路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第19話

本拠(ホーム)居室(リビング)でアグライアは先ほどまでいたヘルメスの話を思い出していた。

ミクロに神々と同じ神血(イコル)が流れているという衝撃の事実を聞かされた。

精霊の血が流れている人間の話なら聞いたことがあった。

だが、神の血が流れている人間の話は聞いたことはなかったが、それが事実ならミクロの成長に納得できるところがあった。

【ステイタス】には副次効果がある。

階位が上がった【ステイタス】厳密には昇華した『器』は衰えにくくなり、全盛期の期間が長くなる。

短絡的に言ってしまえば【ランクアップ】にすればするほど、神々に近づく。

その神の血が流れているミクロならその成長は普通の何倍も速いと推測できた。

前例がない神の血が流れている人間。

そして、ミクロが発現していた呪詛(カース)とスキルは路地裏での生活のせいではなく、シヴァの血が流れている証であった。

破壊を司る神、シヴァ。

其の力の一端を得てしまった人間(ミクロ)

何が目的で、どういう意図で人間であるミクロに自身の血を与えたのかは不明だったが、アグライアにそんなことは関係なかった。

何者であろうともアグライアはミクロを見捨てたりはしない。

「……シヴァ。貴方が何を企んでいるかは知らないけど、私の子に手を出すというのなら私は全力で貴方を止めてみせるわ」

子を守る為に、家族を守る為に、アグライアはそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

17階層の迷宮の弧王(モンスターレックス)『ゴライアス』に向かって白緑色の風を纏ったミクロは駆け出していた。

【リル・ファミリア】による『怪物進呈(パス・パレード)』を阻止することが出来たミクロ達だが、【リル・ファミリア】団長、ランス・グリアスは仲間の小人族(パルゥム)をゴライアスがいる階層に繋がる縦穴に放り投げて、ミクロは迷うことなくその縦穴に飛び込み、リュー達もそれに続いた。

そして、階層主であるゴライアスに向かってミクロは駆け出していた。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

ミクロに向かって拳を振り下ろすが、ミクロはその拳を躱して風の纏ったナイフでゴライアスの脚を切り裂く。

だが、大した傷を負わせることなくすぐに後退する。

「ミクロ!一人で行ってはいけません!」

「あたしも交ぜな!」

ゴライアスの公式(ギルド)推定はLv.4。

リューはともかくミクロ達はLv.2。

それも本来なら集団で挑むのが望ましい階層主相手にミクロ達はたったの五人。

絶体絶命に近い状況にミクロ達は立たされていた。

「リュー、魔法は?」

「ありったけの精神力(マインド)を使えば致命打は与えられますが……」

「決定打にはならないか」

広範囲かつ強力な魔法を放つことが出来るリューでも決定打にはならず、ミクロ達はどう立ち向かうかを思案する。

「私を囮にしてください!」

思案しているミクロ達に小人族(パルゥム)は自ら囮役を買って出た。

だが、ゴライアス相手に囮役になるということは自殺しに行くようなもの。

それを理解した上で小人族(パルゥム)は言った。

「こうなってしまったのも私のせいです!私が囮になれば貴方方なら」

「却下」

即答するミクロは小人族(パルゥム)に言った。

「俺はまだお前から謝罪を貰っていない。だから、死なせるようなことはしない」

「で、でも」

「断る」

今度は言い切る前に断った。

「大丈夫。俺達は死なない。生きて地上に戻って謝って貰うから囮にはさせない」

「そ、それでも!相手は階層主!どこにも死なない保証なんて……ッ!」

小人族(パルゥム)の言葉は正しいとミクロは理解していた。

ダンジョンではいつ、どこで、誰が死ぬのかはわからない。

それはミクロ達も例外ではない。

それも相手が階層主であればミクロ達の死ぬ確率は高い。

「いい奴だな、お前は」

だけどミクロはそんな理想論を言う自分は不思議と悪くないと思っている。

「自分の事より俺達の事を心配するなんていい奴だよ」

踵を返してミクロは再び風を纏う。

「俺は仲間を信頼している。そして、お前の事も信頼する。だから、俺の事を信じてくれ」

それだけを告げてミクロは再びゴライアスに向かって駆け出した。

「あたしも行くよ!」

赤い粒子を纏ったリュコスもミクロ同様に駆け出す。

「どうして?」

小人族(パルゥム)は意味が分からなかった。

つい先ほどまで酷いことをしたはずの相手をどうして信頼するのか。

どうして自分を囮にしようともしないのか。

「関係ないのですよ、ミクロには」

その意味をリューが諭す様に答えた。

「相手が誰だろうが、どのような人物であれ、ミクロには関係ありません。いい人ならミクロはいい人であり、信頼を寄せるというのなら信頼を寄せる。今のミクロに理屈はないのです」

木刀を片手にリューも駆け出そうと動き出す。

「ですが、ミクロの言う通り謝罪はしていただきます。そして、私も貴女に信頼を寄せましょう。残念なことにミクロは異性(ひと)を見る目がある」

苦笑しながらリューもゴライアスに立ち向かう。

「ミクロ!リュコス!魔法を使います!そのままゴライアスの意識を分散させてください!」

「わかった」

「あいよ!」

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

風を纏いゴライアス顔付近で動きわまりつつ牽制を繰り返すミクロとナイフと体術で足元から攻撃を繰り出すリュコス達を信じてリューは魔法の詠唱を始めた。

「お願い、私の武器を返して」

三人が戦っている中でティヒアは小人族(パルゥム)に懇願した。

「皆が戦っているのに私だけ何もしないなんてしたくない。私もミクロ達の役に立ちたいの」

「………」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

「ぐっ!」

攻撃の衝撃を受けて体勢を崩すリュコスを踏みつぶそうとするゴライアスだがミクロは間一髪で助けることが出来た。

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

ありったけの精神力(マインド)をこれから放つ魔法に注ぎ込むリュー。

ミクロ達も懸命にゴライアスに立ち向かう。

「私も仲間を死なせたくない」

「【開くは隠し部屋の鍵】」

解除式を唱えた小人族(パルゥム)の前に現れたのはティヒアの相棒ともいえる複合弓(コンボジットボウ)

「ありがとう」

ティヒアはすぐに弓を構えて矢を番える。

「【狙い穿て】」

超短文詠唱を唱えながらティヒアはゴライアスの目に狙いを定めた。

「【セルディ・レークティ】」

魔力が纏った矢は寸分狂うことなくゴライアスの眼に突き刺さった。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人】」

悲鳴に近い叫び声を上げるゴライアス。

「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ】」

膨大とも言える『魔力』の規模はミクロ達が今まで感じたことのない程強力なものだとリューから感じ取れた『魔力』で理解出来た。

「さっきのお返しだよ!」

ゴライアスの腕を跳躍してゴライアスの顔面を蹴りつけるリュコス。

少し満足気味に笑みを浮かばせながらミクロに視線を向けると互いに頷いて後方に跳んだ。

「【星屑の光を宿し敵を討て】!」

魔法の詠唱が完了したリューの周囲に無数の大光玉が出現した。

「【ルミノス・ウィンド】!!」

緑風を纏った星屑の魔法が発動した。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

一斉放火された星屑の魔法が次々にゴライアスに叩き込まれる。

体皮を破り、夥しい閃光を連鎖させた。

リューのありったけの精神力(マインド)を注いだ魔法。

それでもゴライアスを倒すことは出来なかった。

「……やはり、決定打にはなりませんか」

膝をつき、ボロボロになったゴライアス。

致命打を負わせることは出来たけど、倒すことは出来なかった。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

咆哮を上げて立ち上がるゴライアス。

同じ魔法を放てるだけの精神力(マインド)はもうリューにはなかった。

「……後は頼みました」

「わかった」

リューの横を通ってミクロはもう一度魔法を発動する。

「【駆け跳べ】」

「サーヴァ!」

魔法詠唱中にティヒアはスキルを駆使してミクロを支援。

「【フルフォース】」

再びミクロは白緑色の風を纏う。

「全開放」

だが、その出力は先ほどまでとは比べ物にならなかった。

普段、ミクロは魔法の発動を控えていた。

精神力(マインド)の消費、反動が激しい為に発動を控えて、一定以上の威力は出さないようにしていた。

だけど、それを今解禁した。

二つの属性を持つ付与魔法(エンチャント)

その効果、威力は二つの属性を持つに相応しい力を持っている。

風の力を使い天井まで飛び、着天。

白緑色の風を梅椿と足に纏わせて魔法を集中させる。

『―――――――ッッ!!』

刹那、ゴライアスは両腕を交差させて防御態勢を取った。

これから放たれるミクロの一撃を警戒して防御態勢に取ったのは本能がミクロの一撃を恐れたからだ。

「セイッ!」

『――!?』

だが、その両腕をリュコスが叩き蹴った。

「大人しくくたばりな!」

がら空きとなったゴライアスの(ボディ)に目がけてミクロは動いた。

『!!』

足と梅椿に魔法を集中させて一本の矢となり、重力も重なり合って閃光の如き速さでゴライアスの体を貫いた。

『――――――――』

体を貫かれたゴライアスは時間をかけてゆっくりと、溶けるように姿を消して灰へと姿を変えてその灰の上に魔石とドロップアイテム―――――『ゴライアスの歯牙』が残される。

しばらくの静寂の後でリューが微笑を浮かばせながら告げる。

「私達の勝ちです」

「シャッ!」

「やった!!」

疲労よりも歓喜の声を上げるリュコスとティヒア。

「嘘………」

今でもゴライアスを倒したことに驚きを隠せれない小人族(パルゥム)

最後の一撃を放ったミクロも魔法の反動を受けながらも小人族(パルゥム)に近づく。

「………」

何も言わないミクロは小人族(パルゥム)の言葉を待っていた。

「ごめんなさい………それとありがとう」

「ああ」

謝罪を受け取ったミクロは頷いて返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上へと帰還したミクロ達の活躍は瞬く間にオラリオに知れ渡った。

たった数人でゴライアスを討伐した【ファミリア】。

小人族(パルゥム)の少女、パルフェ・シプトンは街中を歩きながらミクロ達の活躍を耳にしていた。

無事に地上へ帰還できたパルフェがいる【リル・ファミリア】はパルフェの帰還と同時に解散した。

パルフェは冒険者になることに憧れていた。

小人族(パルゥム)人間(ヒューマン)よりも劣る種族とされ、【ファミリア】に入りにくい。

偶然出会ったランスの誘いがあってパルフェは【リル・ファミリア】へと入団することが出来たが、パルフェが持つ収納魔法を知ったランスは冒険者から荷物を奪い、証拠をパルフェの魔法で隠して盗んだ物を売って金にするようになった。

始めは嫌がったパルフェだったが、ランスの言葉には逆らうことは出来ずに言われるがままに動いていた。

「これでいいよね」

地上へと帰還と同時にギルドに正式に謝罪して、今まで盗んだ【ファミリア】にも頭を下げて謝罪した。

【ファミリア】の解散は当然として、それぞれの団員、特に眷属の活動を放置した主神と実行を強制させていた団長にはきつい罰則(ペナルティ)が発生されて、主神であるリルはオラリオから追放。団長であるランスはギルドの牢獄に幽閉。

パルフェと残りの団員にも罰則(ペナルティ)は発生されたがほとんどの罪は主神が背負うことになり、罰金程度に済んだ。

罰を受けてこれでよかったと安堵するパルフェだが、今後の事を考えると頭が痛かった。

こんな小人族(パルゥム)を入れてくれる【ファミリア】なんて他にいない。

そう思っていると。

「いた」

「え?」

パルフェの目の前にミクロが現れた。

目を見開くパルフェを無視してミクロは手を握って動き出す。

「え、え、え?」

驚く間もないぐらいにどこかへと連れて行かされるパルフェ。

しばらく歩いているとミクロの動きが止まった。

「ここが俺達の本拠(ホーム)

「え?」

自分の本拠(ホーム)へと連れてきたミクロはパルフェに言った。

「俺の【ファミリア】に入って欲しい」

「え?」

突然の言葉に一瞬頭が真っ白になったパルフェだが、首を横に振った。

「私は貴方に迷惑をかけた」

「謝罪は貰ったから気にしていない」

「私は小人族(パルゥム)

「どうでもいい」

「……こんな私が入っていいの?」

「入って欲しい」

即答するミクロはパルフェに手を差し伸ばした。

「お前はいい奴だから入って欲しい。これからもよろしく」

「………はい」

差し出されたミクロの手をパルフェは両手で握った。

「……よろしくお願いします」

瞳に涙を溜めながらパルフェは【アグライア・ファミリア】へ入団した。

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