その最前線で活躍している【アグライア・ファミリア】は今日も
「お~い、ベル。悪いはそっちの物資も頼む」
「は、はい!」
セシシャから届いたばかりの物資を各班に分かれて確認作業を行っていた。
食糧から武器の補充までも一つの漏れがないか。その確認作業を行う団員達の中でベルは物資の運搬をしていた。
「ほらほら動け、ベル。Lv.3ならこの程度でへばるなよ?」
「が、頑張ります!」
先輩からこき使われているベルはそうはもう先輩達に可愛がられていた。
「ベル~、こっちもお願い」
「は~い!」
物資を所定の場所へ置いたらまた別の物を運ばなければいけないベルは休む暇もなく動いている。
「いやはや、ベルも頑張っているね」
「あいつも責任感じてんだろう」
物資を持ちながら動き回るベルを見て呟くスウラとリオグ。
「団長は気にしてもいないみたいだけど、ベル自身はそうはいかないか」
「ま、ここは思う存分に使ってやろうぜ? そうすれば責任を感じる暇もねえだろう」
「それもそうだね」
【イシュタル・ファミリア】との抗争というか蹂躙行為によって課せられた膨大な
自分が捕まらなければ、と責任を抱くベルは少しでも皆の役に立てれるように自分にできる仕事を懸命にしている。
「それにしてもベルはもうLv.3か。俺達もついこの間なったばかりなのに」
「ほんと、兔みてえに跳ぶように成長するな。やっぱスキルだと思うか?」
「ベルが努力しているのは俺も知っているけど、それだけじゃ数ヶ月でLv.3にはなれない。やっぱりその線が妥当とみていいだろう」
ベルの脅威的な成長速度の要因をスキルと推測し合う二人は物資を置く。
「主神様や団長なら知っているとは思うけど、団員の
「わかってるって。まぁ、あいつがいくら強くなろうが俺達は先輩だ。俺達も後輩に負けねえようにしねとな」
「そうだね」
やる気を出すリオグにスウラは苦笑しながら肩を竦める。
先輩には先輩の意地と矜持がある。
いくらベルが自分達よりも速く強くなっていったとしても後輩であることには変わりはない。なら、思う存分可愛がるのが当然だ。
「さ、俺達ももう一仕事するぞ!」
「ああ」
物資を抱える二人は作業を続行する。
その間にもベルはせっせと物資を運んでいき、額にたまった汗を腕で拭う。
「ふぅ~」
ダンジョンでの戦闘とは違う別の疲労感を覚えるベルは昔に祖父と一緒に畑を耕していた頃を思い出す。
オラリオの外に出たせいか、妙に故郷が懐かしく思う。
「よし、ご苦労さん。今日はもう休んでいていいぞ」
「はい! お先に休ませてもらいます」
仕事を終わらせたベルは作業場から少し離れて近くにある木箱に腰を下ろす。
「よっと、明日は伝令か……」
ベルが
どちらもベルの長所である脚を活かした役割だ。
「アイズさんに会えるかな……」
伝令の際にアイズに会えるかもしれないと思うと表情が緩む。
この場にリリがいたら、ベル様、顔がだらしないですよ。と頬を膨らませながらそう言ってくるに違いないだろう。
そのリリは今は給仕として他の団員達のところで働いている。
「ベル……」
不意に声をかけられて後ろに振り返るとそこには自分の憧れであるアイズがいた。
「あ、あ、アイズさん!? ど、どうしてここに……!?」
「ミクロが教えてくれたから」
返答するアイズにベルは心から団長であるミクロに感謝した。
「邪魔、だったかな?」
「じゃ、邪魔だなんてありません!! 僕も休憩していたところでしたので全然問題ありませんから!!」
「よかった……」
ベルの邪魔になっていないことに胸を撫でおろすアイズは森の方を指す。
「少し私と付き合ってくれる?」
「ぼ、僕でよければ!」
憧憬を抱く人からの誘いを断ることは出来ないベルは快くアイズに付き合って夜の森の中に歩み出す。
アイズの後ろを指をもじもじと動かしながらついていくベル。
「おめでとう……」
「え?」
「
【アポロン・ファミリア】との
「そ、それは団長やアイズさん達が鍛えてくれましたから……それにあれは僕一人じゃなくセシルも頑張ってくれたおかげで……」
「それでも君も頑張って戦って勝った。だから、おめでとう」
称賛するアイズにベルは耳まで赤く染まって俯いてしまう。
内心では飛び跳ねるぐらい嬉しい心境だが。
そんなベルを見てアイズも心なしが穏やかな気持ちになれる。
ベルに愛嬌があるせいか、それともベルがかつての自分に似ているからか。
それでもベルの瞳は真っ白ぐらいに純粋だ。
ふ、とアイズはミクロのことを考える。
ミクロは自分と似た者同士だ。
精霊の血が流れている自分に対してミクロは
そのおかげかどうかはわからないが、ミクロとは妙に気が合う。
それでもミクロと自分は違う。
ミクロは強い。自分よりも遥かに。
それは実力だけではなく、その心までも強いとアイズは認めている。
戦って力を出し合い、遠征に赴き、共闘もしたなかでアイズは思った。
ミクロは紛れもない『英雄』なのだと。
どんな危機的状況化でもミクロは必ずやってきた。
そして、救ってくれた。
アイズもそんなミクロに二度救われている。
一つ目はレヴィスと初めて戦った時に、二つ目は
アイズはいつかはミクロに再戦を申し込むつもりだけど、きっと自分は負ける。
心がもうミクロを認めているからだ。
それにもし、再戦をしたとしてもミクロはきっと本気を出してこない。
全力で応じてはくれる。それでもそれは一人の冒険者としての礼儀と敬意としてだ。
ミクロが本気を出す時、それは自分より後ろに守るべき何かがある時。
【覇者】ミクロ・イヤロスは誰よりも『英雄』になれる。
「………」
「あ、あの、アイズさん………?」
「……どうしたの?」
「そろそろ戻りませんか? 陣からも大分離れてしまいましたし……」
「あ……」
思考に耽っていたアイズは知らず知らずのうちに森の奥の方まで来てしまった事に気付かなかった。
いくらここがダンジョンではないとはいえ、注意散漫もいいところだ。
「……うん、じゃあ、私も」
元々ベルに称賛の言葉を言う為に来ただけ。
長いしてベル達の【ファミリア】に迷惑をかける訳にはいかないアイズは自分の仲間達がいる【ファミリア】の陣に帰ろうと思った。
「――――っ」
「……アイズさん?」
「静かに」
表情が険しくなるアイズは剣の柄に手を伸ばして森の方を見詰める。
アイズの研ぎ澄まされた剣士の直感が、危険を察知した。
――――強い。
頬に一滴の汗が流れる。
自然と同化しているかのように気配は消しているが、その者から放たれるであろう威圧感が、半端ではない。
「………」
視線を一瞬だけベルの方に向けるアイズは思案する。
ここにいればベルにまで危険が及んでしまう。
姿を見せない強者相手にベルを守りながら戦う余裕なんてアイズにはない。
「……ベルはここにいて」
「アイズさん!?」
なら、自分からその者に近づく。
少しでもベルを危険から遠ざけるために。
夜の森の中を駆け出すアイズは森の奥へと向かっていくと一人の男が木にもたれながら立っていた。
ぱっと見、自分よりも年上の男性のはずだけど、どういう訳かアイズには近親感がある。
初対面の筈なのにどうしてそう思うのか、アイズは尋ねた。
「………貴方は誰ですか? どうしてここに?」
警戒しながら口を開いて尋ねるアイズに男は口角を上げる。
「……なるほど。似てるな、『アリア』に」
「ッ!?」
「おっと悪い、誰、だったか」
男の口から放たれる『アリア』の言葉に過剰に反応するアイズに男はとぼけた口調で名乗りを上げる。
「俺の名はへレス。【シヴァ・ファミリア】団長、【
へレスの言葉にアイズは鞘から剣を解き放つ。
アイズは遠征中の58階層でミクロと戦ったへレスの事についてフィンから聞いたことがある。
へレス・イヤロス。今は
だが、その実力はオラリオの中で【猛者】と同じLv.7の実力者。
そしてミクロの肉親と呼べる相手。
「……答えて、どうして貴方がお母さんのことを」
「おいおい、その前に二つ目の質問を答えさせろ。一度に何べんも質問されたら答えれるもんも答えられねえぞ?」
「………」
視線を絡ませ合い、油断なく構えるアイズにへレスは悠然としたまま。
「今回、用があるのはミクロじゃねえ、お前だ、【剣姫】。いや、大精霊の娘。アイズ・ヴァレンシュタイン」
トントンと槍で肩を叩きながら軽薄に話すへレスにアイズは無言。
自分の事を、いや、母親のことを知っている存在が身内以外にもいたことに驚愕している。どうしてその事を知っているのかと質問を投げたかった。
だが、へレスは槍を持って矛先をアイズに向ける。
「お前の血が必要なんだ。俺達の理想を叶えるために」
「私の……血………?」
「ああ、だが、大人しく寄越せなんて温情に済ませる気は毛頭ねえ。奪うだけだ」
「――――――ッ!?」
呑み込まれるかのような濃密な殺気を浴びて、アイズは一瞬だけ怯んだ。
「抗ってくれよ? じゃねえとお前の為に大掛かりな計画が台無しだ」
「計画………?」
聞き返すアイズの後方から壮絶な爆発音や冒険者達の荒げる大声が聞こえてくる。
一体何が起きているのかと、考えてしまうアイズにへレスは接近して一突きするが、アイズは咄嗟に剣で防御を取った。
「よそ見をすると怪我じゃね済まねえぞ?」
「皆………ッ」
へレスとアイズが衝突する。