路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three33話

女性のエルフのみで編成されたリヴェリアの部隊『妖精部隊(フェアリー・フォース)』。

都市最強であるリヴェリアが遊撃として駆り出され、並行詠唱を主軸にした高速戦闘、高速乱戦。主砲、弾幕、防壁、それらを有するエルフ達は『要塞(フォートレス)』と言っても過言ではない。だが、その『妖精部隊(フェアリー・フォース)』は現在窮地に立たされている。

スウラの持つ(トラップ)魔法。それによってリヴェリア達を完全拘束からの中、遠距離からの魔法、魔剣、矢、魔道具(マジックアイテム)による止むことのない嵐のような乱撃。反撃させる暇すら与えないその怒涛とも言える攻撃にリヴェリア達は辛うじて耐えている状況だ。

(このままでは……………………ッ!)

全滅。という言葉がリヴェリアの脳裏を過る。

Lv.6である自分はまだ問題はない。だが、第二級冒険者であるアリシア達は限界が近い。打開策はないわけではないが、それは犠牲を前提としてだ。

それはリヴェリアにとって好ましくない手段だ。

「リヴェリア様! このままでは!」

アリシアが叫ぶ。リヴェリアが全員に施した防護魔法も限界が近い。もうすぐ効果が切れて損傷(ダメージ)が自分達に襲ってくる。

「………………………………」

一度瞳を閉ざしてリヴェリアは覚悟を固める。

このまま何もせずに敗北するぐらいなら一か八かの勝負に打って出る。

小さく息を吐いてリヴェリアは『大木の心』を用いて詠唱に入ろうとしたその時。

 

莫大な量の風の破城槌が地面を削りながらスウラ達に襲いかかった。

 

『え? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』

突然の横からの攻撃にスウラ達はその風に呑み込まれてかっ飛んだ。

そしてスウラがやられたことによって魔法が解けてリヴェリア達は解放されるも、あまりにも突発的過ぎる攻撃に目を瞬かせるリヴェリア達だが、その足元に対戦派閥(アグライア・ファミリア)が所有していると思われる一つの水晶が転がり込んでリヴェリアがそれを拾うと水晶からミクロが映し出される。

『ごめん、スウラ。そっちにリヴェリア?』

「……………………ミクロ? 今の攻撃は君か?」

『うん』

水晶の向こうで頷くミクロにリヴェリアは再度地面を削り消した破壊痕を見て、その頬に冷汗を垂らす。

いったいどのような魔法を使えばこんなものができるのか? と戦慄する。

「……………………今の君の攻撃で君の団員が吹き飛んだが?』

『そんなの避けないスウラ達が悪い。それに万が一を備えて両方の派閥に魔道具(マジックアイテム)も支給したから問題ない』

「それはそうだが………………………」

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)では両派閥に問題が残らない様にミクロが魔道具(マジックアイテム)を支給している。

瀕死時になると防御結界と治癒を施して応急処置をする。少なくとも即死でない限りは死ぬことはほぼない。

その証拠にスウラ達は生きている。但し、先ほどの攻撃が誰の者か理解しているのかミクロに対する恨み言を呟いてはいるが。

完全な友軍誤射(フレンドリーファイア)。しかし、誤射した本人は反省の色はない。

『俺なら勘で避けれる』

だからそれができるのは貴方だけ、という倒れた団員達からの心の声が重なる。

「………………………………まぁ、結果的には私達は助かった。しかし、だからといって手を緩めることはしない。覚悟はしてもらうぞ?」

『問題ない』

最後に頷くと水晶からミクロの姿が消える。

リヴェリアは再び部隊を動かす前にフィンとミクロがいるであろうその場所を一度見据える。

「フィン………………」

勝てるのか? という迷いは今は切り捨てる。ただ【ファミリア】に勝利を貢献する為にリヴェリア達は再び動き出す。

 

 

 

 

時は少し遡る。

【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されてミクロは真っ先にフィンの元へ辿り着き、ミクロはフィンと一騎打ちをしている。

激突する【勇者(ブレイバー)】と【覇王(アルレウス)】。

両派閥の団長同士の一騎打ちに多くの者が注目している。

フィンが持つ主武装《フォルティア・スピア》。黄金の穂先を持った『勇気』の名を冠する第一等級武装。

ミクロが持つ全てを破壊する魔武具(マジックウェポン)《アヴニール》。破壊属性(ブレイク)が付与されている黄金色の槍。

二本の槍が何度も衝突し火花を散らす。

乱れ突き、薙ぎ払い、槍術を駆使して戦い合う二人なのだが、フィンは自分の弱さを誤魔化す様に強気な笑みを見せる。

「本当に、厄介だね………………………」

Lv.に差はあるも槍術の技量に関してはフィンに分があった。これまでダンジョンで数多くのモンスターを葬ってきた『経験』と培ってきた『技』を繰り出してミクロの身体に何度も攻撃は通って入るもミクロは怯みもしない。それどころか損傷(ダメージ)を与えているかどうかも怪しいが本音だ。

(耐久はガレス以上か…………)

ここまで自分の槍術を受けてもなんともないように見えるミクロを見て口には出さなくてもそう思えてしまう。

更に言えばミクロが持つ槍の能力も厄介だ。下手に突き合えばこちらの得物が無くなってしまう。

もう一つ付け加えるのならミクロはまだ本気すら出していない。

ミクロの真骨頂はその耐久力もだが、その数多くの武器の多様性だ。

ありとあらゆる武器を、魔法を、魔道具(マジックアイテム)都市(オラリオ)で最も切れる手札(カード)が多い。

おまけにミクロはそれを直感と判断力で完全に使いこなしている。

例えるのならミクロ一人で【妖精部隊(フェアリー・フォース)】が成り立てる。いや、ミクロこそが『要塞(フォートレス)』そのものだ。

物理・魔法攻撃すらもビクともしない耐久力。

無限にも思える数多の武具。

これを『要塞(フォートレス)』と呼ばずに何と言う?

フィンは今、その要塞をたった一人で打ち破ろうとしている。

改めて考えれば無謀もいいところだ、とフィンは内心で苦笑い。

どうやって倒そうか、そう思案しているとミクロの指輪から一つの小型盾(バックラー)が出現する。それに驚くフィンは警戒を強いるも驚いていたのはミクロも同じだったが、その表情は何かに納得したかのように頷いた。

「いいよ」

まるで許しを得たかのように小型盾(バックラー)はどこかに飛んで行った。

「ミクロ・イヤロス。今のはいったい………………?」

「主を選んだ。それだけ」

フィンの疑問に簡素に答える。その答えがはっきりしなくても少なくとも何かしらの罠でないことは確かなのは理解できた。

「フィン。準備運動も終えたからここからは本気で行く」

その言葉に空気が一変する。

右の親指が痛いぐらいに痙攣している。そしてフィンは瞬時に詠唱を口にする。

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】!」

超短文詠唱を怒ったフィンの左手に、鮮血の色に染まる魔力光が集う。

瞑目し、紅の指先――――鋭い槍の穂先を己の額に押し当てた直後、魔力光が体内に侵入した。

「【ヘル・フィネガス】!」

次の瞬間、見開かれたフィンの美しい碧眼が、鮮烈な紅色に染まった。

フィンが持つ戦意高揚の『魔法』。

戦闘意欲―――燃え滾る交戦よくを引き出し術者の諸能力を大幅に引き上げるが、力の代償としてまともな判断力を失うことになる。

本気のミクロと戦う為に能力(ステイタス)上昇を優先させたフィンは主武装である槍を手に先手必勝の速度でミクロに迫る。

そこから突き放たれる一突きは深層のモンスターすら突き穿つことだって可能とするが、それがミクロの届くことは無かった。

ミクロの周囲に漂う三枚の大盾がフィンの一撃を防いだ。

「――――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

哮けるフィンはその大盾ごと破壊するかのような怒涛の攻撃を仕掛けるもその大盾を突破することは出来ない。それどころか三枚の内一枚の盾が横からフィンに攻撃を仕掛けてきた。

「ぐっ―――! ぁぁああああああああああああああああああああああああっっ!!」

その攻撃に苦痛の表情を見せるも咆哮を上げて痛みを無視。再度攻撃に入るもミクロは盾をどかしてその手にナイフと梅椿を持ち、フィンの攻撃を全て捌いた。

そして、僅かに出来た隙に回し蹴りを炸裂させる。

「が、は………………」

体中の骨が軋む音を聞きながら蹴り飛ばされるフィンは立ち上がる。しかし、ミクロは怪訝する。

「フィン。どうして本気を出さない?」

「何を、言って…………………」

「前のフィンならこんな温い攻撃はしなかった」

その言葉は今のフィンは相手にもならない。そう言っているようにも聞こえた。

「………………………………僕が弱いと思うのならそれはむしろ逆だ。君が以前僕と手合わせした時よりも強くなっているからじゃないかな?」

以前は互いにLv.6同士だった。だけど今はミクロは【ランクアップ】を果たしてLv.7の頂きにいる。だからフィンの言っている事は間違いではない。むしろ、短期間でそれだけ強くなっているミクロの方がおかしい。

しかし、ミクロは首を横に振った。

「そうじゃない。フィンは戦い方を選んでる? 隠しているように感じる」

「……………………それは」

「ううん、違う。隠しているのは個々の感情?」

「!?」

「フィンの野望じゃない。もっと個人的な何か………………………」

疑問を抱きながらも自分が感じ取った何かを口にするミクロにフィンは戦慄を覚える。

いったいその隻眼はどこまで見抜いているのか。

ミクロの言葉通り、フィンはミクロに対してある感情を抱いている。

それは嫉妬であり、羨望でもある。

ミクロ・イヤロスは『奸雄』のフィンと違って正真正銘の『英雄』であり、その強さ、あり方、その全てに対してフィンはミクロに嫉妬と羨望を向けている。

自分は偽物であれば彼は本物。

『人工の英雄』ではなく『本物の英雄』。

それはフィンがなりたくてもなれないものだとフィン自身も自覚している。

主神にかけあって【勇者(ブレイバー)】の二つ名を拝命して貰ったのがいい例だ。自分が望む名声を手に入れる為の手段にして過程。無論、名声に偽りがないようフィンは振る舞い、信念と強さを示してきた。だが、それは全てフィンが画策したものだ。

しかし彼はどうだ?

彼が、ミクロ・イヤロスが一度でもそんな画策を取ったか? 名声を手に入れる為に何かしらの手段を取ったか? その答えは否だ。

ミクロは意図とも打算とも無縁。全ては自分がそうしたいからという行動の結果。三大派閥まで登り詰めてきた。

『英雄』とは作り出すものではなく、求められるもの。

フィンとミクロ。互いのあり方が完全に真逆の存在である。

「…………………本気を出さないのなら、俺が勝つよ?」

ミクロが『リトス』から新たに取り出したのは大振りの突撃槍(オウガランス)。その先端から螺旋状に何かしらの文字が刻まれている。

ミクロの新しい武装? フィンはそう思案するなかで突撃槍(オウガランス)に刻まれている文字が輝きだし、回転を始めるとそこに風が集束しているように―――

「!?」

フィンは回避行動を取る。

これまで多くの死戦を潜り抜けた経験と己の直感が告げている。これから放つミクロの一撃は決して受けてはいけないと。

「エアリエル・バース」

突撃槍(オウガランス)から放たれるは莫大なまでの風の塊。それが破城槌のようにフィンの横を通り過ぎる。

その勢いは失うことなくフィンがいた更に後方まで地面を削りながら向かっている。

もし、あの一撃をまともに受けてしまえば、そう思うとフィンはぞっとした。

「これの名前は『エア』。アイズの魔法名を少し借りてそう名付けた。周囲の風を圧縮凝縮して放つ魔武具(マジックウェポン)。自慢の作品の一つ」

己の作品を教えるミクロにフィンはいつものような笑みは浮かべることはできずにただ戦慄する。

フィンはミクロの事を『要塞(フォートレス)』そのものだと思っていた。

だけどそれは違った。ミクロは『要塞(フォートレス)』なんかじゃない。

己の前に立ちはだかる障害は全て破壊して突き進み、我が道を作り出す。

「【覇王(アルレウス)】………………………」

神々がミクロに授けたその二つ名はあながち的外れではない。ミクロという存在そのものを現すのに相応しい異名だ。

 


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