えていた。

紗幕の下で笑みを浮かべて蹴撃を放つとティオナは両腕を交差させて防ぐ。

「ティオナ!私は負けない!私達を変えたあの男―――ミクロの為に私が勝つ!」

自身と姉を変えたミクロの為にバーチェはより勝利に飢える。

死の恐怖から救ってくれたミクロの為に勝利を捧げたい。

褒めて貰いたい。

認めて貰いたい。

姉ではなく自分を選んでもらいたい。

ミクロの子を孕みたい。

その気持ちを闘争心に変えるバーチェにティオナはそれでも、笑ってみせた。

「あたしだって負けないんだから!!」

約束した。

自分が勝つことを信じてくれている。

その期待を裏切りたくない。

また、拳をぶつけ合って勝ったよって言いたい。

「あたしもミクロのこと、好きなの!!」

ティオナ自身、気が付けばその気持ちを叫んでいた。

ミクロと一緒にいると温かい気持ちになる。

トクンと心臓が跳ねる。

自分の笑顔が好きだと言ってくれた。

だからティオナは笑ってそして、勝つ。

二人の戦闘はより一層に激しくなる。

想いを糧に拳を握りしめて拳撃を放ち、脚の力を入れて蹴撃を行う。

互いに拳と蹴りの雨を降らせ、乱打の闘舞を交らせる。

一歩も譲らず、一歩も引かずにただ勝利を求める。

「ティオナ!!」

叫び声とともに放たれたバーチェの拳砲が、ティオナの腹部に直撃する。

「今も、笑えるか!?」

「――――笑えるよ!!」

全く同じ攻撃でバーチェの腹部を殴り返す。

「私も、笑えるぞ!!」

互いに笑みを浮かばせながら拳と蹴りを打ち合う。

防御の上から鳴る鈍重音が鼓膜を戦かせる。

そして―――――。

「―――――――――」

一歩も譲ろうともしない二人の乙女の拳は互いの顔を捉えた。

海蝕洞に響く殴打音。

動かなくなった二人は同時に膝をついて倒れる。

「アハハ……やっぱり、バーチェは強いや………」

「お前も、強くなったな………」

互いに肉体の限界は超えてまともに動けなくなっても二人の表情から笑みが消えることはなかった。

「次はあたしが、勝つからね」

「勝つのは私だ………」

今回は引き分けだが、次は自分が勝つと意気込む。

一人の男を想う二人の気持ちは揺れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

メレンから見て南西の沖。

大型船で行われているティオネとアルガナの闘いは熱を帯びていた。

「団長の方が強いわよ!!」

「ミクロの方が強い!!」

「団長が――」

「ミクロが――」

「「恰好いい!!」」

どちらの想い人の方が強く、格好いいのかと互いの拳と蹴りで語り合う二人の身体は限界寸前だったが、それでも二人は決して倒れることはなかった。

「いい、加減……に、しなさいよ………」

「お前も………いい加減認めたらどうだ?」

互いに肩で息をしながら一歩も譲ることをしない。

団長が。

ミクロが。

二人は戦い始めてからずっと拳と共に言い争っていた。

肉体は限界でもそれだけは譲れないかのように恋する乙女の二人の恋の炎は消えるどころかより一層激しく燃え上がる。

背中に幻炎を纏わせて二人の乙女は拳を握りしめて再び戦いに赴く。

どちらの想い人の方が強くて格好いいのかを決める為に二人は一歩距離を詰める。

燃え上がる二人の戦闘は止めることなどできない。

もし、止められる者がいるとしたら。

 

「そこまでにしよう」

「終わり」

 

二人に勝って、心を奪ったいた雄達ほかならない。

距離を詰めた二人の間に、二つの槍が突き立った。

固まる二人の間に現れたのはミクロとフィン。

二人の心を奪った張本人達。

「だんちょう……」

「ミクロ………」

沖に浮く船上に姿を現したミクロ達は海を凍らせてその上を走って来た。

フィンはリヴェリアの凍結魔法【ウィン・フィンブルヴェトル】によって。

ミクロは魔武具(マジックウェポン)『ディオン・ヴァ―ド』で海を凍らせてこの大型船までやってきた。

「止めてください、団長!?邪魔をっ、邪魔をしないでください!!」

「邪魔、ときたか………」

大声を張り上げるティオネ。

「アルガナは、そいつは私が倒します!団長の方が強くて格好いいと証明……ではなく!そいつらはずっと【ファミリア】に付き纏ってくる!!」

大声を張り出すティオネ。

自分達を誘き出す為にレフィーヤを人質に取られた。

決着をつけない限り、これからも【ファミリア】に付き纏ってくる。

「安心しろ、ティオネ。この戦いはもう終わりだ」

決着をつけないといけないと叫ぶティオネに反してアルガナはミクロの言葉に従った。

ミクロに終わりと告げられて戦いをあっさりと止めてミクロの腕にしがみついてくるアルガナはティオネに告げる。

「私とバーチェはミクロの【ファミリア】に入る。もうテルスキュラには戻らない」

「ハ、ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

突然の言葉に叫ぶティオネ。

そんなティオネをアルガナは無視してミクロに頭を突き出す。

「ミクロ、頑張ったから褒めて」

「頑張った」

アルガナの頭を撫でて褒めるとアルガナは頬を染めながら嬉しそうに目を細める。

それを見たティオネもフィンに頭を突き出す。

「団長!私も、私も頑張りました!!褒めてください!!」

「やれやれ………」

苦笑を浮かべながらティオネの頭に手を置くフィンにティオネは嬉しそうに微笑む。

フィンは同士を見るような目でミクロを見つめる。

 

 

 

海蝕洞と船上。二つの闘いの幕は下ろされる。

その後、氷の橋を渡ってメレンに戻って来たミクロ達はアルガナとバーチェを魔法で治療した後でフィン達が【ロキ・ファミリア】と合流する前に別れてシャルロットの元に戻るとそこにはカーリーが待っていた。

「約束じゃ」

それだけを告げてカーリーはアルガナとバーチェの背中の『恩恵(ファルナ)』を『改宗(コンバージョン)待ち』の状態にすると大きく息を吐く。

ティオネとティオナ同様に愛する娘達が自分の元を離れていく寂しさを感じる。

しかし、本人がそれを望んでいる以上それを拒むこともできない。

「ほれ、これで完了じゃ」

仕事を終わらせたかのように告げるカーリーはミクロに視線を向ける。

「妾の子達を泣かせるでないぞ」

「わかった」

「ミクロはそんな子ではありませんよ」

愛する子の為に忠告するカーリーにミクロは頷き、シャルロットは微笑む。

両腕をアルガナとバーチェに挟まれながらミクロ達はオラリオに帰還する。

「カーリー、世話になった」

「………」

顔だけ振り返り、今まで世話になった礼を告げるアルガナと無言のまま静かに頭を下げるバーチェ。

「いつでも帰ってくるがよい」

無駄だろうが言うだけは言っておくカーリーのささやかな願い。

離れていく我が子達。

カーリーは二人の姿が見えなくなるまでその後姿を見守っていた。

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