路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three35話

白緑色の風を纏い突貫するミクロに対してフィンも前へ進む。

「―――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

凶戦士のごとき雄叫びを叫びながらミクロと衝突するフィンの身体が風によって切り刻まれるもフィンはそんなことお構いなしに攻撃する。

――フィンは防御を捨てた。

このままではミクロに勝てるわけがない。なら防御を捨ててでも攻撃をする。

一瞬でも判断を間違えれば敗北は必須。それでもフィンは攻撃の手を緩めない。それどころか更に上げる。

その攻撃の勢いは止まることを知らずにミクロに迫る。

だが、それでもまだ足りない。

確かにフィンの攻撃は通るようになった。だけど、ミクロの恐ろしいまでの耐久力には微々たる損傷(ダメージ)にしかならない。

このままではジリ貧だということぐらいわかっている。

だが、フィンの武器ではミクロに確実な損傷(ダメージ)を与えることは出来ない。

それだけミクロの耐久力はずば抜けているのだ。

並の、いや、第一級特殊武装(スペリオルズ)でも難しい。

だけどそれを上回る武器が目の前にある。

フィンは針穴を刺すかのような超絶技巧の槍捌きでミクロの槍を弾き、自分の武器を捨てその武器を手にする。

ミクロの防御力を突破することができる唯一無二の武器『破壊属性(ブレイク)』が付与されている黄金の槍『アヴニール』を手にする。

(すまない……………)

自分の愛槍に内心で謝罪する。だけど許して欲しい。

ミクロ・イヤロスに勝つ為にはこれでないと勝てない。

「フィン、返して」

「この決闘が終わったらね」

笑顔でそう返しながら猛攻は続けるフィンにミクロはナイフと梅椿で防御するも、フィンの槍術はミクロを上回り、防御する際にできた僅かな隙をフィンは狙う。

(軽い、それに扱い易い……………)

ミクロが持つ槍の性能が想像を超えている。いったい誰がこんな凄い武器を作ったのか気にはなるも今は勝つことだけを考える。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

猛獣のように吠え狂うフィンの怒涛の槍捌きが【覇王(アルレウス)】を押す。

無数とも思わされる槍の連続攻撃に防戦を強いられるミクロは掠り傷は無視して致命傷を受けない様に専念する。

だけどその身体には確実に損傷(ダメージ)を蓄積していく。

それなのにミクロは小さくだけど確かに笑みを見せた。

(流石はフィン……………強い)

強いことぐらいはわかっていた。だけど、こうして武器を交えることで改めてフィンの強さをその身に知ることができたからこそこちらも負けたくない。

Lv.7。頂点と呼ばれるその領域に足を踏み入れたミクロだけどここで立ち止まるつもりはない。

もっと、今よりももっと強くなる為にもミクロは負ける訳には行かない。

負けたくないその想いにミクロが持つ三枚の大盾『アルギス』が応えた。

三枚の大盾が一つとなりミクロのその身に纏い、鎧と化す。

重厚にも見える全身型鎧(フルプレート)

その鎧は『破壊属性(ブレイク)』が付与されている槍を弾いた。

その際に鎧に淡い光が発光していた。

ミクロの『アルギス』は攻撃力を持たない代わりに防御力に特化している。それが鎧形態に変化したことでその能力も進化した。

その鎧が発光している間は如何なる物理・魔法攻撃を無力化する。

―――『全攻撃無力化(オールアタック・ナッシング)

例えリヴェリア・リヨス・アールヴの最大魔法でも無力化する。しかし、その強力な能力に引き換え時速時間は短い。

三分。それが鎧の持続時間。

それなのにミクロは不必要と言わんばかりに自らの意思で鎧を外す。

今のフィンを相手にして防御に専念していれば押し切られるのは明白。なら、こちらも防御を捨てて攻勢に移るしか勝機はない。

もう一本の『破壊属性(ブレイク)』の槍。父親であるへレスが持っていた漆黒に包まれる黒槍『ロギスモス』を手にする。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

勇者(ブレイバー)】と【覇王(アルレウス)】は互いに黄金と漆黒の槍を持って攻撃を繰り出す。

フィンはミクロとのLv.や能力値(アビリティ)の差を己の経験と直感、魔法とスキル全てを出し切って辛うじて互角の戦いを繰り広げている。

フィンが現在進行形で使用している魔法【ヘル・フィネガス】で全能力を超高強化し、そこにスキル『小人真諦(パルゥム・スピリット)』で魔法及びスキル効力を高増幅(ブースト)している。

これまで数多くの冒険をしてきたなかでたった一人相手にここまで出し切ったことなどなかった。

殻を破れ、限界を突き抜けろ、『冒険』に臨め。

その時、フィンのなかで何かが弾けた。

「!?」

それに気付いたミクロはすぐにその正体を見破る。

それはかつてミクロが父親であるへレスと戦った際にできた『限界解除(リミット・オフ)』。『神の恩恵(ファルナ)』を超克する想いの丈が、境界を突破してフィンの能力(ステイタス)を一時的に昇華させる。

ここまできて更に限界を超えた力を発揮するフィンにミクロは大きく後方に跳んで距離を稼ぐと槍を収納して『エア』を取り出して風を集束させる。

先程とは桁違いの風量。これから放つその一撃は例え第一級冒険者でも直撃すれば命の保証はないその一撃を前にしてフィンは突き進む。

一瞬の恐れを抱くことなくその足は迷いも躊躇いもなく果敢にもミクロに向かって駆け出す。

――――フィアナ。

『古代』の英雄達、精強かつ誇り高い小人族(パルゥム)の騎士団。『古代』の戦場の槍として数多もの偉烈を成し遂げた彼の騎士団。フィアナはそれを擬神化した存在だ。

今のフィンを見てミクロはふとそう思えた。

だからといって攻撃の手を緩めたらそれこそフィンに対しての侮辱。

全身全霊全力全開のこの一撃をフィンに向けて放つ。

 

「エアリエル・バース!!」

 

突撃槍(オウガランス)から放たれる暴質量の風の塊。先程放った一撃とは比較するまでもない強烈で強力な風の暴力の前に例え『破壊属性(ブレイク)』を持つ槍があっても一瞬でこれだけの風の塊を破壊することは困難。

もはや回避も防御も不可能ななか、フィンは黄金の槍を握り締める。

ギギッと剥き出しにした歯を食い縛りながら己の身体を弩砲に変え、渾身の投擲を行った。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」

暴質量の風の塊に向けて黄金の槍を放つ。勇者の一投。

紅眼のフィンによる全力の槍投げ。撃ち出された『アヴニール』が暴質量の風の塊の一部を破壊して突破口を作る。

破壊属性(ブレイク)』が付与された槍でも全ての風を瞬時に破壊することはできなくとも一部だけなら話は変わる。何よりフィンは信じていた。

ミクロの槍ならばこの程度の風に風穴を空けることぐらいできる、と。

そしてその突破口からフィンは『エア』から放たれる風の破城槌を突破してミクロに迫るとミクロが作製してティオナとティオネに渡した物を収納する魔道具(マジックアイテム)『リトス』。その内一つ、ティオネから借りたものをフィンが使用してソレを取り出す。

それは一本の長槍。

フィンが戦争遊戯(ウォーゲーム)が開始する前に椿に頼んで作って貰った雷の魔剣。

それがミクロ・イヤロスの身体に接触した瞬間、雷撃が迸った。

最上級鍛冶師(マスター・スミス)が作り上げた渾身の魔剣がミクロに炸裂。轟音と激しい閃光(スパーク)が発生して血を沸騰させ、肉を溶かすほどの雷撃が襲う。

その魔剣の名は『絶雷』。

フィンが持てる限りの金銭とドロップアイテム。そこに椿の鍛冶師の腕も加えて完成させた魔剣。その名に恥じない威力を発揮する。

――――――だが。

ミクロは雷撃を受けながらもその魔剣を素手で掴んだ。

「なッ!?」

「悪いけど、俺に雷は効かない」

フィンは見誤っていた。

ミクロは『適応』のアビリティによって一度受けたものに適応して無効化する。

既に雷に適応しているミクロに雷は意味を成さない。

更に、ドクン、とミクロの鼓動が高まる。

――――――『破壊衝動(カタストロフィ)』。

ミクロが持つスキル。一定以上の損傷(ダメージ)により発動する。

フィンがこれまで蓄積していた損傷(ダメージ)がここへきてそのスキルを引き出してしまった。

破壊衝動(カタストロフィ)』。そのスキルの効果は全てのアビリティ能力の超高補正されたその『力』で魔剣を握り潰した。

そして【覇王(アルレウス)】の蹂躙が始まった。

 


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