路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New81話

炎の付与魔法(エンチャント)

ベートの魔法を見て真っ先にそう思った。

四肢に纏う灼熱の炎は見ただけでも強力な出力を放出して距離があるにも関わらずに熱気がミクロを襲う。

「【駆け翔べ】」

風を纏い、熱気を防ごうと魔法を発動するミクロにベートは強く地を蹴った。

跳躍し、右手の火力を爆発させてその『炎の牙』を振り上げた。

「――――――――」

振り下ろされた一撃をミクロは風で相殺する。

「ぐっ………」

だが、完全に相殺することは叶わずミクロは後方に吹き飛ばされ、ベートは追撃する。

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

両手両足に宿る『炎の牙』がミクロに襲いかかる。

風を纏い、槍を振るうミクロだが途中で気付いた。

ベートの炎がミクロの風を吸収していることに。

魔力吸収(マジックドレイン)……ッ!?」

魔法を、『魔力』を喰らい膨れ上がる火炎はミクロの風を吸収するにつれて出力、威力が増加していく。

なら、とミクロは魔法を解呪して火傷を負いながらもベートの火炎を貫きベートの体に傷を与える。

「面倒くせぇ武器を使いやがって……ッ!」

毒つくベートにミクロも攻撃の手を緩めない。

ミクロが持つ魔武具(マジックウェポン)には破壊属性(ブレイク)が付与されている。

その属性通り例え魔法だろうと破壊する。

「「あああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」」

咆哮を上げる二人は防御を無視して攻撃を繰り出す。

ミクロの長槍がベートの体を傷つけ、損傷(ダメージ)を与える。

ベートの『炎の牙』はミクロの身を焼き、損傷(ダメージ)を与える。

互いに一歩も譲らない攻防の中でミクロは気付いた。

ベートに傷を与えるたびにベートの魔法が膨れ上がっている事に。

損傷吸収(ダメージドレイン)

傷を負う度にベートの魔法は膨れ上がる。

魔力吸収(マジックドレイン)損傷吸収(ダメージドレイン)

それがベートの魔法【ハティ】の本質。

魔法はベートに傷を強い、その代償として力を得る。

身に刻まれた損害(ダメージ)までも糧として喰らう。

ベートが傷付くことで牙は何ものよりも強靭になる。

それがお前の本質(こころ)かとミクロは頷いた。

獣化に二つの属性を有する強力な魔法を持つベートの本領にミクロは内心で感嘆する。

やっぱりお前は強いとベートを称える。

「ミクロッ!!」

膨れ上がる火炎を四肢に纏い吠えかかるベートは迫りくるミクロの長槍を避けずにその身を貫かせる。

激痛がベートを襲うがそんなことは今は関係ない。

無理矢理近づいて自分の領域に連れて来たミクロの腕をベートは掴んだ。

「くたばりやがれッッ!!」

放たれる拳と蹴撃の軌跡をミクロは一身に喰らう。

両手両足、二対四本の炎の牙は敵を食い殺す為の四つの『牙』。

手に宿す上牙(オルガ)で敵の肉を裂き、下牙(ベネト)で敵の四肢を砕く。

太陽も、月も、全て喰らってやろうと、巨狼はその顎を開いた。

「らあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

雄叫びを上げながらベートは攻撃の手を緩めない。

凄まじい牙の連打(ラッシュ)がミクロの体を削いでいく。

そして掴んでいる手を離し、狙いを澄ました最高速度の蹴撃をミクロに炸裂させる。

凄まじい勢いで後方へ吹き飛び、壁に激突してもその勢いは緩まずに貫いていく。

瓦礫が崩れる音とと共に静まり変える空間の中でベートは自身の身を貫いている長槍を引き抜いて地面に捨てて傷を焼いて応急処置を促す。

「クソが……相変わらずどんな耐久力だ………」

炎を宿る両手両足が痺れ震える。

獣化を発動し、尚且つ魔法までも付与した自身の両手両足はミクロに攻撃しずぎたせいで損傷(ダメージ)を受けている。

手の骨は砕け、脚の骨にも罅が入っている。

異常なミクロの耐久力にベートは限界が来る前に止めをさした。

殺すつもりで攻撃をしたがミクロは生きてはいるだろう。

そのつもりでしなければミクロに勝つことは不可能だ。

一切の加減をしていないベートの渾身の攻撃は確実にミクロに炸裂した。

勝利を疑わないベートは魔法を解呪してミクロが救出しようと動こうと思った時にベートの耳はピクリと動いた。

ガラガラと瓦礫が動く音とと歩く足音。

「………やっぱり強いな、ベートは」

「………てめえ」

姿を現したミクロにベートは驚愕に包まれる。

生きてはいるだろうとは思っていた。

だが、それでも戦闘続行は不可能なほど確かに攻撃した。

しかしミクロは立って歩いている。

その身に火傷と損傷(ダメージ)を負いながらもミクロはそれでも立ち上がった。

「このスキルを発動したのはエスレアの時以来だ」

ドクン、と心臓が跳ね上がるように鳴り、壊したいという衝動に駆られる。

破壊衝動(カタストロフィ)』を発動させることにより、ミクロの全アビリティが超高補正される。

直後――――ミクロは地面を粉砕し、ベートへ砲弾のごとく爆走した。

「ッ!?」

先程とは比べ物にならない程の加速に驚愕するベートは両腕を交差さしてミクロの拳を防ぐ。

「―――――――ッッ!!」

だが、ボキバキと音を立ててベートの腕の骨は砕けて、殴り飛ばされる。

損傷(ダメージ)を負う度に全アビリティ能力超高補正されるミクロのスキルは傷を負えば負う程強くなる。

先程のベートの連打(ラッシュ)がミクロのスキルをかつてないほど上げた。

ベートの獣化とは違い、底はない。

威力、耐久、速度は完全に今のベートを上回った。

更にミクロは詠唱を歌う。

「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう。礎となった者の力を我が手に】」

詠唱を口にして魔法を発動する。

「【アブソルシオン】」

そして、ミクロはその魔法を詠唱する。

「【戒められし悪狼(フロス)の王―――――】」

その詠唱を聞いてベートは眼を見開いて驚愕する。

「【一傷、拘束(ゲルギア)。二傷、痛叫(ギオル)。三傷、打杭(セビテ)。餓えなる涎が唯一の希望。川を築き、血潮と交ざり、涙を洗え】」

ミクロの魔法【アブソルシオン】は詠唱の把握と打倒が条件とされている。

そして、その一つは以前ベートと戦い既に打倒している。

「【癒えぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

先程の詠唱を聞いた時にミクロは条件を満たしていた。

「【世界(すべて)を憎み、摂理(すべて)を認め、(すべて)を枯らせ】」

故に使える。

ベートのみが使えるはずだったその魔法を。

「【傷を牙に、慟哭を猛哮に―――――喪いし血肉を力に】」

本来であれば必要ないのかもしれないその魔法をミクロはあえて使う。

ベートに完全勝利する為に。

そして知って貰う為にミクロは詠唱を歌う。

「【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

お前だけが傷を背負う必要はないことを知って貰う為にミクロはその魔法を行使する。

「【その炎牙をもって――――――平らげろ】」

詠唱を完了させてミクロはその(きず)を解放する。

「【ハティ】」

ミクロの四肢に宿る灼熱の炎。

ベートから受けた損傷(ダメージ)も含めてその火炎は降り注ぐ雨を蒸発させ、熱波を放つ。

「―――――――ざけんなっ!!」

怒りで表情を歪ませるベートは突貫する。

両腕が砕かれて尚ベートは攻撃の手を緩めることはしない。

スキルで更に強くなっている上に自身の魔法を使っていようが関係ない。

強者(ミクロ)を喰らう為にベートは牙を解き放つ。

火力を最大限に放出した渾身の蹴撃をミクロに炸裂させる。

「―――――――――なっ」

だが、ミクロはそんなベートの蹴撃を掴んで防いだ。

そして、四肢に付与されているベートの火炎がミクロに吸収されていく。

解き放たれたベートの『牙』をミクロが喰らっている。

ミクロとベートでは決定的な違いが一つある。

ベートは自身の魔法を嫌い、『魔力』をちっとも極めていない。

ミクロは『魔力』も極めてきた。

強者を喰らうベートの牙は自分よりも強い強者(ミクロ)に顎ごと引き裂かれた。

『牙』を失ったベートにミクロの炎を纏った回し蹴りをその身に受け吹き飛ばされる。

「がは………ッ!」

壁に激突して血反吐を吐き散らすベートにミクロは悠然と立ち尽くす。

ベートは全力を出し切って尚ミクロには届かなかった。

それでもベートはミクロに飛びかかった。

体を焦がす衝動に身を任せ、怒りの雄叫びを上げながら飛びかかってくるベートをミクロは迎え撃ち、叩きつける。

何度も飛びかかるベートにミクロは何度も叩きつける。

満身創痍のベートにミクロは一切の加減をしてはいない。

少しでも加減を施せばそれはベートに対しての侮辱だ。

何度目になるかわからないほど地面に叩きつけるミクロにベートはついに飛びかかられない程に動けなくなった。

それでもベートは拳を握りしめていた。

「………お前は本当に強いな、ベート」

そんなベートにミクロは心からの称賛の言葉を送る。

「だからこそ俺はお前が欲しい」

体だけでなく心までも強いベートをミクロは欲した。

「俺がお前に居場所を与える。お前の傷を俺も半分背負う。強くなりたいのならいつでもかかってくるといい。全力でお前を倒してやる」

ベートを見下ろす強者(ミクロ)の言葉はベートの耳に入る。

「もう一度言う、【アグライア・ファミリア】に来い。俺がお前の全てを受け入れる」

膝をついて手を差しだすミクロにベートはその手を見据える。

ああ、きっとその通りだろうとベートも察した。

ミクロは自分の全てを受け入れて更に強くなるだろう。

自分だけではなく【ファミリア】全体も今以上に強くなっていくだろう。

誰もが強くなればもう弱者が泣き喚く姿も、目の前で誰かが野垂れ死むこともないのかもしれない。

そう思わさせる何かをミクロは持っている。

「共に未来を創ろう。その為にもお前の力を貸してくれ」

懇願するミクロの言葉にベートは頭を上げてミクロと目を合わせる。

ミクロが本心で告げているのはわかる。

ミクロと共に行けばもう苛つくこともないだろう。

自分の傷を受け止めてくれるだろう。

だからベートは。

ミクロの手を弾いた。

「……………どうしてだ?ベート。どうして拒む?」

「………るせぇ」

ミクロの手を弾いて上向きで寝転がるベートは手で顔を覆う。

「てめえは強えだろうが……弱者(おれ)に構ってんじゃねえよ………」

お前(ミクロ)は強い。だからお前がいるところなら誰も哭くことはない。

だから自分がいなくても何も問題はない。

ベートの頬の刺青に一筋の涙が流れる。

こんな不器用な自分を受け入れようとしてくれたお節介な奴がいることが嬉しかったとは口が裂けても言えない。

傷だらけの狼の隣にミクロは腰を下ろした。

高等回復薬(ハイ・ポーション)いる?」

「………よこせ」

気が付けば雨は止んでいた。


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