路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three31話

『セシル、お前に才能はない。良くも悪くも普通だ』

そう言われたのは何時の頃だったろうか?

師であるミクロから才能がない、とそう告げられたのは。

『だからお前は努力し続けるしか、前に突き進むしかない』

師であるミクロの言葉は正しかった。

訓練は酷烈(スパルタ)で何度も走馬灯を見たのか、もう数えていない。

だけど無駄もなく的確でどこでもいつまでも付き添って才能のない自分を鍛えてくれる。

訓練は厳しいけど、それ以上に優しい師匠だからこそセシルは敬い、尊敬し、憧憬を抱く。

いつかこの人のようになりたい、そう思っていた。

「はぁ…………はぁ…………」

だけど、もし、万が一に自分に才能があったのなら。

師匠であるミクロの才能が一割でもあったのなら。

状況は変わっていたのかもしれない。

「良い根性じゃ」

称賛の言葉を送るガレスの視線の先に映るのは満身創痍になりながらも大鎌を杖代わりに立ち上がるセシルの姿。

その近くには既に戦闘不能となっているアイシャの姿が横たわっている。

セシル&アイシャVSガレスの戦いが始まってまだ数分。

果敢にも立ち向かったセシルとアイシャだが、ガレスという圧倒的な実力差の前に成す術なく吹き飛ばされた。

魔法でも、スキルでも、策でもない。

あまりにも単純(シンプル)な『力』の前にセシルはただ啞然となる。

相手が実力者だということはわかっていた。

Lv.の差だってあることもわかっていた。

それでも心のどこかに慢心があったのかもしれない。

相手はLv.6。そして自分達が毎日のように相手をしているのはその上を行くLv.7のミクロだ。だから勝つことは出来なくとも善戦ぐらいは、と思っていた。

だけどそれが如何に甘い考えだと思い知らされる。

ガレスは戦闘開始直後から得物を捨て拳のみで戦っている。もし、得物を持っていたらいったい何回死んだかもう数え切れない。

確実に手加減されている。それなのに傷一つ与えることができない。

「『レシウス』!」

『リトス』に収納している大双刃であるレシウスを投擲。激しい勢いで回転してガレスに向かう。

大きさと質量を誇るレシウスは下層のモンスター相手でも容赦なく叩き切る必殺の大型武器。

「【駆け翔べ】!」

セシルは更にレシウスに白緑色の風を纏わせて速度、威力を底上げする。

迫りくる大双刃。それをガレスは――

「ぬんっ!」

正面から素手で受け止めた。

刃を見切り、両手で刃を挟んで受け止めたガレスは完全に制止したレシウスをその場に放り捨てる。

「やれやれ、そのやり方はティオナが真似しそうじゃのぅ」

顎髭を擦るガレスの背後からセシルは大鎌を振るう。

レシウスを囮にして背後を取ったセシルはガレスを両断する勢いで大鎌を振り下ろす。

しかし、ガレスは振り返ることなく大鎌の刃先を片手で受け止めた。

「フンッ」

「ガ、ハ!」

そのまま片腕で大鎌とセシルを持ち上げて地面に叩きつける。叩きつけられたセシルは肺から空気が強制的に外に出て身体に激痛が走る。

「もう終わりか?」

自分の足元に転がっているセシルに攻撃せずただそう問いかける。

セシルは立ち上がってガレスと距離を取ってレシウスを呼び寄せて手元に戻す。

(強い………………ッ!)

ガレスは何一つ回避することなく全ての攻撃を受け止めて打破してきた。

こちらの手数を真正面から一つ一つ確実に潰してくる。

セシルはあらゆる策を考えた。

アイシャと共に遠距離で魔法で倒そうとしても倒せず。

逆に接近戦を挑んでも拳一つで吹き飛ばされる。

Lv.4であるアイシャですらガレスのたった一度の拳を受けて気絶している。

セシルがこうして立っていられるのは運がよかったのと、これまでミクロやここ最近ではアルガナとバーチェに何度も殴打されたことで致命打を辛うじて避ける方法を身体に叩き込まれたおかげだ。

それでも現状は何も変わらない。

圧倒的実力者であるガレスに勝てる方法が思いつかない。

試せることは全て試した。それでも届かなかった。

まるでこれがお前の限界だと、言われているかのような気がしてならない。

「ほれ、ボケっとするでないわ」

「!?」

迫りくるガレスの拳。それを見てセシルは咄嗟に詠唱を口にする。

「【天地廻天(ヴァリティタ)】!」

咄嗟に自身を魔法を施して大鎌で防御を取る。そしてガレスの拳が大鎌に直撃してセシルは吹き飛ばされるも、セシルは立ち上がれる。

セシルの重力魔法である【グラビディアイ】の能力で自身の空間の重力を軽くなるように操作してガレスの拳の威力を大幅に削いだ。

だが、それでも直撃すれば無事では済まない。セシルはこれまでもこうやって辛うじてガレスの拳を防いではいるも、限界は近い。

(私じゃ、勝てない……………)

圧倒的なまでの実力差の前に半分心が折れかけている。

相手が悪い、諦めるのは賢い、逃げた方がいい。先程から自分の中にもう一人自分がいるかのようにそう囁いてくる。

(ベルなら、どうするのかな………………?)

ふ、と、セシルはそう考える。

この場にいるのが自分ではなくてベルならいったいどうしたのだろうか?

圧倒的速度で強くなっているベルにセシルは少なからずの嫉妬を抱いている。

自分が何年もかけてようやくたどり着いた場所をベルは僅か数か月という短い日数で辿り着いた。

いったい自分とベルの何が違うのだろうか?

同じようにミクロの下で訓練をして、ダンジョンに潜って同じぐらいに戦っているのに成長速度がまるで違う。

辿り着かれたと思ったら今度は追い抜かれそうでセシルはどうしてこうも違うのかと苦悩し、嫉妬し、悔やんだ。

もし、ミクロの弟子が自分ではなくてベルであればどうなったのだろうか?

自分の中で何かが変われたのだろうか? 仕方がない、そう思って諦めることができたのかもしれない。

少なくともミクロに一撃を与えることが出来たベルなら自分よりは幾分かは形勢はいい筈だ。

数年も模擬戦を繰り返してきたセシルは今までに一度もミクロに一撃を与えることができなかった。ただのマグレも含めて一撃もない。

それをベルは成し遂げた。

ちらり、と師匠から授かった相棒である『レシウス』を見る。

ベルが持つ武器は既に持ち主を認めて変化した。その武器に炎を宿した。

それに対して自分は授かった時から何も変わらない。つまり、自分の武器にすら認められていない。

「私じゃ、駄目なのかな…………?」

諦観染みた言葉が漏れる。

 

「『氷鷹(ひよう)』!」

 

その時だった。

セシルの横を翼を広げた巨鳥のように蒼き流星群がガレスに疾走する。

巻き起こる風と氷波が高らかに啼きながら凄まじい氷結音を奏でる暴雪の砲撃がガレスに直撃した。

「馬鹿野郎! さっきからどうしちまったんだ!?」

「ヴェルフ………………………」

「お前らしくもねえぞ!」

自分の横に魔剣を持ってやってきたヴェルフはセシルに叫ぶも、セシルは顔を俯かせる。

「ヴェルフ、私……………どうしたらいいのかな? どうすれば強くなれるのかな?」

ぽつり、と己の心情を口にするセシルにヴェルフは口を開いた。

「……………………お前が何を思ってそう言っているのかは俺にはわからねぇ。だけど、これだけは俺でも言える」

一呼吸開けてヴェルフは告げる。

「お前は強い。それは俺だけじゃねえ、俺達全員がそれを認めてんだ。そうじゃなけりゃ団長の地獄みてぇな特訓についてこれるわけがねえ」

「……………………それならベルだって」

「確かにな。ベルも強くなった。いや、今も強くなろうと足掻いている。でもそれはお前もだろう? 目標を目指して強くなろうと努力してるんじゃねえのか?」

ヴェルフは語る。

「だけど、ベルと自分を比べちまう気持ちはわかる。いや、団長の下で一緒に訓練しているお前の方がよっぽど応えてると思うからわかるとは言えねえな」

ヴェルフも自分と急成長しているベルとで自分の少なからずの劣等感(コンプレックス)を抱いている。だけど、そのベルと常に一緒にセシルはそれ以上に酷いのだろう。

「それでも少なくとも俺はお前の方が強いと思っている」

「え……………どうして…………………?」

「自分とベルと比べながらも一歩でも前に突き進もうと努力しているお前の姿に俺は何度も励まされた。あいつがあんなにも頑張っているのにこんなところで挫けていられるか、ってな。きっと他の団員達だってそうだ」

ヴェルフは本拠(ホーム)で何度も団長であるミクロ相手に前進するセシルの姿を目撃している。その姿、その勇姿、その信念を見て落ち込むのはまだ早いと気合を入れ直した。

そのセシルの姿に励まされたのはヴェルフだけではない。団員の多くがセシルを見てはまだまだ頑張らないと、と思わせる。

「だから、もっと自分に自信を持ってもいい、と俺は思う」

ヴェルフの言葉がセシルの心を動かした。

「………………………………うん、そうだね。私は突き進むしかないんだった」

『だからお前は努力し続けるしか、前に突き進むしかない』

かつての師の言葉通り、セシルにはそれしかない。そのことを思い出させてくれた。

立ち止まり暇も、諦めている暇もない。

ただ前に突き進むしかない。

目の前に自分の邪魔をする障害があるというのならそれを壊しても前に突き進む。

セシルは大鎌を捨てレシウスに願う。

「レシウス。あなたにとって私は持ち主として認めてくれないのかもしれない。だけど、今だけでいいの。私に力を貸して」

その時、レシウスは光輝いた。

眩しいまでの閃光を放つレシウスに二人は目を閉じる。

そして、徐々に収まってくる光にセシルは目を開けると、レシウスの形状が変化した。

大双刃だったレシウスが深い闇を連想させる常闇の大剣に姿を変えた。

自分の背丈以上に長い大剣なのに不思議と重たくない。

「やれやれ、これがクロッゾの魔剣か。ちと効いたのぉ」

全身を凍て尽くされながらも動き出したガレスはセシルの武器が変わったことに少々驚くもセシルの覚悟を決めた表情に口角を上げる。

(面白い娘を育てておるのぉ、ミクロは)

内心そう思いながらガレスは一歩を踏み締める。

戦いは続く。

 

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