【アグライア・ファミリア】
朝早くから鍛錬を欠かさないベル達も他の団員達と一緒に昼食を取り始めようとするが。
「あれ? お師匠様がいない」
「え? あ、本当だ……」
いつもなら朝の訓練の時も一緒にいるミクロも今日は朝から見ていない。
訓練の際は何かあるのだろうと思って特に気には留めなかった二人だが、朝食の時間になっても姿を見せないミクロに怪訝する。
「ミクロなら昨日からずっと自分の
その二人の疑問をたまたま近くを過ったティヒアが教えた。
「昨日も差し入れ持って行ったから間違いはないわ」
「そうですか……」
また
今度はいったい何を作っているのかと思いつつ、自分達も食事を取り始める。
「セシルちゃ~ん、ベルく~ん! おっはよ~」
「わっ!?」
「あ、おはよう。アイカお姉ちゃん」
背後から抱き着いてくるアイカにまだ慣れないベルは驚き、既に慣れたセシルは平然と挨拶する。
スキンシップが多いアイカに今更驚くことはなくなった。
「ミクロ君が~いないから二人で今日の分を補充~」
「あわ、あわわわわわわ…………」
抱き着いてされるがままに頬ずりされるアイカにベルは顔を真っ赤にして奇声をあげる。
「アイカ様! それ以上ベル様に頬ずりしないでください!!」
「あ、リリちゃんもおはよう~からのハグ!」
「むぅ!? んん! んんんッッ!!」
怒りながら接近してくるリリをアイカは獲物を見つけた捕食者のように瞳を光らせて抱きしめた。アイカの胸に顔が埋まるリリは叫ぶもその抵抗は空しく終わる。
「よぉ、ベル、セシル。お前等、今日も朝から訓練か?」
「ヴェルフ。うん、少しでも強くなりたいから」
「私も少しでもお師匠様のように強くなりたいからね」
「そうか。今度俺にも付き合わせてくれ」
「勿論! セシルもいいよね?」
「うん、歓迎するけど…………死なないでね?」
「お間がそれを言うと洒落になんねえぞ」
真剣な顔で忠告するセシルに顔を引きつかせるヴェルフにベルは苦笑する。
「ぷは!? どなかたリリを助けてください!!」
胸から開放されたリリの叫びは空しく、視線を逸らされた。
悪いと謝る者もいるが、誰も助けてはくれない。
「…………ベル様!?」
最後の希望であるベルに助けを求めるリリ。
「あはは…………ごめん、リリ」
「そ、そんな…………」
両手を合わせて謝るベルにリリの表情は絶望に染まる。
「ふふ~」
「ヒィッ!?」
ペロリと唇を舐めるアイカにリリは危機を感じたが、遅い。
リリはアイカが満足するまで離してはくれなかった。
「ふぅ~、満足!」
存分にリリを可愛がったアイカの表情はとても満ちていた。
それとは逆にリリはテーブルに突っ伏していた。
「……ベル様の、薄情者…………」
今日の犠牲となったリリに誰もが憐みと同情の眼差しを向けられた。
「ごめんね、リリ。アイカお姉ちゃん、お師匠様がいないとああなんだ……」
主にミクロとスキンシップを取っているアイカもいないときは別の誰かとスキンシップを取る。基本的にミクロがいないときはセシル、時にベルだが、稀に自分好みの女の子をアイカは可愛がる。
慣れた者ならまだしも、慣れていないリリには少々過激だった。
「お~い、セシルにベル」
「リュコスさん。どうかなさいました?」
「あんたらは今日は新人の面倒はみなくていい。たまには自分の訓練でもしな」
今日はあたしが新人の面倒を見てやる。と告げてリュコスは新人達を連れて去って行く。
要件だけを連れて去って行くリュコスに二人は頬を掻いた。
いつもならこの後は新人の教育があるのだが、唐突にそれがリュコスが引き受けてくれた。
「どうしたんだろう? 急に」
「いつも頑張っているお前等に気を遣ってくれたんだろう」
唐突のことに怪訝している二人にヴェルフはそう答えるも、二人はこれからのことについて悩む。
折角できた時間ならいつもよりも深い階層に向かおうかと思った二人はヴェルフ達を誘ってダンジョンに赴こうとした時。
「ベル、セシル」
「お師匠様」
「団長」
「ただいま」
帰還してきたミクロは眠たそうに瞼をこする。
「武器が完成したから俺の
「完成したんですか!?」
ついに完成したベルの
嬉しそうにそわそわと身体を揺すらせるベルの表情は嬉しいとどんなものが完成したのかという期待が込められている。
「今日の予定は決まったな」
「そうですね……」
ヴェルフとリリも当然二人について行く。
訪れたミクロの
セシルを除いてここに訪れるのは初めてのベル達はきょろきょろと周囲に視線を配りながら足を動かしていく。
部屋に入って扉を開けると、そこから階段へ下に降りていく。
辿り着いた大扉を開けて、その中へ入る。
「うわぁ…………」
感嘆の声を上げる。
誰もが口を開けてその
「すげぇ…………見たことない
棚に並べられているモンスターのドロップアイテムの数々に
「そこにあるのは『深層』のものばかりだ。ヴェルフが見たことないものもある」
「ちょっ! ここにあるのは全て
顔を上げて見上げながら叫ぶリリの視線の先には【ファミリア】ではまだ見ていない
「それはまだ試作段階もの。完成したのは向こうの部屋に管理している」
指す方向にある部屋に案内して貰うと、そこには数え切れないほどの
もはやこの光景は一種の宝物庫だ。
「これを全て売ればどれだけのお金に…………」
「おい、やめろよ、リリスケ」
守銭奴のリリは思わずそんなことを考えてしまうが、ヴェルフは呆れ口調で一応忠告するもその疑問をミクロが答えた。
「少なくとも人生を三度は遊んで暮らせる」
「………………」
顎に手を当てて何か真剣に考えているリリだが、当然盗むなんてことはしない。
ただ、ミクロ本人が売っていいと言うのなら売るだけの話だ。
「今日の本命はこっちだ」
ミクロは指を鳴らすと、中央に位置の床に突如、穴が空いてその穴の下から七つの
ミクロはその
白銀色と紅に覆われた二振りの片手直剣。
白と紅が重ね合っているその剣をミクロはベルに渡す。
「これがお前の
「僕の…………」
実際に手に持つ二振りの片手直剣。白銀と紅の輝きを放つその剣にベルの目は奪われる。
握っても不思議と違和感がない。むしろ、これまで使ってきたように馴染む。
誰もがベルの
「セシル。これはお前のだ」
「え!? って、重い…………!」
ズシリと伝わる大双刃。渡されたセシルよりも大きいその武器はそれに合う重量を兼ね備えている。
セシルはその武器を見て【ロキ・ファミリア】に所属している【
刃はまるで獲物を狩ることに特化しているように刃が波の形状をしているが、これは波と呼ぶには鋭すぎるほど刺々しい。
更に
巨剣が連結された箇所には
「これ、どうやって持つんですか…………?」
ほぼ、持つところがない。こんな武器を実戦でどう扱うのかセシルは想像もできなかった。
「ベルの武器は銀色の方はラパン。紅の方はルベル。セシルのはレシウス」
その武器の名前を告げてミクロは肝心のことを二人に告げる。
「その武器は共に成長し、所有者の想い、願いによって動き出す。その力が強ければ強いほどにその武器はそれに応える。俺がこれまでに作製してきた最高傑作だ」
二人は自身の武器を見据えながら生唾を飲み込む。
「どう扱うかはお前達の自由だ。強くなれ」
「「―――はい!!」」
ミクロの言葉に二人は力強く返答した。