路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three30話

二人のアマゾネスによる打撃音が鳴る。

「シッッ!」

ティオネの上段蹴りがアルガナを捉えるも、アルガナはそれを避けて拳撃を放つもティオネは腕で防御する。

互角の攻防。互いに防御を捨てた烈火の如く怒涛の乱打を相手に叩きつける。

その二人の戦いは見ている者にとっては荒れ狂う猛牛同士のごとき乱打戦(ブルファイト)

鋭い『技』と息を呑むほどの『駆け引き』が織り交ぜられながら、原始の戦いを彷彿させる。

その単純(シンプル)過ぎる戦闘に『鏡』でその光景を見ていた神々や冒険者は気持ちを昂らせてどちらにも声援を送っていた。

「行け! そこだ! 【怒蛇(ヨルムンガンド)】!」

「アマゾネスの姉ちゃん! 右、いや左だ!」

「どっちも負けんな!」

二人の戦いを見ていた酒場の冒険者は賭けを忘れるほどに盛り上がり、声援を投げる。

しかし、二人にはどうでもいいことだった。

「団長の方がいいに決まってんでしょ!!」

「いや、ミクロだ!!」

拳、蹴りと共に二人は自分が惚れた(おとこ)の方が強くとて格好いいと吠える。

誰かが聞けばどちらでもいいだろう、と答えるだろう。

だが二人にとってはそういうわけにはいかない。

如何に自分が惚れた(おとこ)が優れているか証明しないと気が済まない。

今の二人には惚れた(おとこ)のことしか考えていない。

恋する乙女にとって何よりも譲れない戦いだ。

「ティオネ。お前のところの小人族(パルゥム)はまだLv.6なのだろう? ミクロはLv.7。既に実力差がはっきりしている」

「はぁ!? 頭わいてんのか!? テメェ!! 団長ならミクロぐらいすぐに追い越すに決まってんだろ!!」

「いや、ミクロはその先に行く!!」

拳が衝突する。

惚れた(おとこ)の為にアマゾネスは戦う。

アマゾネスの血を騒がせるのはいつだって男である。

自分達の勝ち、心を奪った(おとこ)達の為に戦う。

加速する二人の攻防。鋭くなる拳と蹴り。

見る人が見れば踊りながらも戦う二人の闘舞は美しとさえ思える。

「ティオネ! 私は冒険者となった!」

「知ってるわよ!!」

「お前とこうして戦うのも楽しくて仕方がない!」

「あっそ!」

「お前を倒す! ミクロの為に!」

「それはこっちの台詞よ! 団長の為にあんたに勝つ!」

二人の戦いは更に加速する。

 

 

 

「にゃろおー!」

「甘いぞ、ティオナ」

アルガナとティオネ同様にバーチェとティオナも得物を持たずに徒手空拳の格闘戦を繰り広げていた。

互角に戦う二人を見守りながらも戦闘を続ける両派閥。

「とりゃー!」

「フッ!」

激しい殴打の音が鳴りながら互いの全力の攻撃を避け、防御し、また攻撃する。

互いに全力の戦闘を繰り広げる二人は笑っていた。

闘国(テルスキュラ)の時にはなかった高揚感。戦闘が続く度に熱くなる気持ちを拳に乗せて攻撃する。

「あの時より、強くなったな。ティオナ」

「バーチェもね!」

メレンの時は引き分けで終わってから互いに次は勝つつもりで研鑽を積んできた。

それも全ては一人の男の為に。

戦闘を中断し、互いに呼吸を整えるその時、バーチェは言う。

「ティオナ。お前は今のままでいいのか?」

「どういうこと?」

唐突の言葉にティオナは怪訝そうに眉を曲げた。

「ミクロには既に女がいる」

「!?」

突然のその言葉にテォオナは目を見開く。

「【ファミリア】のエルフの女、副団長をしているリューだ。あのエルフがミクロの女になっている」

ティオナが知らなかった事実を告げるバーチェは続ける。

「私もアルガナもミクロの事を諦めたわけではない。今でも奪うつもりでいる。そして、私こそがミクロの女に相応しいと証明してみせる。だが、ティオナ。お前はどうだ?」

「どうって………………………」

「お前もミクロに心を奪われているはずだ」

その通りだ。

ティオナはミクロに惚れている。

フィンに惚れている姉のようにティオナもまたミクロに惚れこんでいる。

しかし、ミクロとティオナは派閥が違う。

別の【ファミリア】の相手と結婚して子供ができる、とじゃあその子供はどちらの所属になるか。色々な理由もあるなかで別の派閥と深い繋がりを持つと弊害が生まれやすい。

規律の為にも神々は【ファミリア】の管理だけは厳しい。

つまり、【ロキ・ファミリア】にいるティオナが【アグライア・ファミリア】にいるミクロとの間で子供を作ると【ファミリア】に迷惑ではすまない問題が生じることになる。

フィンやティオネのように。

ミクロとアルガナやバーチェのように。

同じ派閥に所属している者同士ならともかく、ティオナは他派閥に所属しているミクロに惚れてしまったのだ。

更にはティオナとミクロでは会う機会も少ない。

おまけにミクロとリューが既に恋仲でいるという事実を打ち明けられたティオナは胸に痛みが走る。

ミクロかティオナ。どちらかが改宗(コンバージョン)すればいい、というわけにはいかない。

互いに今の【ファミリア】に大切な家族がいる。

家族を置いて自分の気持ちを優先するわけにはいかない。

ティオナの恋が報われることは限りなくゼロに近い。

それでも――――

ティオナは笑った。

「うん、そうだね。だけど、それでもいいんだ、あたしは」

ティオナは自分の胸元で手を握り、言う。

「あたしはミクロが好き。大好き。だけど、あたしは今の家族(ファミリア)から離れたくない。だってそれはミクロが一番嫌うことだもん」

ミクロは家族(ファミリア)を大切に想い、護ろうと努力している。

その気持ちはきっと誰よりも強いだろう。

それを貴方のことが好きだからという理由で家族(ファミリア)から離れて来たらミクロが自分のせいでティオナを家族から引き剥がした、と責めるだろう。

ティオネは自分の妹であるティオナをを大切に想っているし、アイズやレフィーヤにとってもティオナは大切な家族(ファミリア)だ。

例えそれがティオナの意思だとしてもその原因を生み出した自分を責めるだろう。

ティオナはそれを理解している。

だからこそ、今の家族(ファミリア)から離れることはしない。

その事が自分の大好きな人を悲しませることになるから。

「バーチェ。あたしはね、この気持ちが報われなくてもいいんだ。ミクロのお嫁さんになれなくてもいい。ただ一緒に冒険して、一緒に笑って、また明日って言えるようになればそれだけでいい」

「………………………………」

「ミクロの隣にいられなくてもいいんだ。今、ミクロが幸せならあたしはそれだけでいい。だからね、バーチェ。あたしは笑うんだ」

ティオナは満面な笑みで告げる。

大好きな人(ミクロ)が好きって言ってくれた。だからあたしは笑うよ!」

メレンでミクロはティオナの笑顔が好きと言った。

だから笑う。好きな人が好きと言ってくれた笑顔を見せ続ける。

「………………………………そうか」

その答えにバーチェは頷いた。

これ以上は何を言っても意味を成さないとわかったバーチェは再び構えると、ティオナも笑顔のまま構えて、告げる。

「バーチェ。魔法でも何でも使っていいから、ここから先は本気を出して」

警告をするように告げるティオナにバーチェは怪訝な表情を見せる。

「!?」

するとバーチェは気付いた。

ティオナの口から赤い息を吐き出すと同時にティオナの周囲の空間が歪んだ。

陽炎のように空気が揺れている。

比喩ではない赤い呼気は息が赤く変色するほど熱が宿っている。それはバーチェもよく知っている。

だが、その空間を歪ませるほどの熱を帯びたことなどこれまでに一度もなかった。

「今のあたし、すっごく強いから」

ティオナはミクロと出会って変わった。

その結果としてティオナは新たなスキルを得た。

―――【恋慕太陽(リエン・サン)】。

それがティオナが新たなに得たスキルの名称。

ベートが持つ【月下狼哮(ウールヴヘジン)】と似て太陽の下でないと発動しないスキル。その能力は全アビリティ能力超高補正。更には魔法を付与したかのように全身に高熱を帯びる。

アイズが纏う(エアリエル)のように今のティオナは全身に熱を宿す。

今のティオナの姿は太陽そのもの。そう感じ取ったバーチェは詠唱を口にする。

「【食い殺せ(ディ・アスラ)】!」

バーチェが使う付与魔法(エンチャント)。黒紫の光膜を右手に覆う。

猛毒の属性を持つ防御不可能の毒牙。

殺す気で戦う。そうでもしないと今のティオナには絶対に勝てない。

バーチェの直感がそう判断した。

そして―――

熱を宿す拳と猛毒を覆う拳は衝突する。

 

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