路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New84話

ラキア王国。

大陸西部に位置する君主制国家にして、軍事国家。その実態は国家系の【ファミリア】であり、主神アレスが眷属達とともに築き上げてきた【アレス・ファミリア】だ。

兵士、軍人は全て『恩恵』を授かった戦闘員であり、軍神アレスの神意によって遥か昔日から戦争に明け暮れていた。

そんな王国(ラキア)が新たな軍事行動を開始した。

迷宮都市オラリオ『世界の中心』と名高いその都市へ出兵、紅の軍旗をはためかせた。

行軍する兵士の数は、三万。

大平原で軍馬の嘶きが轟く。

無数の騎馬が驀進し、騎兵隊は進路上のあらゆるものを蹴散らし粉砕する。

それは多大な突破力を秘めた戦場の大槍に相違ない。

都市管理機関(ギルド)強制任務(ミッション)を発令、都市に所属する複数の派閥にこれを迎撃するよう出陣させた。

その中には【アグライア・ファミリア】も入っている。

 

そして、その騎兵隊の前に一人の少女が立ちはだかる様に立っていた。

 

純白な革鎧(レザーアーマー)と大型のマントを装備し、その背中には大鎌を背負う。

その少女の姿に一瞬の動揺を見せるが、すぐに歯牙にもかけないかのように嘲笑っているとその手に持つ得物に眼を見開いた。

少女は手に持つそれを大きく振り抜いた。

「『風牙』!」

緑色の輝きを放つその剣の力を開放し、振るわれた刀身より生み出されたのは凄まじい突風。

 

『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?』

 

吹き飛ばされていく騎兵隊にセシルは再び魔剣を振るって第二波を起こす。

「『クロッゾの魔剣』だ!」

「逃げろ!!」

叫び、逃亡を図る騎兵隊にセシルが使っているのはヴェルフが打った『クロッゾの魔剣』。

かつては不敗神話さえ誇っていたその魔剣の力で今は自分達を脅かす恐怖の象徴とされている。

逃げる騎兵隊にセシルは困ったように頬を掻いた。

「いいのかな……?」

あっさりと逃亡していく騎兵隊にセシルは申し訳ない気持ちになりつつも『眼晶(オルクル)』で陣を構えているミクロに通信を取る。

「お師匠様。作戦通りに騎兵隊が逃亡しました」

『わかった。セシルは一度帰還しろ』

「はい」

セシルに指示を飛ばし、陣を構えているミクロは別の『眼晶(オルクル)』で逃亡している騎兵隊が向かっている場所で待機しているリュコス達に指示を飛ばす。

「リュコス。もうすぐ騎兵隊がそっちに行く。目視出来次第、捕縛」

『了解』

ミクロの指示を了承するとミクロは他の団員達にも指示を送る。

「ティヒア達は敵の真ん中に魔法をぶつけて敵勢力を混乱させて動きを封じろ。アルガナ、バーチェ達の遊撃部隊はティヒア達が取り逃がした敵を捕縛。ベル、お前は森の方へ行って敵の勢力と情報を確認して来い。リリはベルの補佐だ」

部隊別に分かれている団員達にそれぞれの指示を送ると全員はそれに有無言わずに従う。

ミクロは部隊を大きく四つに分けた。

一つは機動力がある獣人を集めた機動部隊。

一つは遠距離での攻撃、魔法を得意とする魔導士部隊。

一つは戦闘に特化しているアマゾネスの戦闘部隊。

最後に個々で行動させて情報を集める偵察部隊。

初めての部隊編成は個々の長所を活かせるという基準で分別したが、まだ調整がいると判断したミクロの隣にはヴェルフが胡坐をかいていた。

「……俺は何もしなくていいのかよ」

「敵はお前を執拗に狙ってくる可能性がある」

ヴェルフが打つ『クロッゾの魔剣』を狙ってくる可能性がある以上はヴェルフを戦場に立たせるわけにはいかない。

「お前はその図面を見て気付いたことがあれば訂正を入れてくれ」

「わかってる………」

ベルの専用武器(オーダーメイド)の設計図と睨めっこするヴェルフ。

「『クロッゾの魔剣』使って敵の心は少なからず動揺を見せ始めている頃か…」

ミクロがセシルに『クロッゾの魔剣』を使ったのは【アレス・ファミリア】の精神に揺さぶりを与える為だ。

不敗神話を誇っていたその象徴とされる『クロッゾの魔剣』を振るう側から振られる側に立たされたことに何も思わない訳がない。

精神(こころ)に恐怖という種を与えるミクロは次の手に移行する。

「おのれぇぇぇぇっ、【アグライア・ファミリア】!『クロッゾの魔剣』を使うとはどういうことだ!?」

「その【ファミリア】に『魔剣』を打てるヴェルフ・クロッゾがいるという情報は知っているでしょう?それに【アグライア・ファミリア】はここ数年で急激に力を上げてきた【ファミリア】。その団長を務めている【覇者】ミクロ・イヤロスの指示によるものでしょう。狙いはこちら側の士気の低下かと」

咆哮を上げる【アレス・ファミリア】の主神アレスに冷静分析を行う王国(ラキア)の第一王子―――【アレス・ファミリア】の若き副団長を務めているマリウス・ウィクトリクス・ラキアは盛大に溜息を吐く。

「我等の過去の栄光の象徴をほいほい使いよって!」

「――――報告しますっ!【アグライア・ファミリア】の団員達が西に展開していた部隊を壊滅だけでなく、森に伏兵していた部隊も壊滅されました!」

「―――報告しますっ!拠点の一部が全壊。部隊も全員捕縛され、身代金を要求してきました!」

「なにっ!?いくら何でもそこまで速く壊滅するわけがなかろう!?」

展開していた部隊も伏兵も拠点も僅かな時間であっという間に壊滅状態に追い込まれたアレスはその報告が信じられなかった。

しかし、それを可能とするのがミクロの魔道具(マジックアイテム)だ。

ミクロが作製した『眼晶(オルクル)』から伝令に人員を割く必要もなく、姿を消して奇襲することも可能とする。

あらゆる魔道具(マジックアイテム)を作製してきたミクロと団員達の個々の能力を合わせ持てばその迎撃速度は通常よりも速く終わらせることが出来る。

「――――報告します!一部の兵士たちが戦意を喪失!恐らく『クロッゾの魔剣』の脅威に当てられたせいかと!」

「ぬううっ………っ!」

「アレス様!先ほど、【アグライア・ファミリア】の者に捕縛された一兵が伝言と共に解放されました!」

「伝言だと!?よし、通せ!」

開放された一兵を本営に連れてくるとその一兵は恐る恐る口を開いた。

「で、伝言通りにお伝えします……『弱すぎ。もう少し実力をつけてくるか、まともな戦法を身に着けてから進攻してこい。部隊練習にもならない』……だそうです」

「おのれぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」

馬鹿にされたアレスは顔を真っ赤にして憤慨する。

傍にいる副官は疲れたように肩を落とした。

その間、ミクロは面倒そうに欠伸をして報告を待っていた。

「こんなに弱いのか……王国(ラキア)って」

『量より質』と呼ばれているこの神時代において、能力(ステイタス)の上限が精々Lv.3の王国(ラキア)に後れを取るわけがないのはミクロも知っていた。

ギルドから【イシュタル・ファミリア】を壊滅した罰則(ペナルティ)もあってどの【ファミリア】よりも奮戦しているが、正直なところ拍子抜け。

数はこちらより遥かに多いからそれを活かした戦術、戦法などを繰り出してくると考え、万全の準備を行って来てみればせっかく考えた部隊編成を満足に活かせれないほど王国(ラキア)は弱かった。

「いっそのこと俺が敵の本営に突っ込んで終わらせるか?」

「止めなさい。それは向こうが可哀相です」

面倒になってきたミクロはそんなことを考えているとリューに止められた。

たった一人に全滅させられれば一生モノの心の傷(トラウマ)が出来るのが容易に想像できたリューはそれを止める。

ミクロならやりかねないからだ。

「取りあえず、他の【ファミリア】に伝令でも送るか……」

ミクロは現在の状況を他派閥に知らせる為に『眼晶(オルクル)』を使用してセシルに伝令を頼んだ。

 

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