路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New66話

目的であるアンナの奪還に成功したミクロ達はアンナを連れて団員達と共に本拠(ホーム)へ帰ってくると正門の前に待っていたクレーズ夫妻がアンナを姿を見て駆け寄って来た。

アンナももう会えないと思っていた両親と再会できた涙を流しながら二人に駆け寄り、二人の胸に飛び込む。

「お母さん!お父さん!」

「アンナ!ああ、無事でよかったよ……!」

「すまねえ!本当にすまねえ!アンナ!俺を許してくれ!」

涙を流して再会を喜ぶ家族はミクロに頭を下げる。

「ありがとう……本当にありがとう……!」

「娘を取り返してくれて本当に助かった!」

「ありがとうございます……貴方方のおかげで私はまた両親に会うことができました」

クレーズ家族はミクロに感謝の言葉を添えるがミクロは首を横に振る。

「俺達は依頼をこなしただけだ。アンナ・クレーズを攫った冒険者達にももう二度と関わらないように言ってある」

ミクロは『リトス』から金貨が詰まった小袋を取り出してアンナに渡す。

「二百万ヴァリス入ってる。これを生活の足しにするといい」

俺は金に執着していないからそんなにいらないと告げて金貨を渡す。

「えっ……う、受け取れません!」

助けて貰っただけでなく大金まで貰うなんておこがましいことできないアンナは返そうとするがミクロは手で制する。

「家族と少しでも幸せな生活をして欲しい俺の勝手な押し付けだ。受け取ってくれ」

少しだけ哀し気に話すミクロにアンナは素直にそれを受け取る。

「家族を大切にしろよ。また何かあればここに来い。出来る限り力を貸してやる」

家族を大切にして欲しいというミクロの勝手な願いと優しさ。

そんなミクロの言葉にアンナは胸に両手を添えて意を決したようにミクロに身を乗り出す。

「あ、あの!」

声を出すアンナは熱い眼差しをミクロにそそいでいた。

ミクロの後ろに控えている団員達はそれにああ、またかと内心でぼやいた。

ミクロの目の前で瞳を潤わせているアンナは『恋する乙女』のように輝いていた。

「と、突然このようなことを言うのは迷惑だと重々承知しています!でも、それでも私はっ、身を挺して守ってくれた貴方に……恋をしました!」

身の危険を顧みず助けに来た騎士(ナイト)であるミクロに告白(プロポーズ)

(アンナ)の告白を聞いた夫妻は目を見開き驚愕して、団員達は口笛を吹く者や苦笑する者もいる。

リューは茫然とした眼差しで二人の行く末を見守る。

リューも助けに行った本人ではあるが、実際は何もしてはいない。

したこととすればミクロがレミューを追いかけていった後のアンナに説明と団員達に撤退の指示、残りはテッドの【ステイタス】を暴いたことぐらい。

事実上後処理しか行っていないリュー。

殆どはミクロ一人で助けたようなものだ。

「もしよろしければ……私を、貴方の恋人にしてください!」

胸をときめく乙女(アンナ)はミクロに自身の気持ちを伝える。

可憐で美しい街娘のアンナ。

麗しい少女の告白なら普通の男性なら有無言わずに首を縦に振るだろう。

「ごめん」

しかし、ミクロは首を縦に振ることをしなかった。

「恋人ってなに?」

その場にいる全員がずっこけそうになった。

ミクロは恋愛感情がわからない。

恋もわからなければ恋人が何なのかもわからない。

首を傾げて本気で何なのかを考えるミクロに苦笑をするリュー。

安心するが同じ女性としてどこか腑に落ちない点もあるがその答えはミクロらしかった。

「恋人はわからないけど、家族としてならいつでも歓迎する」

家族(ファミリア)として迎え入れる。

そう伝えるとアンナはそれでもその答えが嬉しかったのか首を縦に振った。

「はい!私、戦うことは出来ませんけど料理なら得意です!」

「わかった。なら料理人(シェフ)として働いてくれればいい。本拠(ホーム)には専用の料理人(シェフ)がいないから助かる」

基本的に【アグライア・ファミリア】の食事は幹部を除く団員達が交代で作っている。

ミクロの場合はアイカが毎日作ってくれているが専用の料理人(シェフ)がいるとなるとアイカの仕事の負担も減っていいだろう。

そうして話が纏まってクレーズ家族は戻ってきた自分達の家へ帰って行くとミクロは振り返って団員達に礼を告げる。

「手伝ってくれてありがとう。今度何か奢る」

本来ならミクロとリューの個人的な冒険者依頼(クエスト)で終わらせるつもりだったが、それでも快く手伝ってくれた団員達にミクロは感謝している。

礼を告げるミクロに団員達は顔を見合わせて強く頷き合うと一斉にミクロに抱き着く。

「なにお礼なんて言ってんだよ!団長!」

「そうですよ!もっともっと頼ってくださいよ!」

和気藹々とミクロをもみくちゃする団員達にミクロはあまりの唐突なことにどう反応すればいいのかわからなかった。

「俺達は団長よりLv.も低ければ影響力も権利も権力も何も持っていない」

「それでも、私達は団長よりも年上なんですよ?」

「年下が年上に甘えるのは当たり前だって」

【ファミリア】のなかでもミクロは下から数えた方が早い。

ベルやセシルを除いたらミクロが一番年下になるだろう。

Lv.6の強さと影響力と信用と信頼でミクロは年上だろうと纏め上げてきていた。

それ以前にあまり年齢に囚われていないことも大きい。

誰であろうとミクロは対等に接している。

「団長、もう辛いことを一人で抱え込むのは止めるべきだ」

「頼りないかもしれないけど私達は同じ【ファミリア】の仲間で家族です」

「半分でいい。俺達にも団長の重みを背負わせてくれ」

「皆さん……」

その言葉に驚くのはリューだった。

幹部を除く団員達の仲でミクロの素性を知っているものは少ない。

ここにいる彼等はそのことを知らない。

それでも彼等は言う。

「団長は俺達の事を本当に信じてくれているのは俺達自身が一番よく知っている」

「私達はいつも団長に助けれらています。ですから私達は話し合ったんです」

「どうやったら団長の辛さを何とかしてやれるかってな」

団員達は密かに話し合っていた。

いつも自分達の事を守って、助けてくれるミクロに団員達は心から信頼して信用している。

何かしようにもミクロは基本的に何でも自分でしてしまう。

他人の辛い想いまでも受け入れて共に背負ってくれている。

器が大きいミクロはきっと人の上に立つ人間(ヒューマン)なんだろうと思っていた。

だけど、ミクロの母親であるシャルロットの墓で呆然と立ち尽くしているミクロを見てそれは違うとわかった。

ミクロは自分達より年下の子供だとやっと理解出来た。

自身の過去を話さないミクロがどういった道を歩んできたのかわからない。

でも、他人の辛い想いを受け入れられるほど過酷な道を歩んできたことだけは理解できた団員達は密かに話し合っていた。

自分達で団長を支えようと団員達はそう決意した。

ミクロに頼られるようになろう。

ミクロを支えられるように強くなろう。

ミクロの辛い過去を受け入れよう。

そして、その重みを共に背負おう。

同じ家族(ファミリア)として――。

「………」

初めて知った。

団員達がそんなことを考えていたことを。

ミクロにとって家族(ファミリア)は自分の全てだ。

主神であるアグライアと共に初めてリュー達と共に大きくしていった大切な場所だ。

自分はその中で一番上に立つ団長だ。

なら、団員達を引っ張っていけるようにならないといけない。

守れるように強くならないといけない。

団長としてミクロ・イヤロス個人としてそう思っていた。

ミクロの頬に一筋の涙が零れる。

母親(シャルロット)の前で哭いた時とは違う、胸に温かい気持ちが流れ込んでくる。

これはきっと嬉し涙なのだろうと理解したミクロは抱き着いてくる団員達にしがみつく様に強く抱きしめる。

その光景にリューは微笑みを浮かべた。

家族(シャルロット)を失って負った傷を家族(ファミリア)が癒してくれた。


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