路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New57話

臨時の神会(デナトゥス)

オラリオ中央、摩天楼施設(バベル)三十階で行われる神会(デナトゥス)では【アグライア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】による戦争遊戯(ウォーゲーム)の内容を決めるべく娯楽に飢えた神々達が集まっていた。

「ほな、始めようか」

両者の必要書類の自署(サイン)や手続きを周囲の監修のもと済ませていく。

「互いの要求は知っとるし、そこはええやろ?」

アグライアが勝てば【アポロン・ファミリア】は解散、アポロンはオラリオから永久追放。

アポロンが勝てばベルの所有権、派閥の移籍。

互いの要求は既に決まっているなかで話は円滑(スムーズ)に進む。

やがて、戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝負形式に関して話が及んだ。

「【ファミリア】の総力戦」

真っ先にアグライアは自身が圧倒的に有利な勝負を発言する。

第一級冒険者が五人もいるアグライアにこれ以上にない決着方法。

「それではゲームがつまらないだろう?アグライアのところにはあの【覇者】がいるのだからな」

アグライアの予想通りアポロンはそれを拒否した。

「それに最近ではオラリオの外から第一級冒険者を二人も勧誘したそうじゃないか。それでは一方的過ぎて興醒めだ」

アポロンの言葉に他の神々も同調するように頷く。

「そう言うならアポロン、何かおもろい案があるんかいな?」

「先日の私とアグライアの子との騒ぎの中心だったヒュアキントスと【覇者】の弟子との一騎打ちはどうだろう?互いにLv.3。いい勝負になると思うが?」

その提案にアグライアは違和感を覚える。

先日の騒ぎではセシルはヒュアキントスを圧倒した。

にも拘らずその二人の一騎打ちを申し込んでくるアポロンの案があまりにも妥当すぎる。

「アグライアのところの有名な【覇者】の弟子ならもちろん受けるだろう?」

その言葉に敵でも味方でもない他の神々達が同調する。

話題が尽きないミクロの弟子であるセシルはどんな人物なのかという興味本位。

もしくは単純に戦いを見てみたいという好奇心もあるだろう。

「イヒヒ、いいのかよ?アポロン。聞いた話じゃお前のとこのガキはボコボコにされたって話だぜ?」

そこでザリチュがアポロンに向けて言葉を投げるがアポロンは自信を持って答えた。

「無論だ、次こそは私の可愛いヒュアキントスが勝つと信じているからな」

あまりにも自信を持って告げるアポロンにアグライアは警戒を強いる。

この自信には何か裏があると見込んでアグライアはアポロンの案を拒否する。

「そちらの案に乗る理由がこちらにはないわね。ここは公平にクジで決めましょう」

向こうの妥当な案を鵜呑みにする訳にはいかないアグライアはくじで勝負形式を決めさせるように提案する。

「どうしてだ?妥当な案だと自負しているが」

「私の子を傷つける為に罠を仕掛けた貴方の妥当な案なんて信用できないわ。私も自分の子は可愛いもの」

反論してくるアポロンにアグライアはアポロンの案に信用はないと告げる。

それ以上の反論がなかった為に勝負形式はクジで決まった。

「さっきも言ったけど、アポロンとそれに関わる神は信用できないわね」

「それはこちらも同じこと」

同様の条件を出す二柱の視線はとある神の顔に止まった。

「「ヘルメス」」

「えーと……本気(マジ)?」

神々でも中立を気取る男神に立ち上がって円卓の隅に置かれた箱に手を入れる。

アグライアが書いたのは当然総力戦。

【ファミリア】全員で一気に【アポロン・ファミリア】を殲滅させて終わらせる。

「どうかお手柔らかに………」

呟きながら箱をゴソゴソとあさるヘルメスは一枚の羊皮紙を取り出して神々へ公開した。

二対二(タッグマッチ)

「お、俺のか」

自分が書いたものが選ばれて声を出すザリチュにアグライアは恨めしい視線を送る。

しかし、公平なクジで決めた以上勝負形式はこれで決定するしかない。

「私はミクロとリューを出すわ」

だけど、アグライアは姿勢を揺らがない。

自身の最高戦力の二人を投入させる。

「あら、アグライア。それではアポロンが不利過ぎるわ」

そこに今まで沈黙を貫いていたフレイヤが微笑む。

「貴女はあの子を引き合いにだすけど、それ以外の子のことは信用していないのかしら?」

「信用もしているし、愛しているわ………そうね、せっかくだからこの場でハッキリと言わせてもらうわ」

息を吐いて立ち上がったアグライアは円卓に手を置いて告げる。

「ミクロを怒らせないでちょうだい。あの子は例え相手が私達(神々)であっても容赦はしないわ。私がミクロを引き合いに出すのはあの子が出たがっていたからよ」

他の神々に対して忠告と進言。

今のアグライアの言葉を鵜呑みにする神もいればバカバカらしいとせせら笑う神もいる。

その中でロキが口を開いた。

「しかしな、アグライア。うちもアポロンとフレイヤの意見に賛成や。あの子は強いのはうちら神々でも知っとる。オラリオでも片手で数えられるほどの実力者をアポロンのような中堅にぶつけてもつまらんわー」

あぐらをかきながら進言するロキ。

「そう言えば、あの場にはもう一人いたわね。騒ぎの中心になった子が」

ロキに続いてフレイヤが思い出したかのようにその人物の名を告げる。

「ベル、って言ったかしら?貴方の子の記録を塗り替えたあの子ならいい勝負になるんじゃないかしら?二対二(タッグマッチ)ならちょうどいいと思うのだけどどうかしら?」

愛を司る美の女神(フレイヤ)の発言に一部の男神達が味方に付いてその案が有効にされていく。

わざわざベルを出させる為に神会(デナトゥス)に出て来たであろうフレイヤにアグライアは目を細める。

今回のアポロンに加担しているのはフレイヤではないかという疑惑を抱く。

「それではこちらはヒュアキントスとダフネを出すとしよう。これでいいゲームが期待できる」

もうそれで確定しているかのような発言にアグライアは打開策を考えるが思い浮かばない。

何故ならこれまでの案が他の神々が十分に納得できる妥当の案だからだ。

「ほんならそれで決まりやなー。アグライアももうそれでええな?」

「………ええ」

反論できない以上その案を呑むしかないアグライア。

【アグライア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)二対二(タッグマッチ)に決定。

出場選手はアグライアはセシルとベル。

アポロンはヒュアキントスとダフネ。

戦争遊戯(ウォーゲーム)開始は今より一週間後の闘技場。

神会(デナトゥス)はそれでお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

神会(デナトゥス)が始まる前にセシルは本拠(ホーム)の早足で歩いていた。

「シャルロットさん!」

「あら、セシルちゃん。どうしたの?」

アルガナとバーチェに共通語(コイネー)と常識を教えているシャルロットにセシルは勢いよく頭を下げる。

「私を鍛えてください!」

鍛えて欲しい。そう強く懇願したセシルにシャルロットは口を開く。

「貴女はミクロの弟子でしょ?ミクロに師事を受けないの?」

セシルはミクロの弟子。

なら、自分のところではなくミクロのところに行くのが当たり前だ。

「……はい、私はお師匠様の弟子です。そこに変わりはありません」

頭を下げたままセシルは自身の想いを口にする。

「だからこそ、その立場に甘えている自分が許せない………」

心に今も響くヒュアキントスの暴言。

尊敬する(ミクロ)が自分なんかのせいで貶された。

才能があれば違っていたかもしれない。

もっと強かったらそうじゃなかったのかもしれない。

例え、自分の怒りを誘発させる為の言葉だったとしてもセシルはそんな自分が許せない。

【覇者】の弟子。

その立場で甘えて周囲のことも何も考えずにただ師であるミクロの後ろを追いかけていた。

その結果が先日の騒動。

だからこそ一度離れなければならない。

自分を想い、導いてくれるミクロの下を離れてより過酷な環境に身を置いて(ミクロ)の想像を超える存在にならないといけない。

「もっと……強くなりたいんです………」

今よりも強く。

一秒でも早く強くなってセシルはこう言いたい。

私は【覇者】の自慢の弟子だと。

誰からにもそう認められるような存在になりたい。

その想いが伝わったかのようにシャルロットは頷く。

「死ぬ覚悟は出来てる……?」

「お師匠様の弟子になってから覚悟の上です!」

「それじゃあ準備してきなさい。アルガナちゃん、バーチェちゃんも手伝ってね」

「わかった」

「……わかった」

勉強を教わっていたアルガナとバーチェもセシルの修行に付き合うことになる。

「私はミクロほど優しくはないからね」

「はい!ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。!」

セシルは今以上に強くなる為にシャルロット達と共にダンジョンに向かった。

それとは別でベルもミクロの下でやって来ていた。

「団長!僕に戦い方を教えてください!」

「わかった」

セシル同様に頭を下げて懇願してくるベルにミクロは二つ返事で了承した。

「元からそのつもりで頼んでいる」

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)では嫌な予感がするミクロは万が一の為にベルとセシルを鍛えるつもりでいた。

だが、セシルは既にシャルロット達と共にダンジョンに赴きおらず、残ったベルを鍛える為にミクロも準備をしていた。

「ついて来い」

「はい!」

手回しは既に完了しているミクロはベルを連れて都市の市壁に足を運ぶとそこには金髪の剣士と天真爛漫の女戦士(アマゾネス)がそこにいた。

「あ、来たー!ミクロ!アルゴノゥト君!」

「ア、アイズさん!?それにティオナさんも!?どうして……」

「……ミクロに頼まれたから」

ベルの疑問に答えるアイズ。

ミクロは神の宴の後で【ロキ・ファミリア】に訪れていた。

ベルを鍛える為にアイズとティオナをしばらく貸して欲しいとロキに直談判をした。

始めは嫌や!と強く断ろうとしたロキだが、【アグライア・ファミリア】には前の遠征で団員達を治療した借りがあった。

更にアイズとティオナの強い要望によってロキはしぶしぶ承諾した。

「私達は直接力を貸せない………」

「でも、アルゴノゥト君を鍛えてあげることは出来る、だって!」

口下手なアイズに代わって、通訳するティオナ。

「始めようか」

「はい!」

今よりも強くなる為にセシルとベルは第一級冒険者達による命懸けの修行が始まった。

 

 


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