路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

14 / 202
第14話

18階層から地上へと帰還したミクロとリューはティヒアに連れられ、【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)にたどり着く。

「おお、ミクロ。そなたであったか……」

沈痛の表情を浮かべるミアハはミクロ達へと声をかけた。

「ナァーザは?」

この場にいないナァーザを指すミクロの言葉にミアハを始めとする団員全員が俯くなかでミアハが代表するかのように奥の部屋へとミクロ達を連れて行くとそこには全身を包帯で巻かれ、右腕がないナァーザがベッドへと横たわっていた。

「……モンスターに食べられてしまったのですね、神ミアハ」

リューの言葉にミアハは頷いて肯定すると今までの出来事をミクロ達に話した。

ナァーザは中層へ向かってそこでモンスターに襲われて食べられ、駆け寄った冒険者のおかげで九死に一生を得た。

だが、モンスターに骨も残らず食べられた右腕だけはもう元には戻らなかった。

「……ナァーザの右腕に関してはディアンケヒトに頼むつもりだ」

苦虫を噛み締めるようにぽつぽつと話すミアハに団員達が声を上げた。

「お、お待ちください!?ミアハ様!【ディアンケヒト・ファミリア】と私達の【ファミリア】は……ッ!」

【ディアンケヒト・ファミリア】は【ミアハ・ファミリア】と同様回復薬(ポーション)の販売の他に、治療、専門的な治療術や道具(アイテム)を提供している。

だが、その主神であるディアンケヒトは天界の時からミアハと衝突していた。

犬猿の仲とも言える相手であるディアンケヒトに治療を頼んでしまうと足元を見られることが目に見えていた。

それがわかっているからこそ【ミアハ・ファミリア】の団員達は自分達の主神であるミアハを止めようとしたがミアハは団員達の言葉に決して首を縦には振らなかった。

「大切なナァーザをこのままにしてはおれん」

ミアハは団員達の言葉を振り切って一人で【ディアンケヒト・ファミリア】へと向かった。

「………」

ミクロはミアハ達を無視してずっとナァーザを見ていた。

前にポーションを買いに来たときはいつも通りだったのに数日見ないだけでこうも変わるものだとミクロは思った。

「冒険者は常に危険が付きまとう」

唐突にリューがミクロとティヒアにそう言う。

「危険が付きまとう以上、いつ命を落としてしまうかわからない。これは私達にも言えます」

深刻な表情で告げるリュー。

ダンジョンとはいつどこで命を落とし、死んでしまうかはわからない。

いつもミクロ達に必要以上な注意や警告はミクロ達に死んで欲しくない願いと優しさからきている。

散々言われてきたリューの言葉がナァーザを見て不躾ながら理解出来たミクロとティヒアは深く頷いて応えた。

Lv.が上がっても失うのは一瞬。

そう思ったミクロとティヒアはリューの言葉を胸に刻み付けながら【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)を出て自分達の本拠(ホーム)へと帰還。

帰還したミクロ達は誰一人口を開かなかった。

既に事情を把握しているアグライアもミクロ達の気持ちを察して何も言わなかった。

「私……ダンジョンを甘くみていたわ」

誰もが口を閉ざしている中でティヒアが口を開けて語り出す。

「ミクロやリューがいて私も安心してダンジョンに潜ってた。でも、それは運が良かっただけ。ナァーザには悪いけど、改めてダンジョンの怖さを思い知らされたわ」

浮かれていた、と告白する。

実力がある二人が前で戦っていてくれたからこそ、弓を引いて矢を放つことが出来た。

満身創痍で右腕が食われたナァーザを見て、ティヒアは思い直すこところがあった。

「ティヒア。その気持ちは私も同じです」

同意するリューも何度も似たような経験があった。

新しい魔法やスキルを発現させたり、【ランクアップ】して強くなったと思い油断してダンジョンで痛い目に遭うこともあった。

だから、ミクロ達に必要以上注意や警告もする。

「………」

二人の話を聞いて黙るミクロ。

自分の胸にあるもやもやとした気持ちが渦巻くなかでどうすればいいのかと考えていた。

ナァーザを見て最初に思ったのは死んではいないという理解だった。

満身創痍だろうが、右腕がなくても大して気にしなかった。

ダンジョンにおいても怖いと思ったことすらない。

モンスターを倒して魔石を集めれば金になる。

強くなればアグライア達が喜ぶ。

それぐらいしか考えていなかった。

自分に対する喜び、楽しみ、恐怖、苦痛がわからないのは自分が壊れているからだろうと理解していた。

だけど、胸に渦巻くもやもやした気持ちが何なのかわからなかった。

「……アグライア、リュー、ティヒア」

この場にいる【ファミリア】の仲間に声をかけると全員がミクロに視線を向ける。

「俺はどうすればいいと思う?」

答えを求めた。

胸に渦巻く気持ちを確かめる為に、答えを知る為に全員にどうすればいいのかと問いかけるとアグライア達は笑みを浮かばせながら答えた。

「ミクロ。それは貴方自身で決めることだ」

「ミクロが正しいと思ったのならそれに文句は言わないわ」

「貴方が考えて決めなさい」

三人ともミクロ自身に答えを考えさせた。

どうすればいいのかと頭を抱えて悩みに悩んだ末、ミクロは自分の答えを見つけた。

「俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

ディアンケヒトに何度も頭を下げたミアハのおかげでナァーザの右腕には義手が取り付けられた。

銀の腕(アガートラム)』が取り付けられた義手は動きに支障もなく、自由自在に動かすことが出来る。

右腕はミアハのおかげで何とかなったが失ったものは大きかった。

義手にかかった法外な金額を課せられただけではなく、ナァーザ以外の団員は【ファミリア】を辞めて行った。

中堅はあった【ミアハ・ファミリア】はそれを契機に、一気に崩壊、落ちぶれてしまった。

更にナァーザはもうモンスターとは戦えなくなった為、ダンジョンに潜ることはできない。

「……ごめんなさい、ミアハ様。私のせいで……」

「そなたのせいではない。気を病むな」

自己罵倒するナァーザにミアハの言葉で口を噤んだ。

「………」

「………」

重苦しい静寂の中でミアハは今後の事を話した。

「ナァーザよ。そなたはアグライアのところに行く気はないか?」

「え……?」

突然の言葉に驚くナァーザだが、ミアハは続けた。

「このまま私のところにいてもそなたに負担がかかる。それならアグライアのところに改宗(コンバージョン)して新しく始めるの一つのも考えだと私は思う。何、安心しろ。借金は私が何とかする。そなたに負担はかけんさ」

ミアハはずっと考えていた。

信頼を寄せていた多くの団員達は消え、残ってしまったナァーザに負担をかけてしまうくらいなら神友であるアグライアに引き渡そうと。

「アグライアは信頼できる私の神友だ。きっとそなたを受け入れてくれる。それにミクロ達もいる。寂しくはなかろう」

主神として、神として自分の子に出来る最大限の事を考えた結論をナァーザに話すミアハ。

「そなたに辛いことを押し付けているのは重々承知している。しかし、そなたはまだ未来ある若者だ。ここでそなたにまで苦しいことおっ!?」

「私に相談もなく何を勝手に決めているのかしら?ミアハ」

「ア、アグライア……」

ミアハの頭にチョップを叩き込んだアグライアは叩かれた頭を擦っているミアハに言った。

「ミアハ。貴方は私を薄情者にしたいの?貴方は私達に手を貸してくれた。その恩を返さない程薄情になった覚えは私はないのだけど」

「そ、そのようなことは……」

「なら、恩を返させなさい。貴方達が背負っている借金を私達も手伝ってあげる」

アグライアの後ろから出てきたミクロはミアハ達に言った。

「俺達はこれからもダンジョンに潜る。その際、ポーションなどを【ミアハ・ファミリア】のみで購入する。だからこれにサインして欲しい」

契約書を渡すとミアハは目を見開いた。

「……アグライア、ミクロ。そなた達の気持ちは嬉しいがこれではそなた達に得がない」

ミアハに渡した契約書にはポーションなどを【ミアハ・ファミリア】のみで購入すると書かれているがそれではミクロ達に得がない。

団員もいなくなって借金があるミアハ達にとってはありがたい話ではあったが、ミクロ達には何も変わらず得もない。

むしろ、これから更にダンジョンに潜るようになったら【ディアンケヒト・ファミリア】のようなより良い製品の販売を行ってるところに行く方が団員達の安心安全に繋がる。

「……ミクロ。私も気持ちは嬉しいけど駄目……」

ナァーザもミアハと同じ意見だった。

自分のせいでミアハに迷惑をかけ、ミクロにまで迷惑をかけたくなかった。

「俺はナァーザを信頼している」

「――ッ!?」

唐突の言葉に顔を上げるナァーザ。

「だから信頼できるナァーザにポーションを作って欲しい。これからもダンジョンを潜る俺達を助けて欲しい」

その言葉にナァーザ達は驚く中でアグライアは数日前の事を思い出していた。

『俺は……ナァーザを助けたい。何を話せばいいのかわからない俺に話を振ってくれた。自分に何の得もないのにポーションを無料(タダ)でくれる時もあった』

会う度に色々なことを話しかけて来てくれた。

ポーションを試作品などと言って何回も無料(タダ)で貰った。

『恩を返したい………友達(ナァーザ)を助けたい』

信頼できる友達であるナァーザを助けたいというその言葉にアグライア達は笑みを浮かばせながらミクロの考えに協力して考え合った。

一方的な助けは逆に迷惑になることを考えて契約書を作り、自分達が確実にポーションを買うことにより、売り上げを上げる。

更に自分達が頑張って名を上げたらその得意先であるナァーザ達のところに客足も増える。

「ナァーザ。俺はよくリューに無茶をするなって怒られる。だから、無茶をしても助かるようにいいポーションを作って欲しい」

思いついた正直な気持ちを話すとナァーザは小さく笑った。

「……無茶するの前提は駄目。私みたいになったら駄目」

「わかった」

頷くミクロ。

「フ、フフ……」

ミクロのあまりの正直さにナァーザは思わず笑い、何故笑っているのかわからずに首を傾げるミクロ。

それを見たミアハは落ち込んでいたナァーザがまた笑えるようになったことに安堵しながら契約書にサインをした。

「アグライア。そなたは本当に良い子を持ったな」

「当り前よ。私の子なのだから」

契約書を受け取るアグライアは自信満々に答える。

「これを機会に貴方も少しは自分の子や私を頼りなさい」

「うむ。そうするとしよう」

団員一人を残していなくなってしまった【ミアハ・ファミリア】。

多額な借金をこれから返していく借金生活を送ることになる。

だけど、主神であるミアハも眷属であるナァーザも前向きに頑張れる気がした。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。