路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three28話

敵味方問わず、一度それを目撃した者は口を大きく開ける。

自分達より遥か上空でエルフの戦士と人間(ヒューマン)の剣士が空で剣舞を繰り広げていた。

アイズが持つ剣《デスペレート》とリューが持つ木刀《アルヴス・ルミナ》が幾重にも衝突しながら二人は空を舞う。

リューはミクロから授かった魔道具(マジックアイテム)『アリーゼ』を使って空を駆け、アイズは自身の魔法で大気を踏み締める。

リューの魔道具(マジックアイテム)を見てアイズは己の魔法でそれを再現させて地面に落ちることなく、空を踏んで再びリューと衝突する。

(やっぱり強い………………ッ!)

空中戦を繰り広げながらもアイズはリューの強さに舌を巻く。

アイズの方が先にLv.6に昇格(ランクアップ)し、リューよりも一日の長がある。能力値(アビリティ)だけ見ればアイズの方が上だ。

それでもアイズは攻めあぐねている。

その理由はアイズが対人戦に不慣れで、リューは対人戦に慣れていることが大きい。

アイズはこれまでモンスターを戦うことに意識を向けていた。モンスター相手ならともかくとして対人となればまた違ってくる。

それに対してリューは【アストレア・ファミリア】の一員としてオラリオの秩序安寧に尽力してきた。更には闇派閥(イヴィルス)、【シヴァ・ファミリア】と戦闘を繰り広げてきた。

能力値(アビリティ)はアイズが上でも対人戦の『経験』はリューが上だ。

そして何より、ココは足場がない空の上。さきほど空中戦ができるようになったアイズとは違ってリューの方が一枚上手でこちらは魔法の行使で精神力(マインド)も減っている。

(このままじゃ駄目!)

アイズは地上を目指す。

このまま戦い続ければ負けるのは確実。なら、少しでも勝機を上げる為に場所を変える。

地上に降りようとするアイズにリューも地上を目指す。

リューにとってはこのまま空中戦が続いた方が有利だが、それでは意味がない。

二人は地面の上に着地して再び得物を構え直す。

「………………………………一つ、聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」

「腰にあるその刀は使わないのですか…………………?」

アイズが言う刀とはミクロがリューに授けた魔武具(マジックウェポン)『薙嵐』。

その能力は周囲の風を収束させて風の刀身を作り出す。

『薙嵐』を使えばアイズの(エアリエル)を封じることだって可能とする。

だが、リューはその魔武具(マジックウェポン)を使う素振りを見せない。

手を抜いている。とは思えないが、どうしても聞きたかった。

「…………………すいません。別に貴女を甘く見ているわけではありません」

リューは全力を出していないと思わせてしまったことに謝罪する。

「確かにコレを使えば貴女の風を封じることはできるでしょう。ですが、それでは意味がない」

「意味………………?」

「ミクロは強くなった。そして、これからも強くなる。彼はそういう人間(ヒューマン)だ。だからこそ私はこんなところで立ち止まることは許されない。彼の隣に立つ者として私は強くならなければならない」

家族(ファミリア)に現状に満足することなく更なる強さを手に入れようとするミクロの隣に立つのは艱難と辛苦の道のりだ。

それでもリューは歩むのを止めはしない。

ミクロは何でも一人で背負い込もうとする。痛みも、苦しみも、悲しみさえも全てを背負おうとする。リューはそれが嫌だった。

自分が弱いから一緒に背負わせようとしてくれない。甘えようともしてくれない。

その背に重みを背負い、家族(ファミリア)の為に身命を尽くすだろう。

リューはそれを阻止したい。ミクロの力になりたい。頼られる存在になりたい。

痛みも、苦しみも、悲しみの全てを共に背負い、そして護りたい。

過酷な運命を乗り切ったミクロを幸せにしてあげたい、いや、してみせる。

愛する人(ミクロ)と共に未来を歩きたい。

その為には強くなる必要がある。

必要とあればLv.7にだってなってみせる程度の気概を持たないで(ミクロ)の隣に立つことはリュー自身が認めない。

「故に【剣姫】。私は貴女に勝ちたい。彼の為にも私は強くならなければならない」

「――――っ!」

それは現状ではなく、今よりも遥か未来を見越してリューはアイズを踏み台にし、強くなろうとしている。

(この人の強さは………………ううん、強くなろうとする理由はミクロのため)

ミクロの為に強くなろうと懸命に研鑽を積み重ねてきている。

それがアイズは羨ましいと思った。思ってしまった。

(この人にとってミクロは、英雄なんだ…………)

眼前にいるエルフには自分を救ってくれる英雄(ミクロ)が現れ、そして、彼女自身もまた英雄(ミクロ)の助けになろうと強くなろうとしている。

それが羨ましく、妬ましい。

アイズの前には『英雄』は現れなかった。

母親を守っていた父親のように、アイズが憧れた英雄は、アイズを助けてくれなかった。

だからアイズは剣を執った。

救いなど待たず、歩き出した。たった一つしか残っていない道を走り出した。

全ては己の悲願を叶える為に。

自然に剣を持つ手に力が入る。二人の関係に羨望し、嫉妬する自分に嫌悪感を抱きながらもアイズはその迷いを斬り伏せる。

「私も……………強くならないといけない」

互いに強くなる理由は違えど、強くなりたいという想いは一緒。

「だから、私は貴女に勝つ」

悲願を叶える為にアイズは強くならねばならない。

「………………………………」

リューはアイズの金の双眸がかつての自分以上の深い憎悪を感じ取った。

仲間を殺されて復讐に走ったリュー。アイズはその時のリュー以上に強い復讐心を抱いている。

(私も【剣姫】のように……………)

リューには救いがあった。アイズには救いがなかった。

もし、万が一にミクロが救いの手を差し伸べてくれなかったら彼女のようになっていたかもしれない。

この場にいるのが自分ではなくミクロならきっと彼女をどうにかしようとするだろう。だが、生憎とリューはミクロの真似はできない。

だからせめて剣で応えよう。

「【目覚めよ(テンペスト)】………………………」

再び風を纏うアイズにリューも気を引き締める。

二人の戦いはまだ始まったばかりだ。


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