激しい戦闘が響き合うなかで、一際激しい戦闘音を轟かせている。
大地を駆け、対戦派閥を魔法で吹き飛ばすのは
「撃て!」
部隊中心にいるリヴェリアが指示を打ち、【ロキ・ファミリア】に所属しているエルフ達が
【ロキ・ファミリア】の中でも抜きんでた、Lv.3以上のエルフで構成されたパーティ。
女性のエルフのみで編成されたリヴェリアの部隊は誰もが並行詠唱を修得し、短文系の魔法を駆使する、高速戦闘を身に付けた魔導士、魔法剣士。
次々と放たれる魔法は砦から無数に射られる妖精の矢のごとく。
『
都市最強であるリヴェリアが遊撃隊として駆り出されれば、彼女は一風変わった『飛び道具』となる。
フィンがここぞという場面で投入する『妖精の楔』。
並行詠唱を主軸にした高速戦闘、高速乱戦。
主砲、弾幕、防壁。
それらを有するエルフ達は既に『移動砲台』などという次元ではなく、『
「【凍てつけ、冬の縛鎖】!」
「【行進せよ、炎の靴――――】!」
「【契約において命ずる】!」
途絶えることのない魔法の嵐に空中に投げ出される【アグライア・ファミリア】の団員達は成すすべがなく、ただ彼女達の侵攻を許してしまう。
「リヴェリア様! 敵派閥の団旗を発見!」
「よし、壊せ!」
「はい!」
アリシアが弓矢を使って
刹那、妖精達は罠に嵌った。
『!?』
不意に身体の動きが見えない鎖が巻き付いたかのように動けなくなった。
そこに何もない空間から矢と魔法による攻撃がリヴェリア達を襲う。
「くっ!」
幸いにもリヴェリアが部隊全員に防護魔法を施していた為に大した
「全員攻撃の手を緩めるな!」
突如何もない空間から姿を現したのは【アグライア・ファミリア】の第二級冒険者、スウラがこの場にいる全員に指示を投げる。
「俺の魔法が効いている今の内に倒すぞ!」
スウラの激励にこの場で待ち構えていた【アグライア・ファミリア】の団員達は鬱陶しいように外套を脱ぎ払う。
『
姿を不可視にしてスウラは事前に罠を仕掛けていた。
魔法名は【ルクドット】、スウラが持つ
超長文詠唱と発動条件と制約が多い魔法ではあるが、この魔法の良さは対象を選べるということだ。
条件を満たした対象だけを拘束することも対象を含めて複数人の動きまでも完全拘束。
今回は団旗を破壊し、条件を満たしてしまったアリシアが仲間達の動きを封じる楔となった。
「……………………しかし、まさか団長の読み通りになるとは」
スウラがこの場で
『スウラ、お前はここで罠を張れ。ここにはきっとリヴェリアが来るから』
地図を広げて指す場所にリヴェリアが来ると断言するミクロにスウラは疑問を口にする。
『団長、リヴェリア様は魔導士です。流石にそれは』
『リヴェリアは来る。絶対に』
『何故?』
『勘』
あっさりとそう答えてスウラは頭を抱えるも現にミクロの言う通り、リヴェリアが部隊を引き連れてこの場に来た。
まさか本当に来るとは思いも寄らなかったスウラは自分達の団長の勘に恐れを抱いた。
流石の
そう思いながらスウラも攻撃を続行する。
「かかれぇ! かかれぇ!」
「怯むな! 攻撃を続けろ!」
「ぬんっ!」
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああッ!?』
大平原のど真ん中で大戦斧を
「ほほぅ、流石はミクロがいる
何度も倒され、立ち上がり、立ち向かう
「しかし、まだまだ甘いわ!」
だが、それでも【
繰り出される拳はいかなる敵も砕く破砕槌となり、そのたくましい体は何ものよりも強固盾となる。
立ち塞がる者全てを撃砕し、あらゆる攻撃をもってしても屈しない。
超前衛特化型のドワーフの大戦士。
彼の『力』と『耐久』は
「ふざけろ! なんなんだよこりゃ………………………!」
他の団員同様に戦いに挑んだヴェルフが叫ぶ。
ヴェルフ以外にガレスに挑んでいる団員の数は余裕で二十人は超えて、接近、遠距離から攻撃をしているのに【
当然その中にはLv.2であるヴェルフの他にLv.3の冒険者だっている。
それなのにガレスの進攻を止めることさえできない。
(これが第一級冒険者………………………! これが【ロキ・ファミリア】!)
改めて第一級冒険者と【ロキ・ファミリア】の恐ろしさを思い知る。
わかってはいたつもりだった。
だが、実際に戦ってはっきりと自分と次元が違うということが骨身、いや、魂にまで染みわたる。
(ベルもセシルも………………こんなのを目標にしてるってのかよ!)
ベルとセシルは常日頃から団長に追いつきたいと耳にしている。その為に努力していることもよく知っている。
ヴェルフはそれがどれだけ困難な道のりを歩いているのか、ようやく理解した。
「どうした? もう終わりか?」
わかりやすくも挑発するガレス。ヴェルフはせめて自分だけでも最後まで戦い続ける覚悟で大刀を構える。
「まだです!」
ヴェルフの背後から聞こえる声に振り返るとそこにはセシルとアイシャがいた。
「今度の相手は私達です!」
「【
「お前等………………………」
突如現れた増援にヴェルフは僅かにだが光明が見えた。
「ヴェルフは休んでて。アイシャさん、行きますよ!」
「ああ、始めから本気で行くよ!」
「はい! 【駆け翔べ】!」
ミクロの魔法を発動させ、白緑色の風を纏い、大鎌を持って突貫するセシルと同様に大朴刀を持って疾走する二人はガレスに迫る。
「………………………………」
何かを待つかのように。
「………………………………来たようだね」
「うん、お待たせ」
空から降りてくるミクロにフィンはいつもと変わらない顔で小さく息を吐く。
「【覇者】いや、【
「うん。わかった」
フィンの申し出を即了承するミクロにフィンは内心苦笑い。
予想通りだったとはいえ、本当にそうなるとは思いもしなかった。
「個人的なものだけど、俺もフィンと戦いたかった。そして勝ちたいと思う」
「僕も同じだ。僕も君と戦い、勝利したい」
二人は互いの得物を構えて戦闘態勢を取る。
「【アグライア・ファミリア】団長、ミクロ・イヤロス」
「【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナ」
互いに名乗りを上げ、二人は同時に動き出す。
【
勝利の女神はどちらに微笑むのか。