路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New52話

朝日がまだ顔を出していない時間帯。

ミクロは自室の寝台(ベッド)で寝ていると身体に重みを感じて目を覚ます。

またアイカか……。

数日に一回はミクロの寝台(ベッド)に潜り込んでは抱き枕のように抱き着かれて一緒に眠ることがある。

ミクロ自身も特に断る理由もない為に一緒に眠りについている。

今日は港街(メレン)から帰って来た翌日の朝。

疲れているであろうミクロにセシルは気遣って朝の訓練はベルと二人で行う為にミクロは朝食の時間まで睡眠に当てようと思っていた。

「ミクロ………」

「……アルガナ」

ベッドの中から顔を出してきたのはアイカではなく昨日改宗(コンバージョン)して新たに【アグライア・ファミリア】の一員になったアルガナがミクロの寝台(ベッド)に忍び込んでいた。

それも全裸で。

深い谷間を作る豊かな双丘、きゅっと締まった柔らかな臀部、しなやかな太腿を余すことなくミクロに密着させる。

アルガナの双眸は色に濡れた女の目は獲物を見つけた女戦士(アマゾネス)の目。

蛇のように体を絡ませて獲物(ミクロ)を逃さない。

爬虫類を彷彿させる目は一瞬たりともミクロから視線を逸らさない。

アマゾネスにはある習性がある。

男を攫って貪り食う。

子孫繫栄の為に『古代』から続く獰猛なアマゾネス達の習性は現代でも少なからずの被害をもたらしている。

血に飢えた獣のように、己が気に入った男を見つけ出して連れ帰るという。

ペロリと舌で唇を舐めるアルガナはまた眠りに付こうとするミクロの顔を見る為に心臓の鼓動が響く。

ああ、ミクロの子を孕みたい……。

アルガナの思考はそれで埋めつくされている。

アマゾネスの本能に身を委ねて眠りに付こうとしているミクロの頬を舐める。

「なに………?」

頬を舐められて再び目を覚ますミクロにアルガナは構わず顔を近づける。

「交わろう……子を孕みたい」

返答など必要ない。

欲望に忠実のまま本能のままにミクロと交わろうとするアルガナ。

「?」

よく意味が分からず首を傾げるミクロ。

しかし、戦意も殺意もないむしろアグライアやリュー達団員から感じる愛情や好意をアルガナから感じられたミクロは警戒など一切なくアルガナに身を委ねる。

その時。

バンッ!と勢いよくミクロの部屋の扉が開くとそこには険しい表情で瞳には瞋恚の炎で燃え盛るリューが木刀を片手にアルガナを睨む。

虫の知らせ、嫌な予感を感じ取ったリューの勘は冴えていた。

「ミクロを放せ、アマゾネス」

「断る、エルフ」

刹那、リューは木刀を握りしめてアルガナに一閃を与えるがアルガナは隠し持っていた曲刀(シミター)で防ぐ。

「彼に淫らな真似をするな」

「私の勝手だ。ミクロと交わる邪魔をするな」

瞳を瞋恚に燃え盛るリューに好戦的な笑みを浮かべるアルガナは部屋の窓を突き破って戦闘を繰り広げた。

中庭の方からセシルとベルの悲鳴らしきものが聞こえたが二人に殺意がない以上ミクロも止めるようなことはしない。

遠慮せずに互いをぶつかり合わせるのは良いことだと思い、ミクロは再び眠りに付こうとすると柔らかな感触があった。

「バーチェ」

「私が二人を見ておく」

だから寝ていろと告げるバーチェにミクロは甘えてバーチェに抱き着かれるような体勢で眠りにつく。

アルガナ同様に夜這いならぬ朝這いを行おうと来たが既に姉に先手を取られたがリューのおかげでミクロの操は無事に守られた。

二人が外で戦っているなかで流石に交わろうとするほどの度胸はバーチェにはない。

だが、これぐらいはいいだろうと思い想い人(ミクロ)を優しく抱きしめる。

 

 

 

 

 

【アグライア・ファミリア】の本拠(ホーム)、朝食を取る食堂の一角には。

生傷だらけのリューとアルガナが距離を取って朝食を口にしていた。

黙々と食事を取るリューに対して笑みを浮かべながら食事を進めるアルガナ。

朝の戦闘は騒ぎを聞いて駆け付けたアグライアの一声によって中断された。

第一級冒険者二人の戦闘は本拠(ホーム)にまで影響が及んでしまう為に中断せざるを得なかった。

流石の二人も主神の言葉には従い得物を下ろしたが遺恨は残ったまま。

はぁ、と溜息を吐くアグライアはアイカに食事を食べさせられているミクロに視線を向ける。

原因となる本人はどこふく風のようだった。

「リリ、これベルの分の食事」

「ありがとうございます、セシル様……」

食事を持ってリリは自室で寝ているベルに食事を持って行って看病に当たる。

朝の二人の戦闘に巻き込まれて負傷―――というわけではなくアルガナの裸体をもろに見てしまったベルは顔を真っ赤にして倒れた。

現在は自室で項垂れながら眠りについている。

昨日、ミクロが連れ帰って来た元【カーリー・ファミリア】のアルガナ・カリフとバーチェ・カリフ。

二人の姉妹を連れて帰って来たミクロとシャルロット。

Lv.6の冒険者を連れて来たことに最初は誰もが驚いたが、それ以上にミクロに惚れていることが容易に理解出来た。

女性団員達は呆れ、男性団員達はもはやミクロを神仏のように称えた。

約一名は血涙を流さんといわんばかりに歯を噛み締めて悔やんでいたが。

「やっぱりこうなったのね」

前掛(エプロン)姿のシャルロットがこれを予想したいたとばかりに息を吐く。

【ファミリア】の食事を作っていたシャルロットは改めて団員達を見直す。

基本的に人間(ヒューマン)が多い【ファミリア】だが、多くの種族が集まって険悪な雰囲気などは醸し出していない。

その辺りは主神であるアグライアやミクロの手腕によるものだろう。

しかし、リューとアルガナは種族特有の本能や習慣が深い。

リューのようなエルフは認めた者以外の肌の接触を拒む潔癖な種族。

アルガナのようなアマゾネスは性の奔放で自身を打ち倒した雄に惚れる。

互いに種族の本能や習慣を拭いきれない程染みついている。

相性は最悪と言ってもいい。

少なくとも一日二日でどうにかできるものではない。

更に厄介なのは二人とも同じ男に惚れているということだ。

「我が息子ながら恐ろしいわ」

女性を誑し込む我が子に戦慄すら覚えた。

しかしこのままでは義娘を見ることは叶わないシャルロットはミクロに近づいて尋ねる。

「ミクロ、貴方はこの【ファミリア】のなかで誰が好きなの?」

その言葉にいくつかの椅子が床に転がる。

「みんな好きだけど?」

当たり前のように、当然のように告げるミクロに団員達は嬉しくもそんなに素直に言われると逆にこっちが恥ずかしいと言わんばかりに頬を染める。

「そうね、言い方を変えるわ。結婚するとしたら誰が良いの?」

女性団員達の視線が一斉にミクロに集中する。

真剣な眼差しを向ける者や不安や緊張でやや視線を逸らす者などもいるがミクロの口から発せられる答えを待っている。

「私だ」

その中で動いたのはアルガナだ。

ミクロは自分のものと言わんばかりに抱き着くアルガナに向かってスプーンが飛んでくるがアルガナはそれを難なく弾く。

「勝手なことをほざくな、アマゾネス」

ゆっくりと席から立ち上がるリューの瞳はようやく鎮火した瞋恚の炎が再び燃え上がる。

「ミクロは――」

「私だよ~」

リューの言葉を遮り、アルガナからミクロを奪い取ったアイカはミクロに頬ずりする。

「女子力が低い二人より~私の方がいいよね~」

アイカは女子力が高い。

家事掃除全般得意として包容力もある。

戦闘面はからっきしだが、日常面では二人よりアイカが勝っている。

勝ち誇ったように微笑むアイカに怒気に近い眼差しを向けられるなか、ミクロはティヒアに袖を引っ張られる。

「ミ、ミクロ……その、えっとね………」

頬を染めて尻尾をぶるぶると震わせるティヒアとは反対にミクロの片腕にバーチェが抱き着いてきた。

「渡さない」

短く一言告げる。

しかし、それ以上言葉を述べなくてもその言葉の意味はわかる。

燃え上がる五人に他の団員達は戦いたり、その光景に目を奪われたり、呆れたりなど反応が様々。

クソがッ!羨ましすぎる!!と心からの咆哮を叫ぶ者もいる中でミクロはパンを口に頬張って告げる。

「皆と結婚すればいい」

冒険者は多くの女性を囲むという言葉をミクロはボールスから聞いたことがあった。

それはきっとこういうことなのだろうとやっとボールスの言葉が理解出来た。

堂々とベルで言う男の浪漫――ハーレムを宣言するミクロ。

「皆のこと好きだから問題ない」

『…………………』

明らかな好意を告げるミクロにリュー達は呆れながら納得する。

ミクロらしい答えを告げるとシャルロットが苦笑を浮かべながら再度尋ねる。

「一人だけなら誰が一番いいの?」

皆の中でたった一人だけを選ぶように催促する。

結婚できるのはたったの一人だけ。

そう告げられたミクロは口を閉ざして考える。

ミクロは団員全員が好きだ。

何かあれば何も聞かずに手を貸すし、逆に手を貸して欲しい時は頼む。

信用も信頼も寄せているなかでたった一人だけを選ぶなんてことはミクロにはできない。

悩むミクロを見かけたシャルロットはやりすぎたと反省してふざけ半分の質問を投げて終わらせようと口を開く。

「じゃ、キスをした子はいる?」

「あ、リュー」

『―――――――――ッッ!?』

冗談半分で投げた質問から予想外な答えが返って来た。

ミクロ以外の全員がリューに視線を向けるがそこにリューの姿はなかった。

【疾風】の二つ名に恥じない速さでこの場を緊急離脱していた。


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