路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three08話

【アグライア・ファミリア】の食堂で団員達はいつものように食事を取っている最中、団員達の視線は一箇所に注がれていた。

「リュー、あ~ん」

「あの、ミクロ………?」

スプーンで掬った食べ物をリューに食べさせようとするミクロに戸惑う。

何時もならミクロは食べる側だが、どういうことか食べさせようとしている。

「前のことを反省した」

前、唐突の子作り発言のことを思い出すリューにミクロは経緯を話す。

「物事には順序が必要だと本にも書いてあったからまずは恋人同士それらしいことから始めて行こうと思った」

その最初の行動が食べさせ合うという結論に至ったミクロはそれを実行中。

「…………」

なんとも言えない。

確かに前回の子作り発言には驚きもしたし、戸惑いもした。

それを踏まえて段階を踏むように考え直したことには素直に称賛の言葉を送りたい。

だけど、こんなところでしないで欲しかったのがリューの素直な本音だ。

チラリと周囲に視線を向ける。

ニヤニヤと状況を楽しんでいる者もいれば微笑ましい顔を浮かべている者もいる。

だが、女性団員の殆どがリューに嫉妬と羨望の眼差しを向けて睨んで、親の敵を見るような激しい目付きで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

ティヒア、アルガナ、バーチェなどは食器を握りしめて壊している事にすら気付かずに目線でさっさと食えと言わんばかりに殺気を飛ばしてくる。

その席の近くにいた不運な新人であるニーチャは怯えてアイシャに慰められている。

【アグライア・ファミリア】には団長であるミクロには知らない鉄の掟がある。

主に女性団員達が対象とされている陰の鉄則。

それはミクロからの好意の邪魔はしない。

女性からミクロに声をかけて何かしようというのならそれの妨害は許される。

だけど、ミクロから誰かに何かを誘われた場合はその邪魔は許されない。

恋敵(ライバル)同士共通の願いはミクロの幸せ。

だからミクロの幸せの邪魔をしてはいけない。

だけど、それはそれでこれはこれだ。

鉄の掟(ルール)は守るけど、それを納得しろは別問題だ。

邪魔はしない代わりに一心不乱に竜をも射殺すような視線をリューに集中砲火させる。

「――――――ッッ!?」

「リュー?」

「な、なんでもありません………」

身の危険を感じ顔を青ざめるリューは周囲の視線と愛する人に食べさせてもらう行為の羞恥に耐えながら一口食べる。

「どう?」

「ええ、相も変わらずアンナが作る料理は美味だ」

気まずそうに視線を逸らしながら答えるリューは味の感想どころではない。

というよりもどんな味かわかるような余裕などない。

取りあえず、それらしい感想で納得してもらうほかない。

「では、ミクロ。次は私が」

「まだあるけど?」

「私はもう必要ありません」

別の意味でもうお腹いっぱいのリューはそれを誤魔化そうと今度は食べさせようとする。

「わかった」

スプーンを手渡すミクロに何人かはあることに気付いて目を見開く。

(か、間接キス………ッ!?)

先程リューに食べさせたスプーンで食べようとするミクロにリューの動きが固まる。

先ほどよりも視線が鋭くなった気がしてならない。

好意を寄せている人と間接キスができるというある意味ご褒美を合理的に堪能できる恩恵を得てしまったリューに今にも襲いかかりたいという衝動を堪える。

どうして食事でダンジョン以上の危機感を覚えなければならないとリューは内心でぼやく。

「?」

それに全く気付いていない天然(ミクロ)に羨ましくなる。

今だけは、今だけは少しでもいいからその天然さを分けて欲しい。

「で、では…………」

「リュー、手震えてる」

「気のせいです」

周囲の視線が怖くて震えながらスプーンでスープを掬ってそれをミクロに向けるとミクロは口を開けてそれを食べる。

「ん、美味しい」

普通に口にするミクロに女性団員達は震え出す。

怒り、妬み、嫉妬、羨望、欲望。様々な感情が全身を巡り合う。

それを一身に受けるリューと気付きもせず普通に食べるミクロ。

ただの食事でどっと疲れたリューは今すぐにでも自室に戻って休みたかった。

「じゃ、リュー。あ~ん」

「ッ!?」

『ッ!?』

戦慄を覚えた。

先程のやり取りをミクロはもう一度行おうとする。

たった一回でももう限界だというのにそれをもう一度行えばいくら第一級冒険者であるリューの強靭な精神(こころ)でも耐えられる自信がない。

「ミ、ミクロ……私はもう…………」

「リューはまだ一口しか食べていない。それだと明日の探索に困る」

明日は素材集めとして下層に訪れる予定。

それなのにリューは先ほどミクロに食べさせて貰った一口だけでそれ以外は食べていない。

それだと明日の探索に支障がでる。ミクロはそれが言いたいのだ。

だけどリューはそれどころではない。

再び、周囲に視線を向けたいが、向けたくない。

おぞましく漂る異様な気配からそれを察してしまうリューの背に冷汗が流れる。

死の気配さえ感じさせるリューにとっていつもの食堂は戦場に等しい。

精神(こころ)の戦場に放り込まれたリューの戦いはまだ始まったばかりだ。

「リュー、あ~ん」

我等の団長(てんねん)は変わらずに食べさせようと催促する。

 

 


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