迷宮都市はかつてない賑わいを見せる。
尋常じゃない熱気と興奮が溜め込まれていた。
人も、獣人も、エルフも、一般人も、商人も、冒険者も、大人も、子供も、神々さえ例外なく今か今かとその時が来るのを待ちわびていた。
遂に訪れた【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の
数々の偉業を成し遂げ、その名を世界に轟かせた【ロキ・ファミリア】。
瞬く間に名を上げ、その名を世界に知らしめた【アグライア・ファミリア】。
三大派閥の二派閥による
オラリオの外、以前にラキア王国が侵攻していた土地を利用して両派閥は自派閥のエンブレムが描かれた団旗を指定された場所に固定し、制限時間内に団旗を多く破壊した【ファミリア】が勝利する。
オラリオでは酒場や大通り、
どちらが勝つ、か。商人や冒険者達は賭博を行い、自分が賭けた派閥の勝利を願う。
開始の合図が鳴るまで両派閥は最後の確認を終わらせようとしていた。
「団旗の数は両派閥二十本。これを如何に効率よく破壊するかが今回の肝だな」
「だね。だけどそれは彼等にとっても同じだ」
【ロキ・ファミリア】の仮拠点。そこでこれから始まる
「彼がどんな手を打ってくるのかも未知数。むしろ、手の内が知れている僕達が現状は不利かもね」
共に遠征をした間柄だが、【アグライア・ファミリア】にはミクロ・イヤロスが作製する
どんなものが出てくるのかわからない以上は用心した方がいい。
「というわけにはいかない」
のだが、フィンはそれを否定した。
未知に用心したところでミクロ・イヤロスが手を緩めるような真似も、油断するようなことは決してない。
守りに入るのは下策。なら、攻めるしかない。
「リヴェリア。今回は君にも動いて貰うよ」
「元よりそのつもりだ。彼等は油断できない」
リヴェリアもフィンと同じ考えに至ったのだろう。だからフィンの言葉に首を縦に振った。
「ガレス。君には―――」
「わかっておる。儂はいつも通りじゃろう?」
「ああ、頼りにしてるよ」
首領陣は話し合いを終わらせて自派閥の団員達を集め、フィンは団員達の前で口を開く。
「皆、聞いてくれ。今回僕達が戦う相手は紛れもない化物揃いだ。僕達が何十年もかけて辿り着いた場所を彼等はたった五年と少しでやってきた。はっきり言おう、彼等は強い」
首領の言葉に萎縮する者、首を下に向ける者、生唾を飲み込む者など様々な反応が見え隠れするなかでフィンは言葉を続ける。
「だが、それは僕達も同じだ」
フィンは小さく笑みを見せる。
「思い出して欲しい。僕達がこれまで何と戦ってきた? 自分達より強大な敵と戦い、勝利を収めてきたはずだ。自身の全てを出し切り、命を賭け、自分よりも強い強者と立ち向かい、勝ってきた」
フィンの言葉が団員達の顔を上にあげる。
「今回も変わらない。彼等という強大な相手と戦い、勝利する。ただそれだけのことだ」
フィンは手にした槍の矛先を空に向ける。
「
毅然とした声音で断言し、その強い意思の眼差しに【ロキ・ファミリア】の団員達は心が奮える。
一方【アグライア・ファミリア】の仮拠点では。
「ん、指示した人以外は好きに動いて」
神々から新たな二つ名、【
「あ、あの………………団長、大丈夫なんですか? こんな作戦で」
「問題ない」
指示を受けた団員が挙手しながら不安そうに尋ねるもミクロはそう答えた。
作戦らしい作戦ではない。むしろ、ミクロが策略は外れる可能性の方が大きい。
「団旗を壊しに行くのもいい、相手を倒すのもいい、守りに入るのもいい。その判断は皆に任せる」
もはや投げやりと言ってもいいその言葉に団員達は不安でいっぱいだ。
確かに団長らしいと言えばらしいし、団長ならと納得もできる。
だが、今回の相手はあの【ロキ・ファミリア】だ。
もっと緻密に作戦を練ったり、いくつかの案を考えたりするのが当然の筈なのにミクロは自由すぎる作戦を提案した。
「あ、作戦一つ追加する」
思い出したかのように言うミクロに胸を撫でおろす団員達だが。
「セシルは真正面から突っ込む。以上」
「えええええ!?」
ミクロは何も変わらなかった。
ただ、自分の弟子に作戦にもならない作戦を伝えただけだった。
どうしよう、どうすればと不安が募るなかでミクロは【ロキ・ファミリア】がいる仮拠点に視線を向ける。
それは冒険者として感じった闘争本能による直感。
(俺を呼んでいるのはフィン……………?)
戦え、武器を交えろ。フィンがミクロに向けてそう呼んでいるような気がした。
勿論フィンはそんなこと口走ってなんかいない。誰もが聞けばそんなことはないと口を揃えて言うだろう。
だけど、ミクロにはそう感じる。
一秒でも早く武器を交えて、お前に勝ちたい、とそう叫んでいるような気がしてならない。
頷くミクロは開始時間数分前、団員達に言葉を送る。
「やることはダンジョンと変わらない。戦って勝つ。それだけ」
簡単に済ませるミクロに団員達は盛大な溜息を吐く。
こういう時は気を引き締める為に何か言ったり、士気を高めたりとやることはあるはずなのにこういう時でも平常運転の団長に溜息を吐くしかなかった。
だけどそれでいい。
そうでなければ団長ではない。
こちらを振り回すぐらいに自由気ままに動いてこそ、【
そして、運命の時はきた。オラリオから聞こえる鐘の音。
【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の
「行くか」
ミクロは開始直後、『ノーエル』に乗って一気に空高くまで飛びあがり、詠唱を開始した。
「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう】―――」
足元に白色の
「「!?」」
団旗の破壊に移動中の際、二人は溢れ上がる『魔力』にいち早く気が付いた。
「あの野郎…………………ッ!」
ベートは悪態を吐きながら上空を見上げる。アイズも目を細めて見ると空高くにミクロが何かに乗って
「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」
上空でミクロは詠唱を完成させて魔法を発動する。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】」
それはレフィーヤの魔法。数十発に及び炎の矢が炎の雨のように空から降り注がれ、【ロキ・ファミリア】を襲う。
「アイズ!」
「!」
幾重にも爆砕音が轟き、土煙を上げる。
最初の先制攻撃は【アグライア・ファミリア】。団長が宣戦布告かのように空から魔法で強襲する。
――――だが。
土煙が舞う地上からその土煙を薙ぎ払いながら上空に姿を現したのは風を纏う金髪の剣士。
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがミクロのところまでやってきた。
ミクロの魔法が地面に着弾する直前、ベートとアイズは高く跳躍。
更にそこからアイズはベートを踏み台にして跳び、魔法を発動して、風の推進力を駆使して高く飛翔してミクロのところまでやってきた。
空で対面する【剣姫】と【
アイズは己の得物である《デスペレート》を振り下ろす。
しかし、アイズ達は知らなかった。
【アグライア・ファミリア】には空を駆けることができるのはもう一人いることを。
「!」
高い金属音が空に響く。
アイズの剣を受け止めたのは小太刀を逆手に持つエルフの冒険者で【アグライア・ファミリア】の副団長を務め、神々から【疾風】の二つ名を授かった冒険者リュー・リオン。
その足に装備されているのは空を駆けることを可能とする
「【剣姫】。貴女の相手は私が務めさせて貰います」
「リオン、さん……………!」
【剣姫】と【疾風】が剣を交えるその間にミクロは進む。
【