路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第12話

ミクロが【ランクアップ】達成してから約四ヶ月後。

ミクロ達は順調にダンジョン15階層まで潜っていた。

『グゥゥ!』

『ガァァッ!』

「【狙い穿て】」

放火魔(バスカヴィル)』という異名を持つ中層の犬型モンスター、ヘルハウンド。

その異名通り、口から放射される高威力の火炎攻撃は並の防具なら容易く溶かすほど。

襲いかかってくるヘルハウンドに向かってティヒアは魔法の詠唱を唱えて複合弓(コンボジットボウ)を構える。

「【セルディ・レークティ】」

魔力が纏われた矢を連射するティヒア。

追尾属性がある矢は外すことなくヘルハウンドに突き刺さりヘルハンドは灰になる。

『キャウッ!』

『キィイ!』

『キュウ!』

小型の石斧(トマホーク)天然武器(ネイチャーウェポン)を持つ兔のモンスター、アルミラージを素早く倒すミクロとリュー。

ナイフと小太刀の梅椿を使い倒すミクロの背後から奇襲を仕掛けるアルミラージ。

だが、腕に仕込んでいる鎖分銅を巧みに使い奇襲を仕掛けたアルミラージの動きを封じて奇襲を防ぎ、ナイフでアルミラージを切り裂くとほぼ同時に襲ってくるモンスターに投げナイフを投擲して牽制するミクロ。

元々Lv.が高いリューは木刀でアルミラージやヘルハンドまでも倒していく。

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

(メドル)を超す牛頭人体のモンスター、ミノタウロスが放つ強烈な咆哮(ハウル)

「【駆け翔べ】」

ミノタウロスが出現したと同時にミクロは超短文詠唱の魔法を詠唱した。

「【フルフォース】」

白緑色の風を身に纏ったミクロを中心にダンジョン内は明るく照らされる。

魔法を発動したミクロの姿は消え、閃光の如くミノタウロスを撃退する。

それだけでは足りないとばかりに、ヘルハウンドやアルミラージまでも倒す。

瞬く間にミクロ達の周囲からモンスターは灰になった。

「……」

周囲にモンスターがいないことを確認したミクロは魔法を解除する。

「相変わらずミクロの魔法は凄いですね」

「速すぎて私には動きが見えなかった……」

モンスターの魔石やドロップアイテムを拾いながら改めてミクロの魔法の凄さに驚嘆するリューとティヒアだが、ミクロは首を横に振った。

精神力(マインド)の消費が激しいから長くは使えないし、反動で体にもダメージがあるからあまり使えない」

ミクロの魔法は光と風の二つの属性を持つ。

二属性の為、身体、精神共に消費が激しい為ミクロは魔法の使用を控えていた。

「でも、15階層もだいぶ楽になったわね」

「ええ、ですが油断はダンジョンでは命とりです」

「わかってるわよ。もちろん油断はしないわ」

油断しないよう注意するリューに仲良さげに言い返すティヒア。

「じゃ、そろそろ帰ろうか」

魔石とドロップアイテムを拾い終えたミクロ達はそこで区切りを付けて今日のダンジョン探索を終わらせた。

ミクロ達は自分達の本拠(ホーム)へと帰宅するといつもの物置部屋だった本拠(ホーム)は一軒家へと変わっていた。

「あ、お帰りなさい。ちょうど終わったところよ」

物置部屋から一軒家へと変貌した本拠(ホーム)の前にアグライアがミクロ達の帰りを待っていた。

「これが私達の新しい本拠(ホーム)よ」

ミクロ達が住んでいた物置部屋を改築して新しく建てた新しい本拠(ホーム)にリューやティヒアは眺めていた。

中層に潜って得た魔石やドロップアイテムを金に換えて早四ヶ月でとうとう一軒家を建てれるようになったミクロ達。

「【ファミリア】結成から約一年。長いようで短かった」

感慨深く何度も頷くアグライアにミクロは目の前の新しい本拠(ホーム)より、アグライアと出会ってもう一年経つのかと思っていた。

アグライアの言葉通り長いようで短かったこの一年を思い出していた。

路地裏でアグライアと出会ってからの一年間。

自分はどれだけ変わったのだろうかと感傷的になっていた。

でも、今はそんなことどうでもよかった。

アグライアが、リューが、ティヒアが笑っている。

そこまで嬉しいのかミクロにはまだわからなかったがいずれは知りたいと思えるようにはなっていたという新しい自分を発見することが出来た。

今はそれでいい……。

そう心に思ったミクロ。

「さぁ、中へ入りましょう」

アグライアの言葉にミクロ達は新しい本拠(ホーム)の中へと入った。

新しいだけあってどこか新鮮感を感じるミクロ達。

一通り本拠(ホーム)の中を探索した後、いつも通りの【ステイタス】の更新を行った。

 

ミクロ・イヤロス

Lv.2

力:E497

耐久:D532

器用:C615

敏捷:C601

魔力:E459

堅牢:I

 

この四か月間殆ど中層に潜っていたとはいえ、相変わらず成長が速いと思ったアグライアだがそれはもう慣れたのかいつもと変わることなくミクロの【ステイタス】の更新を終わらせる。

その後のリューも更新を行ったがリューも特に変わることなくいつも通りだった。

そして、最後にティヒアの【ステイタス】を更新しようと神の血(イコル)を垂らして(ロック)を解いてティヒアの【ステイタス】を見る。

「おめでとう、ティヒア。【ランクアップ】可能よ」

「え、ほ、本当に……」

思わず振り返って主神のアグライアの顔を見るとアグライアは頷いて応えた。

「この四か月間、中層に潜っていた甲斐があったわね」

「や、やった……」

嬉しさを表現するかのように耳をピクピク動かし、尻尾を激しく揺らすティヒア。

嬉しそうに笑うティヒアを見てアグライアも自分のことのように笑みを浮かべる。

「はい、これが貴女が選べる発展アビリティよ」

写された用紙を見るとそこには三つの発展アビリティが発現していた。

『狩人』

『耐異常』

『狙撃』

「『狙撃』?」

三つ目の発展アビリティに首を傾げるティヒア。

ミクロ程ではないがこれはまたレアな発展アビリティが発現したとティヒア本人も思った。

「恐らく弓矢が主力だったから発現したと思わけど、どうするの?」

尋ねるアグライアにティヒアは笑みを浮かべたまま答えた。

「『狙撃』を選びます」

ティヒアは嬉しかった。

ミクロと同じようにレアな発展アビリティが発現したことにティヒアは嬉しかった。

一歩近づけたと思いながらティヒアはLv.2となった。

恋敵(ライバル)に近づけた心の中でガッツポーズを取るティヒアだが、その反応が無意識に尻尾に現れてアグライアは微笑ましくティヒアを見ていた。

ティヒアがLv.2になったことにミクロやリューも喜び、称賛の言葉をティヒアに送る。

「おめでとうございます、ティヒア」

「おめでとう」

「ありがとう」

眷属はなかなか集まらない【ファミリア】だが、子が成長していく姿を見てアグライアも嬉しかった。

「さぁ、今日はもう休んでギルドの報告やそれ以外は明日にしましょう」

ダンジョンに潜っていた三人は疲労困憊なのは見ればわかったアグライアはミクロ達に休むように促すとミクロ達もそれに従った。

それぞれの新しい部屋で休みを取るミクロ達。

「………」

新しくできた、というより初めての自分の部屋にあるベッドの上で転がるミクロは寝付けなかった。

新しい本拠(ホーム)のせいか、環境が変わったせいかはわからなかったが普段はすぐに寝付くミクロだが今日に至っては妙に寝付けなかった。

しばらくベッドの上で寝転がっているとドアを叩く音が聞こえた。

「ミクロ。起きていますか?」

「起きてるよ、リュー」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「大丈夫」

夜中にミクロの部屋にやって来たリューはドアを開けてミクロの部屋に入る。

「どうした?」

尋ねるミクロにリューは何か言いたげだがそれを言おうか悩んでいるのか何度も口を開け閉めしていたが、決意を改めて口を開いた。

「ミクロ。お願いがあります。明日は私と一緒に18階層に来てほしい」

「わかった」

即答するミクロにリューはあまりの返答の速さに一驚する。

「アリーゼ達のこと?」

そう尋ねるミクロにリューは頷いて肯定した。

アリーゼ達の墓がある18階層のことを察したミクロ。

「……隣いいですか?」

尋ねるリューにミクロは頷いて応えるのを確認するとリューはミクロの隣に腰を掛ける。

「………」

「………」

黙るリューにミクロはリューから喋る出すのを待っていた。

ミクロはまだリューの気持ちが理解できていない。

死んだ者は死んだ。

生き返る訳でもない。

会える訳でもない。

死んだ者とはもう二度と例外なく会うことはできない。

それなのに何故わざわざ墓参りに行くのか、会いに行けば行くほどアリーゼ達の事を思い出してしまうのではないのかとさえ、ミクロは思ってる。

わざわざ辛いことを思いだす必要はあるのかとミクロは疑問にすら思っていた。

それならいっそのこと忘れた方が楽ではないのかともミクロは思った。

でも、それは自分がわからないだけでリューにとっては掛け替えのないことだと理解していた。

だからリューの気持ちが定まるまでミクロは何も言わず待っていた。

「……怖いのです。アリーゼ達に会いに行くのが」

重い口を開いたリューの言葉から怖いと発せられた。

「ミクロ。貴方が私を止めてくれなければ私はどうなっていたかわかりません。ですが、これだけは言えます。私は恥知らずで横暴なエルフだということです」

「どういうことだ?」

言っている言葉の意味が理解できなかったミクロは聞き返した。

「私怨に駆られ、激情の言いなりになり、救ってくれた貴方に酷いことを言った」

最低だと理解しながらも抑えられない激情と私怨をミクロにぶつけたリュー。

そっと眼帯をしているミクロの左目にリューは触れた。

「申し訳ありません、ミクロ。私は貴方にお願いをする前に謝らなければいけませんでした」

リューはずっと謝りたかった。

でも、怖かった。

ミクロに拒絶されるのが怖かった。

だけど、アリーゼ達の墓参りに行く度にその事を思い出す。

傷付け、左目を奪ったのは紛れもない自分だと。

その度に怖くなってきた。

いつもと変わらず接してくれるミクロが変わってしまうのではないかと。

拒絶されてしまうのではないかと。

そう思ってしまう。

アグライアがリューに与えた罰がなければリューは罪悪感に負けてとっくに命を捨てていた。

それでも、いくら尽くしてもその罪悪感は軽くはならなかった。

謝らなければいけない。

そう思っても怖くて謝られず、気が付けば何ヶ月もの月日が流れていた。

「ミクロ。貴方が望むのであればこの身を好きにしてもかまいません。ですから、どうか私の事を……」

嫌わないでほしい。

そう言おうとした時、ミクロはリューは抱きしめた。

ミクロがアグライアにされた時のようにミクロも真似てリューを抱きしめてみた。

「ミ、ミクロ……?」

抱き着かれたリューは訳も分からず思考が定まらなかった。

「リューを止めに行ったあの日。あれはアリーゼとの約束だけじゃない。リューがいなくなって欲しくないから俺はリューに会いに行ったんだ」

「え……?」

始めて聞いたその言葉にリューは一驚した。

「あの日。俺には何でアリーゼが俺にリューのことを頼んだのか、リューがどうしているのかさえわからなかった。だけど、アグライアがその事を教えてくれた時、俺の胸に痛みが襲った」

その時のことをミクロはリューに話した。

「俺は誰かを好きになるという気持ちはまだわからない。けど、リューとはこれからも今まで通りに一緒にいたいと思ってる」

「ッ!?」

嬉しかった。

その言葉で先ほどまで感じていた罪悪感と恐怖が拭い去られるぐらいに嬉しかった。

「恥知らずでも横暴でもいい。それを含めて誰かの為に怒って、泣いて、笑える、リューの優しさだと俺は思ってる」

優しすぎるその言葉にリューの目から薄っすらと涙を浮かべる。

「これからも一緒にいてくれ、リュー」

「……はい」

ミクロに抱きしめられながら寄り添うようにもたれるリューはその居心地の良さにいつの間にか眠りについていた。

ミクロは眠っているリューをベッドに寝かせると自分は床に寝転がる。

夜が明けて同じ部屋から二人が出てきたのを目撃したティヒアは顔を赤く染めているリューに疑惑の目を向けるがミクロの言葉にティヒアは納得した。

そして、リューはアグライアとティヒアに二人で18階層に行きたいという懇願を許可した。

「私もLv.2になったのに……」

「すみません、ティヒア」

せっかく【ランクアップ】を果たしたのに置いてけぼりにされたティヒアは落胆したが理由が理由なだけで合って無理強いすることはできなかった。

なにより、いくらLv.4のリューがいるとはいえ【ランクアップ】になったばかりのティヒアでは18階層まで行くとなると完全な足手まといになることをティヒアは理解していた。

「いいわよ別に。今回は大人しく待っているわ」

謝るリューに咎めることなく留守を受け入れたティヒアはミクロに視線を向ける。

「ミクロ、約束覚えてる?」

確認を取るティヒアにミクロは頷いて返答する。

「ならいいわ」

満足げに頷くティヒア。

ミクロとリューは互いに入念に道具(アイテム)、ポーション、装備等などを確認して本拠(ホーム)を出た。

「いってらっしゃい」

「行ってきます」

「行って参ります」

ミクロとリューは18階層を目指してダンジョンに向かった。

 

 

 


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