夜半。
月が巨大都市に囲まれた都市を見下ろしている。
既に日付が変わった時間に、二人は路地裏を歩いていた。
ミクロは普段と変わらない服装に対してリューはフード付きのロングコートに、ロングスカート。
二人は路地裏の奥深くに存在する酒場に足を踏み入れる。
ゴロツキ達の棲家という表現がぴったりの酒場に足を踏み入れた。
「あぁん……ゲッ!?」
酒場で酒を飲んでいたゴロツキ達はミクロを見て一瞬で酔いが覚めてミクロに道を譲った。
ミクロはそのことに気にも止めずに店の奥、カードを広げたテーブル席――――賭博を行っている男たちの前で立ち止まった。
「おーおー、名高い【覇者】が女連れでこんなところに来るとは物好きなもんだ」
口を開いたのは腰に剣を差した大型なヒューマンの男はミクロに恐れることなく皮肉を告げる。
「アンナ・クレーズという名前を知っているか?」
ヒューイが連れて込まれたこの酒場で頭をしているであろう男にミクロは尋ねる。
「なんだ?あの女はお前のだったのか?」
「いや、違う……だが、知っているならその情報を寄越せ」
アンナの情報を知っていることが確かと知ったミクロはその情報を求めるが男は笑った。
「おいおい、タダってわけにゃいかねえよ、なぁ?」
男の言葉に伴って酒場にいる冒険者は二人の帰路を塞いだ。
「第一級冒険者ならカードぐらいできるだろう?俺は暴力は好かねえし、名高いお前に勝てるほど慢心もしてねえ。だから
卑下な笑みを浮かばせてリューを舐め回すように見るゴロツキ達にミクロは男と対面するように椅子に座って金貨が詰まった袋をテーブルに置く。
「わかった。
「ポーカーでどうだい?」
「問題ない」
カードを
「袋の中身は?」
「百万ヴァリス。足りないのならまだ出せるが?」
「さっすが【覇者】だぜ、気前がいい」
ミクロの返答に口笛を吹く。
手慣れた手付きでカードを斬り混ぜながら、目もとに皺を寄せた。
「先に言っておくが、もし金を失っても
「俺が勝つから意味がない。さっさと配れ」
脅し、動揺の誘発を行う男を一蹴するミクロに男は小さく舌打ちしてカードを配り始める。
配り始める男の手を見てミクロは小言で告げる。
「イカサマはもっと丁寧にしたほうがいい」
「っ!?へっ、何のことだい?」
見抜かれて冷や汗を掻く男はカードを配り終わらせる。
手の平にカードを忍び込ませていた男にミクロはせっかく忠告したのに関わらずイカサマを実行した。
なら、こちらも遠慮はしない。
「ストレートフラッシュ」
「………っ!?」
卓上に開かれるミクロの
ミクロの連勝という一方的な展開に今や酒場は沈黙の帷が落ちていた。
男の
だけでなく、男の両隣にいたアマゾネスと
「イ、イカサマだ!?そうに決まって……!?」
「それはお前だろう?カードを
「………っ!」
言えない。
男はミクロがどのようにイカサマをしているのかまるでわからなかった。
もちろん男の言う通りミクロもイカサマをしている。
普段ボールスとポーカーをする時は普通にしているが、相手がイカサマをしているのならミクロも容赦なくイカサマを実行する。
ミクロはあらかじめ『リトス』に各種類のカードを収納していく。
カードを持って
ミクロだけしか使えないイカサマだ。
だけど、そんなこと気付こうと思っても気付けるわけがない。
特殊なカードでも使用されない限りミクロのイカサマは防げない。
さて、とミクロは口を開いて男に告げる。
「
見上げてくるミクロに、男は真っ赤になって歯を食い縛った。
うろたえていた周囲の手下に目配りをした男は、次の瞬間、怒号を放つ。
「てめえ等―――」
手下に怒号を放ち、数でミクロ達を圧倒させようと男は腰にある剣を手にかけようとしたが男は剣を握ることが出来なかった。
「はぁ――――?」
剣を握ろうとしたはずなのに握れなかった。
周囲の手下は顔を青ざめて男のある一点を凝視していた。
その視線の先を男は見るとそこに男の右肘から先がなく、ミクロの右手に握られていた。
「あ、ああ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
ない腕を押さえて悲痛の叫びを上げる男にミクロの隣にいたアマゾネスと
「その程度では死にはしない」
淡々と告げるミクロの言葉は周囲を恐怖で支配するには十分だった。
「言え、言わないと次は左腕だ」
「わ、わかった!わかったからそれをくれ!!」
「情報が先だ」
手を伸ばす男を払いながらミクロは情報を先に喋らせる。
「こ、交易所……!!あそこに、連れていった……!」
「交易所?」
「あそこの連中に頼まれて……!金もやるからっ、ことを荒立てないように娘をかっさらってこいって……!?」
「依頼人は?」
「わからない!本当だ!嘘じゃねえ!」
男の言葉に嘘はない。
それ以上は意味がないと判断したミクロは男の腕と
「あの家族に二度と手を出すな」
酒場にいる全員に警告をして二人は酒場を後にする。
「……ミクロ。先ほどのはやり過ぎでは?」
先程のやり取りをリューは見逃せれなかった。
元々は穏便で済ませようとしたが男達が剣を抜こうとしたからミクロは手を出した。
しかし、ミクロならあそこまでしなくても対応できるにも関わらず非道な行動を行った。
「死にはしない程度にした。それに冒険者あれぐらいしないとわからない」
「…………」
ミクロの言葉は正しい。
冒険者は荒くれ者だ。
身を持って教えなければわかるものもわからない。
問題は先ほどのミクロのやり取りが前のミクロのようだった。
何の感情もなくただ敵を壊して尋問する。
「行こう、そろそろ帰らないと」
前を歩くミクロの背はどこか哀愁が漂っていた。
母親であるシャルロットの死のショックがまだ残っているのだろう。
無理もない。
かつてはリューも
酷なことだ……。
心がなかったミクロに出来た
その心に初めてできた傷が母親の死という現実。
癒えるには時間が有するだろう。
早足でミクロの隣にやってきたリューはミクロと手を繋いで歩き出す。
だからこそ、リューはミクロを守る。
その傷が癒えるまでミクロが嫌と言おうが傍に居続ける。
「帰りましょう」
「うん」
朝日が顔を出していないうちに二人は