迷宮都市オラリオに出兵するラキア王国。
オラリオより離れた広野でミクロは欠伸をしながら
たまには自分が動かないとと思ったミクロは軍隊で動いている兵士達を見つけたが、
武器を捨てて逃走するが、当然のようにミクロは追いかけて時には並行詠唱しながら魔法で吹き飛ばして、時には素手で殴り飛ばしていたら兵士たちの山ができていた。
敵軍の士気を下げるという意味でも兵士の山は役に立つので取りあえずはそのままにして休憩代わりに兵士達を椅子代わりにしている。
「弱い………」
ぼやくミクロ。
だが、
特にミクロにとって冒険者になってからずっと強者と戦い続けてきた。
だからどうしてもそう感じてしまう。
「…………」
そろそろ帰ろうからと腰を上げるミクロの視界に不意にあるものが目に入った。
「…………馬」
それは
ミクロの足元にいる軍隊を率いていた部隊長が乗っていた軍馬が主を探しているかのように付近をうろついているのを見てミクロは思った。
「そう言えば馬に乗ったことがないな……」
【ステイタス】が育った冒険者の方が速く走れる。
当然Lv.6のミクロの方が馬よりも速く走れるが、乗ってみたいという好奇心が勝ったミクロは兵士たちの山から馬のところまで跳んで着地すると馬は驚き、後退りする前にミクロは馬に跨る。
「っと……」
だけど、跨るミクロを振り落とそうと暴れる馬にミクロは手綱を握りしめる。
「どうどう」
宥めるが、逆効果。
より暴れるようになった馬にミクロは一息ついて。
「従え」
「―――ッ!!」
圧力を込めた一言で馬を従えさせた。
所詮は動物。
圧倒的強者の前には平伏すしかなかった。
「よしよし」
大人しくなった馬の背をポンポンと優しく叩くと手綱を握りしめて馬を動かして自身の陣へ帰還する。
「ただいま」
「あ、団長。お帰りなさい」
「状況は?」
「何も変化はありません」
「わかった」
通りすがりに団員達と話しながらテントに向かうが、誰一人馬の事については触れなかった。
それが当然のように平然と受け入れている団員達は既にミクロの奇行にも慣れている。
例え、
馬ならまだ可愛すぎるほうだ。
だけど、一人だけ。
そんなミクロの声をかける人がいる。
「ミクロ、その馬は?」
それは【アグライア・ファミリア】副団長のリュー・リオン。
「拾った。リュー、うちで飼ってもいい?」
許可を求めるように言ってくるミクロにリューは嘆息しながら首を横に振った。
「元居た場所に戻してきなさい」
「………駄目?」
「駄目です。そもそもその馬は敵軍の軍馬でしょう? 諦めて戻して着なさい」
「…………」
「駄目なものは駄目です」
ごねるミクロにリューは変わらず告げるとミクロは名残惜しそうに馬に手を置く。
「ラキス………」
既に名前までつけていたミクロにリューの口から再び溜息が出た。
そもそもリューに許可など取らなくても立場も上のミクロならわざわざ断りを入れる必要もない。
【アグライア・ファミリア】の団長はミクロは副団長がリューなのだからミクロが決めたことに口出しする権利はリューにはない。
あるとすれば主神であるアグライアだけ。
勝手に断りもなく決めないだけ成長しているのは嬉しくも思うリューは少しだけ微笑んだ。
少し前までは重大なことをさらっと勝手に決めて振り回されるようなことにはならなくなっただけ少しは心身が楽になった。
馬から降りて手綱を手放すと馬は自分の足で元居た場所に戻って行く。
その後ろをミクロは名残惜しそうに見続ける。
そんなに気に入っていたのかと思うなかでリューは敵軍と今の状況を告げる。
「ミクロ。敵軍は今は浅く攻めてすぐに後退を続けています。それと捕えた兵士達はギルドに運び、商業系の【ファミリア】から
「必要ない。
「はい」
「それと別部隊のディックス達には監視を続けるように」
ミクロはディックス達には他の団員達とは別の扱いをしている。
ディックスの能力を最大限に発揮する為にミクロは基本的には簡易な命令しか行わず、後はディックス達の好きに動かしている。
ディックスがミクロの指示に従えばそれにつれてグラン達もミクロに従う。
例え文句を言ってきたとしても力で従えてきたディックスよりも強いミクロに逆らうなんてことはグラン達はしない。
指示にさえ従えば後は好きにしろ。
それがミクロのディックス達の纏め方。
監視と随時報告はしっかりとしているあたりから指示には的確に従っているのが明白。
「わかりました。ミクロはどうします?」
「今は休んでおく。何かあったら教えて」
今は何も問題はないと判断して残りをリューに頼み、ミクロはテントに入る。
「あ、お師匠様。お帰りなさい」
「ただいま」
テント内にセシルが傷の治療を行っていた。
前の【ステイタス】の更新の際は耐久が伸びたと遠い眼差しで師であるミクロの報告していたのが真新しい。
「お師匠様。今度並行詠唱の訓練に付き合ってください。魔法関連だとアルガナさん達は駄目らしくて」
「わかった。セシルも俺の魔法が使えるのなら身に着けたほうがいい」
セシルはスキルによってミクロの魔法が使える。
だから並行詠唱を身に着ける必要もある。
師であるミクロに追いつくためにもセシルにとっては並行詠唱は目標に辿り着く為の通り道なのだから。
「あ、お師匠様。ヴェルフさんから聞きましたよ。ベルの
「うん」
「私も立派な武器や防具を貰っている身なので強くは言えませんが、特別扱いではありませんか?」
セシルが身に着けている防具も傍にある大鎌も他の団員達と比べたら特別扱いだが、
それはベルに対する嫉妬が入っていないと言えば嘘になるが、その理由を聞いておきたかったセシルはミクロに問い詰める。
「ベルのスキルは強すぎる」
ミクロはそう言って『リトス』から一本の短剣を取り出してセシルに見せる。
「うわ、ボロボロ……」
一回でも使ったら刃が折れてしまいそうなほど劣化していた。
「それはベルのスキルで十秒
劣化している短剣を持つセシルにミクロは続けて話す。
「ベルのスキルで最大
身の丈合った武器よりも、身の丈に合う武器がベルには必要。
そうしなければベルはダンジョンという戦場で得物を失うことになる。
「ベルの成長速度も考えれば今のベルに必要なものになる」
淡々と弟子のセシルに説明を促すミクロにセシルはやや不満げだけど納得する。
本当にベルは何者なのだろうと思ってしまう。
少し前までは自分の方が強かったのに、今では互角に渡り合えるまでに成長している。
謎のベルの成長速度に思いつめるセシルだが、首を横に振る。
ベルはベルで、私は私。
なら、自分なりに成長すればいいと考えを改める。
オラリオに帰ったら早速並行詠唱の訓練と意気込む。