路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New89話

リューとヴォールが戦っている間、ミクロも兔人(ヒュームバニー)、コネホ・ダシュプースと戦闘を繰り広げていた。

「ほらほら、どうしたんだい?」

背中から姿を現す蜘蛛を連想させる八本の脚がミクロを襲う。

一つ一つが違う動きで繰り出す攻撃にミクロは攻撃に出れず、回避に専念する。

「急いでいるんだろう? 私を倒さないと【剣姫】が死んじゃうかもよ?」

嘲笑と共に挑発するコネホにミクロはその挑発に乗ることなく冷静にコネホに言う。

「それは魔武具(マジックウェポン)だな?」

「そうだよ、これは『デフォルスパイ』。シャルロット副団長が私にくれたとっても便利な道具だよ」

ククク、と小さく嗤う。

「凄いよねぇ、これ。八本とも不壊属性(デュランダル)が付与されておまけに一定範囲内なら伸縮自在。更にこんな仕掛けもあるんだよ?」

八本の脚の先端をミクロに向けるとそこから大糸が放出される。

「っ!?」

咄嗟に回避を取るミクロにコネホは嗤う。

「逃がさないよ」

再び照準を定められて大糸がミクロに向けて放出されるが、ミクロはその大糸を槍で切り裂くが、また別の脚から大糸に襲われる。

魔武具(マジックウェポン)『デフォルスパイ』。

不壊属性(デュランダル)』が付与された八本の脚は一定範囲内の伸縮を可能とし、更にはその先端から放出する大糸は獲物を絡ませ、動きを封じるだけではない。

「ああそうそう、気をつけた方が良いよ? この糸は粘着性のと切断性の二つの性質を持った糸を出せれるからね」

嗤いながら忠告するかのように告げるコネホは逃げ回るミクロを見て心底楽しんでいた。

それと同時にミクロは一つだけ判明したことがある。

ギルドの独房で殺されたヴァレッタはコネホに殺されたということを。

「ほらほら、しっかり避けないと」

逃げ纏うミクロを捕まえようと粘着性の大糸を放出しまくるコネホにミクロは思考を働かせる。

大糸自体は『破壊属性(ブレイク)』を持つこの槍で破壊することは出来る。

だが、あの脚自体は『破壊属性(ブレイク)』を相殺させる属性『不壊属性(デュランダル)』が付与されている為に破壊することは出来ない。

仮に大糸だけを先に破壊したとしても攻撃に移ろうとした瞬間の一瞬の制止をコネホは狙ってくるだろう。

大糸が出せなくなるまで逃げ続けたとしてもその時はこの周辺は大糸だらけになって碌に身動きが取れなくなってしまう。

なら、魔法で吹き飛ばす。

「いや……」

槍から魔杖に取り換えて魔法でコネホを倒そうと考えたが今のミクロにそれはできない。

この先にアイズと戦っている相手が誰かはミクロは容易に想像できる。

それは【シヴァ・ファミリア】の団長であり、父親であるへレス。

へレスを相手にするとなると精神力(マインド)の消費は抑えておきたい。

「魔法、使わないのかい?」

コネホもそれを承知している。

だからこそ、執拗にミクロに攻撃を行える。

「ミクロォ、君は自分がどういう存在なのか知っているかい?」

「………」

「君は『英雄』の『器』を持ち、才能に溢れ、人の上に立つ『王』の素質を持って産まれてきた希少で貴重な存在なんだよぉ。故に君は孤高者でもある」

逃げ纏うミクロを見据えながら語り続ける。

「きっと君のこの先の未来でも君と同種の存在は誕生しないだろうねぇ。何故か? それはそれほどまでにミクロ、君が特別過ぎるからだ。人間、いや、亜人(デミ・ヒューマン)の全ては自身よりも強大な才覚と力を持つ者に恐れ、焦れ、畏怖する。わかるだろう? 君はそういう存在なんだよ」

口角を上げながら語るコネホは脚を動かして左右から大糸を放出するが、ミクロは鎖分銅を駆使してそれも避ける。

「だからこそ君は選ばれたんだよ、使徒に」

「………使徒?」

初めて聞いた言葉に怪訝するミクロだが、コネホは嘲笑を浮かべるだけ。

「これより先の答えが知りたかったら私を倒すことだねぇ。もっとも出来たらだけど」

腰に携えている細剣を取り出すコネホは駆け出してミクロに急接近して一突き。

ミクロはそれも避けるが、一突きされた木々を見て驚く。

突き刺された木々はドロドロに溶けている。

「私はねぇ、『調合』の発展アビリティを持っているんだ。この剣の刀身には触れたものを何でも溶かす猛毒を塗っているんだよぉ」

そう言って連続突きを繰り出す。

「いくら頑丈な君でも一撃でもこれを喰らえばお陀仏だねぇ!」

連続突きを繰り出すコネホの猛攻に回避、防御を繰り出すミクロの横から『デフォルスパイ』の脚から放出される大糸がミクロを襲う。

正面からは猛毒の剣を持つコネホに左右上下からは魔武具(マジックウェポン)による大糸の拘束と攻撃。

一回でも受けたら危険の状況の中でミクロは耐え続ける。

「ほらほら、反撃してみなよ! これぐらいを容易に突破できないようじゃ団長は倒せれないよぉ!」

嘲笑と挑発を行うコネホにミクロは小さき息を吐いた。

「『ディオン・ヴォード』」

「は……?」

突如、大糸が氷漬けになった。

それに呆けるコネホの一瞬の隙をミクロは見逃さず、その顔に一撃入れた。

「ぶっ!?」

殴られ、吹き飛ばされたコネホは木々に衝突してミクロが持つその槍を見た。

「それは……シャルロット副団長の魔武具(マジックウェポン)

青白い輝きを放つ槍からは白い煙が発生し、その付近の木々が凍り始めている。

「これならお前の糸を容易に対処できる」

氷の魔武具(マジックウェポン)『ディオン・ヴォード』。

氷の力を持つこの槍なら大糸を凍結させて無効化することが出来る。

「甘いね……まだ……」

その槍の脅威を知っているコネホだが、まだ自身の魔武具(マジックウェポン)『デフォルスパイ』がある。

今度は拘束なんて温いことはせずに、切断性の糸でミクロに攻撃を仕掛けようと思ったが、脚の先端から大糸が放出されない。

「なっ!?」

それもそのはずだ。

脚の先端が既に氷漬けにされていたからだ。

「いつの間に………ッ!?」

驚愕に包まれるコネホの表情が歪み、焦りが生じる中でミクロは木の枝から地面に着地する。

「お前を殴り飛ばした際に封じた」

ミクロはコネホを殴ると同時に脚の先端を凍らせて無効化にした。

これでもう大糸を放出することは出来ない。

「次は俺に番だ」

ミクロは槍を『リトス』に収納して今度は別の魔武具(マジックウェポン)を取り出す。

「『ヴェント・フォス』、『バルク・フォス』」

風と雷を宿す二振りの魔武具(マジックウェポン)を持ってミクロはその力を振るう。

一瞬でコネホとの距離を縮めて怒涛の攻めを繰り出すミクロにコネホは八本の脚を全て防御に徹した。

「ぐっう………ッ」

風と雷の猛攻に今度はコネホが防戦を強いらされる。

いくら『不壊属性(デュランダル)』が付与されているこの脚でも壊れないだけで摩耗はする。

このままではじり貧だ。

「はぁ!」

強引に防御を捨てて全ての脚を攻撃に転じたコネホだが、そこにはつい今しがたまで猛攻を続けていたミクロの姿はなかった。

「ここだ」

背後から姿を現したミクロはコネホの背中にある魔武具(マジックウェポン)に攻撃する。

「うぅ………ッ!」

吹き飛ばされ、地面を跳ねるコネホは何とか態勢を整えて地面に手をついて勢いを止める。

「この魔武具(マジックウェポン)が狙いだったとわねぇ! だけど、この魔武具(マジックウェポン)を壊すことは――――っ!」

不壊属性(デュランダル)』を持つ魔武具(マジックウェポン)は決して壊れない。

それなのにコネホは目を見開いた。

『デフォルスパイ』が動かないことに。

魔道具(マジックアイテム)魔武具(マジックウェポン)は確かに強力な力を持っている。だけど、完全な物を作り出すことは出来ない」

完全無欠なものは決して作れない。

それは『神秘』を持つミクロ、シャルロット、アスフィはよく知っている。

コネホが使っている『デフォルスパイ』も例外ではない。

背中にある八本の脚が集結している場所に外から強烈な損傷を与えれば動けなるのも明白。

例えそれが『不壊属性(デュランダル)』が付与されていたとしてもだ。

「ここで終わらせる」

両刀を構えてこの戦いを終わらせようとするミクロにコネホは嗤った。

「まだ……まだ終わらないよぉ!」

動けなくなった『デフォルスパイ』を捨ててコネホは詠唱を歌う。

「【炎熱に包む灼熱の世界に炸裂する感情。淡い幻想までも崩壊に誘う】」

魔法の詠唱を口にする。

起死回生の一手を繰り出そうとするコネホにミクロは何もしない。

ただ、その詠唱に耳を傾ける。

「【幼くも知る破壊という快楽は我が身、我が心の戒めを開放する。汝の痛叫は潤いとなると知れ】」

嘲笑を浮かべながらコネホは魔法を開放する。

「【シャマ・ドロル】」

直後。

二人の周囲に炎が迸り、二人を取り囲むように炎の結界に閉じ込められてしまう。

ミクロは氷の魔武具(マジックウェポン)で凍らせようと試みたが、その炎は凍ることも、炎熱が失うどころかより烈火のように激しく燃える。

いや、違う。

この炎は何も燃やしてはいなかった。

周囲にある木々も草も燃えてなどいない。

炎の熱は感じられてもその炎は何も燃やしてはいない。

「不思議だろう? これが私の魔法【シャマ・ドロル】。喪失魔法だよ。ただし、対人用だけどねぇ」

嘲笑を浮かべてコネホは得意げに自身の魔法を語る。

「この炎は範囲内にいる私が認識した敵に対して効果を発揮する。その能力は記憶の喪失。正確に言うとねぇ、認識した敵が持つ幸せな思い出を消していくのさぁ」

コネホの喪失魔法はコネホが敵と認識した敵のみ効果が発動し、範囲内にある炎に触れるたびに自分が持っている大切な思い出が消えていく。

誰かの事を忘れるという訳ではない。

ただ、その思い出が無くなってしまうだけ。

だからコネホは自身の魔法の能力をミクロに明かした。

ミクロはこれまで苦楽を共にしてきた家族(ファミリア)との大切な思い出がある。

そんなミクロが自分からその思い出を捨てに行くことなどできない。

失う怖さ、離したくない幸せ。

その二つをミクロは知っているからだ。

故にミクロは炎に守られているコネホに近づくことなどできない。

そして、炎は少しずつミクロの居場所を無くしていく。

「さぁ、私に見せてぇ。苦しみと絶望に浸かるその顔を……」

恍惚な表情を浮かべて居場所がなくなって行くミクロを見据えるコネホは昔のことを思い出した。

コネホには姉いた。

いつも自分を虐めてくる姉が。

泣こうが、謝ろうが、姉は暴力も、横暴も止めるどころかより激しさを増すばかり。

姉に逆らえず、痛みと苦しみに耐えながら日々を過ごしていたある日に事件が起きた。

姉がコネホを縛り付けて廃家に閉じ込めた。

更には廃家に火をつけた。

燃え上がる廃家に息苦しくなる呼吸、叫び、もがき、苦しむなかで聞こえてくるのは姉の嘲笑を含めた高笑う声だ。

熱気と痛みと絶望の中でコネホの中の何かが崩壊した。

すると、頭が不意に冷静になったコネホは炎で縄を燃やして引き千切ると燃え上がる廃家を脱出して驚愕に包まれている姉を捕まえて両手両足の骨を折って燃え上がる廃家の中へ放り投げた。

そこから聞こえる今まで聞いたことのない姉の痛叫、命乞い、謝罪を聞いたコネホは嗤った。

そして、理解して納得した。

姉はどうしてあんなにも自分を虐めていたのか。

それは愉しいから。

こんなにも愉しいことに浸かる姉の気持ちがコネホは初めて知った。

人を壊すのが、壊れるのがこんなにも愉しいと教えてくれた姉にコネホは初めて感謝した。

それから燃え上がる廃家を背にしてコネホは住んでいた村を去った。

昔の事を思い出しながらこれから聞こえるミクロの叫びを待ち遠しく思うコネホにミクロは『アヴニール』を取り出して構える。

 

その瞬間、コネホは後方へ吹き飛ばされた。

 

「え………?」

気が付けば、瞼を開ければ、自分が炎の範囲内から離れ、目の前にはミクロがいた。

そして遅れながら自身の腹部に黄金色の長槍が突き刺さっている事に気付いた。

「ごふ………今のは……団長の……」

「一度は受けた技だ」

長槍を引き抜いて簡潔に答えるミクロにコネホは呆れるように笑った。

「一回で身に着けるって………あの二人の子供らしいねぇ」

「大人しくギルドの独房に入るなら傷を治してここで放置する。抵抗、逃走をするなら両手両足を切り捨てる」

「ああ、そうところは団長似だねぇ………」

冷酷で容赦のないその言葉にコネホは細剣を振るう。

だが、その細剣はミクロではなく自身に突き刺して自害した。

「姉さん………」

その言葉を最後にコネホの瞳から光が消えた。

「………どうしてお前達は死ぬことを選ぶ」

いや、それほどまでに絶望しているからこれ以上の残酷な生よりも死を選ぶ。

破壊を求めるものは己が破壊されるのを望んでいる。

これまで破壊の使者(ブレイクカード)との戦いでミクロはそう思いながらコネホの瞳を閉じる。

「ミクロ!」

「リュー。無事だったか……」

空から跳んできたリューが無事で安堵するミクロはこの先、アイズがいる方向に視線を向ける。

「待ってろ。アイズ」

 


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