路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three01話

ミクロ・イヤロス

Lv.7

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

堅牢:C

神秘:E

精癒:E

適応:F

魔導:H

創造:I

 

「オラリオで二人目のLv.7ね……」

ミクロの【ステイタス】を更新したアグライアはミクロの更新用紙を見てぼやいていた。

「『発展アビリティ』は『創造』………沢山の魔道具(マジックアイテム)を作製したからかしら……?」

【ランクアップ】を果たしてミクロが得た『発展アビリティ』は前代未聞のアビリティ『創造』。

このアビリティはどのような効果があるのかはまだミクロ本人でさえわからない。

「ミクロは幸せになって欲しいのにね……」

悲観的に呟くアグライアのその言葉には主神として一人の家族としての懇願。

辛くて過酷な運命を背負って誕生したミクロはそれ以上に幸せになる義務がある。

だけど、Lv.7となった以上はオラリオで最強戦力の一つとして既に捉えられているはずだ。

もはやオラリオの外に出る事すらできないのかもしれない。

悲嘆にくれるアグライアは自室でどうするかと思案している時。

『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!?』

食堂の方から子供(けんぞく)達の叫び声が聞こえてきた。

「なにかしら……?」

気になったアグライアは自室を出て食堂の方へ足を運ぶ。

この時はまだ知らなかった。

ミクロとリューが恋人同士になっていることに。

 

 

 

 

 

 

「俺とリュー、恋人同士になったから」

団員が集まる夕食時にミクロは突拍子もなく平然とそのことを団員達に告げると全員は動きが凍って一瞬の静寂の後に。

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!?」

「うそぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」

「いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!?」

驚愕、困惑、絶叫を上げる団員達に平然と食事を進めるミクロにその隣でリューは突然の告白に顔を朱色に染める。

「ちょっと、どういうことよ!?」

「説明してください!? 団長!」

リューと恋人同士になっていることを知ったミクロに恋心を抱いているティヒア達がその事の関する詳細を追求してくる。

「おめでとうございます!! 団長、リューさん!」

「おめでとうございますわ」

「おめっとさん」

特にミクロやリューに恋心を抱いていないベル達は素直に二人に祝福の言葉を送った。

「おお、マジかよ………」

「マジみたいだな。団長に恋心があったことに俺は驚いた」

「いや、副団長ならあるいはとは俺は思ってたぞ?」

「うわー、びっくりしたね。スィーラ」

「………そうですね」

二人が恋人同士になった衝撃の告白に驚く者達もいる。

それぞれの反応を示す【アグライア・ファミリア】の団員達だが、少なくとも一つだけ共通していることがある。

リューの隣にいるミクロが幸せそうだということに。

「お~、遂にミクロ君にも誰かを好きになっちゃたか………」

「お、落ち着いているね、アイカお姉ちゃん……」

ティヒア達同様にミクロに恋心を抱いているアイカはいたって落ち着いた様子で食事をしていたことにセシルは驚いている。

失恋と、口には出したくはないがそれでも姉のように慕っているアイカがショックを受けている顔なんて見たくはなかった。

そんなセシルの頭をアイカは優しく撫でる。

「セシルちゃん。世の中には略奪愛というものがあるんだよ~」

微笑みながら告げるアイカにセシルは失笑した。

前言撤回。

この人は全然諦めてはいなかった。

むしろ、リューからミクロを奪う気満々だった。

我が姉は末恐ろしいと戦慄する。

「恋は戦争。諦めたのならそこで終わりだよ~。まぁ、その方が私には好都合だけどね~」

わざとなのか、全員に聞こえるように話すアイカにティヒア達の胸に宿す恋の炎が再び発火する。

そう、まだ二人は恋人同士になっただけで結婚したわけではない。

ならまだ巻き返せる。

こんなところで諦めてたまるかと恋の炎を灯す。

煽るアイカの言葉に触発されて戦線復帰を果たしたティヒア達にリューの冷汗が垂れる。

一歩有利に進んだだけでは油断はできない。

油断をすれば横からミクロが掻っ攫われてしまう。

負けられない。その想いが強くなる。

「なぁなぁ、団長は副団長のどこが好きになったんだ?」

恋する乙女たちが無言の攻め合いを行うなかで普通の食事を進めているミクロにリオグが尋ねた。

「リューはいつも俺の傍にいてくれる。だから好きになった」

素直にリューに対する想いを話すミクロにリオグは胸を押さえてよろめく。

「………やべぇ、団長を直視できねぇ」

下心が一切なしの純粋な想いを聞いてしまったリオグはそんな純粋な心を持つミクロに下心満載の自分ではまともに見ることができない。

わーわー、とミクロの想いを聞いた女性団員達は黄色い声を上げる。

リューは羞恥心で胸がいっぱいで今すぐにでもこの場から逃げ出したかったが、ミクロがリューの手を掴んで離さなかった。

別に力を入れているわけでもない。

優しく握っているが、愛する人の手を振り払うことなどリューにはできなかった。

『ううぅぅぅ………』

そんなリューを恨めしい目線を送る恋する乙女達。

羨ましい、自分もああなりたいと羨望の眼差しも向けられていた。

「えっと、どういう状況なのかしら………?」

「あ、アグライア様。実は……」

食堂にやってきた主神であるアグライアはこの混沌を極めた食堂を見て困惑すると、近くにいたセシルが事情を説明した。

「あらあら」

セシルからミクロとリューが恋人同士になったことを聞いて嬉しくも微笑ましい気持ちになる。

先ほどまでの心配はどうやら杞憂に終わった。

「やっぱり違うのね……」

不変である神々とは違って下界の子供達は変わっていく。

ミクロも例外ではなく、幸せになっていっている。

主神として、一柱の女神として心から二人を祝福する。

「おめでとう。ミクロ、リュー」

主神として祝福の言葉を送ると、アグライアは子供(けんぞく)達に告げる。

「皆でミクロのLv.7の【ランクアップ】とミクロとリューに祝杯をあげましょう!」

乾杯(かんぱーい)!!!』

主神(アグライア)の言葉に団員達はジョッキをぶつけ合って二人を祝う。

賑わう食堂で中にはヤケ酒に走る者もいるが、それでも楽しいとさえ思えた。

「リュー。ここが俺達の(ホーム)なんだな………」

「ええ、その通りです」

【シヴァ・ファミリア】との因縁を乗り越えてミクロは改めてここが自分がいる家だと思えた。

もう抱えるべき問題は終わった。

それでもミクロにはまだまだするべきことが沢山あるが、今だけは皆と一緒に楽しみたかった。

「団長、ポーカーしようぜ!? 俺が勝ったら副団長に関することを根掘り葉掘り話してもらいやすぜ!?」

「負けられない……」

ポーカーに誘われてそれに応じるミクロは団員達と戯れる。

それを微笑ましく見守るリューの肩を誰かが掴んだ。

「さぁ、キリキリ話してもらうよ~?」

笑顔で、だけど目が全く笑っていないアイカとその後ろに控えるティヒア達に捕まったリューもまだ終わらない戦いに身を投じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………やっと解放されましたか…………」

長きに亘る尋問もとい質問攻めからようやく解放されたリューは一人で通路を歩いていた。

慣れないことをされて精神的に疲れたリューは今日は早めに就寝しようと自室に向かう途中で中庭でミクロがいることに気付いた。

「何を………?」

何かを抱えてそれを地面に置いてミクロは道具を取り出してそれを弄り始める。

何をしているのかと思い、気になったリューは中庭へと訪れる。

「ミクロ、それは?」

「新しい魔道具(マジックアイテム)の最終調整」

黒い輝きを放つその魔道具(マジックアイテム)は普段から見るものとは比べ物にならないぐらいに大きい。

興味本位でそれを見ていると最終調整が終えたのか、ミクロは立ち上がってリューの手を取る。

「リュー、一緒に行こう」

「どこへ?」

「空」

空を指すミクロに怪訝しながらもリューはミクロの手を取ってその魔道具(マジックアイテム)の上に足を置く。

「『ノーエル』起動」

ミクロの言葉を合図に『ノーエル』の左右にある刃が翼のように展開して、後ろにある噴出口から光粒を墳かして加速的に空を飛んだ。

「ちょ……!?」

「しっかり掴まって」

突然の加速と浮遊感に驚愕するリューの手を握って身体を支えるミクロが新たに作製した魔道具(マジックアイテム)『ノーエル』は大気中の魔素を吸収してそれを放出することで加速的な速度と飛行を可能にする。

使用者の魔力も使えば更なる加速が可能だが、今は試運転の為にそれはしない。

オラリオの空を二人で独占する。

「飛行、加速共に問題なし」

試運転に何も問題はないことを確認し終えるとミクロはリューに視線を向ける。

「どう?」

「………次からは事前にどのような効果があるかを教えてください」

「ごめん」

予想以上の魔道具(マジックアイテム)に今も驚きを隠せれないリューに謝罪する。

「しかし、流石はミクロです。これは凄い魔道具(マジックアイテム)だ」

驚くほどの加速力を持つミクロの新しい魔道具(マジックアイテム)を称賛する。

これでまた、冒険で仲間が死ぬ確率は減るだろう。

「リュー」

「はい?」

呼ばれて振り向くとミクロはリューと唇を重ねる。

今度は一瞬。だけど、それだけでリューが赤面するには十分だ。

「愛してる、リュー。これからも傍にいて」

卑怯だと、思った。

いつも突然にこちらの心の準備もなしにされては動揺を隠す事さえできない。

恥ずかしげもなくに愛の言葉を述べるミクロの天然さをリューは恨めしくも憎めない。

「………私のこの想いは変わりません」

ミクロの傍にいる。

それはとても簡単そうに見えて実はそうでないのかもしれない。

それでもリューはミクロの傍にいたいと思っている。

胸にあるこの変わらない想いと一緒に。

 

 


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