路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New83話

闇派閥(イヴィルス)の事件とベートの誤解も解けてオラリオはいつもの平和な日々を取り戻しつつある。

闇派閥(イヴィルス)の幹部であったヴァレッタはフィン達【ロキ・ファミリア】の手によって捕縛されてギルドに投獄された。

だが、そこで問題が生じた。

闇派閥(イヴィルス)の情報を聞き出そうとフィン達が足を運んでいた時はヴァレッタは何者かの手によって殺されていた。

情報源であるヴァレッタが殺されて新たな情報を入手することが出来なかった。

ミクロもその際に足を運びヴァレッタの遺体を見てみたが、酷いの一言だ。

喉を潰されて、両手両足が鋭い何かによって輪切りのように切断されて牢屋の中に吊るされていた。

情報を抹消するにしても必要以上なやり方に犯人は殺人鬼(シリアルキラー)

そして更に問題が一つ。

以前にミクロが捕らえた破壊の使者(ブレイクカード)の一人、レミューが脱獄した。

それを知り、犯人はまだミクロが知らない破壊の使者(ブレイクカード)の誰かだということは判明できた。

レミューの脱獄により、破壊の使者(ブレイクカード)は残り五人。

ミクロはもっと強くならなければと心を改める。

訓練をしたいが、今はそれは出来ない。

先日のベートとの一件以来、ミクロは主神であるアグライアの命によって謹慎処分を言い渡されている。

中庭で訓練することが出来ないミクロはせっかくできたこの時間を団員達の部隊編成に使っている。

「魔導士部隊の指揮はスィーラにして後衛の全体指揮をティヒアに任せて……中衛はリューがいいか………」

【ファミリア】が大きくなって団員も増えていき、それぞれの得意とする配役に団員達を振り分けていく。

指揮能力が一番高いのはミクロでその次はティヒアだ。

一番高い攻撃力を持っているのはリューで次にアルガナ達。

前衛壁役(ウォール)はカイドラ達が適しているが、前衛壁役(ウォール)ができる者は少ない上に深層だとまだカイドラ達ではLv.が足りない。

前衛攻役(アタッカー)と中衛をこなせれる者が多い為に防御よりも攻撃を優先させて、防御は魔道具(マジックアイテム)で補う。

それとヴェルフに次の遠征までにクロッゾの魔剣を打って貰えば何とかなるだろうと推測を立てる。

あれこれと配役を考えているとミクロの後ろから手が伸びてきた。

「ミ~クロ君。少し~休憩にしない~?」

「アイカ」

後ろから抱き着いてきたアイカに特に驚くことなく抱き着かれる。

肩に顎を置いて羊皮紙を覗き込むアイカはそれを見て苦笑を浮かべた。

謹慎を受けて少しは落ち込んでいるかと思えばまさかの部隊編成を考えていたミクロに反省という言葉はあるのだろうか。

いや、反省はしたのだろう。

反省した上で謹慎中の時間を利用して次のことを考えている。

ミクロに頬ずりしながら疲れを取ったアイカはトレイの載せている飲み物を机に置く。

ミクロ専用の家政婦(メイド)としてしっかりと尽くすアイカが淹れてくれた飲み物を飲んで一息入れる。

「美味しい」

「ふふ~ありがとう~」

『うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああっっ!!』

褒められ微笑むアイカとミクロの耳にセシルの悲鳴が聞こえたが、どうせまたアルガナ達に鍛えられているだろうということで聞き流す。

セシルの悲鳴を聞いて後で慰めてあげようと(セシル)のことを思うアイカは再びミクロに抱き着く。

「ミクロ君の~魔道具(マジックアイテム)のおかげで前は助かったよ~ありがとう」

「どういたしまして」

【イシュタル・ファミリア】に人質として捕まった際にミクロの魔道具(マジックアイテム)のおかげで脱出することが出来たアイカはお礼を言うがミクロは大したことはしていないようにあっさりと感謝の言葉を受け取る。

飲み物を飲んで一息入れているミクロにアイカは少し悔し気に唇を尖らせていた。

先程から背中に自慢のものを当てているのに一向にそれらしい反応をしないミクロに少なからずショックを受けた。

大きくて触り心地だって自信がある自分の胸を当てながらどうしようかと考える。

押し倒して自分の手で優しく卒業させてあげようかと考えるが、それでも反応しなかったら女としての自尊心に大きな傷ができる。

そうなればいくらアイカでも立ち直れる自信がない。

押し倒すことはきっと容易だろう。

ミクロは強いが身内には優しいし、そこに敵意などがなければ抵抗などしてこないのはベッドに潜り込んで一緒に寝むり、抱き枕にしているからよくわかる。

ベルのようなわかりやすくて初々しい反応でなくても少しは反応してくれないと女としての誇り(プライド)が傷付いてしまう。

この男の子(ミクロ)には性的欲求がないのか、もしくは自分達の事を身内としか見ていないのか。本当に悩みどころだ。

「はむ」

「……くすぐったい」

耳を甘噛みしても平淡に返される。

もう少しそれらしい反応して欲しいと思うアイカは机の上に置かれている魔導書(グリモア)に手を伸ばす。

「ミクロ君、これは~?」

部屋を掃除する際でも見当たらなかった見覚えのない魔導書(グリモア)にミクロは呆気なく答える。

「さっき作ってみた。後でセシシャに渡す予定」

魔導書(グリモア)ってそう簡単に出来るものだっけ?

そんな疑問がアイカの脳裏を過る。

魔導書(グリモア)は『発展アビリティ』の『神秘』と『魔導』という希少スキルを持っている者しか執筆できない貴重書。

確かにミクロはその希少スキルを発現させてはいるが、そうさも当然のように執筆してしまうあたり魔導書(グリモア)の貴重性が欠けていく気がしてならない。

「……前の遠征で金を稼いでこなかったことにセシシャが怒ってた」

前回の【ロキ・ファミリア】との遠征で手に入れた魔石は半分に山分けという形にしたが、途中で起きた毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)のアクシデントがあり、【ロキ・ファミリア】の団員を治療するに当たって貸しを作ると同時に金を使ってしまった。

遠征に使用した費用と報酬の分を引いて多少なりのマイナスが出来てしまったことに冒険者兼商人のセシシャは不満をミクロにぶちまけていた。

経理も担当しているこちらの身になって欲しいなどと色々言ってきたためにご機嫌どりという意味も含めてミクロは魔導書(グリモア)を作製した。

「あはは……これはセシシャちゃんもビックリするね~」

苦笑しながら今からこの魔導書(グリモア)を手にするセシシャの驚く顔が目に浮かぶ。

魔導書(グリモア)を置いて改めて部屋を見ると全ては探索(ダンジョン)に必要とされるものばかりで娯楽らしい娯楽などはない。

娯楽のことがよくわからないとよく聞くがやはり多少は遊びを覚えたほうがいいとアイカは考えてしまう。

ミクロの為ならいくらでも身体を張って教えてもいいが、そういう理由でしてしまうと流石にリュー達に気が引ける。

「……本当に罪な男の子だよ~」

ミクロの頬をつつきながら小さく溜息を出す。

何人の女を手籠めにすれば気が済むのやらと内心でぼやくアイカは一枚の羊皮紙を手に取って見た。

「あ、それはベルの専用武器(オーダーメイド)の設計図。今度ヴェルフと相談して作る予定」

「ほぁ~」

ミクロに専用武器(オーダーメイド)を作って貰えるなんて出世したな、と(ベル)の成長に感動を覚える。

「今のところベルのスキルに耐えて、応用に使えるように考えてる。後は俺とヴェルフの技術力次第でまだ改良は可能」

「凄いな~」

(ベル)にそんな凄いスキルがあることに少し驚きながら図面を眺める。

小さな文字がずらりと並べられているその中央には一本に剣が描かれている。

完成予定図なのかと思っているとノックする音が部屋に響いた。

「失礼します。団長、ギルドから指令が届きました」

「わかった」

団員から受け取ったギルドの指令を一通り身を通してミクロはポツリと言う。

「ラキア王国が侵攻してくるのか」

ちょうど部隊で動ける練習をしなければと思っていた矢先にちょうどいい練習相手が向こうからやってきた。


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