路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New59話

戦争遊戯(ウォーゲーム)当日。

【アグライア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)が行われる闘技場では既に満席状態。

ミクロ達も既に客席で二人のこれからの闘いを見守るべく座っていた。

オラリオには尋常ではない熱気と興奮に包まれて今か今かと待ち望んでいる。

「いよいよですね……」

復活したリューはミクロの隣でそう言う。

「うん」

それに対してミクロはただ闘技場から視線を外すことなくそう返す。

こちらの手は尽くした。

後はベル達がどう奮闘するかだ。

ミクロが感じている嫌な予感は今も強くなっている。

万が一の対応としてミクロを始めとする幹部は装備を『リトス』に収納している。

いざ、戦争遊戯(ウォーゲーム)の最中で何かが起きても対応できる。

『あー、あー!えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を務めさせて頂きます【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法ことイブリ・アチャーでございます。二つ名は【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】。以後お見知りおきを』

魔石製品の拡声器を片手に声を響かせるイブリ。

『解説は我らが主神、ガネーシャ様です!ガネーシャ様、それでは一言!』

『――――――俺が、ガネーシャだ!!』

『はいっありがとうございましたー!』

観衆は一斉に喝采を送るなかで四人が闘技場に姿を現す。

白い革鎧(レザーアーマー)を纏い大鎌を背負うセシル。

軽装(ライトアーマー)を装備して腰には両刃短剣(バセラード)と短剣を携えるベル。

腰に剣を携えるダフネ。

白を基調にした戦闘衣(バトル・クロス)に大型のマント。腰には波状剣(フランベルジュ)と短剣を装備したヒュアキントス。

それぞれの【ファミリア】の出場選手が姿を現して熱気と興奮はより一層に上がる。

「……随分余裕そうだね」

客席が熱気と興奮で包まれる中でセシルはヒュアキントスに言葉を投げる。

「あの時の屈辱をこの場で返させてもらうぞ」

以前、路地でセシルに敗北して自尊心を粉々にされた屈辱がヒュアキントスにはある。

だが、ヒュアキントスは怒りに呑まれておらず冷静だった。

自身が勝つという余裕すら見せている。

何かあると察するセシルは一層に警戒を強いる。

「ベル、気を引き締めて行くよ」

「うん!」

「構えろ、ダフネ」

「はいはい」

得物をその手に持って構える四人は戦意を醸し出す。

そして、

戦争遊戯(ウォーゲーム)――――開幕です!』

「【ライトニングボルト】!!」

開幕速攻でベルはダフネに照準を合わせて魔法を発動させる。

詠唱入らずの速攻魔法に一驚するダフネは予想外のことに反応が遅れて直撃してしまう。

「あぐっ…」

速度と威力を併せ持つベルの速攻魔法の直撃にダフネは開幕同時に致命傷を負ってしまうがまだ意識がある。

身体に力も入る。

まだ倒れる程ではない。

「ごめんね」

「っ!?」

しかし、セシルはそれを想定して接近、大鎌の柄でダフネを強打させて意識を奪う。

気を失い、倒れるダフネ。

『おおっと、【アグライア・ファミリア】開幕速攻だ!!息をする暇もないぐらいの電光石火で【アポロン・ファミリア】の一人を倒した!』

実況の声に観客は一斉に騒ぎ出す。

元来、余裕があるとするのなら【アグライア・ファミリア】の方だが、ベルとセシルは決して油断なんてしない。

作戦を練り上げて開幕速攻を仕掛けて確実に一人を倒した後に二人がかりでヒュアキントスを相手にする。

観客からすればつまらないと言う人も中に入るだろう。

だけど二人には関係ない。

確実な勝利を得る為に二人は油断も隙も与えない。

「後は貴方だけです……」

得物を持ったまま冷然とするヒュアキントスは静かに口角を上げる。

「フン、以前よりも腕を上げたか」

「そうだよ、負けたくないからね」

相手にも自分にも負けたくない二人は地獄で訓練を重ねてこの場にやって来ている。

そんな二人にヒュアキントスは波状剣(フランベルジュ)を構える。

「そうでなくてはこちらも困る。強くなってのは貴様等だけではないのだからな」

その言葉と同時に、ヒュアキントスは消えた。

「ッ!?」

「セシル!……ぐぅッ!?」

消えたと同時にヒュアキントスはセシルの目の前に現れて波状剣(フランベルジュ)を振り下すが、訓練の成果で無意識に体が反応して間一髪で防御することが出来た。

ベルも同様に突如目の前に現れて攻撃を受けたが辛うじて防御に成功。

「ほう、今のを防ぐか」

消えたと思っていたヒュアキントスは姿を現して感嘆の言葉を述べる。

「やはり、まだ慣れぬか」

再び姿を消したヒュアキントスにセシルは直感で反応して大鎌を振るが空振りに終わる。

「後ろだ」

セシルの背後に姿を現すヒュアキントスは自身の得物【アポロン・ファミリア】の首領だけが持つことを許される《太陽のフランベルジュ》を振り上げていた。

炎のような揺らめきを表す刀身がセシルに襲いかかる。

「【ライトニングボルト】!!」

「チッ、兔風情が邪魔を」

しかし、間一髪でベルの速攻魔法がそれを阻止。

ヒュアキントスは再び二人と距離を取るように離れる。

「セシル!大丈夫!?」

「うん、助けてくれてありがとう……ベル」

駆け寄ってくるベルに礼を言いながらも視線をヒュアキントスから外さない。

ヒュアキントスの動きは速いなんてものじゃない。

残像すら見えない速さで動くなんて普通じゃない。

あの地獄のような訓練をしていなければ今頃斬られていた。

以前ではあのような速さの欠片すら見せなかったヒュアキントスの魔法かスキルかまではわからない。

それにしてもあの速度は厄介だ。

「あの人って……あんなに強かったの?」

「わからないよ、でも今のあいつは強いよ」

以前遭遇した時よりも厄介に強くなったヒュアキントスに二人の表情がぐっと変わる。

二人のその表情を見てヒュアキントスの顔が歪む。

「いいぞ……その顔が見たかった」

嘲笑うかのように言い放つヒュアキントスは再び姿を消しては二人に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

魔道具(マジックアイテム)だな……」

客席でヒュアキントスの異常な速さを見抜いたミクロはその正体を口にする。

「そんな馬鹿な……あのような魔道具(マジックアイテム)を何故あの者が」

ミクロの言葉に顎に手を置いて考えるリュー。

魔道具(マジックアイテム)は『神秘』の発展アビリティがなければ作製することはできない希少なもの。

【アポロン・ファミリア】にそのアビリティが発現した者の噂は聞かないリューはどうやって魔道具(マジックアイテム)を手に入れたのかわからなかった。

第一級冒険者であるミクロ達はヒュアキントスの動きを捉えてはいるがその速さはミクロ達からしても異常だ。

ただ単純な加速でも脚力を強化する類のものでもない。

「あの腕輪か……」

ヒュアキントスの右手首に装着されている腕輪が魔道具(マジックアイテム)だと看破するミクロはその能力について思考を張り巡らせる。

「あれは自身の時間の加速だね」

ミクロの後ろにいるシャルロットがヒュアキントスが使用している魔道具(マジックアイテム)の正体を語る。

「あれの名前は『アクノス』。装備した者の時間を加速させて自身の高速化を可能にする魔道具(マジックアイテム)。私の作品の一つよ」

さらりと白状するシャルロット。

「隠しておいたはずだけど………見つかっちゃったか」

魔道具(マジックアイテム)を悪用されないように隠しておいたはずが見つかり、ベル達を苦しめるものとして姿を変えてしまった。

見つけたのは恐らくはへレスと断定してシャルロットは『アクノス』の能力をミクロ達に語る。

「普通なら一秒かかる時間でもあれを装備したら一秒を十秒で動くことが出来る。あの子は普通に動いているつもりでもベル君達にとっては消えているように見えているのでしょう」

その説明に驚愕に包まれるリュー達。

そんなの反則ではないかと誰かがぼやくがミクロがそれを否定した。

「そんなものを代償なしで使えるわけがない」

「ミクロの言う通り、あれは確かに強力な魔道具(マジックアイテム)だけど負担が大きい上に超速で動いているから壁にでもぶつかればそのダメージが自分に返ってくる」

今も余裕そうに使用しているがその負担は確実に蓄積している。

あと何回使えばその兆候が必ず見えて来て、勝機が失っていく。

「何より、あの子は使いこなせてもいない」

『アクノス』の能力を最大限使用できていないヒュアキントスは単純な能力にしか使っていない。

手にして間もないのか。

もしくは何も説明されていないのか。

どちらにしろ、単純な能力しか使用できていないヒュアキントスでは今のあの二人には勝てない。

切り札(ジョーカー)の出番よ、セシル」

シャルロットは微笑みながらそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

「………随分と粘るものだ」

『アクノス』の能力により超速で動いていたヒュアキントスは再びベル達に姿を現して呆れるようにぼやいた。

切り傷を負いながらも致命傷は辛うじて避け続けた二人は肩で息をしながらも倒れることだけはしなかった。

「……ベル、大丈夫?」

「セシルこそ………」

互いを庇い合いながら戦い合う二人にヒュアキントスも攻めあぐねていた。

超速で動きながら攻撃を繰り広げればもっと圧倒していただろうが、まだ超速に慣れていないヒュアキントスがそれをしてミスをすればそれこそ自分自身にダメージが返ってくる。

攻撃する一瞬だけ能力を解除して攻撃を行ってきたが二人はその一瞬で反応、防御、回避している。

「チッ」

小さく舌打ちするヒュアキントスはそう何度も『アクノス』が使用できない程に負担が蓄積している。

あと一回、無理をして二回が限度。

なら、ダメージ覚悟でこの一回で勝負に決める。

「これで終わりにする」

セシルを葬った後にベルの脚を切断して勝利する。

それでこちらが勝利を掴んで終わり。

主神であるアポロンに顔向けができるとヒュアキントスは勝利に喜ぶ。

『アクノス』の能力を発動させるヒュアキントスの前にセシルは歌う。

「【天地廻天(ヴァリティタ)】!」

セシルが唯一使える重力魔法を発動させるがヒュアキントスはそれを鼻で笑った。

既にセシルの魔法の正体も知っているヒュアキントスは重力魔法で動きを封じようと考えているセシルの思考を読んでいるかのように嘲笑った。

『アクノス』の能力を発動している今の自分は無敵と自負しているヒュアキントスは恐れることはなかった。

「な……っ」

そうセシルの重力魔法が、この闘技場に複数展開するまでは。

以前、訓練中でシャルロットはセシルにこの魔法の事について話していた。

『魔法の増殖……ですか?』

『言い方を変えるとそんな感じね』

セシルの重力魔法は限定された時間及び空間の重力操作。

なら、それを増やすことはできるのではないかとシャルロットは告げる。

『その魔法は属性は重力だけど、能力自体は空間、結界に通じるものがあると思うの。なら、私はこう思ったの。重力の結界を生み出すことができるんじゃないかなって』

『重力の結界……』

『複数の重力結界を生み出してそれを周囲に留める。相手の動きを制限、重力に捉えて拘束。使い方は様々、出来るかできないかはセシルちゃん次第よ』

そこからセシルは空中に重力の結界を生み出す訓練を行い、そこから複数の展開する訓練からそれを周囲に留める訓練をずっと行ってきた。

そして、それをモノにして切り札(ジョーカー)へと昇華させた。

「でも、これ……すっごい精神力(マインド)消費が激しいのよね」

魔力の制御もそうだが、精神力(マインド)の消費も激しいセシルの切り札(ジョーカー)を名付けるとしたら。

「グラビディフォス」

客席でシャルロットがそれを口にする。

闘技場に数十もの人を包み込むぐらいの投球型の重力結界を展開させるセシルの切り札(ジョーカー)

「くっ……っ!」

超速で動くヒュアキントスだが、その数に動きが鈍らされる。

囚われないように動くが、数が多すぎて二人に接近することが出来ない。

下手に突っ込めば重力の結界に捕まる。

避け続けたら効果切れが起きる。

どちらにしろ超速で動いているヒュアキントスにセシルの重力の結界は脅威。

そして、『アクノス』の能力が切れたヒュアキントスをベルは視界に捉えて疾駆する。

「ベル!決めて!」

最後の決め手をベルに託して託されたベルもそれに応えるように加速する。

セシルが開いてくれた活路(チャンス)を無駄にしない為にベルは動きながらスキルを発動する。

「【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」

だが、ヒュアキントスは諦めていない。

最後の自身の魔法の詠唱を行う。

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」

英雄願望(アルゴノゥト)】。

両刃短剣(バセラード)に純白の光粒を収斂させていく。

『ベル、お前のスキルは強力な反面、消費が激しい』

訓練の時にアイズ達には秘密裏でスキルの訓練を行っていたベルにミクロが進言。

「【放つ火輪の一投――――】!」

起死回生の切り札を解き放とうとするヒュアキントス。

『下手に蓄力(チャージ)し過ぎるとお前の体力と精神力(マインド)はすぐになるなる。だから、常に実戦の中で相手の力量を把握できるようになれ。最小限の消費で最大限の効果を発揮できるように訓練する』

それから行われた実戦に近い訓練ではミクロ達との実力差があり過ぎて把握できたかどうかはベルにはわからなかった。

だけど、目の前のヒュアキントスはあの三人ほど実力差は離れていない。

「【来たれ、西方の風】!!」

十秒分の蓄力(チャージ)

「【アロ・ゼフュロス】!!」

太陽光のごとく輝く、大円盤。

振り抜かれた右手から放たれた日輪が、高速移動しながら驀進しベルに向かっていく。

「ベル様!?」

観客席からリリが悲痛の叫びを上げる。

このままでは直撃。

誰もがそう思った。

「うあああああああああああああああああああああッッ!!」

両断する。

白光の輝きを放つベルの両刃短剣(バセラード)がヒュアキントスが放った日輪を一刀両断した。

誰もが言葉を失うなかでもベルは魔法を両断してヒュアキントスに接近。

「ま、待てぇええええええええええええええええええええええ!?」

正面から突っ込んでくるベルにヒュアキントスは顔は恐怖と絶叫に歪む。

ベルは強く右手を握りしめて渾身の一撃をヒュアキントスに喰らわせる。

撃砕する。

放たれた右拳がヒュアキントスの頬に叩き込まれ、めり込み、闘技場の壁に叩きつける。

ガラガラと瓦礫と共に地面に崩れ落ちるヒュアキントスに闘技場全体が静まり返る。

「ぐぅ……」

ベルの拳砲を直撃して身体が思うように動かないヒュアキントスは呻く。

「降参してください、貴方では僕達には勝てません」

降参を進言するベルにヒュアキントスは睨み、次に自虐的な笑みを浮かべた。

震える手を動かしてしまっておいた紅玉を取り出す。

「?」

何をしているのかわからないベルにヒュアキントスは小さく口角を歪ませる。

「このままでは……終わらんぞ………」

自身の誇り(プライド)を粉々に破壊して、主神に捧げる勝利さえも踏み躙った二人にヒュアキントスの心に憎悪が生まれる。

殺したい――。

力が欲しい―――。

こいつらを圧倒できるほどの力を―――。

「よそ者の力を借りる私をどうかお許しください、アポロン様……」

自我が失う最後に主神に謝罪の言葉を送るとヒュアキントスは紅玉を飲み込んだ。

そしてすぐに異変はやってくる。

「う、ぐぅうう……あああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

哮けるヒュアキントスの身体はあり得ない程の異常な音が繰り出す。

まるで身体を別の何かに無理矢理作り変えているかのように変貌していく。

観客も静まり変えるなかで冒険者はそんなヒュアキントスを見て警戒を強いる。

爪は鋭角なほど伸びて、皮膚は硬質化しているかのように鈍く光り、歯は牙に生え変わっていく。

さらにはずるりとヒュアキントスの腰から尻尾が生えてきた。

「なに、これ………?」

それをまじかで見た二人は驚愕する。

その姿は例えるのなら『下層』に棲息しているリザードマンだ。

だが、リザードマンよりも大きく筋骨隆々で何より恐ろしい。

もうそこには人間(ヒューマン)としてのヒュアキントスはいない。

今、二人の目の前にいるのは紛れもない怪物(モンスター)だった。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

怪物(モンスター)と化したヒュアキントスは咆哮を放った。

 

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