【イシュタル・ファミリア】の
都市南東部に位置する第三区画に存在する
その
「人質を探せ!!
怒声を上げるように
【覇者】ミクロ・イヤロスの動きを封じるために取っておいた人質であるアイカが気が付けば牢屋から逃げ出していた。
非戦闘員と思い、甘く見ていたのが運の尽きと思わせられるような出来事に
「クソ……ッ!もし、人質が【覇者】の元に戻っていたら……」
恐怖と焦りで表情が歪む
元々人質を取ろうと計画をしたのは自分達の主神であるイシュタルだ。
今日は大事な儀式の日であり、【フレイヤ・ファミリア】を襲撃する日でもある。
その時に万が一に【覇者】が介入してこないように人質を取る計画だった。
ミクロは身内には甘い。
だから人質の身の安全を優先して手出しはしてこないと踏んでいた。
だけど、その人質がいなくなれば攻め込んでくる十分な理由になる。
実力者である【覇者】を筆頭に複数の第一級冒険者がいる【アグライア・ファミリア】。
逆鱗に触れた【覇者】の怒りの矛先は間違いなく【イシュタル・ファミリア】を滅ぼしに来る。
「探せッ!絶対に見つけろ!!」
「あ、あったあった。これだ」
その神室にあるイシュタルの隠し部屋に潜り込んでアイカは血のように紅い拳大の宝珠を『リトス』に収納する。
「さてと、長いは無用だよね~」
『リトス』に収納できるだけ隠し部屋にある宝を手に入れたアイカはすぐさま姿を消して神室を出て行く。
「セシルちゃん、無事かな~?」
自分が捕まった時は気を失っていたからわからないがどうかセシルが無事であることを祈るアイカは駆け足で
「それにしても~ミクロ君の
アイカはミクロからいくつかの
アイカは非戦闘員だからこそ用心の為にミクロの
物を収納する『リトス』で手足の枷を収納して自由の身になると今度は姿を消す『ファントーモ』で姿を消して足にミクロが愛用している影移動を可能とする『スキアー』を使用して影から部屋を出ると近くにいたアマゾネスに強力な暗示をかける『フォボス』でことの詳細を聞くと資料室に足を運んで【イシュタル・ファミリア】の計画を知った。
それは
殺生石に春姫の魂を封じ込めて第三者に『妖術』を与える。
その代償として生贄となった春姫は魂の抜け殻となる。
最悪なことにそれを行われる儀式が満月である今夜。
それを知ったアイカは何となくではあるがベルが助けようとしている娼婦はきっとこの春姫だろうと思った。
確信があったわけではないが、せっかく敵の本拠地にいることからアイカは可愛い
計画の要である殺生石を略奪する。
噂で聞いたイシュタルの隠し部屋を頼りに一度行った事のあるイシュタルの神室に足を運ぶと運がよくそこにはイシュタルの姿はなかった。
そして隠し部屋を見つけて『スキアー』で侵入して例の殺生石とちょっとした悪戯心で収納できる限りのイシュタルの秘蔵
「さてと、速く逃げないとね~」
アイカは非戦闘員だが、恩恵は授かっている身だ。
Lv.1ではあるが恩恵を授かっていない人よりも動ける。
更には自分が脱走したことが周囲に知られ、慌てふためて自分を探している。
混乱に生じてアイカは何とかイシュタルの
その時、上空に閃光が迸った。
茜色に染まった空に現れる一つの純白の閃光にアイカは困ったように頬を掻く。
「ミクロ君かな~」
これから起こるである惨劇を予想してしまったアイカは急いでミクロの下へ駆け出す。
歓楽街を取り囲むように【アグライア・ファミリア】は陣を作成を終わらせていた。
『南側。配置完了』
『北側も終わった』
『西も終わりだ』
配置につかせた団員達から
「総員、敵は【イシュタル・ファミリア】。
東に位置するミクロは『ヴァルシェー』も掲げて閃光を空へ放つ。
「殲滅しろ」
その一言で【アグライア・ファミリア】は総攻撃を仕掛けた。
都市屈指である大派閥に、先刻もなしに、暴虐的なまでに、理不尽なまでに喧嘩を売ってくる体面も委細気にもせずに進行し、武器を、魔法を、魔剣を、
「そらよっ!」
蹴りや体術で次々と
「あたしらの仲間に手を出したんだ相応の報いは受けて貰うよ!」
団員を引き連れながらも突貫して
「魔法を放って!」
指揮を執って魔導士達に魔法を放たせるティヒアも矢を放つ。
「ベル、アイカ。無事でいてよ……」
仲間を想い、動くティヒアに付き従う団員達もまた仲間を助けようと進攻する。
「ヒィィィイイイイイイイイイイイッ!」
「た、助けて、同族のよしみで助けてよ!」
悲鳴を上げて命乞いをする
「ミクロは容赦するなと言った。なら、容赦しない」
嗜虐的な笑みを浮かべるアルガナは次の獲物をみつけるべく歓楽街の奥へ進むとバーチェも団員達を引き連れて共に行動する。
「たく、人使いの荒い団長だぜ」
愚痴を溢すディックスを始めとする元【イケロス・ファミリア】達もミクロの命令通りに
あちこち巻き起こる一方的な戦闘に、非戦闘員の娼婦達は金切り声を上げて逃げ惑った。
一方的な蹂躙だ。
広大なオラリオの中で、欲望と姦淫の街が紅く染まっていく。
「【覇者】を潰せ!!」
「あいつを倒せ!!」
【ファミリア】を束ねる団長であるミクロを倒さんとばかりに攻撃を仕掛けてくる
「リュー、ここの指揮を任せる」
「……ミクロはどうするのです?」
「一足早く宮殿に向かう」
リューにこの場の指揮を任せてミクロは一足早く宮殿に乗り込む。
宮殿にたった一人で乗り込むミクロに
武器を抜いて迫りくる彼女達をミクロは一蹴する。
武器を使用せずに素手で圧倒するミクロは近くにいる
「イシュタルはどこだ?」
淡々と訊ねるミクロに
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!攻め込んでくるとはいい度胸じゃないかい!?」
哄笑と共にミクロの眼前に姿を現すのはフリュネ・ジャミール。
「………」
無言で歩みを止まらないミクロはまるでフリュネなんか眼中にないかのように突き進む。
それが気に入らなかったフリュネは頭に血が上って大戦斧を高々と振り上げる。
「無視するんじゃないよ!!」
「遅い」
その瞬間、フリュネの右腕は大戦斧もろ共吹き飛んだ。
それだけでは終わらず、ミクロの槍はフリュネの体を一瞬で切り刻んでいく。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」
眼で追えない程の槍捌きに驚愕に包まれるフリュネはようやく自身の右腕がないことに気が付いた。
「ぎっっ――――ギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」
絶叫を上げてあらん限りに仰け反ったフリュネにミクロは拳を作ってフリュネの顔面に拳を叩きつけて殴り飛ばす。
裂傷まみれとなった褐色の肌に潰された鼻。
世界で最も美しいとフリュネが称する巨顔は傷だらけ。
「アッ、アタイのっ、アタイの美しい顔ガあァ~~~~~~~~~~~~ッ!?」
空に向かって咆哮するフリュネの眼球が真っ赤に充血する。濡れた黒髪を肌に張り付かせ猛り狂う巨女は、理性を失いながらミクロに驀進した。
「コノクソガキィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!?」
残された左腕で掴みかかろうとする突進してくるフリュネにミクロは槍を持つ。
「――――――――――――っ」
突貫してくるフリュネの巨体にいくつもの風穴を空いた。
「その程度では死ぬことはない……」
血塗れとなるフリュネを見下す様に冷酷に告げるミクロにフリュネの全身から血の気が引いた。
【覇者】とまで呼ばれたミクロの圧倒的なまでの実力にフリュネの戦意は跡形もなく喪失する。
「ヒッ、ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?ゆっ、許しておくれよォ!?そもそもアタイが何をしたっていうんだァ!?こんなことされる謂われはないよォ!?」
「俺の
理由を述べるが泣き叫ぶフリュネには届かない。
「な、何でもするっ、何でもするから助けてくれェ!?そ、そうだっ、体、体で払うよっ、アタイと寝させてやるから見逃しなよォ!?」
ミクロに媚を売るフリュネにミクロはどうでもよさそうにするが媚びるのに必死なフリュネは気付かない。
「アタイ以外に素晴らしい女なんていないよォ!?このカラダにこの美貌、女神も裸足で逃げ出すってモンさぁ!こんなアタイを好き勝手にできるんだ、ほぅら、そそるだろうォ!?」
精神状態が不安定と判断したミクロはイシュタルの情報を聞き出せないと判断して上を向かおうと考えているとフリュネは醜怪な笑みを浮かべた。
「あんたの
瞬間、空気が激変した。
「………今、なんて言った?」
「あ、ああ………」
「……アグライアを貶したのか?」
背骨が氷に変わったかのように背筋が冷たくなるフリュネはミクロから放たれる濃密な殺意に呑み込まれる。
「止めた」
その言葉と同時に投げナイフがフリュネの右眼に突き刺さる。
「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!?」
「お前はどうでもよかったけど……ちょうどいい、イシュタルの見せしめとして痛めつけてやる」
「ッ!?や、止めておくれよ!!これ以上酷いことしないでおくれ!!」
命乞いをするフリュネの頬をミクロの拳が食い込んで壁まで殴り飛ばされる。
「アグライアは俺にとっての
救ってくれた。
世界の美しさを教えてくれた。
未来を与えてくれた。
生きる希望をくれた。
手を差し伸ばしてくれた。
感謝してもしきれない程の恩があるアグライアを貶したフリュネをミクロは許さない。
「……痛めつけるときに最も効果的な方法はなんだかわかるか?」
恐怖に顔を歪めて失禁するフリュネに問いかける。
「答えは相手が嫌がることを徹底的にすることだ」
そう、フリュネが大事にしている顔と体を痛めつける。
「殺さない程度に壊してやる」
それから数秒も経たないうちに宮殿から悲痛な叫び声が放たれる。