未到達領域59階層で死闘を繰り広げた個体と酷似した
巨牛の下半身に女体の上半身の姿を持つ怪物に眼を見開くミクロ達。
『―――――オオォ』
巨体は何の説明もないまま動く。
『――――――――――――――――――――――ッッ!!』
単純な突撃。
だが、そこに秘められた質量と破壊力は桁違いだった。
「俺が―――」
「はいダメ―――」
この場にいる全員が逃げる時間を稼ごうとする前にティオナに即刻却下されられるとティオネに頭を小突かれた。
「そんなふらついた体で何言ってんのよ?」
「うん、ミクロ無茶しすぎ……」
「アイズ、お主も人のことは言えぬじゃろうが……」
続けるアイズの言葉にガレスが呆れる。
「でも……」
「でももくせもねえ。てめえはもう足手纏いだ。さっさとここから消えろ」
ベートまでも進言して言葉を詰まらせるミクロ。
【ロキ・ファミリア】達も平然としてはいるが、その身体に蓄積している
だけど、全員がそれを否定した。
「それにね、毎回毎回あんたに助けられてばかりだとうちの沽券にも関わるのよ?」
「あたし達だって負けてないんだからね!!」
「ティオネ、ティオナ……」
「お主にはもう十分に助けられたわい。後は儂等に任せい」
「ガレス……」
「てめえに借りを作るつもりはねえ」
「ベート……」
「ミクロはもう休んでて」
「アイズ……」
それぞれが得物を手に持ち、ミクロより前へ出て怪物と対峙する。
それぞれが覚悟を持った冒険者。
その意志を曲げてまで残る理由がミクロにはない以上、ここにいる理由はなくなる。
「……わかった。なら、ラウル達を地上まで誘導する」
それでも友達としてせめてもの助けになりたいミクロはラウル達と共に地上を目指す。
「アルガナ、バーチェ、敵の捕縛は?」
『終わった、一人だけだが捕えた』
「俺達はこれから地上へ帰還する。戻ってこられるか?」
『ミクロの匂いを辿る』
「わかった」
簡潔に連絡を済ませてミクロはふらつく体に鞭を入れてラウル達に号令を出す。
「ラウル達は俺の後ろからついて来い。地上へ帰還する。レフィーヤ達も一緒に来い」
「はいっす!」
「わ、わかりました!……フィルヴィスさん!」
「ああ、わかった」
ミクロとリューが先導してラウル達と共に
「負けるな」
振り返らずに殿を務めているアイズ達に命運を委ね、ミクロ達は走り出す。
真っ直ぐと壊してきた
「フッ!」
だが、それをリューが即殺して道を作る。
「私が道を作ります。ミクロはそのままでいてください」
「わかった」
これ以上にミクロに負担を掛けさせない様にリューが気張る。
「ミクロ」
「アルガナ、バーチェ……」
地上に向かう途中で二人と合流できたミクロは無事でよかったと安堵するとバーチェの背に血まみれで背負われている男性に目を向ける。
「こいつは――」
その男を見てミクロは二人の頭を撫でる。
「ありがとう」
この二人のおかげで別の問題が解決することが出来たのと、今後のこの
それとは別に頭を撫でられて、嬉しそうに目を細める二人を見てラウル達は既視感があった。
三人のその光景は
危機的状況にも関わらずにどこか弛緩してしまう。
「怪我人が複数、フィンは怪我はなくなったが血が足りてない。アイズ達は残って59階層で遭遇した
簡潔に状況を説明するミクロにリヴェリアがすぐに団員達に指揮を執る。
「敵は統率をとれていない。今が助け出す好機だ。動ける者を集めて迎えに行け。限界まで粘る!」
リヴェリアの指揮に動ける者はすぐにアイズ達の救助に向かう【ロキ・ファミリア】。
「ミクロ、お前達は今度礼をする。ありがとう」
感謝の言葉を述べてリヴェリアもアイズ達を迎えに行く。
取り残されたミクロ達はミクロの休ませる為に
「アルガナ、そいつは
「わかった」
ミクロ達はアイズ達の無事を信じて
【アグライア・ファミリア】の
粗相を犯した団員達の反省場として存在している地下牢に鎖で繋がれて拘束されている一人の男。
男の名はディックス・ペルディクス。【
二十年以上前から存在している
「こうして直接会うのは初めてだな」
「………【覇者】」
頭部から血を流して綺麗に半殺し状態のまま拘束されているディックスは自身の眼前に立っているミクロを睨み付ける。
ディックスは
ミクロ達が捕まえようと動いてもいつもどこかで姿を消して逃げられた。
今思えばそれは
「お前の【ファミリア】は
【イケロス・ファミリア】の解散はもう決定事項になっている。
「お前には聞きたいことが山ほどあるが……これだけには答えてもらう。どうして
「金だ」
ディックスはミクロの問いに疑念を抱くことなく答えた。
ダイダロスの系譜であるディックスの始祖の血が一滴でも引いていればその証拠として左眼に『D』という記号が刻まれた赤い瞳を持って産まれてくる。
全ては迷宮を完成させる為に。
だが、迷宮を完成させるには時間、労力、何より金がかかる。
ダイダロスの子孫が
「何故お前はそれに従う?」
「血が、そうさせるんだ」
迷宮を完成させろと血が駆り立てる。
ディックスはこれを血の呪縛と言っている。
千年前から連綿と続く、奇人ダイダロスの執念・
地下迷宮に勝る『作品』を創造しようと男の果てしない妄執。
ディックスは迷宮を憎んでいる。
だけど血がそれをさせようとしない。
迷宮を作りながらディックスはどうすれば満たされるのかと考えていた時に偶然にも
そして、知ってしまった。
血に勝る欲望を。
抗うことを止めてそれ以上の欲望を解き放つ。
獣の欲望だ。
「なるほど」
ディックスの言葉を聞いたミクロはディックスの言葉に納得した。
わかるからだ。
ミクロもディックスと共通する快楽を知っている。
壊す悦びがわかる。
それも全ては自身に流れるシヴァの血がそうさせている。
「ディックス・ペルディクス。お前、【アグライア・ファミリア】に来い」
「あぁ?」
唐突の勧誘に眉根を動かすディックスだが、ミクロは言葉を続ける。
「お前はその血の呪縛のせいでそうなったんだろう?なら、俺がその呪縛から解放してやる」
「ッ!?」
「俺の魔法、創世魔法ならそれができる」
ミクロの創世魔法は範囲内の
つまりミクロがディックスの血の呪縛を解放するように発言すればディックスは長年苦しませてきた血の呪縛から解放される。
「お前程の実力者を放置するのは勿体ない。それに
今後の事を見越してミクロはここでディックスを失うのは痛手だった。
引き入れるのなら引き入れる。
「お前が今後
「………俺がてめえを裏切るかもしれねえぞ?」
「力で屈服させてやる。それが荒くれ者である冒険者の束ね方だ」
反乱を起こそうとするならそうなる前に力でディックスを従えさせるだけ。
「………」
ディックスはその言葉に無言になる。
何故なら目の前にいるミクロはその言葉通りに実行できるだけの実力がある。
「好きな方を選べ。このままギルドで一生を過ごすか。【ファミリア】に入って俺の下で働くか」
選択を強いられるディックスは口角を上げる。
「いいぜ、従ってやる。流石に一生牢獄生活は御免だからな」
「交渉成立」
肯定するディックスの言葉を受け取ってミクロは創世魔法を発動する。
「ディックス・ペルディクスを縛る血の呪縛よ、壊れろ」
その言葉により、ディックスはダイダロスの血から開放された。