路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three22話

『英雄』になろうと足掻く少年(ベル)は『英雄』の『器』を持って誕生した少年(ミクロ)に向かって駆け出した。

その両手に握り締めているのは憧憬であるミクロから頂いた専用武器(オーダーメイド)。二振りの片手直剣は短剣ぐらいの大きさに形状を変えて更にはベルの憧憬――想いに応えるように白銀と紅の武器に炎が宿る。

駆け出してくる少年にミクロは『リトス』から水晶を取り出して空に投げる。すると、水晶が輝きと共にベルとミクロを中心に結界が展開される。

魔道具(マジックアイテム)『アギオ』。

対象を中心に結界を展開させて入る事も出ることも叶わない。その結界は魔法でもビクともしない堅牢さを誇り、誰にも邪魔をされる心配もなく心行くまで戦いに専念できる。

言ってしまえばこの魔道具(マジックアイテム)は決闘用の魔道具(マジックアイテム)

この結界内にいる限りは不用意にヴェルフ達や異端児(ゼノス)達を傷付けることもない。

「見せてもらうぞ、お前の、お前達の成長を」

ミクロはベルに与えた武器がベルの想いに応えて成長した『ラパン』と『ルベル』には銀色と赤い炎が宿っている。

その性能、効果を拝見させてもらおうとミクロは背中に意識を向ける。

すると、ミクロの背中から金属でできた二翼が展開された。

半身半鳥(ハーピィ)歌人鳥(セイレーン)などの羽毛が金属的になったような翼だ。

その金属の翼から『魔力』が感じられた。

「行くぞ」

「!?」

金属の翼から放たれたのは硬質的な無数の刃が一斉にベルに襲いかかる。

魔道具(マジックアイテム)『ガン・ボリヴァス』。

金属の翼を展開させてそこに『魔力』を流し込むことで魔力の刃を放つ。遠距離用の魔道具(マジックアイテム)だ。

『魔力』が高ければ高いほどにその刃の威力・数は増す。

狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)が体内で生成する金属質の射撃弾を元にミクロが考案、作製したこの魔道具(マジックアイテム)はモンスターを容赦なく殲滅することもできる。

堅い甲殻を持つモンスターでさえも貫く刃は人間であるベルが直撃したらただでは済まない。

迫りくる無数の刃。それに対してベルは両手に持つ炎を纏う相棒達を振るった。

相棒達から放たれる爆炎は無数の刃を一瞬にして燃え散らした。

その爆炎はクロッゾの魔剣ほどではなくとも下手な炎の魔剣よりも高火力を発揮し、ベルの脚はミクロに迫る。

「なるほど。凄い」

「ああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

炎が宿る相棒達での連続攻撃。際限のない怒涛の連撃が火蓋を切った。

その刃と炎に想いを込めて憧憬する人に自分の全力をぶつける。

しかしながら【覇者】は揺るがない。

炎を宿すミクロの相棒達による連続攻撃を己の得物で全て受け流していく。

数々の偉業を成し遂げてきたミクロにとってこの程度は脅威でもない。

知っている。

それぐらいベルでも嫌という程に知っている。

だからもっと強く、速くならないとこの人(ミクロ)には届きもしない。

己の思考を置き去りにするほどに加速する。

速く、どこまでも速く、何よりも速く。鮮烈な猛攻を繰り出すだけではベルは止まらない。

それよりも速くなるためにベルはもう一つの魔道具(マジックアイテム)を発動させた。ベルの身体に電撃が迸ると同時にベルの速さは更なる加速を見せる。

18階層『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』でミクロから貰った魔道具(マジックアイテム)『レイ』を使用して一時的に身体能力を上げた。

「―――――――――――っ」

体中に軋む音と激痛がベルの顔を歪ませる。

無理も無い。本来ならその荒技は高い耐久力と適応能力を有するミクロだからできるものでミクロ以外の人が使えばその激痛で悲鳴をあげてもおかしくはない。

それでもベルは唇を強く噛み締めて耐えながらも先ほど以上の連撃をミクロに叩きつける。

その速さは遠目から見ているヴェルフ達ではもはや目視も叶わない。

速さだけなら第一級冒険者と遜色もない加速力だ。

それでも【覇者】には届かない。

全力の最大最速の連撃を悉く受け流していくミクロにはまだ傷一つも負わせられていない。

これが【覇者】。

これが都市最強の一角。

これがLv.7。

驚愕、悲嘆、諦念、絶望。

その圧倒的な存在の前にベルの体中であらゆる負の感情が溢れ出てくる。

この人にはどう足掻いても届かないのか?

そう考えてしまう自分がいる。

「ふざけるな……………………」

ベルはそんな弱音を吐いて捨てた。

憧憬するこの人の背中が見えないぐらいに遠い。

だからどうした。

こんなにも全力を出しているのにどうして届かない。

なら、届くまで手を伸ばし続けるだけだ。

―――強くなりたい。

無力を自分を超える為に。

強くなって英雄のように。大切な何かを、大切な誰かを守り抜ける、英雄のように。

―――僕は。

英雄に、なりたい。

その純粋なまでの想いがベルを強くさせる。

「火力が上がった………………?」

炎の火力がベルの猛攻の度に上がっていく。際限なく、どこまでも燃え上がる猛火となってミクロを攻め続ける。

「!?」

そこで初めてミクロは己の盾『アルギス』でベルの攻撃を防いだ。

受け流すなどではなく完全に防いだ。

「【ライトニングボルト】!!」

防御に入ったミクロの僅かな隙をベルは逃すことなく己の魔法を炸裂させる。

轟く雷。ベルの速攻魔法による『魔法』の連射、その数は十を超える。

その一発がミクロに直撃するもミクロは無傷。

「惜しい」

「ぐぅ…………」

その結果に悔しそうに歯噛みするベルは忘れていたわけではなかった。

ミクロの最も脅威と呼べるものはその異常なまでの耐久力だ。

素手での攻撃は勿論のこと、並大抵の攻撃ではミクロに傷一つ負わせることができない。

それもただ耐久力が高いわけでもない。

ミクロが持つレアアビリティ『適応』。

一度その身で受けたものに適応して無効化することができる。

毒はもちろん、炎も雷もミクロには効かない。

ミクロの損傷(ダメージ)を与えるには並み以上の攻撃を行わなければならない。

手数と速度で戦うベルとでは相性はよくない。

ベルは地面を蹴って大きく距離を取った。

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

呼吸が荒い。全身の筋肉が悲鳴を上げている。向こうは受けに徹しているのに攻撃を行ったこちらが損傷(ダメージ)を受けているようだ。

「この程度か?」

『アルギス』を展開させた状態でその場から動く気配がない。

恐らくは受けに徹するのだろうと何となくではあるがベルはそう思った。

ヴェルフ達も異端児(ゼノス)達も二人の闘争をただ黙って見守る中でベルは呼吸を整えて右腕を前に突き出した。

リン、リンと(チャイム)が鳴る。

ベルの右腕に帯びるのは純白光、集束するのは光の粒子。

英雄願望(アルゴノゥト)】。

ミクロを倒すにはもうこれしかないとベルは踏んだ。

体力、精神力(マインド)の全てをつぎ込んで最高出力の一撃を放とうとする。

時間と共に蓄力(チャージ)されていくなかでミクロは動かない。

その行動は別にベルを甘くみていたり、舐めているからではない。

これから放つであろうベルの渾身の一撃を正面から打ち破る為になにもしない。

蓄力(チャージ)すること三分。時は満ちた。

視界の中央に位置するは憧憬のあの人、ミクロに己の最高最大の一撃を放つ。

放つ直前で相棒達の炎が意思を持っているかのようにベルの右腕に巻き付く。

その炎が共に戦おうと言っている気がしてベルは小さく笑みを見せた。

「行くよ」

相棒達に一声、狙いであるミクロに照準し、砲声する。

 

「ライトニングボルトォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

白い稲光とともに凄まじい轟音を撒き散らしながら、大炎雷は撃ち出される。

ベルの全てをつぎ込んだその一撃をミクロは避けない。

その手に黄金の長槍を強く握りしめる。

「本当に、強くなった」

ミクロはベルが放った渾身の一撃をその槍を持って破壊した。

「え?」

その光景に唖然とするベル。

自分の全てをつぎ込んだはずの最大の一撃がたった一突きで理不尽なまでに壊された。

霧散されていく稲光。消えていく最大の一撃。

ミクロの手に持つその黄金の槍がその稲光を嘲笑うかのように輝いて見える。

「この槍は全てを破壊する。それが魔法であってもだ」

ミクロが持つ槍に付与されているのは『破壊属性(ブレイク)』。その槍の前ではどんなに強力な魔法でも無慈悲に破壊する。

「そ、んな……………………」

限界を超えてベルの意識は遠くなり、膝をつく。

前のめりに倒れるベル。そんなベルにミクロは告げる。

「もっと強くなれ、ベル・クラネル。頂点の更にその上で俺は待つ」

気を失うベルの前にミクロはそれだけを告げた。

 

 


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