上空で剣を交える【剣姫】と【疾風】。二人を置いて先に進むミクロにベートは舌打ちと共に思考する。
ミクロの迷いのない動きは間違いなく何かを狙っての行動。
後ろにいる部隊を置いてミクロを追うか。
アイズにリューを任せて団旗を破壊に行くか。
防衛か攻撃か、その二択。
「………………チッ、おい、てめぇ等! さっさと行くぞ!」
ベートは部隊を叱咤し、攻撃を選択した。
「でもアイズさんが………………………!」
「あいつがヘマすると思ってんのか? それにそれどころじゃねえ」
ベートは鋭い眼差しをある方向に向ける。
そこからこちらに向かってくるのは獣人を多く率いた部隊。そして、その部隊を率いて姿を見せるのは紅蓮の髪を持つ
「【
同族の女性が自分を呼ぶ。彼女の好戦的な笑みにベートは獰猛に笑う。
以前の遠征で
「あの酒場での決着をつけようじゃないかい!」
「上等だ! 蹴り殺してやる!」
【
互いに率いる部隊と共に戦いが始まった。
「レフィーヤの魔法!? 相変わらず滅茶苦茶な奴ね………………」
【ロキ・ファミリア】の別の部隊、ティオネが率いる部隊もまた団長であるフィンの指示に従って団旗の破壊に向かっていたが、その道中で空から降ってくる魔法にティオネは眉根を寄せながら自分の妹は本当にとんでもない奴に惚れたものだと内心呆れる。
上空でアイズが戦っている。ミクロは味方にアイズを任せてどこかに向かっている。
その行き先にティオネは気付いた。
「あいつまさか団長のところに! 戻らないと―――」
フィンからの指示は団旗の破壊。だが、戻ろうとしたその足は不意に止まった。
「………………………………出てきなさい。いるんでしょ? アルガナ」
「ああ」
物陰から姿を現したのはかつて【カーリー・ファミリア】に所属し、頭領を務めていたアマゾネスの戦士。メレンでミクロに敗北し、ミクロに惚れて、【アグライア・ファミリア】に入団したアルガナ・カリフは獲物を見つけた蛇の目でティオネを見ている。
「あんた達は団長の指示通りに団旗を破壊しに行きなさい。こいつの狙いは私よ」
「で、ですが………………!」
「行け」
有無を言わせない命令的な言葉に団員達はティオネの勝利を願いながらも団旗の破壊に向かう。アルガナはそれを阻止することなくただティオネを見ている。
「よく私がここにいるってわかったわね」
「私はミクロの指示に従っただけだ」
アルガナの言葉になるほど、と納得する。
確かに様々な
「で? メレンの時の決着をつけようっていうの?」
「ああ、私はあれから更に強くなった。ティオネ、お前もそうだろう?」
「さぁどうかしらね?」
「戦士としてではない。冒険者として、【ファミリア】の団員としてティオネ、お前を倒す」
「あっそ。まぁ、こっちも似たようなものだけどね………………これだけは言わせて貰うわ」
「私も一つ言いたい」
互いに拳を作り、真剣な顔で告げる。
「「ミクロ/団長の方が断然に強くて格好いい!!」」
愛する人の為に恋する戦士は戦う。
「うわ~流石ミクロだね~」
「いや、ティオナさん………………気持ちはわかりますけど今は
「あははは。ごめんごめん! でも、すっごいでしょ!?」
部隊を率いるティオナは先手の攻撃として魔法を炸裂させたミクロに称賛するも、ナルヴィに注意されるが、その顔から笑みは消えない。
むしろ、恋する乙女の笑みを浮かべている。
【ロキ・ファミリア】の団員達の殆どがティオナがミクロのことが好きだというのは理解している。好きな人が活躍して喜ぶ気持ちもわからなくはないが、時と状況は考えて欲しい。
「さーてと! あたし達もこのままじゃ負けていられないし、みんな行くよ!」
いつもの明るい笑顔で部隊を引っ張るティオナに団員達はついて行ことする。
だが、前へ歩こうとした際にティオナが止まっていることに気づいた。
それに怪訝し、顔を上げて前を向くとそこには
アマゾネスが多いなかでその前に立つ砂色の髪をして紗幕で顔下半分を隠しているアマゾネスの名をティオナが言う。
「バーチェ」
アルガナと同じ【カーリー・ファミリア】の頭領を務めていたアマゾネスの戦士。今は【アグライア・ファミリア】に所属し、冒険者をしているバーチェ・カリフ。
「―――構えろ、ティオナ」
紗幕の下から発する声にバーチェは構える。
「あの時の続きだ」
簡潔かつ明快に告げられるその言葉はメレンで引き分けた戦いの続きだということぐらいティオナでもわかる。
「うん! 今度こそあたしが勝つからね!」
「勝つのは私だ」
「みんな、勝つよ!」
「行くぞ」
ここでもまた戦いが始まった。
「あぐ!」
「ぐ!」
「き、気を付けろ!
次々に矢がその身に突き刺さり、倒れていく【ロキ・ファミリア】。遠距離から
その精密精度は針の穴に糸を通すかのように高く、狙いを外さない。
「そろそろ別の場所に行かないと………………」
一箇所に留まっていれば居場所がバレてしまう。ティヒアは次の狙撃場所を探しに行動する。
「やっぱりね」
「!?」
移動中に際、突如聞こえた声にティヒアは動きを止めて相手を見る。
「【
ティヒアの前に立っていたのは【ロキ・ファミリア】の幹部候補である第二級冒険者、アナキティ・オータル。
「別にこれとって大した理由なんてないわ。狙撃場所を予測すれば難しくはないでしょ?」
呆気なく言うその理由にはティヒアも納得できる。だが、問題はそこではない。
(いくらなんでも速すぎる………………ッ!)
そう、ティヒアが特定されるまでの時間があまりにも短すぎる。
いずれ見つかるぐらい考えていた。だから、そうなる前にできる限り相手の数を減らそうと思っていたが、予想が大きく外れた。
アナキティ・オータルは少々、有能過ぎた。
ティヒアをあっさりと特定できるほどに。
「さて……………倒させて貰うわよ」
【
「滅茶苦茶っすね……………」
空から降り注がれる魔法を避けながら対戦派閥の団長であるミクロの脅威的な先制攻撃に冷汗が出るラウルも部隊を率いて団旗の破壊に行動していた。
「みんな、無事っすか~?」
「はい、全員無事です」
ラウルの部隊にいるレフィーヤが全員の無事を確認してラウルに報告する。
「しかし、レフィーヤの魔法まで使えるなんてありえないっすよ」
「あはは………………」
ラウルの言葉に苦笑するレフィーヤはあの人なら平然とすると内心確信していた。
短い期間とはいえ師事を受けた身、自分達の予想を容易く裏切ることぐらいはする。
「それじゃ行くっすよ」
周囲に対戦派閥である【アグライア・ファミリア】がいないことを確認して団旗の破壊する為に行動を再会するラウル達の前に白い影が現れる。
「あれは………………………!」
それにいち早く気付いたレフィーヤはあんぐりと口を開けて、その白い影の正体を叫ぶ。
「ベル・クラネル………………………!」
両手に得物を持って驚くような速力でこちらに向かってくるベルにラウル達は武器を構える。
「皆、相手は【
ベルを見てラウルは部隊指揮を執る。
相手はオラリオで話題を集めている冒険者。まずは魔法で動きを牽制、封じようと遠距離での魔法が使える者に指示を出す。
そして、魔法を発動するその瞬間――――
彼等は吹き飛んだ。
「「え?」」
ラウル、レフィーヤは突然自分達の仲間が後方に吹き飛んだことに一瞬思考が停止した。
更に攻撃着弾によって発動間際だった『魔法』の制御が乱れて『魔力』の手綱を手放してしまったことに
ラウルの部隊はラウル本人とレフィーヤだけとなり、そうなった理由はベルの後方に身を潜めていたリリルカによる援護射撃。
以前、
「うぅ……………リリはもうお嫁にいけません」
涙ながらにぼやくリリルカの恰好は露出の多い
勝つ為にリリは止む無く
「変身ものきたぁ―――!」
「魔法少女………………いや、魔砲少女だ!!」
「可憐な少女の変身……………【
それはもう大興奮。
ベルはそのまま肉薄している二人に突貫する。【ファミリア】の一員として勝つ為にベルは攻撃する。
「ふっ!」
「そうはいかないっすよ!!」
ベルの二閃。ラウルは剣でベルの攻撃を防いだ。
「レフィーヤ! 援護を!」
「はい!」
流石はオラリオで名高い【ロキ・ファミリア】の団員。止まっていた思考をすぐに活動させて戦闘態勢に入った。
【ファミリア】の為に戦い、勝利する。
それは【ロキ・ファミリア】も【アグライア・ファミリア】のどちらも変わらない。
「リリ!」
「はい!」
【ハイ・ノービス】&【
【ファミリア】の為のどちらも武器を手にする。