互いに同じ属性を付与された槍を持つ二人は衝突する。
突き、薙ぎ払い、振り払う。二人の槍捌きは何度も衝突して攻防を繰り返す。
「甘いぜ」
だが、ミクロの槍捌きはへレスには及ばない。
長年の経験、積み重ねてきた熟練度、
ミクロの槍を受け流して流れるようにへレスの矛先はミクロの心臓に向かっていく。
だけど、ミクロはそれぐらいは把握している。
自分はへレスよりも劣っていることぐらい。
だからそれ以外の方法で補う。
へレスの矛先がミクロに当たる直前にミクロは姿を消した。
そしてへレスの横に姿を現して、ミクロは詠唱を口にする。
「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう】」
足元に
「【礎となった者の力を我が手に】」
「させるかよ」
急遽矛先の動きが変わり、ミクロの肩に傷を走らせる。
詠唱を失敗させようとするへレスだが、ミクロの詠唱は止まらない。
「【アブソルシオン】」
再び詠唱を行う。
「【狙い穿て】」
同時にミクロは勢いよく後方へ跳ぶと同時にへレスの足元に煙幕を発生させ、一瞬だけへレスの視界から逃れると『リトス』から両指の間に投げナイフを挟む。
「【セルディ・レークティ】」
放つ投げナイフにはティヒアの魔法、追尾属性が付与されている。
それをへレスの左右に投げ放ち、ミクロは『ヴェロス』を展開させて『散弾』を放つ。
左右、正面からのナイフと矢の嵐がへレスを襲う。
だが、煙幕から聞こえるのは弾かれる音のみで煙幕を斬り払って姿を見せるへレスは全くの無傷だった。
「今度は俺だ」
槍を構えるへレスにミクロは瞬時に槍を構えてへレスの槍を避けた。
「ほう、どうやら偶然じゃねえみたいだな」
感心の声を上げるへレスは再び姿を消すとミクロも姿を消した。
だが、今度は避ける事が出来ずにへレスと鍔迫り合いになる。
「ぐっ………」
「まさか、一回見ただけでこの槍の真の能力に辿り着いたか」
薙ぎ払って強引にミクロを飛ばすへレスにミクロは宙で回転して地面に脚から着地する。
「『
それが【
一定範囲内の空間を破壊することで瞬時に移動することが出来る。
防御無視の攻撃、魔法さえも破壊する能力、更には瞬時の空間移動。
『魔女』と呼ばれし、シャルロットの技量によって生み出された最強の槍。
絶対に壊れない『
しかし、それだけの素質と技量を持ち合わせなければ扱うことさえ困難とされている難物の為に誰でも扱えるという訳ではない。
以前、ミクロはこの能力を知らず、空間を破壊して接近したへレスに気付くことなく一撃を受けてしまった要因でもある。
「まさか俺以外にこの槍を使いこなせる奴がいるとは思いも寄らなかったぜ。だがな、お前がしていることは所詮猿真似なんだよ、ミクロ」
「………」
「お前の素質、技量は大したものだ。前回俺と戦ってそこまで使いこなせれるのは紛れもないお前自身の才能だ。だが、それだけだ。お前の弱点は一点に特化した能力を持つ者に弱い。何故ならお前は一つの事を極める才能がない」
だから猿真似だと告げる。
それぐらいとうの昔から身を持って知っている。
ミクロは全てにおいてある程度身につけれる才能はあっても一つの事を極めることが出来ない。万能故の欠点ともいえる。
剣で戦えばミクロはアイズに劣る。
魔法で戦えばミクロはリューにも劣る。
槍も同様にへレスに劣ってしまう。
だからミクロは数多の武器と
「
接近戦ではへレスが有利なのは明白。
距離を取って魔法で応戦したとしても空間を破壊して瞬時に距離を詰められる。
仮に魔法を放てたとしても攻撃魔法はへレスが持つ槍で破壊されてしまう為に
起死回生の切り札である魔法も使えない
「リュー、力を借りる」
「はい」
ミクロの言葉に応じるリュー。
ミクロは槍を『リトス』に収納してナイフと梅椿を逆手に持ち合わせる。
得物を変えたミクロの行動にへレスは嘆息した。
「今更武器を変えたところで……」
武器を変えて動きに変化を生じさせ、隙を突こうと思ったへレスだが、その考えは大きく違うことに気付いた。
ミクロに纏う雰囲気が先ほどまでと異なっていることに。
「行くぞ」
加速するミクロ。だが、その動きは先ほどまでと別人。
鋭い動きに、風のように走って、疾風を纏って攻撃する。
速度が上がれば上がるほどに鋭さと威力が高まるミクロの動きにへレスは戸惑いを覚える。
「なんだ……?」
先ほどまでとはまるで人が変わったかのように動きに変化が生まれたミクロに怪訝するへレスはミクロの瞳が空色に変化していることに気付いた。
ミクロの突然の変化の要因、それは【
同恩恵を刻まれた者の了承を得ることでそのスキルは発動する。
自分一人だけでは決して無理な相手でも仲間と共に戦う為にミクロは仲間達を頼る。
ミクロの背中には多くの仲間達が常にいてくれて、共に戦ってくれる。
心強い仲間達の力を持ってミクロはへレスと戦う。
「スキルか? だが、急に動きを変えたところで慣れちまえば意味がねえ」
最初は戸惑ったへレスだが、徐々に変化したミクロの動きに慣れて、攻め始める。
槍の一振りによって攻撃を弾かれて漆黒に矛先が立て続けに急迫した。
「
リューのスキル【
その隙を逃さず、一気に距離を詰めて魔法の詠唱を行う。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」
零距離でミクロは並行詠唱を行いながらへレスから離れず、攻撃する。
「テメエ……ッ!」
槍の能力で空間移動して距離を離れようとするへレスだが、ミクロも同様に空間移動で再び距離を零にする。
「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を】」
強力な攻撃魔法でも『
だが、『
距離を取って魔法を放てば破壊されてしまうが、その距離を無くした上での魔法はどうなる?
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
詠唱が続くにつれて膨れ上がっていく『魔力』。
危機感を覚えるへレスだが、自分から離れないミクロにへレスは迂闊に攻撃ができない。
何故ならここでミクロが『魔力』の制御を失ったらへレスは零距離で
いくら自分よりも格下の魔法とはいえ、零距離でこの膨れ上がった『魔力』を喰らえばただでは済まない。
空間移動を行っても同じ槍を持つミクロは瞬時に距離を詰めてくる。
距離を詰めることで槍の間合いから逃れたミクロを一瞬で仕留めることは出来ないし、当然ミクロもそれを警戒しているはずだ。
「【来たれ、さすらう風。流浪の旅人】」
一歩間違えれば自爆にも関わらずミクロの歌声は決して揺るがない。
魔法の射程範囲内から逃れる術もない。
「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」
ぶわっ、とへレスの身体から汗が噴き出すなかでへレスは口角を上げた。
それは冒険者としての剛毅の笑み。
(面白れぇ、受けて立ってやる……ッ!)
これから放たれる魔法がどのような魔法かをへレスは知っている。
自身の周囲に緑風を纏う大光玉を召喚して放つ攻撃魔法。
なら、攻撃を行う僅かな時間でミクロは距離を取って放つはずだ。
そうしなければ魔法を放つミクロ自身にもその魔法を浴びてしまうからだ。
魔法は放たれるだろう。だが、へレスは自身の持つ槍を持って全て迎撃する覚悟で腹をくくる。
その僅かな心の隙をミクロは見逃さない。
ナイフを捨てて、へレスの槍を掴むと矛先を自身に突き刺す。
以前にベートがミクロに使った捨て身の『
自身を矛を収める鞘代わりとして隠し、その能力を封じる。
「なっ――」
「【ルミノス・ウィンド】!」
驚愕するへレスにミクロは魔法を発動させ、緑風の大光玉を一斉砲火。
へレスを道連れに自身諸共その魔法を受ける。
自爆覚悟で放った魔法はミクロとへレスの両方を吹き飛ばす。
「がは……ッ」
血を吐き出しながらも身体に突き刺さっている槍を引き抜いて立ち上がるミクロはその槍をへレスに与えない為に『リトス』に収納して隠す。
一番の脅威である得物を奪い、近距離で自分諸共魔法を直撃させたミクロだが、それでもミクロはまだ立ち上がり、その手に力が入る。
堅牢の自身の身体を利用しての自爆攻撃を軽傷で済ませることが出来たミクロは砂煙が舞う周囲を見渡してへレスを探る。
回避を与えない至近砲撃。喰らえば如何にへレスでも只では済まない。
槍も奪った。例え立ち上がって来れたとしても先ほどよりかはまだ勝機がある。
砂煙が舞い上がる中で影がゆらりと動いた。
「………参ったぜ。戦場に少し離れただけでこうも勘が鈍るとは」
砂煙が収まって行く中で傷と火傷を負ったへレスは額に手を当てて嘆いていた。
「………癪だが、認めてやる。お前は全力を持って倒す敵だとな」
苛立ちながらもミクロを敵認定するへレスにミクロは降伏を勧めた。
「もう止めろ。これ以上戦っても意味がない」
「意味ならある。お前は俺達の理想の障害となるなら俺はそれを壊す。理想に近づく為に」
自身の理想を諦めないへレスの考えは変わらない。
「全ては俺達の理想の為に俺はお前を―――殺す」
そしてへレスは理想に捧げる歌を捧げる。
「【理想に殉じ、捧げる同胞達よ。我が呼び声に応じ、我等の願いの為にその身を捧げろ】」
「ッ!?」
詠唱を口にするへレスにミクロは距離を取った。
「【理想の糧になれ、我は汝らの想い、懇願、悲願を共に背負う。そして、障害となるものを一切合切を全てを破壊して理想に達しよう】」
綴る詠唱にミクロはへレスから感じる異質の『魔力』に警戒する。
魔導士のようにへレスの足元には
攻撃魔法だとしてもミクロが持つ『
なのに、どうして自分の身体が震えているのかわからない。
「【全ては戦場で哭いた同胞達の為に、理想を叶えよう】」
そして、へレスはその魔法を発動させる。
「【バリスロール・ゼル】」
魔法名を告げると同時に空から三つの白紫色の炎のようなものがへレスの元に漂うとへレスはそれを食べた。
クチャクチャと粗食音を立てながら食べるその光景に目を奪われながらへレスはそれを飲み込んだ。
「ふぅ~、後は俺に任せな」
自身の腹を擦りながら告げるへレスは拳を作ってミクロを見据える。
「………ミクロ、正直、俺はこの魔法は好かねえ。だが、これを使わなければお前には勝てないと踏んだ。お前を確実に
「………………まさか」
へレスの言葉にミクロは察した、いや、察してしまった。
「俺の魔法【バリスロール・ゼル】は吸魂魔法。同じ『
この戦場にいる残りの
「仲間の命を何だと思ってる!? そこまでして叶えなければならないことなのか!?」
仲間の命を糧に強くなったへレスに憤るミクロは理解出来なかった。
理想の為に命を捧げる
「お前達が掲げる理想がそんなにも大事なことなのか!? 仲間達の命を糧としてまで叶える必要があるのか!?」
黄金色の槍を手にミクロは魔法を発動する。
「【駆け翔べ】!」
白緑色の風を纏うミクロはその魔法の力を開放する。
「全開放!!」
風を纏い、後方にある木々を足場に着地したミクロは武器と脚に風の力を集中させる。
「アルグ・フルウィンド!!」
必殺技を発動させるミクロは閃光となってへレスに突貫する。
一直線に進むミクロの必殺技に対してへレスは片腕を突き出す。
「っ!?」
そして止められた。
ミクロが放つ最大の必殺技をへレスは片腕で受け止めた。
「理想も抱いたことのない餓鬼が俺達を語るな」
突き放たれる拳砲が、ミクロの身体を貫いた。
「―――――――――っ」
「もうお前は必要ない。理想に必要な『王』は俺がなる」
冷酷に告げられる別れの言葉と共に貫いた腕を引き抜くとミクロは地面に伏せる。
「あばよ、ミクロ」