路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New53話

「リューさん!返事してくださーーーい!」

「副団長ーーー!!」

朝のミクロの発言で行方知らずとなってしまったリューを捜索するべくセシルとベルは人気のない路地を歩いていた。

「どこ行ったんだろう?リューさん」

朝の出来事から復活したベルはリューが行方知らずとだけ聞いてセシルと一緒に探しに来ている。

それ以外にも他の団員達も血眼になってオラリオ中を探索している。

アルガナとバーチェは共通語(コイネー)と常識をシャルロットから教わっている。

「それにしてもまさか副団長が既に……」

「どうしたの?セシル」

「ううん、何でもない」

朝のミクロの発言を思い出してぼやくセシルにベルは声をかけたがはぐらかして誤魔化す。

リューがミクロの事が好きだということは団員全員が知っている。

しかし、まさか既にキスをしていたとは思いも寄らなかった。

ミクロ本人は動じてもいないかったのはどうかと思ったがそれはいつも通りだ。

「はぁ、副団長達も苦労してるな……」

恋に燃えるリュー達がどれだけ苦労しているのか同じ女として多少なりわかるセシルはその対象となっているのが自身の師であるミクロだと思うと溜息が出る。

セシルはミクロの事が好きだが、それは尊敬する人としてだ。

仮に恋をしていたとしても第一級冒険者が三人もいる恋の嵐の中に入り込む度胸などない。

「あ、そう言えばベル、お師匠様から聞いたよ。団長になるんだって?」

18階層でベルがミクロに告げたその言葉。

【アグライア・ファミリア】の団長を目指すベルはそれを言われて苦笑する。

「うん、まだまだ追いつけないけどいつかは僕も団長のようになりたいんだ……」

目標の人物を追いかけて追い抜き、団長になるとミクロ本人に誓ったベルの指にはミクロから託された魔道具(マジックアイテム)『レイ』が嵌められている。

「僕はまだまだ弱いけど……でも、いつかは辿り着いてみせる」

拳を握りしめてその決意を表すベルにセシルは一瞬唖然とするがすぐに微笑む。

「じゃ、まずは幹部にならないとね」

「……そうだよね、セシルは幹部になったんだよね?」

「幹部って言ってもなんちゃって幹部だけどね」

あははと苦笑するセシルは遠征から帰還して正式に【アグライア・ファミリア】の幹部に昇任。

しかし、幹部と言っても特にすることもなくいつものように鍛錬を行っている。

「私ももっと強くなってお師匠様の隣に立てるようにならないとな……」

師であるミクロは自身の重みを少しに弟子であるセシルに持たせてはくれない。

なら、ミクロと同じぐらい強くなって無理矢理にでも背負う覚悟でセシルは遠征から帰還してからも一層に鍛錬に励む。

「僕達ももっと強くならないとね」

「そうだね。お互い頑張ろう」

目標に向けて互いに努力し合う二人は笑みを浮かばせて歩いていると曲がり角から出てきた通行人と衝突してしまう。

「あ、すいません」

衝突して通行人に謝るベル。

「痛ええええええええええっっ!!クソが!いきなり何しやがる!?」

「え?」

ベルと衝突した通行人の男は突如ベルと衝突した場所を押さえて叫び出すとその男の仲間と思われる男がベルの胸ぐらを掴んだ。

「てめえ!俺の仲間に何しやがるんだ!!あぁ!!」

「え、ええ……?」

突然の事に困惑するベルにセシルは男達の着ている服の上にある金の弓と太陽が刻まれたエンブレムの徽章を見てこの男達が【アポロン・ファミリア】の団員だと知り、ベルの胸ぐらを掴んでいる男の腕を掴む。

「少し大げさすぎません?こちらも不注意ではありましたが、ぶつかったのはお互い様ですし、そちらの方はそんなに痛がっているように見えませんが?」

【ファミリア】同士のもめ事を起こさないように和らげに告げるセシル。

セシルはなんちゃってとはいえ仮にも【ファミリア】を代表する幹部。

【ファミリア】に迷惑をかける訳にはいかないセシルは自身の派閥のエンブレムを男達に見せる。

「私達は【アグライア・ファミリア】です。そちらももめ事は起こしたくはないでしょう?」

上位派閥の一員であるエンブレムを見せることによってこれ以上のもめ事を起こさないように取り繕うとする。

だが、男はそれを見て鼻で笑った。

「ハッ!だからどうした?こっちは仲間に怪我を負わされたんだ!?派閥なんて関係ねぇよ!責任取れって言ったんだよ!?責任!」

男はこれ見よがしに饒舌になるとセシルは内心で嘆息する。

冒険者同士ではこういったイチャモンは多い。

ベルと衝突した男ももう痛がっている素振りすら見せていない。

「それともなんだ!?上位派閥は他の派閥のもんを傷付けてもいいってか!?運よく上位派閥に入れただけだっていうのにいいご身分で羨ましいぜ!」

「―――ッ」

男の言葉にベルは反応した。

その男の言葉通りにベルは主神であるアグライアに拾われたおかげで【ファミリア】に入ることが出来た。

運がよかったという点は否定しきれない。

「それは違います。私達は覚悟を持って【ファミリア】の門を通ることが出来た。何の覚悟も持たない人は【ファミリア】に入れません」

【アグライア・ファミリア】に入団する際には必ず覚悟を問われる。

覚悟がない者は決して【ファミリア】を入団することは出来ない。

セシルは無理矢理男の腕をベルから引き剥がしてベルを開放する。

「【ファミリア】に関する侮辱は聞き流します。ぶつかったことに関しても謝罪は致します。ですが、そちらにも非があるということをお忘れなきように。行こう、ベル」

「う、うん」

軽く頭を下げて謝罪してベルの腕を引っ張ってその場から離れようとする二人に男は二人に聞こえるぐらいに舌打ちして背後からベルを殴りかかって来た。

「――――――ッ!?」

「ぐふっ!?」

「あ」

「おお~」

しかし、ベルは反射的に男の攻撃を受け流しつつ接近して腹部に肘鉄を食らわせた。

あまりに綺麗な流れで肘鉄を食らわせたベルの動きにセシルは思わず拍手した。

「ご、ごめんなさい!つい、条件反射で!!」

日頃の訓練が骨身に沁みたベルは条件反射で体が動いてしまった。

慌てふためくベルにもう片方の男が殴りかかってくるが、それはセシルが対応して一撃で気を失わせた。

「せっかく穏便に済ませようとしたのにな……」

「ご、ごめん、セシル……」

「ううん、ベルは悪くないよ」

穏便に済ませようとしたにも関わらず急に襲いかかって来た男達が悪い。

このことを取りあえずは師であるミクロに報告しようと思っていると。

「これはどういうことだ?」

一声が投じられた。

声の先にこちらに視線を向けている美青年の人間(ヒューマン)

「【太陽の光寵童(ポエプス・アポロ)】……」

【アポロン・ファミリア】団長、ヒュアキントス。

セシルと同じLv.3の第二級冒険者。

「答えろ。どうして我々の仲間が倒れている?」

「それは―――」

「こいつらにイチャモンつけられたんだ!ヒュアキントス!!」

「ええ!?」

説明をしようとする前にベルに一撃入れられた男が突如そう言い出した。

「たまたま俺達が曲がり角でこいつらとぶつかってイチャモンをつけられたんだ!?謝っても上位派閥に逆らうのかって脅されて……逆らったらこいつらいきなり暴力で訴えてきて」

「ふざけないで!!それは貴方達のほうでしょう!?」

あまりの言いがかりに怒鳴るセシルに男は怯えたように後退りする。

「そ、そうですよ!確かに暴力は振るってしまったことに関しては謝ります!ですが、先に手を出してきたのはこの人達です!」

ベルも必死に説明をするがヒュアキントスは聞く耳持たずか、もしくは初めから聞く気がないかのように一歩踏み出す。

――――――嵌められた。

セシルはすぐにそれに気づいた。

「状況から見ても貴様等の言葉は信用ならん。我々の仲間を傷付けた罪は重い………相応の報いを受けてもらうぞ」

その言葉が合図かのようにぞろぞろと人が影から姿を現す。

この場にいる全員が【アポロン・ファミリア】の団員達だ。

「………ッ」

苛立つかのように歯を噛み締めるセシルは今になって今の状況が理解出来た。

最初からこの状況を作る為の三文芝居。

「………いったい何が目的?私達が【アグライア・ファミリア】の団員だって知っているの?」

団長であるヒュアキントスに言葉を投げるがヒュアキントスは冷静に言葉を述べる。

「知っているさ。無論、貴様の事もな」

細められた碧眼の奥で嗜虐的な光が瞬く。

「【覇者】の弟子だそうだな?全く持って理解できん、貴様の様な才能もない者をどうして弟子に取ったのか」

「………それがなに?」

セシルは自分に才能がないことは知っているし、認めている。

だからなんだと言わんばかりに睨む。

「【覇者】は貴様の様な貧弱な体が好みなのか?どうせ身体でも使って媚びたのだろう?そうでなければ弟子に取る理由がない」

「――――――――っ」

「取り消せ!!」

ヒュアキントスの言葉にベルがセシルを庇う様に前へ出て吠えた。

大切な家族を貶されて激しい怒りを覚える。

「セシルはそんなことをする人じゃない!!何も知らない癖に勝手なことを言うな!」

「ベル……」

自分を庇う様に前へ出て本気で怒ってくれるベルにセシルは目じりに涙が溜まる。

だが、ヒュアキントスはそんなベルにさえも一瞥すらしない。

話す価値すらないかのように鼻で笑って終わらせる。

「全く持って【覇者】の考えは理解が出来ない。こんな者達を【ファミリア】に入れたら格が下がるというもの。よほど人を見る目がないのだろう」

「――――――――――」

その瞬間、ブチッ、と、セシルの中で何かが切れる音がした。

「………して」

「なに?」

「私の事は別にいい。でも、私の尊敬する人を貶すその言葉だけは許さない!!撤回して!!」

尊敬する人を貶されたセシルは怒気を発せながら一歩踏み出す。

「じゃないと―――貴方を狩る!!」

全身から怒りが発せられながら一歩また一歩近づくセシルにヒュアキントスの態度か変わることはない。

「事実を口にして何が悪い?」

「――――――ッ!」

セシルの怒りの拳砲が放たれる。


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