路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

170 / 202
Three14話

白銀と紅の斬線を残してベルはモンスターを切り裂く。

「凄い…………」

ミクロから頂いたベルの専用武器(オーダーメイド)である片手直剣の二振りの得物『ラパン』と『ルベル』を見据えながら感嘆の声を出す。

新しい武器の試し斬り、調整の為にベルは仲間達と共にダンジョンに訪れた。

そして、現れるモンスター相手に新しい武器の性能を試した。

「調子はどうだ? ベル」

「うん、凄い扱いやすよ……」

大刀を肩に担いで気軽に声をかけてくるヴェルフにベルはそう答えた。

今までベルはナイフと両刃短剣(バセラード)だった為に扱いに慣れるまで時間がかかると推測していたが、その推測を大いに裏切ってくれた。

手に馴染むようにしっくりとくる感覚、何年も使ってきたかのように手足のように扱える。

武器の切れ味も一切衰えることもなく、堅いモンスターの甲殻も簡単に切り裂く切れ味を持っている。

「これ、ヴェルフが作ったんだよね?」

「おう、つっても殆どが団長が仕上げたもんだから武器の形だけ仕上げたようなもんだから一端の鍛冶師(スミス)としては少しな……」

最後まで自分の手で作ることが出来なったことに少し不満があったが、そこは自分の力量不足のせいと無理矢理自分を納得させておく。

「二人とも伏せて!!」

「はぁ――うおっ!?」

「うわっ!?」

二人の頭上に大型の武器が高速回転をしながら過ぎ去り、その先にいるモンスターを両断していき、セシルの手元に戻ってくる。

「ごめん二人とも! 大丈夫!?」

「お、おう……」

「なんとか…………」

慌てて駆け付けるセシルに返答する二人はセシルが持っている大型武器『レシウス』に視線を向ける。

その重量に見合う大双刃の得物は投擲武器。

大きさと質量を誇る大双刃の刃がモンスターを容赦なく叩き切る。

「凄いな、二人の武器は…………」

「だな、流石は団長の最高傑作だ」

「団長様はどんどん規格外になられますね…………」

セシルの後からスウラ達がベル達の元にやってくる。

今日はいつものパーティメンバーでダンジョンに潜っているベル達は中層にいる。

武器の性能を確認してから下層に赴く予定だ。

「大丈夫かい? 二人とも」

「はい。僕は大丈夫です」

「俺も問題ねえ」

立ち上がる二人にこのパーティのリーダーを務めているスウラは頷く。

「それじゃ、一度18階層で休息を取ってから今日は19階層で少し試したら地上に戻るとしよう」

これからの予定を話すスウラに異論の声はなく、全員がそれに応じる。

移動を開始するベル達。その中でリオグが二人にからかいの声を投げる。

「にしても羨ましいぜ。そんなすげえ武器を貰えてよ~」

「え、えっと…………」

「冗談だ、冗談! 本気にすんな!」

戸惑うベルにリオグは気さくな態度で手を振るう。

「ベルやセシルみたいに専用の武器はねえけど、団長に言えば魔道具(マジックアイテム)を貸してくれるからな。ほれ」

リオグがベル達に見せたのは赤色の腕輪(ブレスレット)

「障壁を生み出す魔道具(マジックアイテム)『ディルマ』。強度は俺の魔力に左右されるけど、前衛の俺には頼もしい魔道具(マジックアイテム)なんだよ」

「それじゃ、スウラさんも…………」

「ああ、俺も団長から借りてるよ」

スウラが見せるのは五指に嵌められている指輪。

「属性を付与できる魔道具(マジックアイテム)『アヌルス』。遠距離武器を使う俺には心強い魔道具(マジックアイテム)さ」

二人は自身が身に付けている魔道具(マジックアイテム)を見せるとベル達も興味深そうに見る。

「団長がいる俺達の特権。団長に言えば色々な魔道具(マジックアイテム)を貸してくれんだ」

「ちなみにリオグは一度、女性達の入浴を覗こうと透明になる魔道具(マジックアイテム)を使ってボロ雑巾にされたよ」

「おい、それを言うなよ!!」

微笑を浮かべながらそのことを語るスウラにリオグは憤り、セシルとリリがリオグを見る視線が冷たくなった。

因みにその事件がきっかけで女性達が入浴している時は見張りが立つようになった。

「色々あるんだな…………」

「そう言えばお師匠様の工房にもたくさんあったね…………」

「うん……」

「いったいどれほどお作りになられているのでしょうか…………?」

多種多様の魔道具(マジックアイテム)を作製して管理しているミクロの魔工房(アトリエ)を思い出すベル達は18階層に足を踏み入れる。

「おお、【アグライア・ファミリア】じゃねえか! ちょうどいい、お前等も手伝え!」

屈強な冒険者が18階層に訪れるベル達にそう言った。

訳を訊くと、19階層で炎鳥(ファイアーバード)が大量発生しているという異常事態(イレギュラー)が起こり、リヴィラの街の冒険者やベル達のように18階層を通りかかった上級冒険者達にも軒並み声をかけて数を集めていた。

名の通り火炎攻撃を行う鳥型のモンスターを18階層まで進出するとリヴィラの街にまで被害が出る恐れもある。

報酬と火の耐性を持つ火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)も支給され、ベル達の新しい武器を試すのにちょうどよく、全員がそれを了承した。

その中でベルは『敏捷(あし)』の速さを買われて他の冒険者の臨時パーティに組み込まれて19階層に下りた。

セシル達と別れて、順調にこなしていくベルは気が付けば一人になり、どことも知れない迷路の一角に立ちつくし、途方に暮れていた、まさにその時だった。

人影らしきものを視界の奥に捉えたのは。

片足を引きずり、何かから逃れるように迷宮の植物が生い茂る物陰へと身を隠す。

ベルは負傷した同業者かと慌てて駆け寄ると、直前になって様子がおかしいことに気付き、警戒を払って物陰に近寄った。

そして―――。

「モンスター…………『ヴィーヴル』?」

目の前の存在に、愕然とする。

青白い肌に、少女のような華奢や四肢を持った人型のモンスター。第三の目を沸騰させる額の紅石を見て。かろうじて竜種『ヴィーヴル』であることを察した。

本来ならヴィーヴルは人型の上半身と蛇に酷似した下半身を持つはずが、眼前にいる彼女はモンスターかどうか疑う程に人間の姿に酷似している。

「……、…………!」

竜女(ヴィーヴル)は、泣いていた。

眼前で立ちつくすベルを見上げながら、両腕を抱き締めた体をがたがたと震わせている。

モンスターであることを忘れたように怯え、人間のように恐怖をあらわにしている。

動揺するベルは目の前の光景がともて信じられなかった。

モンスターは人類の敵。そして『怪物』。

本能のままに牙を剥き、襲いかかってくる絶対の殺戮者。凶悪な破壊衝動の塊に理性や感情が介在する隙間もない。

その筈なのに、モンスターに対する闘争本能が欠片も湧いてこない。

刃を突き立てることに抵抗を覚える。

「ぅ、ぁ…………!」

「!」

竜女(ヴィーヴル)の瞳がベルの武器に釘付けになっている事に気付き、咄嗟に背に隠すもベルは益々混乱する。

ベルを恐れて距離を取ろうとする竜女(ヴィーヴル)だが、背は壁。いくら後ろに下がろうとも意味はない。

立ちつくしたまま、怯える竜女(ヴィーヴル)と視線を絡ませ続け、ベルは後退して竜女(ヴィーヴル)に背を向けてその場から立ち去った。

直後、ばさりと、と。

ファイヤーバードは瞳を血走らせて、宙に浮遊しながら狙いを竜女(ヴィーヴル)に定める。高出力の火炎放射に、細い足は地を蹴ろうするが、間に合わない。

燃え盛る炎が、竜女(ヴィーヴル)に放たれようとした瞬間。

 

『――――ゲェッ!?』

 

ベルは炎鳥(ファイヤーバード)を切り裂いた。

思わず、飛び出してしまったことに項垂れる。

しかし、立ち竦む彼女を見て、足が動いてしまった。

ベルは前髪を掴み、茫然とする竜女(ヴィーヴル)に歩み寄る。

「――――大丈夫、怖くないよ」

片膝を突き、同じ目線で、眉を下げながら笑いかける。

とても間抜けなことをしている自覚はベルにもある。それでももう、ベルは彼女を放っておくことができなかった。

半ばヤケクソでベルは竜女(ヴィーヴル)の怪我を治すために回復薬(ポーション)を取り出すとそれを見てびくっと身体を揺らす。

「平気だよ、これは回復薬(ポーション)って言って―――」

「ぽー、しょん…………?」

―――――喋った。

何度目とも知れない、自分の常識が崩れる音が耳の奥から聞こえる。

「おい、ベル! 無事か!?」

「―――っ! リオグさん!?」

傷を治そうとした瞬間に通路からこちらに向かって走ってきているリオグにベルは咄嗟に竜女(ヴィーヴル)に自分の火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)で身を隠す。

きっと、一人いなくなったベルを心配してここまでやってきたのだろうリオグはベルの無事な姿を見て安堵の息を漏らす。

「おう、無事でなりよりだ。…………そいつは誰だ?」

火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)で身を隠している竜女(ヴィーヴル)を訝しむように声をかけるリオグにベルは背に庇うように何か言葉がないかと必死に頭を回転させる。

「えっと、その…………」

「どうした? 別にお前が女を庇って手籠めにしたってつっても驚きはしねえよ。団長でそんなもん慣れっこだ」

軽快に話するリオグは包まれている竜女(ヴィーヴル)の顔を覗き込むと目を見開いて咄嗟に身を隠している火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を取り払う。

――――終わった。

竜女(ヴィーヴル)の姿が露になってしまうのを見てベルは思った。

冒険者がモンスターを庇うなんて蛮行を流石の団長であるミクロも許しはしないだろう。

そんな不安を抱いていたベルにリオグは言う。

「なんだ、異端児(ゼノス)か。お前、仲間はどうした?」

「え?」

驚きもせずにごく自然に竜女(ヴィーヴル)に話しかけるリオグにあらん限り目を見開くベル。

「な、か……ま…………?」

「その様子だとまだ会っていないか、産まれたばかりか。ベル、こいつをつれて本拠地(ホーム)に戻るぞ。団長に報告しねえといけねえ」

「え、は、はい…………あの、リオグさん?」

「あー、お前の戸惑いも無理はねえわな。後で団長が説明してくれると思うから今はセシル達と合流するぞ」

「あ、はい」

戸惑いを隠しきれずにベルは竜女(ヴィーヴル)をつれてセシル達のところに戻る。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。