路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three07話

セシルとベルに新人教育を一任していたミクロは今日はミクロが新人の面倒をみることになった。

その理由は弟子であるセシルに泣きつかれたから。

流石のミクロも大切な弟子が泣くほど困っているのにそれを放置したままにはできなかった。

「ファーリス、動きが素直過ぎる。型に忠実なのはいいが、そこから自分なりの変化を加えるように意識しろ」

「はい!」

「ニーチャ、お前は前に出過ぎてる。もう少し周囲に意識を向けろ。ダンジョンで仲間(パーティ)から孤立すれば真っ先にモンスターに襲われる」

「わ、わかった!」

「ガマッド。ドワーフの力と耐久を活かす戦闘はいいが、大槌が大振りすぎる。モンスターは複数で襲いかかってくるから複数方面からでも瞬時に対応できるようにもう少し小振りで対処しろ。必要以上に力まなくてもお前の力なら十分に倒せる」

「わ、わかっただ!」

「アイルー。猫人(キャットピープル)特有の機敏さと俊敏はいいが、それだとすぐに体力がなくなる。持久戦も考慮して戦闘を行うように」

「ニャッ!?」

「スモルはもう少し自身の体格を活かせ。小人族(パルゥム)は背は低い分に低空から攻撃、脚から攻めて相手の動きを封じてから倒せ。わざわざ相手の土俵で戦う必要はない」

「あ、ああ……」

「ヤエの得物は棍棒だな、なら薙刀も扱えるか? ヤエの動きから棍棒よりもそちらの方が戦いやすくなると思う」

「わ、わかりました……今度試してみます」

「ドリ。槍捌きに関しては言うことはないが、お前も周囲に気にかけろ。時折仲間(パーティ)にお前の槍が当たりそうになっている」

「注意します」

「シェドン、お前はもっと積極的に攻撃しろ。必要以上に周囲に意識を向けすぎている為にモンスターの反応も少しばかり遅い」

「はい!」

「ティコ、お前は観察力を鍛えろ。仲間の動きとモンスターの動きをよく見て観察してどのように動くか常に予測して矢を放て。弓の技量を上げたかったらティヒアに教わればいい」

「はい!」

ダンジョン2階層で新人の欠点や助言(アドバイス)を送るミクロの後ろでセシルとベルは空いた口が塞がずにいた。

一人一人にそれぞれ違った助言(アドバイス)を送れるほどの観察力と洞察力に感嘆するほかなかった。

「お師匠様凄い………」

「うん……」

二人揃って呆然とする。

昨日までの自分達のちぐはぐの助言(アドバイス)とは比べるまでもない的確な助言(アドバイス)

どうしてそこまでわかるのか二人にはわからなかった。

「休憩」

ある程度戦闘を行うと休憩を与えるミクロに新人達は腰を下ろして回復薬(ポーション)や携帯食を口に入れる。

「あの、団長………」

「どうした?」

「団長はどうしてそこまで的確な助言(アドバイス)を?」

武器の特性から種族としての個々の力量に至るまでまるで全てを知っているかのような助言(アドバイス)を送るミクロにファーリスは思い切って尋ねてみた。

「経験だ。お前等もいずれ出来るようになる」

((絶対無理です!!))

セシルとベルの二人の心の声が重なった。

ただの経験でそこまでわかるのならこんなにも苦労はしない。

やはり、ミクロは自分達と比べると頭の一つや二つは優に超えている。

二人にとってもミクロは追いつきたい目標でもあるが、その凄さを目の当たりにすればするほどに雲泥の差があることを思い知らされる。

「ねーねー団長! せっかく一緒なんだから団長の魔法見せてよ!!」

「うちも見たいニャ!」

ニーチャの懇願に便乗するアイルーにつられて他の新人も気になるような眼差しを向けていた。

「わかった」

新人の懇願に首を縦に振るミクロにニーチャ達は「やった!」と歓喜の声を上げる。

「でも、上層では無理だ。中層まで行くぞ」

「え、しかし……」

「問題ない。俺もいるし、セシルとベルもいれば危険なことはまずない」

まだ新人であるファーリス達を中層という危険な階層まで連れて行っていいのかと思うが、この場にいるのは都市最強の一人であるLv.7のミクロだけでなくLv.3のセシルとベルもいる。

万が一に何かあったとしても十分に対処できる。

「それにこういうのは早いうちに慣れた方が良い」

その言葉に背筋に冷汗を流すセシルとベルは同情の眼差しを新人達に向けていた。

「ついでだ。上層のモンスターにも慣れるために戦闘はファーリス達に任せろ。大丈夫、死ぬ前には助けるから安心して戦ってくれ」

まだ入団して間もない新人達はミクロのその言葉に数秒間理解することが出来なった。

「何事も慣れだ」

その一言で始まった新人によるモンスターでの実戦訓練では新人達は泣き叫びながら生き残るために己の武器を振るった。

互いに背を預け、団結する新人達の間には種族の壁などない。

そうしなければ死ぬ、という凄惨な思いを抱えながら走馬灯を何度も脳裏を過り、セシルとベルに援護して貰いながら目的の場所である中層までやってきた。

「はぁ………はぁ…………」

「生きてる………生きてるよ…………」

第二級冒険者の援護ありで上層のモンスターとの死戦を乗り越えた新人達は命あることに心から歓喜していた。

何度も何度も死ぬ思いをしてようやくたどり着いた中層でミクロは新人達に告げる。

「上層のモンスターには慣れたな。次からは早朝に訓練を交えてからダンジョンに向かうから体調を明日の朝までに戻しておけよ」

新人達の心は折れかけた。

慣らすために自分達よりも能力(ステイタス)が高いモンスターと戦わせたミクロの訓練に誰もが根を上げて逃げ出したかった。

「お師匠様………」

「団長……」

相変わらずの酷烈(スパルタ)に二人はなんとも言えない視線を送りながら新人達に回復薬(ポーション)を飲ませて回復させていく。

「ベルとセシルは新人達を守れ。それで俺の魔法なんだが、俺は複数の魔法が使えるからどんな魔法がいいか希望はあるか?」

新人に見たい魔法の希望を問いかけるが、誰もまともに答えれるほどに体力は戻っていない。むしろ、ここまで生き残っただけでも十分過ぎる程の成果だ。

「なら、攻撃魔法でいいな」

『リトス』から魔杖を取り出して魔法の詠唱に入ろうとしたその時、ちょうどいい機会(タイミング)でヘルハウンドやアルミラージが群がって来た。

「【這い上がる為の力と仲間を守る為に力。破壊した者の力を創造しよう】」

足元に白色の魔法円(マジックサークル)を展開しながらミクロは詠唱を続ける。

「【礎となった者の力を我が手に】」

詠唱の途中でヘルハウンドが火炎を放つが、並行詠唱を身に着けているミクロには容易に回避できるが、ミクロはあえてその火炎を浴びる。

「【アブソルシオン】」

詠唱を終えて再び詠唱に入るミクロは服を少々焦がした程度で無傷だった。

元々耐久に優れていたミクロの肉体はもはや中層のモンスターの攻撃ではビクともしない。

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者の前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えろ】」

「これはレフィーヤの…………」

ミクロが選んだのは【ロキ・ファミリア】に所属している魔導士レフィーヤの広域攻撃魔法。

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」

アルミラージの石斧(トマホーク)の投擲を放つが、ミクロの頭部に直撃同時に粉砕される。

いやいやいや、どうして石の方が壊れるのかと疑問の言葉を投げたかったセシル達はその言葉はぐっと呑み込んで留める。

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

詠唱は完了してミクロは魔杖を高らかに上げて魔法を発動する。

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】」

夥しい火の雨が連発されて、ヘルハンドもアルミラージも絶叫と共に灰すら残さずに燃やし尽くす。

「少し魔力を込め過ぎたか……」

中層ということもあって威力を押さえた状態で魔法を発動したが、それでも強すぎたミクロは少しばかり加減を間違えた。

以前なら魔石ぐらいは残せるほどに魔力の調整は出来たが、魔法に関しては再調整が必要と判断する。

「まだあるけど、とりあえずこんなところだ」

唖然とする新人達に見詰められながらミクロは自分の魔法を見せた。

新人達はその日に改めて自分達の団長の凄さを思い知らされた。

それに気付かず、ミクロは今度は誰かと一緒にダンジョンに潜って魔法の再調整を行うことを視野に入れておいた。


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