路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three23話

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)黄昏の館。

迷宮都市オラリオで三大派閥の一角である【ファミリア】。

その主神であるロキと団長のフィンが今帰ってきた。

「ロキ、早速だが僕は自分の部屋に戻るよ」

「了解や」

【アグライア・ファミリア】との『戦争遊戯(ウォーゲーム)』。

その日取りと内容の詳細を決める話し合いから帰ってきたフィンとロキ。

フィンは早速その内容を羊皮紙に纏めようと自室に向かう。

「フィン、戻ってきたか」

「ただいま、リヴェリア」

その途中で【ファミリア】の副団長であるリヴェリアと遭遇した。

「話は纏まったのか?」

「まあね。彼女達が苦労しているのがよくわかったよ」

「………………何の話をしてきた?」

苦笑しながら告げるフィンの言葉に怪訝するリヴェリア。

戦争遊戯(ウォーゲーム)』の内容は割と早く決まったのだが、その後でフィンとロキはセシシャに掴まって本人が満足するまでミクロに関する愚痴を聞かされた。

それはもう溜まるに溜まったものを吐き出すかのように。

その話を聞いてミクロは団員達を振り回しているのがよくわかった。

団員達に苦労するフィン達首領陣とは違い、向こうは団長に苦労する団員達だ。

戦争遊戯(ウォーゲーム)の日取りは今から一週間後、オラリオの外で行われる。細かいところは神会(デナトゥス)で変わるかもしれないけど僕達と彼等の【ファミリア】の規模を考えれば大きな変化はないだろうね」

「そうだろうな…………」

互いに大規模の【ファミリア】。

それで全団員が参加する総力戦ならオラリオの外でないと存分に戦えないだろう。

それにはリヴェリアも納得できる。

「勝負形式は?」

「互いのエンブレムを掲げた旗取り合戦。ロキはスクランブル・フラッグって言っていたよ」

互いのエンブレムが描かれた複数の団旗を広大な領域(フィールド)に設置して制限時間内にどちらが多く獲得した【ファミリア】が勝利する。

大規模の【ファミリア】である両派閥だからできる戦争遊戯(ウォーゲーム)だ。

広大な領域(フィールド)のどこに団旗を隠すか、守るか。

そこに割く団員の数は? 奪取に向かう団員は誰か?

団長の采配や戦術によって戦況が大きく変化する。

その勝負形式を聞いたリヴェリアは顎に手を当てて妥当の内容だと判断する。

単純な実力だけでは勝敗は決まらない内容。【ファミリア】の素質と団長の采配が試されていると言ってもいい。

「だけど彼は、ミクロ・イヤロスは指揮を誰かに任せて単身で僕達、もしくはアイズ達に向かってくるはずだ」

フィンは既に勝負のことについて考えて相手の行動を読んでいる。

「正気か…………?」

「いや、彼にとっては信頼だ。自分が好きに動いても誰かが指揮を取ってくれるという信頼の証だ」

ミクロ・イヤロスの性格を冷静に分析して口にするフィン。

しかしそれも間違っていない辺りが流石と思いたい。

ミクロが単身でこちらの主戦力を打倒すればそれだけ【ファミリア】全体の士気にかかわるし、逆に向こうの士気は上がる。

それを考えて行動するではなく勘で行っているあたりが恐ろしいものだ。

「彼は強い。僕達の想像を遥かに超えるほどに」

「……………………」

その言葉にリヴェリアは何も答えない。

ミクロ・イヤロスの実力をこの眼でしかと見たからだ。

五年と僅かでLv.7まで到達した。その実力、その才能、その素質はリヴェリアの眼から見てみてもまだ底が見えない。

「ところでアイズ達は?」

「ティオネとティオナは中庭で組手をしている。ベートはガレスが付き合っている。アイズは…………ダンジョンだ」

「いつも通り、か」

こちらもいつも通り熱が入っている幹部たちにやれやれと肩を竦める。

だがしかし、それも無理もない。

今回ばかりは熱が入るもフィンでもわかる。

彼等はフィン達以上にミクロの凄さを目の当たりにしてきたのだ。

アイズも、ティオナも、ティオネも、ベートもミクロの凄さを目の当たりにしてやる気を出している。

特にアイズとベートに関しては一度はミクロと戦っている。

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)では誰よりも熱が入っていることぐらい簡単に予測できる。

勿論、恐ろしいのはミクロだけではない。

ミクロが凄ま過ぎて影で隠れがちだが、ミクロの団員達も強い。

元【アストレア・ファミリア】の【疾風】のリュー・リオン。

オラリオの外からきた【カーリー・ファミリア】のアルガナ・カリフとバーチェ・カリフ。

ベートと同じ狼人(ウェアウルフ)でLv.5のリュコス・ルー。

犬人(シアンスロープ)のティヒア・マルヒリー。

同胞の小人族(パルゥム)のパルフェ・シプトン。

新しく幹部に昇格したミクロの弟子セシル・エルエスト。

【イケロス・ファミリア】団長ディックス・ペルディックスとその団員。

そして、このオラリオで前代未聞の成長と話題を集めているベル・クラネル。

それ以外にもミクロの影で隠れがちだが強者ばかりだ。

当然フィンも負けるつもりは微塵もなく、油断する気もない。

「…………………フィン。何を考えている?」

思考に耽る【勇者(ブレイバー)】の些細な変化にハイエルフは気付いた。

リヴェリアの厳しい声音と眼差しにフィンは観念したかのように話した。

「アイズやベート達には悪いとは思うけど…………ミクロ・イヤロスは僕が倒す」

勇者(ブレイバー)】はハイエルフに宣言した。

「…………………野望の為に、か?」

「ああ、彼はこのオラリオだけではなく世界中に認められているほど強い。その強さを僕が越えることができたら一族の再興にまた一歩近づける」

フィンは一族の再興の為にオラリオに訪れて冒険者となった。

その野望に全てを捧げて生きてきた。

そして、公の場で人気上昇中の【ファミリア】の団長であるミクロを打倒することができれば更に小人族(パルゥム)の励みとなるはずだ。

「……………………難しいぞ? 彼の強さはお前も知っているだろう」

「……………………そうだね。今では僕よりもLv.は上だ。だからこそ越えたい、いや、越えなければならない」

遠征を共にした仲でその実力は把握している。

負ける可能性の方が高いだろう。だが、そうでなくては超える意味がない。

ミクロを呼び出すのは簡単だ。

彼は呼び声に必ず応える。こちらから勝負を申し込めばこちらの意図を汲み取って一対一で戦うのもミクロの性格を考えたら難しいことではない。

ミクロを野望の踏み台にしようとしているフィンは自分が『人工の英雄』だと気づいているし、認めている。

主神にかけあって【勇者(ブレイバー)】の二つ名を拝命して貰ったのがいい例だ。自分が望む名声を手に入れる為の手段にして過程。無論、名声に偽りがないようにフィンは振る舞い、信念と強さを示してきた。

名実共に【勇者(ブレイバー)】と認められるよう努力を重ねてきたつもりだ。

だが、それは全てフィンがそうなるように画策したものだ。

フィン自身が作り出してきた虚影であり、フィンは英雄ではなく、『奸雄』。

彼、ミクロ・イヤロスのような『英雄』ではない。

人類を救い、手を差し伸べ、未来に導く。それが【覇者】、それがミクロ・イヤロス。

言うなればミクロは『未来の英雄』だ。

そんな英雄に『人工の英雄』であるフィンが勝てるのか? いや違う。

勝たなければならないのだ。

「彼に勝つには僕は僕自身を超えなくてはならない」

フィンは『理想』という言葉を口にしない。『野望』という言葉を使う。

自分にとって、『理想』という言葉は鼓舞や激励に用いるためだけの道具(ツール)であり、決して本気にいてはいけないものだと自覚しているからだ。

「僕は僕の野望の為に彼を、ミクロ・イヤロスを倒してみせる」

アイズ達同様にフィンもまた戦争遊戯(ウォーゲーム)に熱を入れている一人だ。

そんな【勇者(ブレイバー)】をハイエルフはどこか悲しげに見ていた。


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