路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New65話

「【セオスティー・ウルギア】」

発動させる新たな魔法。

魔法名を呼ぶと足元にある白色の魔法円(マジックサークル)が一層に輝きを増して砕け散る。

どのような魔法かわからないミクロの新たな魔法に警戒するレミュー。

魔法円(マジックサークル)が砕け散っても特に周囲や自分自身に変化は訪れない。

自身の傀儡魔法も解けていないことから少なくとも直接的な攻撃魔法ではないことは明らかだが、どのような魔法かわからない以上下手に手を出すことは出来ない。

最悪の場合、人質(アンナ)を使って逃げればいいと逃走ルートも頭に入れておく。

静まり変える空間でミクロは口を開く。

「レミュー、魔法を解除しろ」

「ニャ?」

予想外の発言にあっけらかんとするレミューはそんなわざわざ自分の首を絞めるようなことをするものかと内心でミクロを小馬鹿にする。

「【傀儡に施しを】………ニャ!?」

自然と口から解呪式を唱えてしまったレミューは自分自身どうして解呪式をとなえているのかわからなかった。

解呪式を唱えたことにより、操られていたテッド達は正気を取り戻す。

「俺以外の男は眠れ」

その言葉通りにこの場にいるミクロを除いた男達はその場で眠りについた。

驚愕に包まれる空間のなかでミクロは歩み出す。

真っ直ぐ、レミューに向かって。

「クッ……!」

咄嗟に近くにいる人質(アンナ)を捕まえようと手を伸ばす。

「そいつに触れるな」

「!?」

捕まえようとするレミューの手は何かに阻まれたかのようにアンナに触ることが出来なかった。

「リュー」

「はい」

「え?ええ?」

ミクロの言葉に応じてリューは目的の人物であるアンナを確保することに成功。

困惑するアンナだが、困惑しているのはレミューも同じ。

先程からミクロが発した言葉通りに動かされている。

そこでレミューは気付いた。

これがミクロの魔法の効果なのだと。

相手への強制命令、もしくは一定範囲内における対象の行動を操作。

ミクロの魔法の効果を推測するレミューにミクロはレミューの心情を察して答える。

「創世魔法。それが俺の新たな魔法だ」

魔法名【セオスティー・ウルギア】、創世魔法。

ミクロを中心に範囲内のあらゆる(ルール)を破壊してミクロがその上から新たな(ルール)を作り上げる。

ミクロが発した言葉が世界の(ルール)として定義される。

自分にとって都合のいい世界を創り出すのがミクロの三つ目の魔法、創世魔法。

全ての決定権を握るミクロの魔法は紛れもない希少魔法(レアマジック)

それを聞いたレミューの顔は青ざめる。

反則なんてものじゃない。

言葉一つでそれが世界の(ルール)とされてそれに背くことはできない。

全てはミクロの気分次第で自分の命すらも決められる。

カタカタと恐怖で体を震わせるレミューは震える声で呟く。

「り、理不尽ニャ……」

「ああ、理不尽だ」

相手の都合なんて一切無視の自分主義の絶対の(ルール)

理不尽を持って理不尽を覆す。

「………」

だけど、リューだけはミクロに哀し気な瞳を向けていた。

わかるからだ。

その魔法は母親(シャルロット)の死を得て発現させた魔法。

もう大切な人を失いたくない、こんな理不尽を認めたくないという子供のような我儘。

子供であれば肉親の死は恐ろしいほどショックで受け入れたくも認めたくもない。

心に傷を負い、涙を流し、慟哭する。

自分の大切な人を奪った理不尽な世界を拒み、自分の都合のいい世界を欲する。

その願望が、我儘が魔法となって発現したのがミクロの創世魔法だ。

だけど、その魔法を使う度にミクロは思い出すだろう。

母親(シャルロット)の死を、己の弱さと後悔を、降り注ぐ雨の中で哭いた時の事を。

この先、この魔法を使う度にミクロは心に負った傷を開かせることになる。

力を使うには心に負った傷を忘れてはいけない。

そうリューは感じた。

子供のような我儘な願望(まほう)

心の傷を決して忘れない覚悟。

その二つが交ざり合って創世魔法という力をミクロは手に入れた。

「ひっ……!」

歩み寄ってくるミクロに悲鳴を上げるレミュー。

「ミャ、ミャーが悪かったニャ!大人しく捕まるから許して欲しいニャ!」

手の平を返したかのように謝罪の言葉を述べるレミューにリューは呆れるように息を吐いた。

今更何を、とぼやく。

レミューの元まで歩み寄って来たミクロは拳を作ってレミューを床に叩きつける。

「ハッ―――」

肺から空気が一斉に出て行くレミューの鼻は潰れて血が流れる。

「立て」

「!」

ミクロの一言で体が強制的に動き、立ち上がる。

立ち上がったレミューの腹部に拳砲を放つミクロの攻撃にレミューは貴賓室(ビップルーム)奥の通路へ殴り飛ばされる。

「リュー」

ミクロはアンナを支えているリューに眼晶(オルクス)開錠薬(ステイタス・シーフ)を投げ渡す。

「任せる」

「わかりました」

一言で会話を終わらせてミクロは貴賓室(ビップルーム)奥の通路に向かう。

この場をリューに任せてミクロはレミューと決着をつけに行く。

 

 

 

 

 

 

「クソ、クソニャ……ッ!」

鼻から流れる血を押さえながら大賭博場(カジノ)の地下(フロア)に向かって駆け出していた。

殴り飛ばされたことによってミクロの魔法の範囲内から逃れることが出来たレミューはなんとか逃げ切ろうと痛みに耐えながら必死に逃げ出す。

見なくてもわかる怪物(ミクロ)の気配。

こちらをじわじわと追い詰めようとしているのか歩きながらこちらに向かって来ている。

「あそこまで逃げ切れば………」

本来なら見張りがいるが万が一の時を備えて排除している。

長く幅広な一本道に出たレミューは巨大な円型の金属扉の前にやってくるとテッドから奪い取った親鍵(マスターキー)を使って全ての錠前を開錠して、船の操舵輪にも似たハンドルを回して、極太の金属扉を開けて身を滑り込ませて扉を閉めると安堵する。

最大賭博場(グラン・カジノ)の地下金庫であるここには億は優にくだらない数のヴァリス金貨が保管されている。

その金貨を守るこの金属扉はダンジョンの超硬金属(アダマンタイト)で作られているために破壊は困難を極める。

地下城塞とも言えるこの場所でレミューは籠城することを決め込む。

ミクロもずっと賭博場(カジノ)に留まる頃は出来ない。

先程の魔法で精神力(マインド)も大幅に消費しているはず。

なら、この金属扉を突破することは出来ない。

金属扉に背を預けて安堵するレミュー。

すると。

「っ!?」

ドゴと音を立てて一本の槍が超硬金属(アダマンタイト)の金属扉を貫通させていた。

続けて黄金色に輝く槍が金属扉に次々風穴を空けて行き、破壊されていく。

一分もしない内に金属扉は壊されて黄金色に輝く長槍を片手にミクロは金属扉をくぐって来た。

「………」

言葉を失うレミューは黄金色に輝く長槍に目を奪われていた。

シャルロットがミクロに託したミクロ専用の魔武具(マジックウェポン)『アヴニール』にはへレスが使用している槍と同様に破壊属性(ブレイク)が付与されている。

この槍の前では超硬金属(アダマンタイト)なぞ紙同然。

「ニャ、ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

もう逃げることも出来ないレミューは腰に携えている双剣を取り出して咆哮と共にミクロに駆け出す。

仮にもレミューもLv.6の冒険者。

そう簡単に倒されるはずがない。

二振りの凶刃がミクロに向かって襲いかかるがミクロは冷静に槍を持って迎撃する。

「っ!?」

一振りで自身の双剣が破壊されたレミューは目を見開くがミクロは槍の柄でレミューの頭を叩きつけて床に倒させる。

「うぅ………」

頭から血を流して呻き声を出すレミューにミクロは矛先をレミューに向けて告げる。

「………お前にどんな過去があったのかは俺は知らない。だけど、母さんはお前達を救おうとしていた。そんな母さんを恥とか言うな」

それだけ言ってミクロは『アヴニール』を『リトス』に収納する。

もうレミューに戦意の欠片すらない。

後は【ガネーシャ・ファミリア】やギルドがどうにかするだろうと判断してミクロはその場を後にする。

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