【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の
その中の一つ、
距離を保ちながら矢を番えて放つティヒアとその矢を撃墜しながら接近を試みるアナキティ。しかし、その差は中々埋められない。
「あぁ、もう………………!」
一向に追いつけない相手に徐々に苛立ちを露にするアナキティは追いかけている
互いにどちらもLv.4でありながらもまだ先にLv.4に【ランクアップ】をしているアナキティの方が
それでも近づけない原因はこちらの動きを妨害するかのように飛んでくる矢のせいで近づくことが出来ない。
まるでこちらの動きを先読みでもしているかのように放たれるティヒアの正確な狙撃の精度に厄介さを感じた。
こうなれば矢がなくなるまでとことん追いかける。
「くっ…………!」
それとは逆にティヒアは焦りが生じる。
一向に距離を離せられない。そもそも
自分の役割は【ファミリア】の援護狙撃。一対一の戦いには向いていない。
ミクロの
少しでも狙いが逸れれば一瞬で接近を許して斬られる。
ミクロの為にも敗北するわけにはいかない。例え、自分が勝てない相手だとしても足止めすることぐらいはできる。
アナキティ・オータル。彼女は有能だ。彼女をここで縫い付けておけば他に向かわれる心配はない。
拮抗状態が続く。
【ハイ・ノービス】ことラウル・ノールド。
「う、ぐ………………ッ!」
白銀と紅の斬線を残すほどの連撃を放つベルの猛攻に防御をするのが精一杯。
ベル・クラネル。公式のLv.ではLv.3の筈なのにLv.4である自分が押されていることに驚愕する暇もない。
隙があればその隙をついてくるほどの油断も慢心もしないベルの鮮烈な剣撃。ラウルは反撃する暇もない。
(これが【
強い。そう感じながらもラウルは防御を解かない。
「ああ、もう………………! あの人は…………………!!」
レフィーヤは走りながら憤っていた。
戦闘開始からこちらを攻撃してくる
それを作った【
なにとんでもないものを作っているんですか!? と。
確かに
並行詠唱しようと試みるも向こうもそれを警戒している。せめて後一人盾役となる誰かがレフィーヤには必要だった。
(このままじゃラウルさんが…………………ッ!)
レフィーヤはまだミクロやリューのように攻撃、移動、回避、詠唱、防御を含めた五つの行動を同時展開することはできない。
だけど。
(貴方にいいえ、貴方達に負けられない…………………ッ!)
この場にいるベルとこことは別の場所で戦っているセシルに強い対抗心を抱いているレフィーヤは一か八かの勝負に出る。
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹】」
足元に
(私だってあの人の特訓を受けたのですから!)
一週間という短い期間ではあったが、濃密と言っても過言ではない
「【汝、弓の名手なり】!」
激しくなる衝撃波の嵐。向こうも焦っているのが伝わってくる。衝撃波の塊が何度も身体に当たろうともレフィーヤは止まらない。
「【狙撃せよ、妖精の射手】!」
魔杖《森のティア―ドロップ》を構え、詠唱を完了させる。
「【穿て、必中の矢】!」
力強い歌声を響かせながら杖をラウルと戦っているベルに向ける。
「【アルクス・レイ】!」
放たれる光の砲撃。大閃光はベルに向かって驀進する。
「ベル様!!」
攻撃魔法【アルクス・レイ】は自動追尾の属性を持つ。照準した対象に着弾するまで何度も転進する矢の魔法。
ラウルは詠唱が完了する直前に事前に回避することが出来たのも遠征で何度も経験した連携によるもの。この魔法が当たれば流石のベルでさえ無事では済まない。
勿論、殺さない様に加減はしてある。
着弾寸前でベルは大閃光を避ける。しかし、自動追尾の属性を持つレフィーヤの魔法は執拗なまでにベルに迫りくる。
―――のだが。
リン、リン、と。
逃げながらベルの右手には純白光の粒子を集束させていた。
「10秒…………
【
高速移動での並行
「【ライトニングボルト】!!」
力強い白き稲光を放つ。その白き稲光と大閃光は衝突して相殺する。
「うそ…………………」
自分の魔法が相殺されたことに目を見開くレフィーヤの魔法は決して弱いわけではない。手加減していたからこそベルはぎりぎり相殺することに成功しただけの話だ。
仮にレフィーヤが全力で放っていたらベルは致命傷までは行かなくても確実に手傷は負わせられる威力にはなっていたはずだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
魔法を放った直後を狙ってラウルは剣を振り上げる。
レフィーヤが作ってくれた好機を見逃すわけにはいかない、と。
反応が一瞬遅れたベル。防御は間に合わない。
振り下ろされる剣。しかし、その剣はベルには届かなかった。
リリが放つ
「!」
窮地が逆転。ベルはリリが放った衝撃波によって体勢が崩れたラウルの顔面に拳砲が炸裂する。
「が、ぁ………………………!」
「ラウルさん!?」
衝撃に打ち抜かれたラウルは何度も地面を跳ねてようやく止まった。
地面にうつ伏せるラウル。確実に決まった渾身の一撃。だけどベルはラウルから視線を外すことができなかった。
「……………………ま、だ、まだ、終わってないっすよ………………!」
頭から血が垂れ、殴られた頬は腫れて、無様に鼻血を流す。それでもラウルの瞳からはまだ戦意は消えていない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
駆け出すラウル相手にベルは油断なく己の得物を構える。
互いに得物を衝突し合わせ、金属音と火花を散らしながらも戦い合う。
それでもベルの方が一枚上手だ。
これまでのミクロとの
「うぐっ!」
ベルの蹴撃がラウルの横腹に直撃。再び地面に転がるラウルだがすぐに立ち上がって向かってくる。
ラウルは自分の身の程を知っている。
どれだけ努力しても団長であるフィンやアイズ達のようにはなれない。いくら追いかけても追いつくことさえできない。
眼前にいるベル・クラネルを見てラウルは思った。
団長達に追いつけるとしたらきっとベルのような人でないと無理だと。
悔しくもそう思えてしまう。
だけど――
それでも―――
ここで追いかけるのを止めたら、もっと駄目なやつになる。
憧憬を追うのはセシル、レフィーヤ、ベルだけではない。
ここにも憧憬を追いかける者がいる。
(無様でも、惨めでも……………俺は、俺はここで立ち止まるわけにはいかない!)
生き汚く、諦めの悪い冒険者。
選ばれた者達の残酷な背中を惨めでも追いかけ続けることを諦めない彼に神の悪戯か、それとも諦めない彼の意思が運命を動かしたのか、ともかくそれはやってきた。
流星のように空を駆け、飛んでくるそれは自ら意思を持つようにラウルの左腕に装着される。
「それは………………ッ!」
それを見て驚愕に包まれるベルとリリ。何故ならそれはベルやセシル達が持つミクロ・イヤロスの最高傑作の一つである
それがまるでラウルを選んだかのように装備されている。
「な、なんすっか、これ?」
突然自分の腕に装備してきた
生きた武器であり、作製者であるミクロの想像を超えるその
「『アミナ』!」
その名を呼ぶことで能力が解放。複数の半透明の盾がラウル周辺に出現する。
【
新たな力を手に入れたラウルと相棒達に炎を宿させるベル。二人は互いに目を逸らすことなく再び激突する。