路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New77話

【イシュタル・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の抗争から二日後。

歓楽街を支配していた大派閥(イシュタル・ファミリア)の文字通り完全消滅あらゆる者に多大な影響を及ぼした。

冒険者、【ファミリア】、商人、ギルド、神々と例を挙げれば枚挙に暇がない。

死者こそは出なかったが歓楽街の抗争の爪痕は深い。

復旧には時間がかかり、【アグライア・ファミリア】は責任を追及され、罰金はもとより膨大な罰則(ペナルティ)が科せられることになった。

ギルドに召喚されたアグライアはあっさりと承諾し、ミクロは。

「俺の家族(ファミリア)に手を出したら潰す」

比喩ではなく文字通りにそう告げるとアグライアに頭を引っ張たたかれる。

人も神も関係なくこれまで以上の畏怖と恐怖が募る。

そして、主神を失った【イシュタル・ファミリア】の団員達はそれぞれの道を歩もうとしている。

アイシャを始めとする戦闘娼婦(バーベラ)達の殆どは自分達の【ファミリア】を壊滅させた【アグライア・ファミリア】に入った。

『行くところがないなら来い。歓迎する』

どうするかと悩んでいた戦闘娼婦(バーベラ)達にミクロはそれだけを告げた。

【ファミリア】を壊滅させたことに関しての謝るつもりはないが、それはそれとして放っておく理由もミクロにはないがために戦闘娼婦(バーベラ)達に道を示す。

イシュタルに信仰していない者や、強者を好む者、戦闘を楽しむ者達にとって【アグライア・ファミリア】はこれ以上にない環境だった。

誘われたから行こうみたいな感じの者も多い。

そして件の春姫もまた【アグライア・ファミリア】に入団した。

「……イシュタルがフレイヤに勝てると思うわけね」

写した春姫の【ステイタス】をミクロに見せる。

春姫の魔法【ウチデノコヅチ】は階位昇華(レベル・ブースト)

一定時間の間、発動人物の【ランクアップ】。

制限時間内に限りLv.を一段階上昇させ諸能力を激上させる。

反則級の超越魔法(レアマジック)に対してミクロは写した羊皮紙を燃やす。

「この程度の魔法でオッタル達に勝てるわけがない」

春姫の魔法を見たミクロの感想はそれだ。

強力な魔法なのは確かだが、それだけで【フレイヤ・ファミリア】に勝てるほど優しくも甘くもない。

自惚れもいいところだ。

仮に春姫の魔法をミクロに与えてミクロがLv.7になれたとしてもオッタルに勝てるかと言われたら否だ。

その程度で勝てるのなら今のミクロでもオッタルに致命傷は与えられる。

どちらにしろ【イシュタル・ファミリア】が【フレイヤ・ファミリア】に戦争を仕掛けられたとしても敗北は必須。

遅かれ早かれイシュタルは天界に送還される。

窓から中庭を見ると既に団員達と戦闘娼婦(バーベラ)達が馴染み模擬戦を行って、春姫は家政婦(メイド)の恰好でアイカと共に働いている光景が見えた。

「噂通りにやるねぇ、ベル・クラネル」

「……そう簡単に負けるつもりはありません!」

アイシャとベルの模擬戦の隣にはセシルがアルガナとバーチェに虐められていた。

アルガナとバーチェ曰くセシルのことを気に入ったらしい。

中々壊れないセシルを強くしたいらしいが、あれでは一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)だ。

「いやぁぁあああああああああああああああああああっっ!!」

悲鳴が部屋の中にまで聞こえてくるが特に気にしない。

取りあえずは頑張れと心の中で応援する。

「強くなったわね………」

「うん」

二人で始めた【ファミリア】が今となってはここまで成長して大派閥(イシュタル・ファミリア)を壊滅できるほどに強くなった。

今の【ファミリア】の実力なら二大派閥である【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】とそんなに遜色もないだろう。

「ここまで来れたのも全部貴方のおかげよ、ミクロ」

ミクロ達が頑張ってきたおかげでここまで来ることが出来たアグライアはミクロの頭を撫でるとミクロは首を横に振る。

「アグライアがいなかったら始まってすらいない。アグライアのおかげで俺はこうして家族(ファミリア)を作ることが出来た」

路地裏で出会ったあの時にアグライアに救ってくれたおかげでこうしていられる。

家族(ファミリア)と共に暮らせれる様になれた。

「ありがとう、アグライア」

「こちらこそありがとう、ミクロ」

礼を述べあう二人。

ミクロはアグライアから離れて部屋を出て行く。

「………だから守る。相手が誰であろうと」

神室の前で小さく呟いたミクロは通路を歩いて行き、本拠(ホーム)を出る。

人造迷宮(クノッソス)でリューが破壊の使者(ブレイクカード)の一人を倒してくれたおかげで残りはへレスを入れて四人。

だけど、破壊の使者(ブレイクカード)闇派閥(イヴィルス)と関わっている以上、そう簡単に倒せられる相手ではない。

まず人造迷宮(クノッソス)が厄介だがそこはディックスがこちらにいる以上それはそう難しくはない。

ディックス自身も血の呪縛から解放されて晴々しい表情をし、ミクロの指示には従う。

人造迷宮(クノッソス)を壊そうとどうしようと未練もないらしい。

ディックスの部下であるグラン達も自分達よりも実力が上であるミクロの言葉に従う。

攻めようと思えば攻めれるが闇派閥(イヴィルス)もディックスがこちらにいることは既に把握しているだろう。

なら、それ相応の対策が練られていてもおかしくはない。

備えておかなければ痛手を負うのはこちらだ。

「アイズ達、大丈夫かな……?」

【ロキ・ファミリア】は人造迷宮(クノッソス)で死者を出してしまった。

レヴィスとの交戦の際に創世魔法を人造迷宮(クノッソス)の破壊に使わなければと後悔する自分がそこにいる。

適当に歩きながらミクロはこれからの事について考えていると近くから聞き覚えのある声が聞こえた。

大通りから外れた裏道一角、壁に釣り下がる真っ赤な蜂の看板をした酒場『焔蜂亭』。

真っ赤な蜂蜜酒が名物のこの酒場はミクロの奢りでよく団員達と飲んでいる。

特にリュコスはこの酒場によく足を運んでいるを知っているミクロは土産に買って行こうと思い、中に入ると。

「上等じゃないかかい!表へ出な、【凶狼(ヴァナルガンド)】!」

「ハッ、面白れぇ!蹴り殺してやるよ!!」

怒気を露にするリュコスと獰猛な笑みを浮かべているベートがまさに一触即発状態。

ベートのすぐ近くにはアイズがどうしようかとオロオロとしていた。

囃し立てる酒場の客の声援が爆せ、二人は同時に駆けて蹴撃を放つ。

「そこまで」

「チッ……ッ」

「ミクロ……ッ!」

しかし、二人の間に入ったミクロが二人の攻撃を止めに入った。

【覇者】と恐れられているミクロの登場に酒場の熱が冷めていく。

「邪魔だよ、ミクロ!あたしはそいつをぶっ飛ばさないと気が済まないんだよ!!」

「邪魔すんじゃねえ!これは俺とこの(アマ)の喧嘩だ!!」

仲裁に入ったミクロに怒鳴る二人にミクロは拳を作って二人を強制的に床に沈める。

拳骨を食らった二人は床に倒れるとミクロは二人を見下ろしながら言う。

「第一級冒険者同士で喧嘩したらこの酒場にまで被害が出る。喧嘩ならダンジョン、もしくは外でしろ」

勿論二人もそれは知っているだろうが口から漂う酒の匂いで酔っていることはすぐに分かったミクロは二人を落ち着かせる為に床に沈めた。

あのまま下手に暴れたらどれだけの被害が出るかわからないからだ。

「ダンジョンまで我慢できないのなら俺が相手をするけどどうする?」

打撃に強いミクロと二人では相性は最悪。

下手をすればこちらの手足が悲鳴を上げてしまう。

「………わかったよ」

「……………興醒めだ」

起き上がる二人にリュコスは観念するようにミクロの言葉に従うがベートは白けたかのように酒場を出て行こうとする。

「ベート」

「あぁ?」

出て行こうとするベートにミクロは声をかける。

「酒代払えよ?」

飲んだかどうかは知らないが、と言うミクロにベートは長台(カウンター)店主(ドワーフ)に小袋を投げ込んで今度こそ出て行く。

出て行くベートを追いかけようとするアイズの腕をミクロは掴む。

「今のベートを追いかけるのはベートの為じゃない」

「………」

ミクロの言葉に足を止めるアイズはミクロに尋ねる。

「……ミクロはどうしてベートさんが人を見下しているかわかる?」

「………派閥が違うし、付き合いも短い俺に聞かれても答えられない」

ごもっともだ。

ミクロは【ロキ・ファミリア】じゃない上に付き合いもアイズよりも短い。

それで知っているかと訊かれても答えられるわけがない。

「だけど、ベートが優しい奴なのは知ってる」

「優しい………?」

人を見下し、暴言を吐いて傷つけるベートを優しい人と言われてもアイズはしっくりこなかった。

「アイズ、ベートを信じてやれ。俺が言えるのはこれぐらいだ」

ミクロはそれだけをアイズに告げてリュコスと共に酒場を去って行く。


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