路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第15話

冒険者依頼(クエスト)

力のない依頼人(クライアント)の代わりに問題を冒険者に解決してもらう。

依頼人(クライアント)は依頼の内容に見合った報酬を用意して、冒険者は問題を解決して報酬を貰う。

冒険者と依頼人(クライアント)とのギブアンドテイク。

ミクロ達は冒険者依頼(クエスト)の依頼書が貼り出されているギルドの掲示板の前でこれから受けようと考えている冒険者依頼(クエスト)を探している。

「なかなか割のいい冒険者依頼(クエスト)がないわね……」

一枚の羊皮紙を手に取りながらぼやくティヒア。

「内容にも気を付けないとこちらが痛い目にみます」

忠告するリューの言葉通りに冒険者依頼(クエスト)の中には胡散臭い冒険者依頼(クエスト)も存在している。

だから、内容やそれに見合う報酬以外にも依頼人(クライアント)の名前などにも注意して受けなければならない。

また、冒険者依頼(クエスト)の殆どは中層からの冒険者依頼(クエスト)

上層は大抵の【ファミリア】や冒険者達にもこなせてしまう為、それより下の中層からの冒険者依頼(クエスト)がどうしても多くなってしまう。

「『ヘルハンドの牙×一〇、求む』。報酬は他と比べると少し低い」

何枚の羊皮紙を眺めながら慎重に冒険者依頼(クエスト)を選んでいくミクロ。

「しかし、どうしてまた冒険者依頼(クエスト)を受ける気になったのですか?」

冒険者依頼(クエスト)を受けようと最初に発案したのはリューでもティヒアでもなくミクロ本人からだ。

どういう心境の変化なのかわからない二人は今も冒険者依頼(クエスト)を選んでいく中で発案者であるミクロに尋ねる。

「【ファミリア】が結成してから約一年半が経ったのに団員はたったの三人。まだ【ファミリア】の名前が知れ渡っていない」

大抵は有名な派閥である【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】を始めとした多少なり名が知れ渡っている【ファミリア】を選ぶ。

好き好んで零細や名の知らない【ファミリア】を選んだりはしない。

最速でLv.2になったミクロの名は一時都市全体に知れ渡っているにも関わらず誰一人【アグライア・ファミリア】に入団する者は現れなかった。

「【ファミリア】の名を上げて行けば入団してくる奴が出てくるかもしれない。だからまずは今までにしてこなかった冒険者依頼(クエスト)をこなして行こうと思った」

「ミクロはどうして【ファミリア】の名を上げるのですか?」

「……ナァーザの為?」

借金を背負ってしまった【ミアハ・ファミリア】。

その団員であるナァーザを助ける為にミクロは冒険者依頼(クエスト)を受けようと考えているのかと思ったティヒアの言葉にミクロは頷いた。

「それもあるけどそれだけじゃない。名を上げて、団員が増えればアグライアが喜んでくれると思う。家族を作る為にアグライアは下界に降りてきたから」

家族を作ってこの世界を共に堪能する。

アグライアと始めて出会った時に言っていた言葉。

「こんな薄汚い俺を拾ってくれたアグライアに俺は感謝していると思う。それに俺はアグライアの最初の眷属。主神の望みを叶えてあげたい」

その言葉に一驚するリューとティヒア。

ミクロ自身も最近までそんなことを考えたことがなかった。

だけど、ナァーザとの一件以来、そう思えるようになっていた。

まだ確かな決意も気持ちもわからない。

だけど、拾ってくれたアグライアに報いたいのは本当だった。

「では、いい冒険者依頼(クエスト)を選びましょう」

「私は別の掲示板に貼り出されている所を見て来るわ」

一驚して、微笑みながら先ほどよりも真剣に依頼書を見まわすリューとティヒア。

「だから何べんも言わせるんじゃねえよ!?」

掲示板に貼り出されている冒険者依頼(クエスト)を選んでいると突然の怒鳴り声が聞こえたミクロ達は声がした方に視線を向けると複数の冒険者達がギルドの職員に怒鳴り散らす様に叫んでいた。

「【リル・ファミリア】が俺達の武器を奪って行ったんだよ!あいつらがモンスターを引き連れてきたせいで俺達は武器を奪われただけじゃなく仲間が一人殺されたんだ!」

「モンスターを引き連れてきたのは【リル・ファミリア】の連中で間違いねえんだ!調べたらすぐにわかる!」

「ギルドの方からも調査してくれよ!?」

【リル・ファミリア】に糾弾を求める冒険者達。

「おやおや~、俺達の【ファミリア】の名前が聞こえましたね~」

その冒険者達の背後からやってきた人間(ヒューマン)の青年が率いる冒険者達。

「変な言いがかりは止してくだいさいよ。俺達は何にもしてはいませんぜ?」

「てめぇ……ッ!よくもぬけぬけと!」

下卑な笑みを浮かばせる一人の青年に冒険者は胸ぐらを掴むが青年は笑みを浮かばせたまま。

「おー、怖い怖い。そんなにも俺達を疑うのでしたら今からでもどうぞ我が【ファミリア】を調べてくださって結構ですよ?俺達はここを一歩も動きませんから」

笑みを浮かばせる青年に対して悔しそうに歯を食い縛る冒険者は乱暴にその手を離してギルドの職員に言った。

「聞いたろ?今からこいつらの【ファミリア】を調べてくれ」

「は、はい」

奥へと走って行くギルドの職員。

冒険者は青年を睨み付ける。

「万が一に俺達の装備が見つかった時は覚悟しとけよ」

「ええ、肝に銘じておきましょう」

余裕の笑みを浮かばせたまま了承する青年に冒険者は苛立ちながらその場を去って行った。

騒めくギルド内にミクロ達は冷静に冒険者達を見ていた。

「見つからないだろうな」

ぼそりとミクロはそう言った。

あれほどの余裕の笑みを浮かばせている青年を見てミクロは見つかることは万が一もないと思った。

隣にいるリューも訝しむように青年とその後ろに控えている冒険者達を見ていた。

五人組のパーティ。

恐らくパーティにリーダーであろう先ほどの人間(ヒューマン)の青年。

その後ろには男性の人間(ヒューマン)一人と犬人(シアンスロープ)二人、女性の小人族(パルゥム)が一人。

「ミクロはどう思います?」

隣にいるミクロに声をかける。

「見つからないだろう。それだけの余裕があるように見える」

青年の笑みを見て断言したミクロは近くにいたギルドの職員に【リル・ファミリア】のことについて尋ねた。

【リル・ファミリア】。

派閥の等級(ランク)はGで構成員が五人の探索系の【ファミリア】。

その団長を務める人間(ヒューマン)の青年、ランス・グリアスはLv.2の冒険者。

どこにでもある普通の【ファミリア】だったが最近は変な噂が流れていた。

ダンジョンで他の【ファミリア】の武具や道具(アイテム)を強奪する。

ギルドは一度は訴えに応じて【リル・ファミリア】の本拠(ホーム)の取り調べを行ったが強奪したであろう武具も道具(アイテム)も出てこなかった。

既に売られたと推測して調べたが足取り一つ見つかることはなかった。

故に証拠不十分とみなされ、ギルドは【リル・ファミリア】に罰則(ペナルティ)を与えることが出来なかった。

「……」

ギルドの職員からの情報を聞いたミクロは考えながらリュー達のところに戻る。

奪われた物が道具(アイテム)だけならまだ理解出来たが、奪われた中には大剣などの武器もあった。

隠すには難しい武器までもどうやって隠しているかが気になったがまだ自分達が被害が出る前に【リル・ファミリア】の情報が聞けただけでも僥倖だと思った。

「ミクロ。これはどう?内容も報酬もいいと思うけど」

一応警戒はしておこうと思っているとティヒアが持ってきた依頼書を見てその冒険者依頼(クエスト)を受けることにしたミクロ達はダンジョンに潜って何事もなく冒険者依頼(クエスト)をこなすことに成功した。

「特に問題はありませんでしたね」

何事もなく冒険者依頼(クエスト)が終わったミクロ達は本拠(ホーム)へと帰還しようと歩いていると微かにだけど路地裏の方から悲鳴らしき叫び声が聞こえた。

叫び声が聞こえた方に走るミクロ達はその場所へと到着するとそこには血塗れで倒れている男性冒険者達の中心に立っている一人の女性、狼人(ウェアウルフ)

倒れている男性冒険者の血を浴びたかのように赤い髪をした女性は睨み付けるようにミクロ達を睨んだ。

「あんたらもこいつらのお仲間か………?」

明らかな敵意を持って女性はミクロ達に襲いかかって来た。

「だったらさっさとくたばりな!」

襲いかかってくる狼人(ウェアウルフ)の拳や蹴り。

躱しながらミクロは気付いた。

この狼人(ウェアウルフ)は自分と同じLv.だと。

「ミクロ!」

木刀を持って戦おうとするリューを手で制してミクロは目の前の狼人(ウェアウルフ)と対峙することにした。

一対一(サシ)であたしとやり合うとはな!この馬鹿共と違っていい度胸だ!あんたがあたしに勝ったら何でも言うこと聞いてやるよ!」

更に激しい拳と蹴りが襲いかかってくるがミクロはそれを冷静に捌く。

確かに速い攻撃だと思ったミクロだが、普段から模擬戦で戦っているリューの方が速く、重い攻撃を何度も見て、喰らっている。

それに比べたら目の前にいる狼人(ウェアウルフ)の攻撃はどうということはなかった。

「チッ!少しは攻撃してきたらどうなんだ!?」

捌くばかりで攻撃をしてこないミクロに腹を立てて舌打ちをしながら拳があと少しでミクロの頬に当たると直前にミクロはそれを躱して自分の頬が当たるところに袋を投げた。

そして、狼人(ウェアウルフ)の拳がその袋に直撃する。

「~~~~~~~~~~ッッ!?!?!?」

袋から溢れ出た突然の悪臭に狼人(ウェアウルフ)は鼻を抑えるがあまりの悪臭に気を失い倒れる。

「ミ、ミクロ……」

その悪臭に後ろにいるリュー達も被害が及んだ。

特に犬人(シアンスロープ)であるティヒアはあまりの臭いに気を失った。

「こんな狭い路地裏で強臭袋(モルブル)を使うのは止めなさい」

しかめ顔で注意するリュー。

「大丈夫。すぐに臭いは消えるように改良した物だから」

モンスターとの遭遇(エンカウント)を回避するための道具(アイテム)である強臭袋(モルブル)を使用したミクロ。

鋭い五感を持っている獣人の狼人(ウェアウルフ)犬人(シアンスロープ)には効果は絶大だった。

「とりあえず彼女を連れてここを去りましょう」

「わかった」

急いでこの場から離れるミクロ達は狼人(ウェアウルフ)を背負いながら本拠(ホーム)へと帰還した。

 


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