路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New87話

ミクロは陣の中で休憩時間を利用して新たに開発中の魔道具(マジックアイテム)の完成に取り掛かっていた。

「お師匠様、それは何ですか?」

「前回の遠征での反省を活かした新しい魔道具(マジックアイテム)

尋ねてくるセシルに簡潔に答えるミクロは一向に手を休めることなく作業に没頭している。

セシルはそんなミクロの背中を見ながらその完成途中の魔道具(マジックアイテム)に視線を向ける。

今まで多くの魔道具(マジックアイテム)を見てきたセシルだが、今回のは大きい。

いつもは指輪やネックレスといった装飾品のような物が多かったが、今ミクロが作製しているのは装飾品で終わるものではない。

黒い輝きを放つそれは人一人が乗れるほどの大きさで左右には翼を用いた刃のようなものが生えている。

正直セシルには師であるミクロが何を作っているのか少しも理解出来ない。

「それって何に使うんです?」

「空を飛ぶ」

「え!?」

どのような効果があるのか気になって尋ねてみたら予想外な答えが返って来た。

「前回の遠征で俺は落ちたから次はそうならないようにするための魔道具(マジックアイテム)

【ロキ・ファミリア】の遠征の際にミクロは砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の砲撃による穴から落ちて一気に58階層まで落ちた。

その話を聞いてセシルは思い出したかのように手を叩いた。

「そういえばお師匠様はよく無事でしたよね。7階層分も落ちたのに」

飛龍(ワイヴァーン)を足場にして降りた」

「………」

そんなことが出来るのはお師匠様だけという言葉が喉まで出かけたが、何とか呑み込んだ。

「でも、危険だったことには変わりない。それに『穢れた精霊(デミ・スピリット)』との交戦に高度な機動力もあれば少しは楽に攻略できた」

それ以前にその『穢れた精霊(デミ・スピリット)』の魔法を受けて平然としていたお師匠様が機動力なんてつけたらそれはもう蹂躙では?

そんな失礼なことを考えていたセシルだった。

まぁ、それでも今作製しているのは空を飛び、尚且つ機動力がある魔道具(マジックアイテム)だということはよくわかった。

本当に色々な物を作ると頷く。

「団長!!」

その時、ベルが大慌てで二人がいる天幕にやって来た。

「どうした?」

手を止めて振り返るミクロにベルは肩で息をしながら呼吸を整えて告げる。

「ア、アイズさんが……一人でこの先の森の奥に………」

「アイズが?」

「ぼ、僕、どうすればいいのか……わからなくて………」

ベルの様子から見て相当慌ててここまでやって来たのは頷けられる。

しかし、アイズがどうして森の奥へそれも一人で向かったのかわからない。

オラリオ外のモンスターは弱い。

アイズがわざわざ赴くほどの強敵がいるとはどうしても思えなかった。

「団長!! 大変です!! ラキアの兵達が攻めてきました!!」

団員の一人が切羽詰まった顔でやって来て状況をミクロに話した。

「ラキアの兵達、様子がおかしいんです! 今は他の冒険者達と共に迎撃しているのですが、怪我をしようが魔法で吹き飛ばそうが平然と突っ込んできて……!」

その話を聞いてミクロは思案する。

これまでの戦闘ではそこまでの強行はしてこなった。にも拘らず突然にそのような強行をしてきた理由は何だろうか。

「………まさか」

一つの推測がミクロの頭の中で立てられる。

しかし、だとしたら何故このタイミングで襲ってくるのかわからない。

「……破壊の使者(ブレイクカード)

二人の報告にミクロは最悪な展開を考えて天幕を出て団員達に告げる。

「―――総員、ラキアの兵士を至急捕縛! 最悪手足の骨を折ってもいい! 命さえ無事なら手段は問わない!」

『はい!!』

「リュコス! お前も前衛に出て前衛の指揮を取れ!」

「あいよ!」

「スウラ! お前は中衛の指揮を任せる!」

「了解!」

「後衛、魔導士部隊の指揮をスィーラ! ただし殺傷能力の高い魔法は出来る限り控えろ!」

「はい!」

「全体の指揮をティヒア! お前に任せる!」

「わかったわ!」

それぞれの役割と指令を下すミクロに全員が応答し、行動に移る。

「ベル、お前はセシルと一緒に他の皆を守れ。アイズのところには俺とリューが行く」

「はい!」

ベルの返答を聞いてミクロはリューと視線を合わせて互いに頷くと一気に駆け出して森の方へ向かう。

「しかし、何故破壊の使者(ブレイクカード)が【剣姫】を」

「わからないけど、可能性はある以上は俺達で行った方が良い」

破壊の使者(ブレイクカード)の狙いはわからないが、アイズがベルを置いて向かう程の強敵がいるとしたらそれは破壊の使者(ブレイクカード)しか思い当たらない。

どういう意図が隠されているのかはわからないが、二人は森の中を駆け出す。

「会いたかったぜ! エルフ!!」

突風の如く跳んできた狼人(ウェアウルフ)がリュー目掛けて突貫してきた。

「ヴォ―ル・ルプス……ッ!」

再戦(リベンジ)だ!!」

人造迷宮(クノッソス)でリューに敗北した狼人(ウェアウルフ)はリューに攻撃を繰り出す。

「リュー!」

それを見てミクロも参戦して二人がかりでヴォ―ルを倒そうとしたが、咄嗟にミクロは身を屈めて背後から襲ってくる攻撃を避けた。

「へぇ、今のを避けるんだ?」

振り返り、姿を見せるのは白髪の兔人(ヒュームバニー)の女性。

その背には蜘蛛を連想させる鋼鉄の八本の脚がある。

破壊の使者(ブレイクカード)だな……」

「そうだね。私は破壊の使者(ブレイクカード)の一人、コネホ・ダシュプース。二つ名は【鋼脚兔(ラビットスティール)】。悪いけどここから先は立ち入り禁止だよ」

「通る」

『リトス』から槍を取り出して接近するミクロにコネホは八本の鋼鉄の脚でそれを容易く受け流してそれと同時に攻撃を加える。

しかし、ミクロはそれを回避して距離を取る。

やはり、一筋縄ではいかない。

「答えろ。どうしてアイズを狙う?」

「答える義理はないねぇ」

嘲笑うようにはぐらすコネホにミクロは再び接近する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変ス! ラキアが突然攻めて来たっす! それに妙な土の怪物も!」

「なんじゃと!!」

【ロキ・ファミリア】にも突然襲いかかって来た王国(ラキア)に驚愕を覚えつつ、外を出て確認するとそこには統率もないただ我武者羅に向かってくるラキアの兵士達とその後ろには巨大な土人形がいた。

「なんじゃあれは!?」

驚きの声を上げるガレス。

陣よりも前線にいるガレスはフィン達も早くその巨土人形を目撃する。

「ラウル! このことを早くフィン達に知らせるんじゃ!」

「は、はいっす!」

ラウルに伝令を遣わせて自身は大戦斧を掲げて前線に復帰する。

ラキアの兵士達を無視して自分は厄介そうな巨大な土人形へ立ち向かう。

「なんじゃいこれは……」

驚きを隠せれないガレスはその土人形を見上げてそう呟く。

するとその土人形の肩から何かが落ちて来た。

ドシンと思い音と共に振って来たそれは大槌を持つドワーフ。

「ガシシ! 久しぶりじゃの! ガレス!!」

「お主……ゾワィか………」

「ガシシ! その通りじゃ! 相も変わらず爺臭いな!」

「ふん、そういうお主も変わらず気味の悪い笑い方をしおって……」

皮肉を言い合わそう二人にゾワィは大槌を振り下して地面にたたきつけると土人形の拳がガレスに炸裂した。

「ガシシ! どうしたんじゃ! まさかそれで終わりじゃなかろう!?」

振り下された土人形の拳が砕かれ、土が宙を飛ぶなかでガレスは平然と立っていた。

「こんなもので儂を倒せれるものか」

「ガシシ! 挨拶代わりじゃ! 思う存分に(ころ)し合うぞ!!」

「いいじゃろう。お主の息の根を儂が止めてやるわい」

大戦斧と大槌がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

「どういうことよ、これ!」

「あたしがわかるわけないじゃん!!」

突然の王国(ラキア)の襲撃に理解が追いつかないティオネは叫び散らしていた。

今まで何度も襲ってきたことは会ったが、今回の様な我武者羅な突貫は前例がない。

「とにかく団長のところに行くわよ!」

事態がややこしくなっている今の状況下で個人で動くよりも団長であるフィンの指示を仰ぎに向かうティオネ達。

その時に二人の近くに二つの影が飛んできた。

「アルガナ!?」

「バーチェ!?」

「……ティオネか、ちょうどいい手を貸せ」

「ティオナ……」

二人の近くに飛んできたのはアルガナとバーチェ。

しかし、その姿は擦り傷や痣が体のあちこちにできている。

「このような場所でまた同胞に会うとは。アタシもつくづく同胞に縁があるね」

影から姿を現したのは四人と同じアマゾネス。

褐色肌に露出が多い衣料に耳飾り、首飾り、胸飾り、腕輪に脚輪と多くの装飾品を身に纏った同胞の姿にティオネ達も構える。

「誰よ、あんた………?」

破壊の使者(ブレイクカード)の一人、【舞闘女傑(ダンシィスト)】カティル・ヘルト」

「「っ!?」」

問いかけに応えるカティルの言葉に二人は目を見開いた。

フィンから聞いた【シヴァ・ファミリア】の一人にしてその実力は破壊の使者(ブレイクカード)でトップ3に入る猛者。

どうしてそんな実力者がここにるのかわからないが、カティルは二人に手招きする。

「同胞のよしみとして四人纏めて相手をしてやろう」

「なによ、それ? いくら何でも私達を舐めすぎてない?」

カティルの言葉に苛立ちを隠さないティオネ。

だが、ティオネの言葉も最もだ。

Lv.6を四人も相手にするなんて正気ではない。

「なら、証明してみせるがいい。私の一撃でも当てることが出来たら認めてやる」

挑発とも捉えるその言葉に二人は拳を握りしめる。

「上等よ! 後でほえ面かいても知らないから!」

「あたしだって負けないんだからね!」

四人のアマゾネスとカティルの勝負が始まった。


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