路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three29話

戦場の一角で二人の狼人(ウェアウルフ)が戦っていた。

【ロキ・ファミリア】のベートと【アグライア・ファミリア】のリュコス。

互いに得物は持たず、己の身一つで戦い続けているが―――

「くっ!」

リュコスは劣勢に強いられていた。

しかしそれは無理もない。リュコスはLv.5でベートはLv.6。二人の間には決定的なまでの実力差が存在している。

Lv.が一つ違うだけでそれがどれだけ違うのか、オラリオの冒険者はそれを良く知っている。

「どうした!? 威勢だけか!?」

「誰が!」

吠えるリュコス。だが、ベートは手を緩めるような真似はしない。

嘲笑い、陥れて、その上で徹底的に叩き潰して地面に這いつくばせる。

それが自分より格下だろうと変わらない。

「オラッ!」

「ぐっ」

これまで格上(ベート)の攻撃を辛うじて致命打は避けてきたリュコスだったが、ベートの蹴撃がリュコスに直撃し、蹴り飛ばされた。

「ハッ」

ベートは蹴り飛ばしたリュコスを見て嘲笑うも、リュコスは立ち上がる。

傷だらけとなったリュコスとほぼ無傷とベート。今の二人の姿はLv.差を現すように見える。

「雑魚が。その程度でよく俺の前に出てこれたもんだな」

「まだ、勝負は終わってないよ!」

その瞳から戦意は消えていない。自分に立ち向かうリュコスにベートは吐き捨てる。

「弱ぇんだよ!!」

放たれるリュコスの蹴撃をベートは紙一重で躱して腹部に拳を叩きつける。

「か、は………………!」

強制的に空気が口から出ていく。殴り飛ばされて何度も地面を跳ねてようやく制止。地面に伏せるリュコスにベートは嗤った。

「あの野郎の仲間だからちった期待したんだがな………………まさかここまで差があるとは思いもしなかったぜ」

ベートが指す”あの野郎”とはミクロを指す。

自分を完膚なきまでに敗北を叩きつけたミクロ。その仲間であるリュコスに少しばかりの期待をしていないと言えば嘘になる。

だが、結果は違った。

「強ぇのはあいつだけかよ。てめえ等はあいつに守られているだけの雑魚だったってことかよ。ハッ、期待して損したぜ」

呆れと少しばかりの失望感と言葉と共に吐き出す。

「あいつの足を引っ張るだけの、弱いてめえ等なんていない方がいいんじゃねえのか?」

その言葉はこの場で戦っている【アグライア・ファミリア】の団員達の心を抉る。

ミクロは強い。それはベートだけじゃない。誰もが認めることだ。

そんなミクロについて行くだけの自分達は比べるまでもなく弱いということを少なからず自覚している。

そんな敵対派閥(アグライア・ファミリア)を見てベートはこんなつまらない戦いをさっさと終わらせようと思った。

「……………………………知ってるよ、そんなこと、ぐらい」

 だが、リュコスが起き上がり、口を開いた。

「ミクロは強い……………出会った当初は同じLv.だったのに今となっては呆れるぐらい実力差ができるぐらいにね………………………」

自虐気味にリュコスは語る。

出会った当初は互いにLv.2だった。だが、加速的に強くなるミクロにどんなに急いでも追いつくどころか距離が空いてしまう。

今となってはLv.5とLv.7という縮まらない差ができてしまった。

「あんたの言う通りさ、【凶狼(ヴァナルガンド)】。あたし達が弱いからミクロの足を引っ張ってしまう」

どんなに強くなろうと努力をしても、強くなりたいと願おうとも、ミクロはそんな自分達を待ってくれている。

仲間を気にかけ、走りながらも皆と極力歩幅を合わせようと手を抜いている。

自分達が強ければそんな気遣いをさせることはなかった。

強ければミクロはもっと強くなれていたはずだ。

リュコス達は自分達の弱さを誰よりも知っている。

「………………だけどね、いや、だからこそ強くなりたいんだよ、あたし達は!」

吠える。

「あいつは強くて馬鹿みたいに優しい奴さ! 弱いあたし達のことなんて放っておけばいいのに、勝手に手を差し伸ばして、一緒に進もうとしてくれるほどのお人好しだよ!! だからこれ以上、あいつに迷惑をかける訳にはいかないのさ!! もう何も縛られることなく自由に動いて、好きにやって、自分が惚れた女と一緒に幸せになるべき(おとこ)さ!」

【シヴァ・ファミリア】との因縁を断ち切り、自由となったミクロはリューと一緒に幸せになって欲しいとリュコスは願っている。

それを口に出したことはないが、そうなってほしいと願っているのは本心だ。

「その為にも【凶狼(ヴァナルガンド)】! あたしはあんたを倒さなきゃいけない! もうあいつは必要ない、と。もう十分だ、と自分は弱くない、と言えるように証明しなきゃいけないのさ!」

だから、それを証明する為にリュコスは歌を叫ぶ。

「【我、願うは虚弱を斬り裂き、食い破る剛毅の爪牙―――――】」

「リュコスさんが魔法を………………!?」

リュコスの詠唱を耳にした【アグライア・ファミリア】の団員は初めて聞く詠唱に驚きながらもリュコスを守備に回るが、【ロキ・ファミリア】は詠唱を止めないと躍起になる。

魔法は切り札。起死回生の一手。

それを阻止するのは当然のこと。わざわざ相手の詠唱が完了するのを待つ義理はない。

だが―――

ベートは待っている。

鋭い眼光を炯々と光らせてその詠唱が終わるのを待つ。

その上で敗北を叩きつける。

かつてミクロがベートにそうしたようにベートはただ終わるのを待つ。

「【認める脆弱を打ち破り、我は限界という殻を壊す。その代償として、この身、この魂を血潮に変えて支払う】」

リュコスは狼人(ウェアウルフ)でも珍しい鮮やかな紅の髪。その髪がリュコスは嫌いだった。他の狼人(ウェアウルフ)から気味悪がれ、貶され、罵倒された。

それが嫌でリュコスは強くなろうと努力した。

いや、違う。

強くなろうとしたのではない。今になって思えばそれはただの『強がり』だ。

それでいいとリュコスは強引に自分を納得させてその背に『恩恵(ファルナ)』を刻み、力を手に入れたが、最終的には追い出されて、オラリオへと足を踏み入れてミクロ達と出会った。

そして強引というより強制に近い勧誘で渋々と【ファミリア】に入ってからリュコスは無自覚ながらも少しずつ変わって行った。

そんなある日、リュコスはミクロにこう言ったことがある。

『あんた、あたしの髪ってどう思うんだい?』

『綺麗だけど?』

あっさりとそう答えた。

そのらしい答えに今まで悩まされた自分が馬鹿みたいに思えた。

そんなミクロを一度死なせてしまった。

【シヴァ・ファミリア】の襲撃の際、リュコス達は人質にされて嬲り殺された。

その時のことをリュコスは忘れない。

「【弱者を照らす光の道を。許せ、その道を紅く染めることを。しかし理解してほしい。汝の為に我は己の強さを証明する】」

ミクロは”光”だ。

暗闇の世界から手を伸ばして光ある道へと引っ張ってくれる。

その光にリュコスは救われた。

だからこそ謝る。その光を自分が大嫌いな色で染めることを。

「【天に向かって吠えるは誓約の遠吠え。強さを求める狂おしき紅き獣】」

この魔法をミクロが知っていれば使うな、とそう言うだろう。

そんなことをしなくてもリュコスは強い、とそう言うだろう。

だが、それでは駄目だ。

もう守られるだけは死んでも御免だ。

「【紅き血潮と共に我は己の虚弱を喰い破る】!」

リュコスは己の殻を破る。

「【ルゼナス】」

響き渡る魔法名。

 

刹那。

 

「!?」

ベートの眼前で攻撃態勢に入っていたリュコスがいた。

眼前に現れるまで反応すらできなかったベートは反射的に防御を取るも―――

「――――――!?」

その防御ごと蹴り飛ばされる。

「チッ!!」

空中で態勢を取り直して着地と共にベートは魔法を発動する前とはけた違いの速度と力に舌打ちする。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

モンスターに近い咆哮を上げるリュコスは爆発的な速力でベートを襲う。

リュコスが新たなに手に入れ、これまで使わなかった魔法【ルゼナス】は春姫の妖術である『階位昇華(レベル・ブースト)』に近い。

己の全ての限界を破壊して【ステイタス】を爆発的に跳ね上げる希少魔法(レアマジック)

だが、この魔法は春姫の妖術と違って大きな代償がある。

リュコスの魔法は力を得る代償として命を削っている。

この魔法をリュコスはずっと隠していた。使えばミクロが必ず使用禁止と告げるからだ。

既に全身が悲鳴を上げ、身体の至る所から血が噴き出ている。

それでもリュコスの猛威は止まらない。

その身を血で染めながらもリュコスは勝利という二文字を手に入れるまで止まるわけにはいかない。

その姿にベートは笑った。

獰猛なまでに笑みを見せるベートは『弱者の咆哮』を上げたリュコスを『敵』と認めた。

吠えたリュコスに凶悪な餓狼は完膚なきまでに叩き伏せようと凶笑を浮かべる。

 

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