路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New67話

大賭博場(カジノ)の騒動が無事に終えてミクロ達はいつもの生活を取り戻していた。

テッドとレミューはギルドの独房に投獄されて、テッドに囲まれていた美姫達にはギルドと娯楽都市(サントリオ・ベガ)から厚い補償が行われ、それぞれの故郷に送り届けられた。

ミクロは一度、独房に投獄されているレミューに会いに行った。

【シヴァ・ファミリア】と闇派閥(イヴィルス)に関する情報を問い詰めたがレミューは頑なにその事を話さなかった。

その代わりと言わんばかりに自分の過去をミクロに話した。

レミューは貴族の一人娘としてこの世に生を受けた。

両親に愛されて育てられたレミューは順風満帆な生活を送っていた。

父親が病死するまでは。

病死した父親の分の愛情を母親はレミューに向けた。

父親が失った心の穴を埋めるかのよう娘であるレミューの世話を何から何まで行った。

着替えから食事まで娘にさせずに行い、レミューは子供が玩具にする人形のように扱われてきた。

もうやめてと反発しても涙を流しながら怒鳴り散らされる。

まるで自分が悪いかのように責められる。

母親の行き過ぎた愛情が逆にレミューを苦しめた。

そんな日々をレミューは送っていたある日に突然、呆気なく破壊された。

【シヴァ・ファミリア】の手によって。

へレスとそれに従う団員達は護衛を、母親を(ころ)した。

『下らねえことしてんじゃねえよ』

自身の母親に向けて吐き捨てるように言ったへレスの言葉は今でも覚えている。

その後に、当時へレスはどこからかレミューのことを聞いてそれが気に入らないから壊しに来たとレミューに語った。

傍若無人な理由で母親を殺されたレミューだが、そんなことはどうでもよかった。

自分を人形のように扱ってきた母親に今更悲しむ理由はない。

『来たきゃ来い』

へレスはそう言った。

レミューは人形のように送っていた生活から開放してくれたへレスに恩を返したい一心で【シヴァ・ファミリア】に入団して、破壊の使者(ブレイクカード)の一員になった。

自身の過去を語ったレミューは再び口を堅く閉ざしたが、独房から去ろうとするミクロにレミューは言った。

『ミャーにとって団長は英雄ニャ……おミャーとは違う』

その言葉を最後にミクロはレミューと別れた。

執務室で羽ペンを動かしながらミクロはその事を思い出していた。

「英雄……か」

へレスは救ったのだ。

レミューの囚われた世界を壊して自由を与えた。

ミクロは父親の事は何も知らないに等しい。

シャルロットもへレスのことについて何も語らなかった。

それでも焦って知る必要はない。

へレスとはまた会える。

少なくとも決着をつけるその時に。

その時、執務室の扉にノック音が響き、ミクロは中に入る様に返答すると中に入って来たのはベルとヴェルフだ。

「団長、今よろしいですか?」

「問題ない」

羽根ペンを置いて目を合わせるとヴェルフが真っ直ぐに告げる。

「俺をこの【ファミリア】に入れて欲しい」

そう懇願するヴェルフにミクロは尋ねる。

「一応、理由を聞こうか」

ヴェルフは【ヘファイストス・ファミリア】から改宗(コンバージョン)して【アグライア・ファミリア】に入って欲しいと既に勧誘している。

入ってきてくれるなら勧誘している身としては断る理由はないが、理由を問わなければならないのが団長としての責務だ。

「ベルに見合う武器を打つ為には俺は強くならないといけねえ」

ベルは前の戦争遊戯(ウォーゲーム)で【ランクアップ】を果たしてLv.3になった。

Lv.が上がったベルはそれに見合う武具を装備するのが当たり前だ。

だけど、それだけの武具を打つ力が今のヴェルフにはない。

『鍛冶』のアビリティがヴェルフには必要だった。

友として鍛冶師(スミス)としても力不足なヴェルフにはより過酷な環境が必要だった。

その為にヴェルフは【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)することを決意した。

「ヴェ、ヴェルフ、僕はそんなこと気にしてないよ!?」

「ああ、わかってる。だけどな、ベル。俺は気にするんだ。お前に見合う武具を作れないようじゃ鍛冶師(スミス)の名が廃る」

ヴェルフの決意は固い。

「俺は魔剣は嫌いだ。だけど、契約は守る」

「それでいい。工房はすぐに手配する。魔剣は必要になったら打ってくれて」

以前告げた契約の内容で応じるヴェルフにミクロもヴェルフを受け入れる。

椅子から立ち上がってヴェルフの前に立つと手を差しだす。

「ようこそ、【アグライア・ファミリア】へ」

「おう」

手を交わす二人。

こうしてヴェルフは【アグライア・ファミリア】の一員になった。

「ベル。俺はこれから出かけるからヴェルフをアグライアのところに案内してくれ。その後、本拠(ホーム)の案内を頼む」

「は、はい!……団長はどちらに?」

「少しな」

ベルにヴェルフのことを一任させてミクロは大事な用事を済ませなければならない。

「それと数日後にゴライアスとの戦闘も行うから準備するように皆に言っておいてくれ」

「………はい」

遠征後に行う団員達の訓練を忘れていなかったことにベルは肩を落として力なく返答する。

ミクロは本拠(ホーム)を後にある高級酒場へと足を運ぶ。

情報を外部に漏らさない遮音性に優れた一室に入るとそこには既に黄金色の髪をした小人族(パルゥム)が笑みを浮かばせて待っていた。

「やぁ、待っていたよ」

笑みを浮かばせて迎え入れるフィンにミクロは対面するように席に座る。

18階層でミクロがフィンに出した条件にある闇派閥(イヴィルス)の提示を聞く為にここに足を運んだ。

「まずは僕達が集めた情報を話そう。そこから互いに情報を交換でいいかな?」

「問題ない」

まずはフィンが【ロキ・ファミリア】で集めた情報をミクロに話した。

その話を聞いた後にミクロも集めた情報をフィンに告げる。

闇派閥(イヴィルス)に関する情報を共有する二人はある場所を特定した。

「ダイダロス通りか………」

地上のダンジョンとまで称されている領域に闇派閥(イヴィルス)が潜んでいる可能性が高いと互いに目星をつけた。

だが、ダイダロス通りの捜索となると骨が折れる。

「恐らく近い内に僕達はそこに行く。君はどうする?」

「団員達を鍛える予定がある。行けたとしても遅くなるが、いざという時は駆け付ける」

「わかった。その時は応援を頼む」

互いに予定を確認が終えるとミクロは(ホルスター)からあるものを取り出す。

眼球の様な精製金属(インゴット)で表面には共通語(コイネー)とも神聖文字(ヒエログリフ)とも異なる『D』という形の記号が刻まれた赤い球体を取り出してフィンに見せる。

「【シヴァ・ファミリア】の一員であったキュオが持っていたものだ。詳しいことはまだわからないけど、これは魔道具(マジックアイテム)なのは間違いない」

「……闇派閥(イヴィルス)には『神秘』持ちが存在しているということか」

顎に手を当てて真剣な表情を浮かべるフィン。

魔道具(マジックアイテム)がどれほど強力なものかは目の前にいるミクロを通してよく知っている。

例えミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)が特別だったとしてもとても油断していいものではない。

球体をしまうミクロはフィンに告げる。

「フィン、敵の戦力は未知数だ。いくら【ロキ・ファミリア】でも足元をすくわれる可能性がある」

「ああ、気を引き締めて行かないとね」

食人花(ヴィオラス)、死兵、そして怪人(レヴィス)

闇派閥(イヴィルス)の規模がどれほどかわからないミクロの忠告をフィンは素直に受け取った。

情報交換を終えてフィンとはそのままそこで別れたミクロは本拠(ホーム)に帰還。

夕食まで少し時間があるが空腹を感じたミクロは一足早めに食堂に足を運ぶと厨房で今日の食事当番である団員達とせっせと料理を作っている【ファミリア】の専用の料理人(シェフ)になったアンナに声をかける。

「アンナ」

「あ、ミクロさん!」

声をかけられて嬉しそうに声を弾ませるアンナに料理を作っている団員達はああまたかと特に気にせずに作業を進める。

「簡単なものでいいから作って欲しい」

「はい!すぐに作ります!」

恋する乙女のアンナは好きな人に頼られて嬉しかったのかすぐに料理に取り掛かる。

本当にベルのいい見本だ、と団員の誰かが呟いた。

「ミクロく~ん」

「アイカ」

後ろから抱き着いてくるアイカ。

それを見たアンナの手は止まり、思わず凝視してしまう。

「今日は一緒に寝ようね~」

「わかった」

頷くミクロを見てショックを受けるアンナにアイカは勝ち誇った笑みと同時にアンナに挑発する。

「ふふふ~、ミクロ君の食事をお願いね~料理人(シェフ)

アンナはすぐに悟った。

この人(アイカ)は自分の恋敵(ライバル)だと。

「ま、負けません……!」

自分を助けてくれた騎士(ナイト)であるミクロはモテて当然だ。

まず第一級冒険者というだけで人気が高い。

実力、名声、権力を兼ね備えているだけでなくミクロは【ファミリア】を代表する団長。

それだけでも人気がある。

次に容姿と性格もいい。

背が高いというわけではないが、それを差し引いても十分整った容姿をしている上に身を挺いて自分を助けに来てくれることから優しい性格をしている。

競争率が高いのは当然だ。

だけど、それが諦めていい理由にはならない。

自分の恋物語(ラブロマンス)はまだ始まったばかりなのだ。

諦めない意志を瞳に表すアンナにアイカは変わらず余裕の笑みを浮かばせる。

二人の背後には恋に燃える炎が幻視されているように団員達は見えた。

「腹減った……」

二人の間にいるミクロはそうぼやいた。

 

 

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