「おじさ~ん、ここの果実まけてくださいな~」
「し、仕方ねえな、アイカさんは常連だしな………」
「ふふ~、ありがとう~」
青果店の店主はアイカを見て鼻の下を伸ばしながら果実を次々袋に入れていく。
買い出しに付き合っているセシルはアイカを若干半眼で見て溜息を吐いた。
アイカは美人で胸も大きい上に肌の露出が多い服を着ている為に男性はついそういう目で見てしまうのはわかるが、男性の心を誘惑して果実を値切るアイカもアイカだ。
「………」
つい視線を下にして自身の体を見て比較してしまうとまた溜息が出てくる。
みずぼらしい自分の体とアイカとでは比較するまでもない。
でも、自分はまだ成長期、可能性はあるのだと自身に言い聞かせる。
「あ、苺も頂けませんか~?セシルちゃんが大好きなんですよ~」
前かがみでお願いするアイカに店主の視線は完全にアイカの胸にいってしまう。
「もちろんだ!ほら、嬢ちゃんもしっかり食ってアイカさんみたいになりなよ!」
「……ありがとうございます」
気の良さそうに笑いながら大量の苺をセシルに渡すがどういえばいいのかわからない。
だけど、苺は本当に好きなのでしっかりと貰っておく。
「ふふ~よかったね~」
「……からかってる?」
「そんなことないよ~」
半眼を作るセシルにアイカは微笑みを崩さない。
むしろ面白げに笑っていた。
買い物を『リトス』に収納して道中を歩いて行く二人。
「……あの人、露骨に見てくるから私嫌い」
「男の人ならあれぐらいは普通だよ~」
頬を膨らませるセシルにアイカは手を繋ぎながら宥める。
「女の子を多少エッチな目で見てくる方が男の子的には健康なんだよ~。リオグさんがわかりやすいかな~」
「リオグさんも結構アイカお姉ちゃんの胸見てるもんね……」
先程の店主同様にわかりやすいほど鼻の下を伸ばしてアイカの胸をリオグは見ていることを二人は知っている。
微笑むアイカに呆れるセシル。
「もっと露出の少ない服着ないの?」
「う~ん、こういうのに慣れちゃったからね~、ちょっと抵抗があるんだよ~」
娼婦として生活していた頃の感覚がまだ抜け落ちないアイカは布面積が多い服にはまだ抵抗がある。
アマゾネス程ではないが、肩や足は普通に見えている服装をアイカを身に着けている。
「それに~ミクロ君が女の子に興味持ってくれたら~ふふ……」
「怖い、怖いよ、アイカお姉ちゃん……」
笑うアイカの瞳は紛れもない恋する乙女が宿す恋の炎が宿っていた。
隙あらば食らう、まるで肉食獣のような気配を感じたセシルは後退りする。
怯える
「セシルちゃんは~どうなのかな~?好きな男の子いないの~?」
「え、う~ん……私はお師匠様との訓練があるから考えたことないけど……」
「ベル君はどうなの~?」
「ベル?ベルは……」
そう言う風に見ていないと言おうとした瞬間、一瞬だけ強敵に立ち向かっていくベルの凛々しい顔を思い出して勢いよく首を横に振る。
「ふふ~なるほどね~」
「ち、違うからッ!別にそんなんじゃないから!!」
ニヤニヤと笑うアイカはセシルは慌てて弁明する。
しかしもう遅い。
「いや~ベル君も罪な男の子だね~。あ、赤ちゃんできたら抱かせてね~」
「話を聞いてよ!!……って赤ちゃん!?話が飛躍しすぎだよ!!私はまだベルと付き合っている訳じゃないよ!!」
「ごめんごめん」
怒鳴る
自分の発言の中にまだという言葉を出したことに。
しかし、
顔立ちも悪くないむしろ母性が擽られるほど可愛い顔立ちをしている。
性格も優しいし、いざという時は頼りになる。
実力も誰もが疑うことないぐらいに強い。
ミクロほどではないが、しかしミクロとは違う魅力を持っている。
可愛い
「―――――っ」
「セシルちゃん?」
頬を膨らませているセシルが不意に表情を険しくするとそれに気づいたアイカが訝しむ。
「見られてる……」
「……行こうか」
セシルの言葉に察したアイカはセシルと手を繋いだまま
視線が着いて来ていることから狙いは自分達だと気づいたセシルはどうするか思考を働かせる。
相手の狙いがわからない以上あえて人目の少ない場所で誘き出して叩くか。
このまま
「……アイカお姉ちゃん。先に帰って誰か連れて来て」
「セシルちゃん?」
「私なら大丈夫……だと思うから」
ここで無事に
「相手が誰かわからないけど、時間は稼げるからその間に誰か連れて来て」
万が一に自分よりも格上がいたとしても多少は時間を稼ぐことが出来る。
その間に
ミクロ達が助けにくるまで時間を稼げれたら形勢は逆転する。
それに仮にアイカを狙う強姦魔ならここで叩きのめせばいい。
「……すぐに呼んでくるから無茶しちゃダメだよ」
「うん」
セシルの気持ちを察して頷くアイカは手を離してすぐに
反対にセシルは人気の少ない方へ駆け出すと視線はセシルの方から離れない。
狙いは自分だと気づいたセシルは路地裏に入って奥へ進むとセシルに刺客が襲いかかる。
頭上から奇襲を仕掛けてくる二人にセシルは体術で応戦する。
狭い路地裏では自身の得物である大鎌は使えない。
もう少し広い場所に行かなければならないと判断してセシルは角を曲がって別の道へ進む。
「悪いね」
頭上から襲いかかる足刀をセシルは両腕を交差させて防御すると相手の正体を知って驚愕する。
「【
同じ上位派閥である【イシュタル・ファミリア】と自身の【ファミリア】とでは何の接点もないはずなのにこんなにも唐突に襲われる理由が思いつかない。
「主神様の命令だよ。【覇者】の動きを封じるために人質が必要なのさ」
「どういう意味ですか?お師匠様は別に貴方方を襲う理由がないと思いますが?」
「保険さ、万が一の為のね。安心しな、用が終われば無事に帰してやる」
それだけ言って再び襲いかかるアイシャにセシルは応戦する。
凄まじい
長脚を受け流して懐に潜り込んでアイシャの腹部に肘鉄を食らわせる。
「やるねぇ」
だけど、アイシャはセシルの肘鉄を掴んで防いだ。
拳、脚、肘、膝の余すことのない連続攻撃に防戦一方になるアイシャは笑っていた。
「ハッ!やるじゃないかい!?あたしらアマゾネスの体術も使えるとは多芸だね!!」
「命懸けで覚えました!!」
主にアルガナとバーチェに徹底的という言葉が温いぐらいに体で覚え込まされた。
「
「ッ!?」
背後、頭上から襲いかかってくる複数の
「ソラッ!」
「うっ!」
多数の
しかし数が数だ。
それも全員がLv.3の実力者達の前にセシルは冷静だった。
アイカが助けを呼んできてくれる。
それまで持ちこたえたら自分の勝ち。
耐久力には自信のあるセシルなら決して不可能ではない。
「アイシャ!」
屋根の上から声が聞こえたセシルは敵の増援かと思い顔を振り上げると目を見開く。
狙いは自分ではなくアイカ。
アイシャは人質が必要と言っていたが誰もセシルとは一言も言っていないことに今更ながら気付いた。
「―――――ッ!」
壁を跳躍して屋根の上にいる
「アイカお姉ちゃんを返せ!!」
哮けるセシルだが、その前にアイシャが姿を現してセシルを蹴り落とす。
地面に激突しようもセシルは動くのを止めずに何度もアイカを取り返そうと突貫する。
自分の判断ミスでアイカを危険な目に合わせてしまった後悔と焦りから冷静さを失ったセシルはアイカを取り返そうとばかり突貫を繰り返す。
だけど動きが単純になったセシルの動きを捉えるのは容易なアイシャ達は数の暴力でセシルを叩きのめす。
「――――――――――ッ!!」
頭から血を流し、身体の骨が軋もうがセシルの動きは止まらない。
大切な姉を守らないといけないセシルは止まらない。
「恐ろしい耐久力だよ……」
あれほど数と暴力を振るわれようとまだ立ち上がって助け出そうと動いているセシルにアイシャは感嘆の声を飛ばす。
だけどこれ以上騒ぎを起こすのはこちらも避けたい。
「レエナ。やりな」
アイカを抱えているレエナが何事かを唱える。
「~~~~~~~~~~~っ」
紅い波動を受けてしまったセシルの傷が大きく開いてそこから大量の出血が噴出する。
「う……あ、」
足元に溜まる赤色の水溜りに新たな血がセシルから噴出して流れ落ちる。
それでもセシルはアイカを助けようと必死に手を伸ばす。
だけど、大量の血液を失ってしまったセシルは意識を失い地面に倒れてしまう。
「やっと沈みやがった……」
「すげえ女……」
数と暴力を何度も浴びさせて最後は
心から感服するほどセシルは強いと誰もがそう思った。
「お前達、行くよ」
号令を出すアイシャはセシルの
「ベル、セシル、アイカ……」
更には血塗れとなって倒れているセシルを団員達が連れ帰って今はパルフェの魔法を受けて部屋で休んでいる。
「………」
団員から受け取ったセシルの付近にあったという手紙に目を通す。
『【覇者】、お前の団員は私が預かった。用が終わり次第すぐにそちらに返す。それまで何もするな』
手紙にはそれだけ記されていてミクロは手紙を握りしめて団員達に告げる。
「総員直ちに装備を整えろ。今から一時間後に【イシュタル・ファミリア】に総攻撃を仕掛ける」
『は、はい!』
冷え冷えとした声音で告げられる言葉に団員達は直ちに装備を整え始める。
「おいおい、
【アグライア・ファミリア】に
「違うぞ、ディックス。これからするのは戦争じゃない―――――――蹂躙だ」
戦争するまでもないと告げるミクロは【イシュタル・ファミリア】の
「俺の
触れてはいけない逆鱗をイシュタルは触れてしまった。