路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New68話

ヴェルフが【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)

他の団員達にも紹介されたが、誰一人も『クロッゾの魔剣』を打ってくれという団員はいなかった。

クロッゾとしてのヴェルフではなくヴェルフ本人として迎え入れられたことに正直ヴェルフは嬉しかった。

自分専用の工房も用意されて設備も道具も充実している。

訓練を行う際も、団員達はそれに応じて付き合ってくれるが、一人一人が精鋭過ぎてまるで相手にもされなかった。

同じLv.1でもこうも違うものかと思っていたヴェルフはその答えを知ることが出来た。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

けたましい咆哮を上げるゴライアスに立ち向かう【アグライア・ファミリア】の団員達。

「クソがああああああああああああああああっっ!!」

「やっぱり団長の訓練はおかしい!!」

「死ぬ!今度こそ死んじまう!」

否、立ち向かわされている【アグライア・ファミリア】の団員達は遠征後に行う予定だったゴライアスでの訓練を行っている。

訓練内容は簡単、ゴライアスの討伐というたったそれだけの内容。

しかしそれがどれだけ過酷で死ぬ思いをするのか想像もしたくないことをミクロは行う。

団員達が精鋭なのは団長であるミクロの訓練が酷烈(スパルタ)過ぎるからだ。

闘わなければ死んでしまうという恐怖で体を動かして勇敢にも果敢にもゴライアスと対峙する団員達にヴェルフはひでえとぼやいた。

「セイッ!」

「ヤッ!」

ゴライアスの身体に損傷(ダメージ)を与えていくのはセシルとベルの二人組。

息の合ったコンビネーションでゴライアスを翻弄、攻撃を行う。

二人を中心に団員達もそれぞれの得物を握りしめてゴライアスに向かっていく。

後衛より更に後方にはミクロ達第一級冒険者が戦いの行く末を見守りつつ他のモンスターを倒しておく。

「前衛、下がれ!魔導士は魔法の一斉砲火!ヴェルフ!魔剣を使え!」

魔法の被害を受けない様に全力で後退する前衛に魔導士は詠唱を完了させて魔法を放とうとするとヴェルフも持ってきた『クロッゾの魔剣』を手に持つ。

ヴェルフはまだ魔剣を使うことに躊躇いがある。

使い手を残して砕ける魔剣をヴェルフは嫌う。

だけど、仲間と意地を秤にかけることは止めた。

ヴェルフは仲間の為に砕ける魔剣の名を口にする。

「火月ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

かつてはヘファイストスに預けていた魔剣を振り下す。

放たれる真紅の轟炎は一直線にゴライアスを呑みこむ。

『海を焼き払った』とまで言われる伝説の魔剣が、その威力を解放した。

その威力にベル達は目を見開いて驚愕するが、まだ炎の中でゴライアスは動いている。

「一斉砲火!」

ミクロの一言で魔導士達は一斉に魔法を放つ。

降り掛かる多種多様の魔法はゴライアスを傷付けていく。

重傷を負うゴライアスにセシルは動く。

「【駆け翔べ】!」

スキルにより、ミクロの付与魔法を発動させるセシルの大鎌に白緑色の風を纏う。

風を纏い、炎と熱風を防いで突貫するセシルは大鎌を大きく振り上げる。

「ハッ!」

一閃。

セシルはゴライアスの首を斬り落とした。

命を刈り取るかのようにセシルはゴライアスに止めを刺すとゴライアスは灰へと姿を変えた。

ゴライアスが灰へと変わって団員達は一斉に歓声を上げる。

「ふぅ」

息を吐いて魔法を解除するセシルは回復薬(ポーション)を飲み干す。

「セシル、お疲れ様」

「ベルもお疲れ」

労う二人に歩みよるヴェルフとリリ。

「全く、階層主を訓練相手にするなんて団長様の気が知れません!」

「そう言うな、リリスケ。こうして生きてんだからよ」

怒るリリに内心同意しながらもそう答えるヴェルフにベルとセシルは苦笑を浮かべる。

「総員一度18階層に!一時間の休息後に地上に帰還する!」

ミクロの指示に団員達は従って一度18階層で休息を取った後のミクロ達は地上へ帰還するともう夜だった。

夜空を眺めながらミクロ達は本拠(ホーム)へ帰還して荷物を片付けて男女別れて浴室で汗と汚れを落とすと殆どの者がアグライアのところに足を運んで【ステイタス】を更新して貰う。

「ああ……また駄目だった」

 

セシル・エルエスト

Lv.3

力:C642

耐久:B702

器用:D567

敏捷:D502

魔力:C687

狩人:H

耐異常:I

 

映し出された【ステイタス】の更新用紙を見て唸り声をだすセシルにアグライアは苦笑を浮かべながら頭を撫でる。

「十分伸びているじゃない、自信を持ちなさい」

セシルは本当によく頑張っている。

努力家と言ってもいい。

まだLv.3になった一ヶ月と少しでここまで伸びているだけでも異常だ。

スキルによる効果だとしても十分な成長をセシルは遂げている。

「………ベルはもうLv.3です」

更新用紙を握りしめてセシルは呟いた。

「ベルが一生懸命努力しているのは知っています。強くなっていることもわかります。でも、二ヶ月半で私と同じLv.3って………これじゃあ私の今までの努力って何だったんですか………?」

「………」

嫉妬、それと悔しさもあるのだろう。

セシルは二年以上かけてLv.3になったに大してベルはそれを嘲笑うかのような恐ろしい速さでLv.3に到達した。

憧憬一途(リアリズ・フレーゼ)】というレアスキルをベルが発現しているのを知っているのは主神であるアグライアと団長であるミクロだけ。

ベル本人はそのスキルのことは知らない。

ただひたすらに目標に追いつこうと走っているだけ。

だけど、それはセシルも同じだ。

尊敬しているミクロの下で文字通り命懸けでミクロの酷烈(スパルタ)に耐えて強くなろうと努力している。

二人とも同じぐらい努力しているのに成長速度に大きな違いがある。

セシル達が成長というのならベル、後はミクロは成長ではなく飛躍だ。

ベルのスキルの事を話しても解決はしないだろう。

むしろ、どうして自分にはそんなスキルが発現しないのかと嘆く可能性がある。

「私だって……もっと強くなりたいのに………」

ミクロから今日のゴライアスの討伐でセシルとベルは誰よりも前へ出て活躍した。

二人のもっと強くならないとという想いが二人を突き動かしたのだろうと察するが、得る結果が違えば劣等感だって抱くだろう。

「セシルはベルの事が嫌い?」

尋ねるその言葉にセシルは首を横に振る。

「ならそれでいいんじゃないかしら?誰だって嫉妬だってする、悔しさだって覚える。それを知り、糧にして成長するのが下界の子供の特権なんだから」

神は決して変わらない。

「だから私はこう思うの。好きならそれでよし。嫌いならどうすれば好きになれるか考える。思って、考えて、成功し、失敗し、喜び、悔やみ、嫉妬して、成長して子は強くなる。(わたし)はそういう子供達がとても輝いているように見えるの」

不変の神は語る。

「今の貴女はとっても輝いてる。だから私は貴女しかできない成長を期待しているわ」

微笑みながら頬を撫でる。

頬に当てられている手に触れるセシルはアグライアの言葉を聞いて少しだけ表情が明るくなった。

「アグライア様……私はお師匠様のようになりたいです………」

「ええ、なりなさい。でも、弱音も吐きなさい。私は貴女の主神。弱音ぐらい受け止めてあげるわ」

強くなるにつれて人は限界という壁にぶつかる。

その時必要なのは弱音を受け止めてくれる誰かと、諦めない心がいる。

ミクロではないが、そんな壁は壊してしまえばいい。

上を見上げて目標に向かって駆ければいい。

それが出来るのは下界の子供達だけなのだから。

セシルを励まして次にくる団員達の【ステイタス】の更新を行っていくと能力(ステイタス)が上位な者は【ランクアップ】を果たした。

スウラ、フール、スィーラなどLv.2はLv.3に【ランクアップ】を果たして最近改宗(コンバージョン)して入って来たヴェルフもLv.2に【ランクアップ】した。

その他にも何人もの団員が【ランクアップ】を果たしていた。

まぁ、階層主相手だからおかしくはないのだけどとアグライアは苦笑を浮かべる。

それでもこれからはミクロに訓練の内容ももう少し抑えるように進言しておこうと胸に留める。

全員の【ステイタス】の更新が終えた翌日。

ミクロ達はいつものように過ごしていると一人の獣人の冒険者が【アグライア・ファミリア】の本拠(ホーム)へやってきた。

団員に呼ばれたミクロは正門前に足を運びとその獣人の冒険者は【ロキ・ファミリア】の一員だとすぐに気付いた。

「どうした?」

「……他派閥である貴方にこのようなことは図々しいのは承知しています。しかし、主神の命により貴方方の【ファミリア】の御助力を求めるように参りました」

他派閥とはいえ一つの【ファミリア】の団長に敬意を払うように話す獣人の言葉にミクロは尋ねる。

闇派閥(イヴィルス)か?」

「はい。既に団長達が調査を行っております」

「わかった。すぐに準備をして向かう。案内を頼む」

「はい!」

【ロキ・ファミリア】の応援に応じるミクロは団員達に指示を飛ばす。

「リュー、アルガナ、バーチェに装備を整えてすぐに正門に来るように伝えてくれ。大至急だ」

「「はい!」」

団長であるミクロの言葉に従う団員達はすぐに行動に移す。

それから数分もしない内にリュー達は完全装備でミクロの下へ集まり、ミクロ達は獣人の案内の下、アイズ達のところへ向かう。


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