ダンスが終えた二人はそれぞれの主神の元へ戻る。
「楽しかったよ!」
ティオナは満面な笑みでそれだけを告げてロキの元へ戻って行く。
ミクロも自身の主神の元へ戻るとアグライアは微笑んでいた。
「楽しかった?」
「うん」
その言葉に素直に頷くミクロにアグライアも嬉しく思った。
「―――――諸君、宴は楽しんでいるかな?」
そこへ主催者であるアポロンが従者を連れてミクロ達のもとへ足を運んできた。
「盛り上がっているようならば何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというもの」
演奏が止まっているアポロンの声は大広間によく響く。
「遅くなったが……アグライア、先日は私の
「ええ、世話をしてあげたわ」
皮肉を込めて言ってくるアポロンにアグライアも皮肉を込めて言い返した。
「私の子が【覇者】の弟子に痛めつけられて重傷を負わされた。代償をもらい受けたい」
「なら、私の子を傷付けた代償はどう取り繕ってくれるのかしら?」
互いに作り笑みを浮かばせながら言い合う二柱。
「こちらは重傷を負わされたのだ。この場にいない団長を務めているヒュアキントスはそれはもう目も当てられない姿で帰って来た」
「それならこちらは心に酷い傷を負わされたわ。女性の身体の特徴を貶されて今も部屋で泣いているのよ」
互いに演劇の台詞を吐くかのように嘆く。
皮肉を皮肉で傷を傷で返すアグライアにアポロンは顔は怒りで歪む。
「……ふざけるのもいい加減にして貰いたい」
「ふざけていないわ。私は真剣に怒っているもの」
その怒りを表しているかのようにアグライアの瞳が鋭くなる。
「貴方に『
その怒りを表すかのようにアグライアは
派閥同士の決闘。
かつてはミクロが【ディアンケヒト・ファミリア】と行った
アグライアの宣言を受けて、周囲の神々がざわつき始めた。
「執念深い貴方の事だからきっとまた私の子を傷付けようとするでしょう。そうなる前にケリをつけさせて貰うわ」
アポロンは見初めた者は執念深く追い続ける。
たとえそれが地の果てだとしても追い続ける。
天界からアポロンのことを知っているアグライアはこれ以上に厄介事になる前にゲームで一気に終わらせるつもりでここに来た。
「流石はアグライアだ。天界で互いに愛し合っていた仲なだけはあって私のことを良く知っている」
「貴方が勝手に求愛しにきただけでしょうが…私の子の前で変な妄想は止めなさいよ」
だから会いたくなかったとぼやくアグライア。
この恋多き変態には天界の頃から色々苦労していたことを思い出すと頭が痛くなる。
「――――――っ」
不意にミクロは視線を感じて窓の外を見る。
しかし、そこには誰もいない。
「いいだろう、そのゲーム受けて立つ!」
『いぇええええええええええええええええええええええええええええええッ!!』
アポロンの了承に周囲の神々が歓声を上げる。
「………」
その中でミクロはアポロンに視線を向ける。
ミクロは自身の派閥はどれだけ周囲に知れ渡っているのかぐらい把握している。
だけど、目の前にいる男神アポロンからはまるで自分が勝つことが揺るがないかのような自信に満ち溢れている。
「私達が勝ったら貴方の【ファミリア】は解散、貴方はオラリオから永久追放」
「私が勝ったら君の眷属、ベル・クラネルをもらう」
互いに勝利した時の要求を聞き入れて神の宴はお開きになった。
「クソッ!」
【アポロン・ファミリア】の
美形の顔は怒りで歪められている。
その顔を見れば誰もが先日セシルにやられたのがショックだったのかを物語っている。
だけど、改めて実感した。
自分の実力では【覇者】どころかセシルにすら敵わない。
何か手の内を考えなければと思考を働かせる。
人質を取ってゲームで実力を発揮させないようにする。
もしくがゲームに参加する前に行動を封じておく。
様々な策を考案するヒュアキントス。
「ニャハハハハハ!だから言ったニャ!火種はミャーに任せておけってニャ!」
ヒュアキントスの部屋の扉にもたれながら笑い声を飛ばしてくる女性の
「黙れ!よそ者の分際で余計な口を挟むな!」
「ニャフフフ、弱い者こそよく吠えるとはこのことニャ」
しかし、
「そうそう、
「私は敗北していない!油断していただけだ!万全の準備を整えればあのような奴らに負ける道理がない!」
「ニャハハハハハ!既に負けている分際でよく吠えるニャ」
「……ッ」
只でさえ苛立っている上にそれを催促するような言葉にヒュアキントスは拳を強く握りしめるが決して目の前の
目の前の
「勝ちたいのならミャーに従うニャ。そうすればミャーがお前に力を与えてやるニャ」
一つは腕輪、もう一つは飴玉サイズの紅玉。
「これさえあればおミャーの勝利は確実ニャ。どうするニャ?」
「………何が目的だ?」
怒りを必死に抑えながら冷静に言葉を述べるヒュアキントスに
「何もいらないニャ。まぁ、善意だと思った受け取るニャ」
嘘をつけと内心でヒュアキントス愚痴を溢す。
だが、主神であるアポロンの為にも勝たなければいけないヒュアキントスは自身の
「……礼は言わないぞ」
「ニャハハ、これは嫌われたニャ」
ペシ、ととぼけるかのように自身の頭を叩く
「この屈辱はゲームで返させて貰うぞ………ッ!」
受けた屈辱をゲームで晴らさんとばかりに憤る。
「つまらない男ニャ……」
廊下を歩く
大した力もないくせに粋がり、無駄な誇りを持っている故に諦めが悪い。
「まぁ、だからこそ利用できるから別にいいけどニャ」
だからこそそこに利用できる価値がある。
表舞台に顔を出せない自分の代わりに利用できる駒が
「それにしてもミクロも強くなったもんニャ。もうミャーでは勝てそうにないニャ」
興味本位で窓の外から覗きに行ったらすぐに察知されて為にすぐにその場から離れた。
だが、それでも警戒をして気配を完全に消していたはずなのに気付かれた。
以前、へレスとの戦闘からこの短時間でミクロはまた強くなっている。
「まぁ、いいニャ。ミクロ以外の誰かが出たらこちらの勝利は確実ニャ」
ミクロなら突破して勝利を掴むだろう。
それだけヒュアキントスに渡した物は強力だからだ。
効果も副作用も。
しかし、
勝ったらミクロの苦痛の表情が見える。
負けても自分は痛くも痒くもない。
どちらにしろ、ヒュアキントスはただでは済まない。
「団長も面倒な指示を出すものニャ」
【アポロン・ファミリア】を利用してミクロに揺さぶりをかけろ、と指示を受けた