路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three02話

【シヴァ・ファミリア】との因縁が終えてもミクロにはまだまだするべきことは多い。

これまでに築き上げてきた【ファミリア】や異端児(ゼノス)のことについてもするべきことは山のようにある。

「ベル、動きを止めるな。常に動いて相手を翻弄させろ。セシル、もっと小技も使え。大鎌での攻撃ばかりだと隙だらけだ」

「「はい!」」

今日も朝からセシルとベルを鍛えている。

しかし、今回は相手をせずに二人の模擬戦を見ながら注意点を告げるのみ。

本当なら実際に戦いながらが一番なのだが、ミクロはまだ【ランクアップ】した心身のズレを把握していない。

今の状態で二人の相手をするのは危ないということで今回は観察のみにしている。

朝の鍛錬が終わり次第、ミクロはそのズレを調整に向かう。

「ヤァッ!」

「セイッ!」

衝突する大鎌と両刃短剣(バセラード)

『力』と『耐久』ではセシルがベルを上回り、『敏捷』はベルの方が上回っている。

魔法やスキルを抜いて【ステイタス】に頼らない己自身で磨き続けてきた技と駆け引きを互いにぶつかり合うことで更なる磨きをかける。

「あ…」

衝突するその瞬間、ベルの両刃短剣(バセラード)が折れた。

「………やっぱり、ベルの武器を急ぐ必要があるか」

ぼやくミクロ。

今回は武器の性能の差。

セシルの武器は深層の素材で作られたものに対してベルが使っている両刃短剣(バセラード)はヴェルフが打った作品だ。

ヴェルフの腕が悪いというわけではない。

ただ、武器がベルについて行けていないのが原因だ。

前代未聞のスキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】は成長を飛躍させてしまうレアスキルにベルはついていけてもその武器までもがついて行けるかと言われれば否だ。

能力(ステイタス)に合った武器を持つのが一番だが、ベルはまだそれを持っていない。

「す、すみません、団長……」

「いや、問題ない。今日はこのぐらいにしよう」

武器を壊してしまったことに謝罪するベルにミクロは気にもとめない。

ヴェルフとの話し合いで既に設計は完成し、現在はヴェルフが超貴重素材(ドロップアイテム)を使って剣を打っている。

ヴェルフが打ち終われば今度はミクロ自身の手で加工していく。

まだ時間は有するだろう。

ベルとセシルの朝の鍛錬を終わらせるとミクロは一人でダンジョンに向かった。

「おい、あれ………」

「ああ、オラリオで二人目のLv.7」

「【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】に続く新たな最強派閥」

街中を歩くと他の同業者達や一般人達の声が聞こえるが全て聞き流す。

ミクロがLv.7になったことにより、【アグライア・ファミリア】は二大派閥と並び、新たに三大派閥の一角にまで上り詰めた。

ミクロにとってはそれはどうでもいいことだが、その事実だけは【ファミリア】の団長としてしかと受け止めている。

ダンジョンに到着したミクロは上層では流石に調整が出来ない為に駆ける。

Lv.6の時よりも速く動けることを実感しつつ、上層から中層に潜る。

襲いかかってくるモンスター達を蹴散らしつつ、ミクロは17階層の『嘆きの大壁』にまでやってくるとそこにいる階層主ゴライアスは姿を現す。

『――――――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

総身7(メドル)を超える灰褐色の巨人は産声を上げる。

「………」

ゴライアスの誕生を傍観するミクロにゴライアスは拳を振り下す。

『―――――っ!?』

「………なるほど」

振り下された巨人の大鉄槌をミクロは片腕で受け止めた。

受け止めた巨椀を払い、ミクロは宙を跳び、回し蹴りを放つとゴライアスの首と胴が分断される。

「………………もうゴライアス程度では調整もできないか」

灰となってドロップアイテムと魔石だけを残すゴライアスを見てぼやくミクロはその二つを回収して更に下を向かう。

初めてゴライアスと戦った時はリュー達と共に戦い、やっとで勝てた相手だったが、今となってはもう相手にもならない程に強くなった。

18階層を超えて一気に19階層に下りるミクロはモンスターを倒しつつ、更に下を目指す。

そして気が付けば深層域まで足を運んできていた。

「ウダイオスはまだか………」

スパルトイを倒し終えてミクロはこの階層の階層主であるウダイオスが誕生する周期が終えていない。

ウダイオスなら今のミクロの調整にちょうどいいと思っていたのだが、いないものをねだっても仕方がない。

「………帰るか」

これ以上にここに留まる理由がない以上、さっさと地上に帰って手に入れた魔石やドロップアイテムをセシシャに渡して売りさばいて貰おうと考えながら新しい魔道具(マジックアイテム)『ノーエル』に乗る。

「っ!?」

その時だった。

どんっ……どんっ……と重音な足音が響き渡る。

足音から二足歩行のモンスターだと言うことは理解できるが、この深層域でそのようなモンスターがいるとは思えない。

ミクロはここで初めて『リトス』から槍を取り出して足音がする方に構える。

今のミクロなら大抵のモンスターは素手で打倒できるか、これは武器を使わなければならないと直感でそう判断したからだ。

そして、それは姿を現した。

漆黒の体皮。二(メドル)を上回る巨躯は岩の様な筋肉で覆われて、更にその上に纏うのは冒険者の鎧だ。

はち切れんばかりの胸鎧(ブレストアーマー)、肩当て、手甲、腰具、脚装。

その巨体が収まり切れない全身型鎧(フルプレート)部位(パーツ)を軽装のごとく身に着けている。片手に掲げるのは巨大な両刃斧(ラビュリス)であり、更に鎧の背にも異なった大斧を取り付けていた。

頭部から生える双角の色は紅。

その威容から連想される単語は、猛牛。

「………お前、異端児(ゼノス)か?」

普通のモンスターとは明らかに異なるその姿にミクロは目の前の猛牛にそう尋ねると首を縦に振った。

「自分の名は、アステリオス」

「俺はミクロ。【アグライア・ファミリア】団長、ミクロ・イヤロス」

名乗りを上げるアステリオスにミクロも名を告げる。

「ミクロ………あの者に似ている………」

「あの者?」

その言葉に怪訝するミクロはそこで気付いたのはミクロ自身が前にアステリオスを見たことがあるからだ。

異端児(ゼノス)は簡単に言ってしまえばモンスターの転生体だ。

幾重の年月の中、生まれ変わりを得て、積み重なった強い未練と強い願望が魂に積もることで魂の循環―――輪廻転生の果てにまたダンジョンのどこかで産まれる。

その際に明確な自我と知性の発生したモンスターが異端児(ゼノス)だ。

つまり、目の前のアステリオスもリド達同様に一度はダンジョンで産まれて死んで、モンスターの母体であるダンジョンから新たに産まれた存在。

そして、自分に似た人物をミクロは知っている。

「お前……ベルと戦ったミノタウロスか」

「ベル………その者が自分の好敵手………」

アステリオスはベルが倒したミノタウロスが異端児(ゼノス)として産まれた。

「ベル……あの者ともう一度戦いたい。自分をこうも駆り立てる存在が、いる」

「………」

「再戦を望みたい。血と肉が飛び殺し合いの中で、確かに意思を交わした、最強の好敵手と」

己の前世を語るアステリオスはただ、ベルとの再戦を望んだ。

初めて命を賭した攻防を、互いの全てをぶつけ合ったベルと。

また戦いたいと、己の夢を語った。

「アステリオス、お前の気持ちはわかった。だが、今はまだ待て。今のベルには自身が持つ武器がない。それが完成したらベルをお前の前に連れてくることを約束する」

「感謝する……」

願いを聞き入れるミクロにアステリオスはただ感謝した。

ミクロはベルの武器を速く作ってやろうと思う。

そして、ミクロは矛先をアステリオスに向けた。

「アステリオス。今のお前の実力を知っておきたい。それにお前なら今の俺にちょうどいい相手だ」

アステリオスを見て感じ取った潜在能力(ポテンシャル)は第一級冒険者をも凌ぐと踏んだミクロはアステリオスに【ランクアップ】した心身のズレの調整を行おうとしている。

それに応じるかのようにアステリオスは笑みを浮かべて両刃斧(ラビュリス)を持つ手に力を入れる。

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

弩級の咆哮を放つアステリオスにミクロは黄金色に輝く槍を構えて駆ける。

「勝負だ」

接近するミクロは槍でアステリオスを穿とうと言わんばかりの苛烈な突きを放つが、両刃斧(ラビュリス)がその槍の矛先を弾いて剛腕をミクロに薙ぎ払う。

瞬時に槍を『リトス』に収納、回避、ナイフと梅椿を新たに武器を持ち換えてアステリオスの懐に潜り込み、その巨躯を切り刻む。

『―――――ォォォオオッ!』

双眸を見開いて渾身の力を持って両刃斧(ラビュリス)を振り下すも、ミクロは身を捻らせて回避行動を取りつつ冷静にアステリオスの実力を分析していた。

潜在能力(ポテンシャル)はLv.7手前といったところか………)

自分と同じ領域よりも下でLv.6よりも少し上が今のアステリオスの実力だ。

能力(ステイタス)で表すのならLv.6の上位の経験値(エクセリア)を積んだ程。

(だけど、膂力は無視できるものではない……)

一撃でも受ければ損傷(ダメージ)は免れないだろう。

ナイフと梅椿でアステリオスの鎧ごと切り刻んでいくが、それでも怯まない強靭性(タフネス)も鎧の下にあるその堅牢な筋肉も並大抵の攻撃ではビクともしない。

魔法を使えばアステリオスを圧倒できるが、ミクロはそれはしない。

これは互いの実力を知るためのいわば手合わせに近い。

今の自分の実力を知って貰う為に二人は得物を交える。

『―――オオッ!!』

不意に放たれる紅の角がミクロの得物を防ぎ、はね返す。

隙を晒すミクロにアステリオスは地を陥没させるほどの踏み締めをもって両刃斧(ラビュリス)の一撃を炸裂させた。

『!?』

はずだった。

炸裂する、その瞬間にミクロは姿を消した。

「ここだ」

『スキアー』を使って影移動でアステリオスの背後を取ったミクロは拳を握って渾身の拳砲を放つ。

『ブオッ!?』

殴られ、その巨躯は揺らぐ。

『ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「!?」

それでもアステリオスは猛攻は揺るぐことはない。

強引に身を捻らせて背後にいるミクロに両刃斧(ラビュリス)を叩き込む。

咄嗟にナイフと梅椿を交差して防御したミクロだが、アステリオスの膂力に負けて壁まで吹き飛ばされてしまう。

「なるほど……」

壁まで叩きつけられてもミクロに大した損傷(ダメージ)はない。

立ち上がるミクロにアステリオスは鎧に付けられていたもう一振りの大斧を掴み取る。

双斧装備(ダブル・アックス)となるアステリオス肩と腕の筋肉を隆起させて、右手に持つ血濡れの大斧を振り下ろす。

その瞬間―――――放電が発生した。

視界を黄金に塗り潰す放電現象。多頭竜(ヒドラ)のごとく無数にうねる雷撃の牙が一帯を埋め尽くしてミクロの逃げ場を無くす。

回避する術がないミクロはただ雷の砲撃に呑まれるしかない。

「それは悪手だ。アステリオス」

『っ!?』

ミクロはその雷の砲撃をその身に浴びながらも突っ切る。

ミクロは既に雷撃にも適応している。

故にミクロに雷撃は通用しない。

突っ切ったミクロはアステリオスとの距離を無くしてその顎下に強烈な拳砲を炸裂させる。

「終わりだ」

更に強力な電撃を放つ魔道具(マジックアイテム)『レイ』を発動させ、アステリオスはその電撃をミクロの拳と共に至近距離でそれを喰らってしまう。

『………オ、オオオ』

膝をつくアステリオスは口から血を吐き出して己の身に敗北を刻まれてしまう。

「勝負ありだ、アステリオス」

二人の勝敗はここに決した。

 


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