路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第17話

新しく【アグライア・ファミリア】に入団することになったリュコス・ルーを連れてミクロ達は今日もダンジョン探索を行っていた。

17階層まで進んでいるミクロ達は襲いかかってくるモンスター達を倒す。

「セイッ!」

『敏捷』に秀でている狼人(ウェアウルフ)のリュコスは素早い動きでモンスターを翻弄させながらナイフと体術でモンスターを倒していると迫ってくるモンスターの匂いを嗅覚で感じ取り、それをミクロ達に知らせる。

「モンスターの大群が来るよッ!」

『ブモォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

「ミノタウロスの大群!?」

二十は下らないミノタウロスの大群に驚愕するティヒア。

「リュー。魔法」

リューの横を通り過ぎながらそれだけを告げてミノタウロスの大群に突っ込む。

「【駆け翔べ】」

「【強さに焦がれよ】」

ミクロ同様にミノタウロスの大群に突っ込むリュコスも魔法を唱える。

「【フルフォース】」

「【ビチャーチ】」

互いに超短文詠唱を唱えて、ミクロは白緑色の風を身に纏い、リュコスは淡い赤色の粒子が纏わって自身を強化する。

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

ミクロ達がミノタウロスの大群と戦っている時、リューは魔法の詠唱を唱えていた。

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

英雄支援(サーヴァ)!」

ミノタウロスと戦っているミクロにスキルを発動させてミクロの全アビリティを補正させてティヒアも負けじと弓を引いて矢を番える。

「【狙い穿て】」

超短文詠唱を唱えるティヒアの矢に茶色の魔力が纏う。

「【セルディ・レークティ】」

魔力を纏わせた矢は激しく動き回っているミクロ達には当てずに的確にミノタウロスだけを的中させる。

「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人】」

ミクロ達を信じて、そして、守るためにリューの魔力が高まる。

「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ】」

その魔力の危険性を感じ取ったミノタウロスは目の前にいるミクロ達を無視してそれを止めようと動くがミクロ達がその行く手を阻める。

「【―――――星屑の光を宿して敵を討て】!」

詠唱が完了すると無数の大光玉を己の周囲に召喚した。

「ミクロ、リュコス。下がりなさい!」

リューの言葉にミクロ達はすぐにミノタウロスから離れる。

「【ルミノス・ウィンド】!!」

緑風を纏った星屑の魔法が発動する。

大光玉の一斉放火により、ミノタウロスは跡形もなく吹き飛ばされた。

そのあまりの威力にミノタウロスの魔石ごと爆砕し、肉体が全て灰と化す。

「………少々、やり過ぎました」

「これのどこが少々だい!?」

せっかくのミノタウロスの魔石ごと破壊してしまったリューに向けてリュコスは叫んだ。

「まぁ、でも、ドロップアイテムぐらいは拾っときましょう」

魔石の代わりに多少はあるミノタウロスのドロップアイテムを拾って今日のダンジョン探索を終わらせてミクロ達は自身の本拠(ホーム)へ帰還するべく地上を目指しているとリューが思い出したかのようにミクロとリュコスに問いかける。

「そういえば、この前のお二人の決闘は結局はどちらが勝ったのですか?」

「あたしだ」

「俺」

二人は同時に自分が勝ったと答えるとリュコスはミクロを睨む。

「あたしの勝ちだったろ?あんたのナイフよりあたしの蹴りが一手早く決まっていたじゃないか」

「蹴りは喰らったけどそれで倒れていない。その後、俺の攻撃でリュコスが倒れた」

「倒れはしたけど、すぐに立ち上がって今度はあんたがあたしの攻撃で倒れていたじゃないか」

「………結局どっちなのよ」

リュコスがミクロ達の本拠(ホーム)を出てミクロと決闘していることはリュー達は知っていた。

朝、大怪我を負って二人は本拠(ホーム)に帰還して、その怪我の経緯をリュー達は聞いていた。

「だいたいあんたの体は金属にでもできているのかい?蹴る度にあたしの脚が悲鳴を上げていたよ」

「昔から体は頑丈。でも、金属では出来ていない」

「………わかりましたからいい加減にやめなさい」

言い争う二人にリューは仲裁に入る。

地上に向かって歩きながら多くの冒険者達と擦れ違う中で前にギルドでもめ事を起こしていた【リル・ファミリア】の集団がいた。

だけど、互いに顔を合わせることもなく、ミクロ達は無事に本拠(ホーム)へと帰還して【ステイタス】の更新を行っていた。

 

ミクロ・イヤロス

Lv.2

力:D524

耐久:C656

器用:B787

敏捷:B799

魔力:C641

堅牢:I

 

「………」

【ステイタス】の更新をしながらアグライアは改めてミクロの成長速度に口を噤む。

ミクロがLv.2になって約半年で異常なまでの成長を遂げている。

今日のダンジョンの報告でミノタウロスの大群と戦ったことは既にアグライアも知っている。それだけの大群と戦えば成長するだろうとは思っていたアグライアだったが、ミクロの異常な成長速度には何らかの秘密があるとしか思えなかった。

「……ねぇ、ミクロ。貴方は自分の両親について何か知ってる?」

「知らない」

血筋、体質にその秘密が隠されているかもしれないと思ったアグライアはミクロに両親の事を尋ねてみたが空振りに終えた。

アグライアは路地裏で出会った時からのミクロしか知らない。

「ミクロ。貴方の血を少し採らせてくれないかしら?」

「わかった」

小瓶を用意するアグライアにミクロはナイフで指を切ってその小瓶に血を採取する。

「ありがとう。貴方も少しはゆっくりしていなさい」

「わかった」

返事をして部屋を出て行くミクロにアグライアは思案顔しながらミクロの血が入った小瓶を見る。

「あの男に頼むしかないわね」

アグライアの頭の中で胡散臭い笑みを浮かべている男神。

裏が読めないあの男神に頼るのはアグライアは嫌だったが、それ以上にその男神の情報収集能力をかっている。

何らかの情報を持っているかもしれないと思ったアグライアは早速本拠(ホーム)を出てその男神を探しに行った。

「オラリオにいるかしら?ヘルメス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日のダンジョン探索が終えたミクロはリューを連れて北東のメインストリート。と次第二区画へと足を運んでいた。

武器の相棒とも呼べる武器を鍛冶師(スミス)に整備して貰う為に。

奥へと進んでいる中でミクロ達は一つの工房で足を止めて中へ入る。

工房の奥に進むとミクロ達は目的の人物である彼女を発見した。

「椿・コルブランド?」

「ん?手前に何かようか?」

人間とドワーフの『ハーフドワーフ』である椿にミクロは声をかけた。

【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランドは声をかけられらミクロに首を傾げながら問いかけた。

「武器の整備をお願いしたい」

「あい、わかった。そっちのエルフも一緒でよいのか?」

「はい。私のも頼みます」

武器の整備の依頼を受注するミクロ達に椿も受諾してミクロ達の武器を手に取って右眼を細めて刀身を眺める。

「どちらも随分と使い込まれているのう」

ミクロ達の武器の粗っぽさと大事に使い込まれている大切さに椿は苦笑しながらそうつぶやいた。

「武器の整備には一日はかかるが、それでよいか?『ドロフォノス』と『疾風』」

「問題ない。『キュクロプス』」

単眼の巨師(キュクロプス)】という二つ名を神々から与えられている椿。

その二つ名を呼ぶミクロに椿は口を尖らせる。

「二つ名で呼ばないでくれ。怪物(モンスター)のようでその名前は好かん。手前は大いに不服だ」

「わかった、椿。俺もミクロでいい」

「うむ。では、ミクロ。明日のこの時間帯までには仕上げよう」

「わかった。明日のこの時間にまた来る」

武器を預けてミクロ達は工房を出ると椿は手に持っているミクロ達の武器を懐かしそうに眺める。

「手前が作った武器は良い者に巡り合えたようだな」

一言だけそう言ってすぐに整備に取り掛かる椿だった。

その一方でミクロ達は目的もなくただ歩いていた。

日が沈むまでの時間の間でミクロ達は何をしようかと悶々と考えていた。

「何をしましょう?」

「何をしよう」

基本的に鍛錬しか行わない二人は自身の娯楽について全くといっていいほど疎い。

鍛錬をしようも本拠(ホーム)では狭く、今からダンジョンに潜るのも気が引けた。

歩きながらどうしようかと考えているとミクロはジャガ丸くんを売っている露店を見つけて、二つ買ったミクロは一つをリューに渡す。

「ありがとうございます」

受け取ってジャガ丸くんを食べながらリューはミクロに尋ねた。

「ミクロ。どうして椿・コルブランドに武器の整備を?」

「これ」

リューの問いにミクロは自身が身に着けている装束とフードを見せる。

「これを作ったのが椿だから頼んだ。凄くいい防具だから」

軽薄そうに見えてかなりの防御力があるミクロの装束とフードにミクロは助かっている。

動きに支障も影響もない防具を作った椿なら整備を任せてもいいとリューに説明する。

「愛着があるのですね」

頷くミクロ。

「後、アリーゼが買ってくれたものだから」

「……そうですか」

今は亡き親友(アリーゼ)はどれだけ奮発してミクロの装備を揃えたのだろうという疑問が頭を過ぎる。

「大切にしたいと思う」

「ええ、大切に使ってあげてください」

微笑を浮かべながらリューはそう告げる。

不意にリューは初めてミクロと出会った日の事を思い出す。

あの時のミクロは正直薄気味悪かった。

何を考えているのかわからなかったミクロだが、今はこうして感情らしい感情を持つようになった。

それがリューは何よりも嬉しかった。


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