路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three32話

【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)中盤(ミドルゲーム)に入り、各場所では激戦が繰り広げられている。

その中の一つ、犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)の少女達も戦いを繰り広げていた。

距離を保ちながら矢を番えて放つティヒアとその矢を撃墜しながら接近を試みるアナキティ。しかし、その差は中々埋められない。

「あぁ、もう………………!」

一向に追いつけない相手に徐々に苛立ちを露にするアナキティは追いかけている犬人(シアンスロープ)が放つ正確無比の精度に舌を巻いていた。

互いにどちらもLv.4でありながらもまだ先にLv.4に【ランクアップ】をしているアナキティの方が能力値(アビリティ)も高く、優位性(アドバンテージ)もある。

それでも近づけない原因はこちらの動きを妨害するかのように飛んでくる矢のせいで近づくことが出来ない。

まるでこちらの動きを先読みでもしているかのように放たれるティヒアの正確な狙撃の精度に厄介さを感じた。

こうなれば矢がなくなるまでとことん追いかける。

「くっ…………!」

それとは逆にティヒアは焦りが生じる。

一向に距離を離せられない。そもそも弓兵(アーチャー)である自分が発見されること自体が愚行だ。特にティヒアは接近戦は苦手だ。自分よりもLv.が低い相手ならともかく、同じLv.4のアナキティ相手に勝てない。

自分の役割は【ファミリア】の援護狙撃。一対一の戦いには向いていない。

ミクロの魔道具(マジックアイテム)『リトス』のおかげで矢が無くなる心配はまだないが、それでも有限だ。他の【ロキ・ファミリア】の団員を倒すことも考慮すれば残しておきたいが本音だけれどもそんな余裕はない。

少しでも狙いが逸れれば一瞬で接近を許して斬られる。

ミクロの為にも敗北するわけにはいかない。例え、自分が勝てない相手だとしても足止めすることぐらいはできる。

アナキティ・オータル。彼女は有能だ。彼女をここで縫い付けておけば他に向かわれる心配はない。

拮抗状態が続く。

 

 

 

【ハイ・ノービス】ことラウル・ノールド。能力(ステイタス)はLv.4の第二級冒険者にもかかわらずぱっとしない印象を持たれる。平凡を突き詰めたような彼はいま、防戦を強いられている。

「う、ぐ………………ッ!」

白銀と紅の斬線を残すほどの連撃を放つベルの猛攻に防御をするのが精一杯。

ベル・クラネル。公式のLv.ではLv.3の筈なのにLv.4である自分が押されていることに驚愕する暇もない。

隙があればその隙をついてくるほどの油断も慢心もしないベルの鮮烈な剣撃。ラウルは反撃する暇もない。

(これが【白雷の兔(レイト・ラビット)】………………ッ!)

強い。そう感じながらもラウルは防御を解かない。

「ああ、もう………………! あの人は…………………!!」

レフィーヤは走りながら憤っていた。

戦闘開始からこちらを攻撃してくる小人族(パルゥム)が持つ魔道具(マジックアイテム)の衝撃波の嵐に詠唱を口にする暇がない。

それを作った【覇王(アルレウス)】に色々と文句を言いたい。

なにとんでもないものを作っているんですか!? と。

確かに魔道具(マジックアイテム)はミクロがいる【アグライア・ファミリア】の特権かもしれない。けれど、こうも強力な魔道具(マジックアイテム)をぽんぽんと作り出していることに理不尽を抱く。

並行詠唱しようと試みるも向こうもそれを警戒している。せめて後一人盾役となる誰かがレフィーヤには必要だった。

(このままじゃラウルさんが…………………ッ!)

レフィーヤはまだミクロやリューのように攻撃、移動、回避、詠唱、防御を含めた五つの行動を同時展開することはできない。

だけど。

(貴方にいいえ、貴方達に負けられない…………………ッ!)

この場にいるベルとこことは別の場所で戦っているセシルに強い対抗心を抱いているレフィーヤは一か八かの勝負に出る。

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹】」

足元に魔法円(マジックサークル)を展開しながら大木の心を、視野を広く持ちつつ最低限の回避と防御に専念して夥しい衝撃波の嵐を避け続ける。

(私だってあの人の特訓を受けたのですから!)

一週間という短い期間ではあったが、濃密と言っても過言ではない酷烈(スパルタ)に耐え切ったレフィーヤは魔力という手綱を手放さない。

「【汝、弓の名手なり】!」

激しくなる衝撃波の嵐。向こうも焦っているのが伝わってくる。衝撃波の塊が何度も身体に当たろうともレフィーヤは止まらない。

「【狙撃せよ、妖精の射手】!」

魔杖《森のティア―ドロップ》を構え、詠唱を完了させる。

「【穿て、必中の矢】!」

力強い歌声を響かせながら杖をラウルと戦っているベルに向ける。

「【アルクス・レイ】!」

放たれる光の砲撃。大閃光はベルに向かって驀進する。

「ベル様!!」

小人族(パルゥム)の少女、リリは敵派閥の詠唱を完了させてしまった自分を悔やみながらベルの身を案じて叫ぶ。

攻撃魔法【アルクス・レイ】は自動追尾の属性を持つ。照準した対象に着弾するまで何度も転進する矢の魔法。

ラウルは詠唱が完了する直前に事前に回避することが出来たのも遠征で何度も経験した連携によるもの。この魔法が当たれば流石のベルでさえ無事では済まない。

勿論、殺さない様に加減はしてある。

着弾寸前でベルは大閃光を避ける。しかし、自動追尾の属性を持つレフィーヤの魔法は執拗なまでにベルに迫りくる。

―――のだが。

リン、リン、と。(チャイム)の音が響く。

逃げながらベルの右手には純白光の粒子を集束させていた。

「10秒…………溜め(チャージ)

英雄願望(アルゴノゥト)】。

高速移動での並行蓄力(チャージ)

蓄力(チャージ)を完了させてベルは自分に迫りくる大閃光に手を伸ばす。

「【ライトニングボルト】!!」

力強い白き稲光を放つ。その白き稲光と大閃光は衝突して相殺する。

「うそ…………………」

自分の魔法が相殺されたことに目を見開くレフィーヤの魔法は決して弱いわけではない。手加減していたからこそベルはぎりぎり相殺することに成功しただけの話だ。

仮にレフィーヤが全力で放っていたらベルは致命傷までは行かなくても確実に手傷は負わせられる威力にはなっていたはずだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

魔法を放った直後を狙ってラウルは剣を振り上げる。

レフィーヤが作ってくれた好機を見逃すわけにはいかない、と。

反応が一瞬遅れたベル。防御は間に合わない。

振り下ろされる剣。しかし、その剣はベルには届かなかった。

リリが放つ魔道具(マジックアイテム)の衝撃波がベルの窮地を救った。

「!」

窮地が逆転。ベルはリリが放った衝撃波によって体勢が崩れたラウルの顔面に拳砲が炸裂する。

「が、ぁ………………………!」

「ラウルさん!?」

衝撃に打ち抜かれたラウルは何度も地面を跳ねてようやく止まった。

地面にうつ伏せるラウル。確実に決まった渾身の一撃。だけどベルはラウルから視線を外すことができなかった。

「……………………ま、だ、まだ、終わってないっすよ………………!」

頭から血が垂れ、殴られた頬は腫れて、無様に鼻血を流す。それでもラウルの瞳からはまだ戦意は消えていない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

駆け出すラウル相手にベルは油断なく己の得物を構える。

互いに得物を衝突し合わせ、金属音と火花を散らしながらも戦い合う。

それでもベルの方が一枚上手だ。

これまでのミクロとの酷烈(スパルタ)や数多の強敵と戦ってきたベルは本当にLv.3の冒険者なのか疑う程に強くなっている。

「うぐっ!」

ベルの蹴撃がラウルの横腹に直撃。再び地面に転がるラウルだがすぐに立ち上がって向かってくる。

ラウルは自分の身の程を知っている。

どれだけ努力しても団長であるフィンやアイズ達のようにはなれない。いくら追いかけても追いつくことさえできない。

眼前にいるベル・クラネルを見てラウルは思った。

団長達に追いつけるとしたらきっとベルのような人でないと無理だと。

悔しくもそう思えてしまう。

だけど――

それでも―――

ここで追いかけるのを止めたら、もっと駄目なやつになる。

憧憬を追うのはセシル、レフィーヤ、ベルだけではない。

ここにも憧憬を追いかける者がいる。

(無様でも、惨めでも……………俺は、俺はここで立ち止まるわけにはいかない!)

生き汚く、諦めの悪い冒険者。

選ばれた者達の残酷な背中を惨めでも追いかけ続けることを諦めない彼に神の悪戯か、それとも諦めない彼の意思が運命を動かしたのか、ともかくそれはやってきた。

流星のように空を駆け、飛んでくるそれは自ら意思を持つようにラウルの左腕に装着される。

「それは………………ッ!」

それを見て驚愕に包まれるベルとリリ。何故ならそれはベルやセシル達が持つミクロ・イヤロスの最高傑作の一つである小型盾(バックラー)だ。

それがまるでラウルを選んだかのように装備されている。

「な、なんすっか、これ?」

突然自分の腕に装備してきた小型盾(バックラー)に戸惑うもすぐにその使い方を理解した。

生きた武器であり、作製者であるミクロの想像を超えるその小型盾(バックラー)の名を呼ぶ。

「『アミナ』!」

その名を呼ぶことで能力が解放。複数の半透明の盾がラウル周辺に出現する。

覇王(アルレウス)】が作り上げた最高傑作。その内の二つが対峙する。

新たな力を手に入れたラウルと相棒達に炎を宿させるベル。二人は互いに目を逸らすことなく再び激突する。

 


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